シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

がっこうぐらし!

女子高生が○○○をバコ殴りする映画。

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2019年。柴田一成監督。阿部菜々実、長月翠、間島和奏、清原梨央、おののののののののか。

 

私立巡ヶ丘学院高等学校・学園生活部。シャベルを愛する胡桃、ムードメーカーの由紀、リーダー的存在の悠里、この部活に所属している彼女たちは学校で寝泊まりし、24時間共同生活を送る「がっこうぐらし」を満喫していた。屋上の菜園で野菜をつくり、みんなと一緒にご飯を食べて、おしゃべりをする。そんな楽しい彼女たちの学園生活が、校舎にはびこる「かれら」の存在によって一変する…。(映画.comより)

 

ウェッ、おはよう。第一声でえずいてしまった。

今現在、PCがめちゃめちゃ重くて今にも落ちそうなので今日こそは前書きなしです。申し訳ないが即レビューに移らせてもらう。すぐさま移る。言うてる間に移る。

「移る」で思い出したんだけど、風邪を移したとか移されたとか言うじゃない。「あの人に風邪を移してしまって申し訳が立たねー」と思ったり「あいつに風邪を移された。むかつくぜ、ぶっ殺す」と思ったり。

でも、そこに確かな証拠ってないよね。

こういう時、私なんかは「果たしてオレは本当にあいつに風邪を移した・移されたのか?」って思うんです。可能性は色々あるからね。たまたま同じタイミングで風邪を引いただけかもしれないし、第三者による細菌感染が原因かもしれない。病院で詳しく調べてもらえば分かるんだろうけど、実際問題そんなことをするほど我々は暇ではない。

つまり「A氏がB氏に風邪を移した」という当事者間の認識は推測の域を出ないわけです。「たぶんあの人に移しちゃった」、「たぶんあの人に移されたのだろう」という曖昧な落としどころに軟着陸するだけザッツオール。

で、私は、事実化されていない前提に基づく議論はナンセンスという考え方なので、人が「風邪を移した・移された」という話をするたびに「どうでもよくない?」と思うのです。大事なのは風邪を引いたという事実に向き合うことではないのか?

お粥食ってとっとと寝ろ。お大事に!

というわけで本日は『がっこうぐらし!』

※コンテンツ自体に大きなトリックが仕掛けられていて、本稿ではそこのネタを割ってしまっています。悪しからず。

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◆アイドル映画と思いきや…◆

「またマンガの実写化か」、「しかもキャスト全員アイドルか」という微温的ムードがバネになり「あわっ、あわっ、意外と面白いじゃん」という擁護派が思いのほか大勢いていつの間にか賞賛ムードに包まれた作品である。

『がっこうぐらし!』はアニメで火が付いた人気コンテンツで、とりわけアニメ放送後に原作マンガの売上が10倍に跳ね上がったほど「最初のカマし」が鮮烈だった。

物語の冒頭では、校舎のなかで生活している「学園生活部」のほのぼのとした日常が描かれるが、ムードメーカーの由紀を見る友人たちの目はどこか不安げ。果たしてユートピアのような学園生活はすべて由紀の妄想で、現実には大規模なパンデミックによりゾンビが大量発生、彼女たちは校舎で避難生活をしている生存者だったことが明かされる(この絶望的状況に対して少しでも前向きになれるように避難生活を部活動化して「学園生活部」と命名したのだ)。

萌えアニメのようなお花畑な世界観から血生臭い学園サバイバルにもつれ込むギャップがとても衝撃的な作品で。この「萌え」そのものをミスリードに用いたトリック『魔法少女まどか☆マギカ』の「3話のトラウマ」を呼び起こすには十分な殺傷力を持つ。

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アニメ版『がっこうぐらし!』。「この絵柄でその内容!?」というアニメが一時期たくさん作られましたね。

 

そして本作。

メインキャスト4人は秋元康プロデュースによるオーディション番組から誕生したアイドル「ラストアイドル」ファミリーの構成員らしいが、このキャスティング自体が原作&アニメ版の絵柄や空気感=「萌えの罠」に当たるわけである。

要するに「タダのアイドル映画かと思いきや阿鼻叫喚のゾンビ映画だった!」というカマし。

監督は『リアル鬼ごっこ』(08年)柴田一成

この手のティーン向けホラー映画にはある種の「共通する下手さ」や「安っぽさ」というのがあるけれど、本作もその系譜に位置づけるべき完成度に甘んじている。加えてキャスト陣もまったくの大根。マンガやアニメにビタイチ興味のない映画好きの目には浅瀬でパチャパチャやってる映画ごっこに見えても仕方がないほど拙い。

その上であえて言いたい。わりに良心的な作品であると!

