シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

おかあさんといっしょ ともだち だいすき!

子供向けとバカにするなかれ。綺麗事なしの友達論に感動。

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2012年。監督不明。横山だいすけ、三谷たくみ、小林よしひさ、いとうまゆ。

 

「ともだち」といったらどんなことをおもいうかべる? いっしょにうたったり、おしゃべりしたり、たまにけんかしたり。いっしょにいて楽しいのが友だち。だいすけおにいさんとたくみおねえさんによる歌いっぱい、ダンスいっぱいの楽しいコンテンツです。(Amazonより)

 

おはようございます。

どうやって今年の冬を越そうかしらと真剣に考えている今日この頃。というのも、現在拙宅には布団や毛布類がないので毎日寝るときに凍えているのです。どこに行っちゃったんだろう、布団。とにかくありません。

そんなわけで段ボールを集めることにしました。段ボールで寝ると暖かいというよね。Amazonで大量の段ボールを注文したあとに「あっ」と思いました。この金で布団を買えばよかった。冬がきます。

そんなわけで本日は『おかあさんといっしょ ともだち だいすき!』です。イェイ、イェイ!

※先に断っておきますが、子供向け番組だからといってナメた態度で臨んだりネタ扱いするつもりは毛頭ございません。

ネタ回と思われるのも心外です。やめてよね!!

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◆笑顔以外を禁止された悲しきプロ集団による楽しい番組◆

キッズの情操教育に欠かせない名作番組『おかあさんといっしょ』である。

私も他のキッズと同じくこの番組を見てここまで育ったといっても過言ではない。幼少期の思い出の約0.04%はテレビの前でマネした同番組の歌と踊りである(もう全部忘れてしまったが)。

当コンテンツの基本理念は「母と子が一緒に楽しむエンターテイメント番組」だが、どうやらグズったキッズに視聴させてその間に家事を済ませるという世のママンも多いようだ。まさに私のママンがそうだった(だから私にとっては『おかあさんといっしょ』ではなく『おかあさんはいない』だったのだ)。

 

さて、『おかあさんといっしょ』といえば歌のお兄さん・お姉さんと、体操のお兄さん・お姉さんである。

彼らはNHKの契約社員で、ほぼ年中無休で番組収録、リハーサル、レコーディング、コンサートといった過酷労働を強いられており、それでいてお給料は一般的なサラリーマンの平均月収よりもちょびっとばかり多い程度。

また、イメージを下げないために数々の禁止事項に留意しながら日々慎重に生きねばならない。立ち食いや信号無視をはじめ、スポーツ、海外旅行、自動車の運転まで禁止されている(お姉さんに至っては結婚・妊娠はおろか恋愛すら禁止)。

そして何より笑顔以外の表情禁止。

撮影現場ではお兄さんやお姉さんが「みんな元気~!?」と声を掛けても「元気じゃない」「帰りたい」と憎たらしいことを言うキッズがいたり、泣いたり騒いだりと制御不能なキッズも大勢いるらしいが、そんなときでも彼らは決して笑顔を絶やさず、キッズのご機嫌を取らねばならないのだ。まったく尊敬の念に堪えない。子供嫌いの私には到底務まらない仕事だ(「元気?」と訊いて「元気じゃない」なんて言われたら張り倒してしまう)。

 

さて。これから批評する『おかあさんといっしょ ともだち だいすき!』のいいところはキッズが出てこないところである。

画面に現れるのは進行役の横山だいすけ三谷たくみ小林よしひさいとうまゆ。それに「ポコポッテイト」という組織名を持つ三匹の悪魔だけ。

なお、私が当コンテンツを見ていたのは「ひろみちお兄さん」の頃なので、現在のお兄さん・お姉さんに関してはまったく知識がない。また「ポコポッテイト」がどのような思想・活動目的のもとに編成された集団なのかという点も皆目見当がつかない。よって認識に誤りがあるかもしれないがご容赦願いたい。

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進行役の4人(画像上)、3人組の悪魔・ポコポッテイト(画像下)。

 

自分にとって都合のいい人間もまた「ともだち」である

ファーストシーンでは箱のうえに座った進行役4人が「友だち」の定義を巡る哲学議論を展開したあと、早くも結論めいた曲「それがともだち」を合唱する。

 

となりのとなりの となりのあの子はだれだろう

しってるしってる きのうもいっしょにあそんだよ

ずっときみを さがしてた

ケンカしたって あいたくなるのさ

それでいいんだ それでいい

それでいいんだ それがともだち

 

