どこが「しびれくらげ」やねん。
1970年。増村保造監督。渥美マリ、玉川良一、川津祐介。
みどりは、現在売りだし中のファッション・モデル。大東繊維に勤める恋人・宏の口ききで彼の会社のファッションショーを中心に、週刊誌のグラビア等を華々しく飾っていた。ある夜、みどりは突然宏から「取引先の重役、ヘンダーソン氏と一夜をともにしてほしい」と懇願される。その頃みどりの父親・庄介は娘をネタにバーのママをホテルに誘うが、これがとんだ美人局で、ヤクザに百万円のおとしまえをつけられた。(Amazonより)
おはようございます。
昨日。ドラッグストアでシャンプーを探していると店内にトンボがいて、僕のもとにピュイーっと飛んできました。
「ふかづめさん、こんにちは。ドラッグストアって見るべきところが沢山あるよねえ?」と話しかけられたような気がしたので「あるねー」なんて返事もそこそこに、シャンプーを持ってレジスターにゴー、中国人留学生と思しき女性スタッフがお会計をしてくれました。
「5026円お預かりしま…ひゃん!」
先ほどのトンボが女性スタッフの顔の近くを飛び回っていたのでした。
トンボはいつまで経っても顔の近くを飛び回ることをやめず、次第に軽度のパニックを起こし始めた彼女は「ひゃん! あ…ひゃん!」と悲鳴をあげ続けるばかりで一向にお釣りを返してくれないし商品も渡してくれない。
しょうがないので、私はトンボに向かって「見るべきところは沢山あるから、ほかを見ておいで」と諭し、なぜか私に全幅の信頼を寄せてくれているトンボは「ウン、そうする!」と言ってピュイーっとどこかに飛んでいきました。やれやれだ。
ようやく会計を終えた私が店を出ようとしたとき、またしても先ほどのトンボが飛行していたのだけど、今度は入口付近でガキを襲ってました。
すれ違いざまに「ふかづめさん、さようなら。ドラッグストアって見るべきところが沢山あって楽しいねえ?」と話しかけられたような気がしたので「そだねー」なんて返事もそこそこに、ガキを救うことはせず、店を出ました。
はい。そんなわけで本日は『しびれくらげ』ですね。よろしくお願いします。
◆ぜんぜんしびれない◆
皆さんお待ちかねの『しびれくらげ』である。
当ブログのお問い合わせフォームには「しびれくらげをリクエストします」、「いつしびれるのか」、「しびれを切らしそうです」といったメッセージを約40名以上の方から頂いており、街を歩けば私のことを知っているちびっ子たちがワーッと集まってきて「早く書けよ! しびれくらげ!」と催促。家の近所には「しびれくらげ! しびれくらげ!」と叫びながら道に生姜チューブをまき散らすおじさんもいます。
言わずと知れた日本歴代興行収入No1大ヒットの感動巨編。全国民に愛された不朽の名作。日本映画でありながらアメリカ国立フィルム登録簿になぜか登録された謎の大傑作。まさか観ていない人民はおるまい。
『しびれくらげ』である!!!