それではまず「学園生活部」の皆さんを紹介していこう(役名表記でも俳優名表記でもややこしくなりそうなので私が簡単につけたコードネームで表記します)。

 

阿部菜々実

【コードネーム】美脚

【人物】学園生活部が誇る斬り込み隊長。陸上部ならではの身体能力を活かして園芸用シャベルを武器にゾンビたちの頭をバコ叩きしていく元気闊達な女子である。片思いしていた先輩がゾンビに噛まれて感染したので泣きながら始末した過去を持つ。

【備考】足が綺麗。とても足が綺麗。また、9頭身プロポーションなのにツインテールという掟破りなギャップで新たなる萌えの地平を切り開いたキャラクターでもある。本作は阿部菜々実の美脚を見るための映画といっても一向に差し支えない。

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美脚。

 

長月翠

【コードネーム】現実逃避

【人物】パンデミック事件がトラウマとなり、自己防衛本能から妄想性障害・記憶喪失・幼児退行を引き起こしたことで事件そのものをなかったことにした強者。したがって彼女の目には事件が起こるまえの平和な学園として映っている。よく誰もいない空間に向かって話しかけており、ほかの仲間たちは無理に現実に引き戻すのは危険だと判断して彼女の空想に付き合うことを決意。

サバイバル生活において特に役立つキャラクターではないが、いつもニコニコしているので皆にとって心の救いになっている。

【備考】ロリ担当。よく飛び跳ねるが跳躍力はない。屈託のない笑顔。

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現実逃避。

 

間島和奏

【コードネーム】声優顔

【人物】現実逃避の現実逃避に付き合ったり、生活物資やライフラインを確保する学園生活部の部長。母性の塊にして慈しみの権化。仲のいい美脚とは対照的に戦闘能力はまったくないため緊急時には誰よりもパニックに陥り「あとは野となれ山となれ」とか言いがち。

声優みたいな顔をしているのでこのコードネームを献上しました。

【備考】声優ではない。むやみやたらに髪がトゥルトゥル。写真写りが悪い。

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声優顔。

 

清原梨央

【コードネーム】没個性

【人物】家庭科室で避難生活をしていた生き残り。ゾンビに襲われていたところを美脚と声優顔に助けられて学園生活部に途中入部した。救助が来るまで校内に籠城する学園生活部に対し「助けを呼びに行くべき」と主張して美脚たちと対立するが、自らが招いた危機からまたもや救われ、ようやく大人しくなった。

バールを武器に戦う戦闘員だが、ゾンビ化した親友を泣きながら始末した過去を持つことから、顔見知り=同級生のゾンビには攻撃を躊躇してしまう…という他学年専門のゾンビハンターである。

【備考】顔が没個性。

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没個性。

 

おのののか

【コードネーム】

【人物】学園生活部の顧問。生徒を守る心優しい保健教師だったが、ゾンビに噛まれたことで自らを保健室の中に閉じ込め、ゾンビ化した後も彼女たちを襲わないようにロープで身体を縛り付けたあとに絶命するという粋な計らいを見せつけ、学園生活部および視聴者の感動を誘った。

【備考】斧は映画冒頭でゾンビ化して美脚に泣きながら始末されたが「現実逃避が見ている幻」という形で映画終盤まで登場するのでおのののかファンは安心されたい(いればの話だが)。

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斧。

 

◆終わりが見えないわんこ蕎麦映画◆

今回の映画化では、原作マンガ5巻まで(アニメの1期に当たる)の「高校編」がコンパクトに編集されて描かれている。

関西のおばはんが鬼の剣幕でおこなう詰め放題inスーパーみたいにパッツパツになるまでエピソードを詰め込んだり広げたりすることはなく、然るべきポイントだけをチャッチャと捉えて映画サイズに落とし込んでいるので僅か101分にまとまっていた。

また、マンガ・アニメ特有の現実離れした金髪やピンク髪のキャラクターを黒髪に変更した点などオリジナルへの反抗的な態度は賞賛に値する。少なくとも本作を手掛けた柴田一成は「実写化」という言葉の意味が「再構築」ではなく「脱構築」だということを理解している数少ない良識人だということが分かっただけでも万歳三唱。私の心はだいぶ温もっています。

 

ただし脚本的な難がひとつあって…序破急の「破」に当たる山場がないのだ。

校内にゾンビの侵入を許したりバリケードが突破されたり…といった「トラブルの連鎖」と危機回避後の「ほのぼのシーン」が繰り返されるが、それがやけにプレーンに見えてしまうのは物語の頭からケツまでをブッ貫く大きなうねりが存在しないからである。

原則としてマンガやアニメは1話単位で話が進んでいくメディア。いわば20ページなり20分おきに話が寸断されることを見越した上で1話の中に序破急=物語のうねりを作っていくわけだが、映画の場合はオープニングからエンドクレジットまでのトータルランタイムの中でひとつの大きな序破急を構成せねばならない(実はここがマンガ実写化最大の難所)。

翻って本作は小さな序破急の連続体。換言すればクライマックス不在。小さいエピソードが終わるとまた小さいエピソードが始まる。クライマックスのない映画とは、まるでそう、案内標識のない平坦なハイウェイをカーナビ未設置の車で走るようなものである。「いつ着くん?」ていう。

きっと皆さんも私と同じ経験がおありかもしれないが、鑑賞中「そろそろ終わりそうだな」と思ってDVDの再生時間を確認するとまだ半分しか経ってなかった……それを知ったときの倦怠感。やつれんばかりの疲労感。肩こり感!