ノスタルジックな歌詞世界に目頭を熱くしての祝福。

なんだこれ、思いのほかグッときたぞ。普段やかましい音楽ばかり聴いているからか、あるいは大人になるにつれて物事の悪い面を見たり人の粗探しばかりする習性が我が魂をすっかり腐敗させたからか、まるで心が洗われるような心地よい感覚をおぼえた私であります。

まるでそんな私のおセンチな気分を変えてくれるかのように、間髪入れずに次の曲「げんきタッチ!」が披露される。進行役4人とポコポッテイトたちがイエイ イエイ サンキューという不可解な掛け声を発しながらいろんなパターンでハイタッチをしていくというもので、これはまったく理解できなかった。

途中、だいすけお兄さんとよしお兄さんの不思議なミニコントを挟みながら、番組はつつがなく進行していく。

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いたずらに身体能力を誇示する小林よしひさ(よしお兄さん)。

 

さて、次の曲はポコポッテイトによる「トリャトリャだいぼうけん」

無人島に漂流したと思しきポコポッテイトの三匹がイカダ作りを中断して不意にミュージカルを披露する。通常のミュージカルではイカダを作りながら歌ったり踊ったりするものだが、なぜかポコポッテイトは作業の手を完全に止めてミュージカルに没頭しており、これはやや非効率的な戯れと言わざるを得ない。

「トリャ トリャ ふねをこいでいく トリャトリャ さがす ゆめの国!」

そんなこと歌ってる暇があるなら早くイカダを完成させて漕ぎ出せばいいのに。

それが終わると、たくみお姉さんが海の上で「タコクロナイズドスイミング」を高らかに歌い上げる。どうやらタコとシンクロする泳法をさしてタコクロナイズドスイミングと呼んでいるらしいのだが、これは理解不能だった。タコとシンクロする泳法? そもそも何を歌っているのかさえまったくわからない。

タコ イッポン

タコ ニホン

タコ イッポン

タコ サンボン

タコ ニホン

タコ ヨンホン

タコ およぎ 休みましょ 

フー!

気がヘンになりそうだ。

海を模したアバンギャルドなセットも相俟ってなかなかサイケデリックなパフォーマンスであった。もう二度と聴きたくない。

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タコクロナイズドスイミングを実践する4名。

 

ここで一旦ミュージカルはお休みしてミニコントに突入する。

ピクニックに来たまゆお姉さんがお弁当を忘れて慨嘆していると他の3人が自分たちの食料を分け与えたのだ(ここでたくみお姉さんが分け与えた「ながーいサンドイッチ」はサンドイッチの概念を根底から覆す衝撃のビジュアルであった)。

親切な仲間から食料をもらったまゆお姉さんは「みんなが友だちでよかった~」と破顔一笑。

ここで観る者は本作のテーマが「友だち」だったことを思いだす。「友だち」の定義は色々あるが、それらはファーストシーンの哲学議論であらかた出尽くした。一緒に遊んでいて楽しい人、ケンカしたあとに仲直りできる人、また会いたいと思える人。それが友だちなのだ、と。

だが、友だちの定義は他にもある。いみじくもまゆお姉さんが「みんなが友だちでよかった~」と言ったように自分を助けてくれる人もまた友だちなのだ。イヤな言い方をして申し訳ないが、換言すれば自分に利益をもたらしてくれる都合のいい人間のことである。つまりこのシーンのまゆお姉さんは、他の3人の善意に甘え、それを「友だち」と自ら定義したのである。

しかし誰にまゆお姉さんを責められよう。無償の愛だけが友情ではない。時には損得勘定が絡むことだってあるし、それは何ら悪いことではない。極めて健全な人間関係である。このように、本作はさまざまな「友情の形」を描いていて立派だと思った。

綺麗事じゃあないんだ、『おかあさんといっしょ』は!

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たくみお姉さん(右)の昼食「ながーいサンドイッチ」。長さ以外にも色々と気になるが。

 

◆「子供向け」と「大人向け」は同義◆

さて、ミュージカルもいよいよ佳境である。

意味も狙いもよくわからない「とんとんともだち」は黙殺するとして、栗に扮しただいすけお兄さんとたくみお姉さんによるコラボ曲「くりとくり」は相当おもしろいですぞ。この曲は『おかあさんといっしょ』の音楽性の核ともいえるダジャレ精神に富んでいて、「ばったりであってびっくり・くり」とか「ふたりはほんとにそっくり・くり」といった秀逸なギャグセンスで目先の笑いを狙う。激しいダンスや顔芸なんかも織り込まれていて、身体全体を使って笑いを取りに行っているのがよくわかります。