↑真っ赤なウソである。もう知ってるよね。
本作は大映が倒産寸前でトチ狂っていた時期に作られた低予算ゲテモノ映画で、知る人ぞ知るマニアな一品。
主演はお色気女優の渥美マリ。本作はそんな渥美マリ主演の「軟体動物シリーズ」のひとつなのだ。
はい、ここまでがデジャブ。
監督は『でんきくらげ』(70年)に続いて増村保造。
前作に続いて全然ノっておりません。
ちなみに『でんき』が1970年5月公開で『しびれ』が同年10月公開なのでまとめて撮影したものと思われる。しかもその間には他の「軟体動物シリーズ」である『夜のいそぎんちゃく』(70年)が7月に、『でんきくらげ 可愛い悪魔』(70年)が8月に公開されており、当時の渥美マリの人気ぶりと疲弊ぶりが窺えるのであります。
しかし翌年、大映が「いそぎんちゃく…」と言い残して倒産。他社からピンク映画のオファーがあった渥美マリは「ヌードはイヤ」とゴネにゴネ倒し、結局すべての仕事を失ってしまう。
なお「ヌードはイヤ」は本年度のシネ刀流行語大賞にノミネートされております。
歌手デビューまで飾っていた渥美マリ。「ヌードはイヤ」を執拗に繰り返す。
開幕早々、ファッションモデルのマリは、恋人・川津祐介に懇願されて取引先の重役と寝させられる。ロクでもない幕開けである。『でんきくらげ』では一途にマリを想っていた川津も、今回の『しびれ』では出世のためにマリを利用するクズ男だ。
さらにそれを上回るメガクズがマリのパパン・玉川良一である。『でんき』では継娘のマリを犯して母親に刺し殺されたダメ虫だったが、本作『しびれ』では男手ひとつでマリを育て上げた功績を持つ。だが、マリの金で昼間から飲んだくれているのでダメ虫には変わりない。夜になるとストリップ劇場の楽屋番として働き、仕事が終われば娘の金をバーに注ぎ込む。そしてベロベロになって帰ってくる。もう死んでしまえ。
そんなオヤジが美人局に引っかかってヤクザに100万脅し取られる…というのが本作のメインストーリーです。
まじかよ。メインストーリーがこんなことで大丈夫なのだろうか。しかもその大部分を占めるのがマリとオヤジの親子喧嘩inボロアパート。
もはやオヤジが主人公。
どこが「しびれくらげ」やねん。
いよいよタイトルの意味がわからなくなってきた。『でんきくらげ』はまだ分かる。「くらげ」というのは渥美マリを指し、電気のようにビリッとくる女だから『でんきくらげ』となるわけだ。非常によく分かる。
同じように本作も渥美マリ=シビれるような女だから『しびれくらげ』となるわけだが、事実上の主人公はなぜかオヤジ。きったねえヒグマみたいなナリした醜男が燦然とスクリーンを支配し続ける92分。
ほなタダの『しびれおやじ』やないか。
もういい加減にしろよ。ちゃんと渥美マリでしびれさせて下さい。誰がこんなオヤジを見たいんだよ。どこにしびれる余地があるのかまるっきり分かりません。
しびれおやじ(左)とでんきくらげ(右)。ふたりは親子くらげ。気の合わないキクラゲ。
◆おやじくらげ◆
玉川演じるパパンが不快指数MAXオヤジなのである。
大企業に勤めるマリの恋人(川津)には媚を売り、娘の財布からは金を抜き取って「川津さんに頼めばいくらでも貰えるんだろ!?」と言い放つ。
そして、バーでナンパした女を旅館に連れ込んだ途端にヤクザが現れ「ひああああ! ひああああ!」とパニックを起こして土下座。どうやら明日までに100万用意しないと叩き殺されるらしい(ぜひどうぞ)。
さらには、その金をマリに都合してもらおうとするも「自業自得でしょ」と一蹴されて「親を見捨てる気か!」と逆上。ダメな虫みたいにマリの身体にまとわりついて不平不満を垂れ続けます。
この男、マリと揉めるたびに「親に向かって~」とか「親不孝者!」といった脳死クリシェを使うのである。どうやら「親」という剣なら何でも斬れると思い込んでいるらしい。そしてその都度「親なら親らしくしなさいよ!」と言い返されては容疑者のように押し黙る。バカの典型。
さらには翌朝、川津の会社まで100万借りに行ったオヤジは、「借りて誰が返すんです?」と川津に訊かれて「へへへ、もちろんマリが返しますよぉ」とダメ虫ならではのアンサー。
散々ゴマをすって川津から借りた100万を下っ端ヤクザ・田村亮の前にドヤ顔で叩きつけ「俺だってその気になりゃあ100や200のはした金、ワケなくできるんだよ!」と豪語。高笑いしながら酒を飲む(昼間から)。もうイタすぎて見ていられません。
