志麻ちゃんが志麻チョップしたり志麻ヴォイス出したりする映画。
1986年。五社英雄監督。岩下志麻、かたせ梨乃、世良公則。
日本を二分する激烈な暴力抗争。だがその陰には、もうひとつの過酷な戦いがあった…。ヤクザ社会の裏側で生きる女たちの凄絶な生き様をジャーナリスト家田荘子が密着取材。死と隣り合わせに生きる男を愛した女たちの姿を名匠・五社英雄監督が迫真のタッチで描きあげた衝撃の話題作。(Amazonより)
おう、わてや。
近ごろ、暑うてかなんわ。わては背中によう汗かくさかい、背中ぺちょぺちょや。自分らはどこに汗ようかくねん。どこがぺちょぺちょになんねん。教えてんか。
いま頑張って大阪弁で喋っとんねんけど、めっちゃややこいねん。普段のわては京都弁と大阪弁のミックス関西弁やさかい、純粋な大阪弁やとえらい難儀するわ。
ちゅうこっちゃさかい、今日は『極道の妻たち』やでぇぇぇぇ。
覚悟しいや!
◆極妻ユニバースの記念すべき一作目◆
「あんたら、覚悟しいや!」
この決め台詞でお馴染みの任侠映画といえば、そう、『極道の妻たち』である。
タイトルの読み方は『極道の妻(おんな)たち』だが、略称では『極妻(ごくつま)』となる。「妻」という字を「おんな」と読んでみたり「つま」と読んでみたりと実にややこしくてヤんなっちゃうのだが、この作品ではさまざまな女性たちの「妻と女」の二面性が描かれているんだ。だから「妻」の読み方も二通り。そう考えるとなかなか良くできたタイトルなのであーる。
今さら多くを語る必要はないが、『極妻』を友近のコントでしか知らないふざけきった世代のために軽くおさらいしておきましょう。
『極道の妻たち』は岩下志麻の代名詞ともいえる人気シリーズである。
女性側の視点から作られた異色の任侠映画で、従来のメインターゲットである男性客だけでなく主婦やOLを中心とした女性層からも支持を集めたことで大ヒットを記録し、シリーズは10作までしつこく続いた。それだけでは飽き足らず、高島礼子版のオリジナルビデオシリーズも5作品つくられている。さらには黒谷友香版の『極道の妻たち NEO』(13年)まで製作。ついにNEOとか言い始めた。
さて、今回取り上げるのは記念すべきシリーズ第1作目である。当時45歳の志麻ちゃんにとって『極妻』シリーズは自身最大の当たり役になりました(10作品中8作で主演)。監督は『吉原炎上』(87年)の五社英雄。
このシリーズの特徴としては、バカみたいに沢山作られているが各作品ごとの役やストーリーに繋がりはないのでどこから見てもオーケーだということ。マーベル・シネマティック・ユニバースの先駆けとも言える極妻ユニバースってわけさ(最近なんでもかんでもMCUに例える癖ついちゃった)。
ただし、極妻ユニバースには弊害もある。志麻ちゃんが演じる主人公、束ねる組、勢力図が作品ごとにコロコロ変わり、前作で死んだ俳優も別の役として再出演したりするので鬼のようにややこしい…ということだ。
ちなみに私、過去にいくつか観てはいるのだが、もはや何が何やら分からなくなっている。今回の第1作目も初見なのか再見なのかすら覚えていません。極妻ユニバースの弊害によって記憶が錯綜しているのである。
腐るほどあります。
物語は至ってシンプル。
服役中の夫に代わって組を守っている志麻ちゃんがテキパキ動いてすばらしい運営をする…といった中身である。