そんなダジャレ精神の結晶体が次曲「すずめがサンバ」

だいすけお兄さん、たくみお姉さん、まゆお姉さんの3人が民家の屋根に止まったすずめを演じ、サンバ調の曲に合わせて流麗なダンスを披露する。

「電信柱のうえで すずめが1・2・3羽 たのしく踊ってるよ すずめがサンバ踊ってる(ハイ!)」

「3羽(さんば)」と「サンバ」を掛けた捧腹絶倒のギャグである。

この曲は世のキッズたちが「ダブルミーニング」という概念を知るきっかけになるであろう。

また、すずめのコスチュームは見るからにお金が掛かっているし(一着800円ぐらいだろうか)、セットの書割りが昼から夜に変わるあたりも芸が細かい。3人のコンビネーションも息ぴったりだ。何よりシンプルに曲がいい。シングルカットに耐えうるクオリティだと思うので、ぜひどこかのレコード会社からリリースしてほしい(私は買わないが)。

それぐらいこの曲は本作のハイライト。まるっきり意味がわからなかった「タコクロナイズドスイミング」「とんとんともだち」の罪科を帳消しにして余りある最高のパフォーマンスだった。

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絶頂のクオリティに達する「すずめがサンバ」

 

その後、本作屈指の捨て曲「わらいごえっていいな」を惰性で済ませたあと、ファーストシーンと同じカメラアングルで再び箱のうえに坐した4人が「やはり友だちはいい」などと最初に出した結論をいちいち再確認するだけの不毛なシーンへと繋げられる。

このシーンで私が注目したのは、たくみお姉さんとまゆお姉さん、だいすけお兄さんとよしお兄さんの同性同士が「ほっぺっぺ~」と言いながら頬を擦り合わせる所作だ。

今から述べることが深読みであることは百も承知だが、ことによると本作が称揚する「友だち」の定義には「同性愛」すら内包されているのかもしれない。もしそうだとすれば本当に素晴らしいことなのだが。

もちろんこの推論をはっきり裏付けるような描写などないが、曲のなかでそれらしき事柄が歌われていたり、他のシーンでも同性同士の身体的な接触にクローズアップしていたりなど、サブリミナルのような微弱なメッセージが本作を観ている大人たちだけに目配せされているような気がしないでもないような気がしている気がするのだ。

個人的には『おかあさんといっしょ』だけでなく『ピタゴラスイッチ』『まんが日本昔ばなし』にも似たようなモノを感じていて、どうも「子供向け番組」には子供と一緒に見ている親だけが分かる「大人向けのメッセージ」が織り込まれているように思えてならないのである。いい年こいた大人がジブリやピクサーのアニメを本気で考察するように、「子供向け」という言葉は、だから「大人向け」と同義ではないのか。

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みんなかわいい。ほっぺっぺをすると体が温かくなるんだって! 私も綺麗な女の人とほっぺっぺがしたいです。

 

そんなつまらぬことを思惟しながら迎えたエンディングは、だいすけお兄さんとたくみお姉さんによるデュエット曲「このゆびとまれ」。大団円に相応しい大曲である。私はこのパフォーマンスを満喫しながら「ありがとォー。ありがとォー」と泣きながら画面に向かって手を振っていた。まぁ嘘なのだが。

エンドロールではだいすけお兄さんとよしお兄さんの腕立て伏せ対決が世の主婦たちの眼福となる。よしお兄さんの高速腕立て伏せは一見の価値があるぞ。

それにしても、なぜ腕立て伏せ対決などやっているのだろう。たくみお姉さんとまゆお姉さんがイナバウアーのように背中を逸らせて「バイバ~イ」としんどそうに叫ぶさまも必見だ。なぜこんなことをやっているのかは分からないが。

f:id:hukadume7272:20191013092238j:plain脈絡なしに始まる腕立て伏せ対決。
 

そんなわけで『おかあさんといっしょ』を数十年ぶりに見た。否。ちゃんと「観た」のは初めてだが、この楽しさは完全に想定外だった。

子供の頃は気づかなかったが、裂けんばかりのスマイルで歌と踊りを演じきる4人のプロ根性には頭が下がります。歌と体操のお兄さん・お姉さんってすごいな…。どう考えても頑張りに見合わない安賃金にも関わらず全力でヘン顔までするのだから。全国のキッズに笑顔を届けるためにここまで身体を張る彼らを、私はグロリアスだとおもった。

残念ながら子供嫌いの私は歌のお兄さんにはなれないが、お年寄り向けの終活番組『しにがみさんといっしょ』でならそこそこのポテンシャルが発揮できると思う。もしよろしければご一考ください、NHKさん。

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たくみお姉さんのポジションを継いだ21代目うたのお姉さん、小野あつこ。

もはや「ヘン顔」の範疇を超えた顔面エンターテイメントを提供する。

 

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