その不遜な態度に苛立った田村は「俺のオヤジもこんなクズだったんだ。バットでドタマかち割ってやったがな!」と怒りだし、酒を飲んでいるオヤジの頭を小突く。
後頭部を小突かれたオヤジはバツが悪そうに「なんだよぅ…」とこぼしながら煙草を吸い、酒を飲みます。スルメも食べちゃいます(相手がヤクザだと逆らわない)。
パーンと頭を小突かれるダメ虫。
そんなダメ虫一直線のオヤジだが、ちょっぴり不憫に思うシーンもあります。
100万払ってカタをつけたにも関わらず、居酒屋で泥酔しているところをヤクザに拉致され「娘に電話しろ。今すぐここに呼べ!」と脅されてしまうのだ。ヤクザの狙いはマリを娼婦にすることだった。
いつもなら強い者にヘーコラするオヤジだが、この時ばかりは珍しく「誰が電話なんてするかい!」と威勢よく反抗した。ようやく親らしい態度を見せたじゃないか。僕はダメ虫のことをちょっぴり見直しました。
…と思ったが、やはりダメ虫はどこまで行けどダメ虫でした。
ヤクザから2~3発殴られ、結局ビィビィ泣きながら電話。
わが身かわいさに娘を売ったオヤジ。さすがダメ虫。
まぁ、その場は田村の粋な計らいでどうにか収まったが、危うくマリがレイプされそうになりました。このあと満身創痍のオヤジは家に帰ってマリからボコボコにされます。。。
オヤジ役の玉川良一はコメディアンで、一連のダメ虫エピソードには不快ながらも妙な可笑しさが漂っている。わけても暴力を受ける芝居が絶品で、マリに張っ倒されるたびに床をバウンドしてすさまじい悲鳴をあげるのだ。
弱り目に祟り目。娘から蹴り回されるダメ虫。
◆贔屓がすごい◆
映画後半では、下っ端ヤクザ田村とプラトニックラブを育んだマリが「ヤクザに目をつけられた女とは一緒になれない」と言って自分を振った川津への逆襲計画が描かれる。
このシーケンスもまずまずおもしろい。オヤジは美人局に嵌ったが、この後半ではマリと田村が手を組んで川津に美人局を仕掛ける…という構図がなんとも皮肉なのである。マリが自分の人生を狂わせたヤクザ達とまったく同じ手口で元カレの人生を狂わせる…という負の連鎖。
どうでもいいが「美人局」と書いて「つつもたせ」と読むのが納得できない。まったく人を食った漢字だ。なめやがって。
とはいえ、やはり『しびれくらげ』のMVPは玉川良一で決定です。玉川ひとりがしびれており、あとは誰もしびれていないからだ。
本作最大の問題点は渥美マリが完全に埋没していることであろう。「軟体動物シリーズ」として作られたにも関わらず、増村は相変わらずこの女優への無関心を貫く。したがって玉川演じるダメ虫を事実上の主演に据えることでポルノ路線からヤクザ路線にシフト、渥美映画からオヤジ映画への転生を試みたのだろう。
事実、キャリア後期に入った増村は『しびれ』と同じ年に公開された『やくざ絶唱』(70年)を機におっさんを撮り始める。『悪名 縄張荒らし』(74年)や『動脈列島』(75年)、それに遺作の『この子の七つのお祝いに』(82年)も立派なオヤジ映画である。
ゆえに玉川良一のゴリ押しは明らかに故意(あるいは恋?)。あくまでダメ虫オヤジに固執する増村。玉川への愛着がすごい。
対して渥美マリのエピソードはやっつけ全開で、余力を使って終盤でチャチャッとまとめましたという程度。まるで冷蔵庫の余りものを使ったみじめな朝食のように。
ダメ虫贔屓がすごい。
当時の超売れっ子・渥美マリを蔑ろにしてまで玉川良一のような三枚目ダメ虫役者をフィーチャーするなんて。川津祐介に至っては、玉川はおろか渥美マリにもまさるスターだというのに役の酷さといい出番の少なさといい…散々な扱いである。
玉川>>>>>超えられない壁>>>>>マリと川津
ダメ虫贔屓がすごい。
ダメ虫が天下とっとる。
玉川つよい。増村ひどい。映画おわる。レビューもおわる。
最後に「タイトルが気になる玉川良一出演作TOP5」を発表します(すべて未見)。
5位『ふざけろ!』(91年)
4位『ポルノの帝王 失神トルコ風呂』(72年)
3位『男なんてなにさ』(66年)
2位『(秘)セックス恐怖症』(70年)
1位『ゴキブリ部隊』(66年)
なんちゅう映画に出とるんだ。
全力で耳をつねられるダメ虫。
(C)KADOKAWA