志麻ちゃんの組…通称「岩下組」は、大阪で一家を張る巨大暴力団「堂本組」の傘下であり、そこの組長が死んだことで跡目争いが勃発。反乱分子の「朋竜会」が堂本組二代目組長やその傘下の人たちを殺しはじめたので、志麻ちゃんは朋竜会を立ち上げた成田三樹夫に「あんま殺しなや」と言って注意を促します。それでも成田は殺すことをやめません。あれほど殺すなと注意したのにそれを聞こうとしない成田に「こいつは精神が幼稚だ」と思った志麻ちゃんは、もう成田を放っておくことにしました。
そうこうするうちに服役中の旦那が三代目に選ばれ、ようやく出所したかと思えば志麻ちゃんの目の前でぶち殺されてしまいました。おしまい。
志麻ちゃんと成田三樹夫。かつては堂本組に忠誠を誓った仲間同士だが、成田が堂本組に牙を向けたことで敵対関係に。
◆ふざけた映画です◆
かなりシュールな映画である。
志麻ちゃん率いる岩下組も、その親組織の堂本組も、朋竜会から攻撃を受け続けているのに誰も何もしないのだ。なんだこの謎脚本。
被害受けまくりの堂本組と岩下組は報復に出て全面戦争を起こしたりはせず、ただ組員が殺されていくのを「えぐいえぐい、今月死にすぎやろ」とか何とかいって傍観しているだけ。誰も成田の暴走を止めようとしない。ゆえに成田は最後まで生き残るし、志麻ちゃんの旦那もむざむざ殺されてしまう。なんなら跡目争いも解決しないまま終わってしまうのである。
では、なぜ志麻ちゃんは朋竜会の殺戮ショーを止めようとしなかったのか?
忙しかったのだ。
志麻ちゃんは組の運営のほかに、服役中の夫を待つ極道の妻たちによる定期オフ会「懲役やもめの会」の幹事も務めており、たいへん忙しい毎日を送っている。この会では主に飲酒、ダンス、バカ騒ぎがおこなわれており、志麻ちゃんはそこで極妻仲間の愚痴や悩みを聞く相談役まで買って出るようなハードスケジュールなのである。
朋竜会に構ってる暇などなし。
「懲役やもめの会」の様子。
それでなくとも、妹のかたせ梨乃が成田の舎弟・世良公則と付き合い始めたことで志麻ちゃんの仕事はさらに増える。
志麻ちゃんはカタギの妹をヤクザの世界には入れまいと八方手を尽くすが、惚れたが最後、かたせは姉の反対を押し切って世良と結婚してしまったのである。悩みの種は増える一方。もはや朋竜会とのゴタゴタなどすっかり忘れてしまう志麻ちゃんであった。
この時点で私は「この映画もしかして…ふざけているのかな?」なんて思い始めていたが、案の定ふざけておりました。
かたせと世良の結婚式は事務所で質素におこなわれ、料理や飾りつけはすべて世良の舎弟によるハンドメイド。挙式入場曲も音楽を得意とする舎弟が頑張って吹いた自力のトランペットのみ。
そしてケーキ入刀に移ると、舎弟のひとり・竹内力がケーキナイフの代わりに日本刀を差し出す。
かたせと共に刀の柄を握った世良は「オルァッ!」と言って日本刀をケーキに突き刺し、刃をクリームでベタベタにして喜んでいた。精神が幼稚な奴ばっかりである。
日本刀でケーキカットする様子。
志麻ちゃんは極妻仲間たちのカウンセリングにも忙殺されています。
ある日、なぜか頭をグリグリに丸めた極妻仲間が岩下組の事務所にやってきて志麻ちゃんを驚かせた。
やおらグリグリが語りだす。
「ウチのクソ亭主…、博打で借金こさえるたんびにウチをソープへ働かせに行かしよるんです。尼さんみたいに頭グリグリにしたら売り物にならへんやろ思てこないしたら『尼さんのソープかてある』言いよるんです。ウチ…もうソープはイヤやぁ!」
そう言って志麻ちゃんに泣きすがるグリグリ…。その頭はとてつもなくグリグリであった。
グリグリの様子。