こんな時、だいたい原因は二つに絞られる。クライマックスの不在、しからずんばクライマックスの誤配置である。

つまりこの映画…いつまで経っても終わらないです。

わんこ蕎麦のシステムですよ。食えども食えども給仕のババアが蓋を閉じる隙も与えず蕎麦を入れてくるように、観れども観れども一向に終わる気配がねえの。

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血まみれの教室。だが現実逃避の目にはクラスメートのいる楽しい教室として映っている。

 

映像的な難点もあって、これは先述した「ティーン向けホラー映画共通の下手さや安っぽさ」という一言に集約される。撮影、編集、照明、録音、芝居。どれを取ってもティーン向けホラー特有の鈍臭さに満ちているが、いちいち指摘するのはエネルギーの無駄なので割愛します(エネルギーは大事に使わねばなりません)。

ただし、その中でも作り手の努力が結実したものが一つだけあって。

美術です。(衣装・メイク含む)

これは素晴らしかった。「事件後の血濡られた校舎」と現実逃避の目から見える「事件前の綺麗な校舎」との対比が視覚的なインパクトを生んでいる。学園生活部が料理を盛るときに使う…食器とも呼べない…容器?の安っぽさもいい。

なにより純白のセーラー服と彼女たちの白く透き通った肌が少しずつ汚れていくさまがベリーナイスである。「時間経過によって衣服が薄汚れていくイズム」といえばサム・ペキンパーだが、まるで4人の少女は『ゲッタウェイ』(72年)のスティーブ・マックイーンとアリ・マッグローのように数々の死線を越えるごとに全身ドロドロと化していきます。

なお、美脚や没個性がゾンビの頭部を破壊した際のゴア描写はなし。返り血も浴びない。レイティングを緩めるための方策なのだろうが…なんとも惜しいことであるよなー。

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ゾンビと化したご同輩。

 

◆ちゃんと下手だからいい◆

はっきり言って本作の美点のほとんどは原作マンガに依るものだが、映画ならではの優位性も幾つかある。

やはりそれは身体性に集約されていて、たとえば陸上部の美脚がゾンビの群れを突破するためのクラウチングスタート、扉をこじ開けようとするゾンビと閉めようとする人間の押し合いへし合いサスペンス、それに美脚と没個性が大量のゾンビをバコ殴りしていくシーンの息切れ感etc…。

たかだか4人の女子高生が数百数千ものゾンビ軍団に張り合うことの身体的な苦しさが適確に視覚化されていて、これは二次元媒体では到底表現しきれない「映像ならではの触覚」だとおもった。何よりこのフィジカルな問題を現役のアイドル達にクリアさせるという着眼点こそがこの映画最大の打算だったりもするわけよね。

 

健全なアイドル性を発揮した主演4人も女優女優しておらずちゃんと下手だからいい。

アイドルの仕事が「求められた姿を演じること」であるとすれば、この映画が彼女たちに求めたものは陰性の世界観を異化しうる陽性の姿。つまりアイドルとして大いにはしゃぎ、芝居を忘れることである。わけても現実逃避を演じた長月翠は誰よりもアイドル性を発揮していて…ずっとヘラヘラしてた。アイドルだなぁ。

ただし一人だけ断罪しておかねばならないキャストがいます。

コードネーム:斧!!

保健教師を演じたおのののののかである。おののかだっけ。まぁ「の」の多い少ないは大目に見てほしいのだが、とにかくこの人が一番ヘタで、観客の感動を誘う自己犠牲シーンも台無しになっています。斧だけにOh Noてか。言うてる場合やあらへんど。

あと可愛く映ろうとし過ぎ。グラビア撮影と勘違いしているのだろうか。そもそも唯一のサブキャラなのだから最低限の芝居ができる人じゃないと主演4人のアイドル性が引き立たないのよねぇ。

4人よりヘタなうえに可愛く映ろうとしたせいでアンタが一番アイドルみたいに映っちゃってんだよ!

 

そんなこんなの『がっこうぐらし!』

映画好きからはフツーに叩かれてるが、ジョージ・A・ロメロやルチオ・フルチへのオマージュがあれば幾らか愛されたかもしれません(映画好きって小ネタの散りばめに弱いアホばっかりだからな。私も含めて)

まぁ、少なくとも園子温の『リアル鬼ごっこ』(15年)みたいなモノを見せられるよりも遥かに楽しめる作品になっていると思う。

そして忘れじの阿部菜々実、その美脚に思いを馳せて…。

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