このグリグリシーン、2枚の画像をよく見てもらえれば分かると思うけど…二人とも笑いを堪えてるんだよね。
志麻ちゃんもグリグリも半笑いでお芝居しておられる。志麻ちゃんは結構ゲラなので、右の画像に関しては顔の見えない角度から二人のやり取りを長回しで撮っているのね。
完全にふざけてるんだよ。
明らかに五社監督はふざけております。
だもんで、「ヤクザ映画って物騒で怖い…」と尻込みする人民がいたら、どうか安心されたい。この映画、四捨五入すればコメディである。もうバカばっかり。
◆新概念、志麻チョップ&志麻ヴォイス◆
本作の見所は何といってもエセ大阪弁で啖呵を切る志麻ちゃんである。
着物姿がまぁ似合うこと。それに「志麻角度」だけでなく「正面志麻」を捉える森田富士郎のカメラ。ローポジションで足だけ映してキャラクターを表現するカメラワークも特筆に値する。
何よりすばらしいのは1986年にして早くもギャップ萌えを取り入れた人物設計。
基本的に志麻ちゃん演じる「姐さん」はヤクザ相手にドスを効かせた声でスゴむ女傑であるが、妹の前ではやさしい「姉さん」になり、知り合いのちびっ子の前では気のいい「おばちゃん」になる。また、自宅の部屋も思った以上にフェミニンだったりしてかわいい。
男に囲まれた裏社会で生きる極妻だからこそ、内に秘めた「女」がポロッと出る瞬間に萌えるのである。
わかるか。
とりわけ妹と休日を過ごすシーンで見せた微笑みは奇跡のショット。一瞬だけ20代の頃の岩下志麻に戻ったかのよう!
お宝ショットです。
妹役のかたせ梨乃もすごい。何がすごいって、おっぱいがすごい。
かたせは志麻ちゃんと並んでシリーズ8作品に最多出演した女優で、ダイナマイトボディを惜しげもなく晒して毎回ものすごい濡れ場を演じておられる。世良に惚れ込んで極道の妻になった彼女が強く逞しく成長していくさまは、さながら裏主人公。いや…正直に言うとあるシーンを除けば志麻ちゃんを終始圧倒していた真の主人公である。
世良が梨乃の乳を吸いまくる長回しの濡れ場がまた凄まじく、乳吸いの最中にヒットマンから撃たれた世良はなおも瀕死状態で乳を吸い続けるのだ。哀しくもあり可笑しくもある…まさに五社ワールドの狂奔。
もちろん今日の「踊るヒット賞」は世良公則さんの乳吸いシーンで決まり!
そこまでして吸いたいか…というほど死の寸前まで乳首を吸い続けた世良さんには、なにか吸って楽しいチューペットのようなものを贈っておきます。
あくまで乳吸いにこだわる世良と、茫然としたまま乳を提供する梨乃。
先ほど「あるシーンを除いてかたせ梨乃は志麻ちゃんを終始圧倒していた」と言ったが、唯一志麻ちゃんに軍配が上がるのが映画終盤のキャットファイトシーン。姉妹がボッコボコに殴り合う壮絶なクライマックスである。
妹が「あちき、極道の女になる!」と宣言すると、怒った姉は「待ちィ!」と怒鳴って部屋から出すまいとする。口論の末に半狂乱と化した梨乃は、気でも触れたか、志麻ちゃんにチャカを突き付けて「どかないと撃つわよ! あちき、本気よ!」と脅すが、銃口を向けられた志麻ちゃんは全く動じることなくこれを喝破した。
「あほんだらァ。撃てるもんなら撃ってみィ!」
格好よすぎて既に私は失禁済みであります。
遂に放たれた弾丸は頬をかすめ、刹那、手首に志麻チョップをしてチャカを叩き落した志麻ちゃんは、梨乃の髪をむんずと掴んで床に投げ飛ばす。そして梨乃の後頭部に「チョップ! チョップ!」と言いながら志麻チョップを叩き込んで脳震盪を狙う!
梨乃も負けじと志麻ちゃんの髪をギュンギュン引っ張ったり着物を引き裂くなどして応戦。
頭シバかれすぎてフラフラの梨乃と、髪引っ張られすぎてボロボロの志麻ちゃん。もう立っていられなくなった二人は床を這いずり回って寝技を仕掛け合う。もはやレスリング。
志麻ちゃああああん。
あられもない姿になってもうとる。
約6分間にもおよぶ壮絶な姉妹喧嘩に勝利したのは梨乃だった。床に落ちたチャカを拾い、姉に突き付けてゲームセット。
髪の毛がバサバサになった志麻ちゃんは、ゼェゼェ言いながら途切れ途切れに言葉を紡いだ。
「今日限りでわてらは姉妹でもない。身内でもない。別々の極道の女房や。この次会うたときには…わての前に夫婦揃って胸張って出れるようになってなあかん。そやないとアンタの負けやで。アンタの負けやでええええ!(号泣)」
仲直り。
このシーンが凄絶なのは、志麻ちゃんの台詞が少しずつ涙声になっていくからではなく、腹の底から絞り出すような…ほとんど呻き声に近い「志麻ヴォイス」へと変わっていくからである。
そして抱き合い、号泣する二人…。
梨乃「お姉ちゃああああん!」
志麻「おおおおおおおおお!」
梨乃「うわぁぁぁぁぁぁん!」
志麻「おおおおおおおおお!」
その様子を見てドン引きする子分たち…。
やっぱふざけてるだろ、この映画。
何にせよ岩下志麻の表現力がバシッと証明された本作屈指の名シーンである。獣のような声で慟哭しますからね。壮絶ですよ。
そしていよいよラストシーン。
刑期を務めて出所した旦那が堂本組三代目となりシャバに降り立つシーンであるが、それを演じた佐藤慶はこのラストシーンでようやく初登場となる。
にも関わらず登場わずか10秒でタマ取られちゃう。
犯人は竹内力。ケーキ入刀の際に日本刀を差し出した世良の舎弟である。
さんざん勿体つけて登場した夫が秒で殺され、志麻ちゃんのポカーンとしたリアクションショットを最後に、いきなり映画は終わってしまいます。
あぜん。
完全に不意を突かれた。『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』(74年)に匹敵する唐突エンドだ。なにこれ。
たとえば、慟哭する志麻ちゃんをクレーンで捉えたカメラが天高く上昇して少しずつ引きの画になっていく…といったカメラワークなら特になんの違和感もないが、五社がやったことはこの真逆。志麻ちゃんの顔をグ~~ッとズームアップしてスパッと終わらせている。
このアップショットからの唐突エンドはお洒落といえばお洒落で2000年代に爆流行りした映像技法であるが、五社は当時から既にやっていたのだなぁ。
このラストシーンも含めて、女任侠モノ、ヘンな脚本、シリアスなギャグ、先進的な映像センスなど、実はこの作品って前衛精神に満ちたゲテモノ映画ではないかと思うのです(女任侠モノに関しては『緋牡丹博徒』シリーズの方が先に作られていますが)。
しかもハナシがとっ散らかったままだしね。
組の分裂も跡目争いも何一つ解決しないまましれっと終わってしまう。次作でこの続きが描かれるならまだしも…そうじゃないというあたりが実にメチャクチャである。『極妻』シリーズは一話完結型なので今回のお話はこれでおしまい。ストーリーの投げっぱなしジャーマンとはこのこと。
そんなわけで、久方ぶりに五社ワールドを堪能して大満足の私であります。
なんと! その上! さらに! 私を満足させてくれたのは…マッサージを受ける志麻ちゃんの悩殺セクシーショット!!!
見たい? 見たい? どうしても見たい?
ゆるす? 普段の僕のおこない、ゆるす?
じゃあ、いいでしょう。
最後はマッサージ志麻ちゃんの画像でお別れです。よう見ときや!
ぅワオ!!
(C)東映