シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

鬼畜

志麻ちゃんがいたいけなキッズをいじめ抜く胸糞児童虐待映画の金字塔。

f:id:hukadume7272:20191112104851j:plain

1978年。野村芳太郎監督。岩下志麻、緒形拳、小川真由美。

 

印刷屋を営む竹下宗吉と妻のお梅。ある日、宗吉の愛人が3人の隠し子を宗吉に押し付けて失踪した。妻のお梅は子どもたちに辛く当たり、やがて、末っ子の赤ん坊が不慮の事故で死んでしまう。お梅が故意に仕組んだと察した宗吉は残る2人も何とかしなければと追い詰められて行き…。(Yahoo!映画より)

 

おはよう、「半額」という言葉に弱い関西人と「神話」という言葉に弱い関東人、およびその他の地域に住むなんらかの言葉に弱い者たち!

こないだジャッキー・チェンの最新作『ザ・フォーリナー 復讐者』(17年)を観たのだけど、評を書く気にもなれないので此処にて寸評を。

辛気臭い。

陰キャ路線のジャッキー映画はもういいって…。

娘を殺されて「い・ろ・は・す」のペットボトルみたいにベコベコにヘコんでるジャッキーなんて誰が見たいの?

痛々しいだけの悲愴な顔をスクリーンに刻みつけるジャッキーにゲンナリしちゃって。わたす。ジャッキーというか何かの末期ーってカンジだな。顔も真っ白で不健康だし。「なに? 弔事?」みたいな。ピアース・ブロスナンとの共演もただ二大スター並べましたって感じ。さげぽよー。

f:id:hukadume7272:20191205091226j:plain

何かの末期ーとしてのジャッキー。

 

あい。そんなわけでやって参りました「志麻ちゃん特集」第3弾。最終回となる本日は『鬼畜』をピピピピ・ピックアップ!

ご覧になってる方も多いと思うので、腰を入れてたっぷり語っております。

f:id:hukadume7272:20191114062902j:plain


◆志麻ちゃん、むちゃ怖い◆

志麻ちゃん特集のフィナーレを飾るのは『鬼畜』『はなれ瞽女おりん』(77年)の翌年に撮られた作品である。この映画にトラウマを植え付けられた人も多いのではなかろうか。

印刷屋を営む夫婦・緒形拳岩下志麻の前に、かつて緒形が3人のキッズを産ませた愛人・小川真由美が現れて生活費をせびるが、それが払えないと知るや否やキッズたちを緒形宅に残したまま失踪。かくして愛人にキッズを押しつけられた夫婦は貧困と苛立ちからキッズを排除しようとします。

原作は松本清張の小説。本作を手掛けたのは清張作品をめったやたらに映画化することに無上の喜びを感じずにはいられない特異体質を持ったことを得意げに語った野村芳太郎『女の一生』(67年)『疑惑』(82年)でも志麻ちゃんを起用したことから、私と同族…すなわち志麻ラーという説が有力視されている。

 

本作は志麻ちゃんのブレークスルーになった作品で、夫の隠し子たちに憎悪を剥き出しにする鬼の如き悪妻を怪演し「すごい」、「こわい」、「すごい」と高く評価された。

やっぱり何度観てもすごいのよね。劇中では1歳半の末っ子が炊飯器にイタズラしたことにぶち切れた志麻ちゃんが「そんなに食いたくば食えばいいじゃああああああああん」と絶叫しながらその子の口にご飯を詰め込む、詰め込む!

ほかにも、身体がクサいという理由で幼い次女の頭から粉洗剤をぶっかけて「そのまま洗濯機に放り込んだらどう!」と夫の緒形に恐ろしき提案をしてみたり、病気に倒れた末っ子の様子を見に行こうとした夫に「いっそ首でも締めてきたらどう!」と恐ろしき提案をしてみたり…と、今の時代ならまず撮れないであろう数々の虐待シーンが呼び物。

撮影に際して、志麻ちゃんは監督から「たとえカメラが回ってなくても子役と仲良くするな!」との厳命を受け、本番以外でも劇中さながらにキッズを無視したり怒鳴りつけたりした。そのせいで幼い子役たちをまじで怯えさせてしまったことを長年後悔している(後年和解したらしい)。

また、本作を見た親戚のキッズは「おばちゃんなんて嫌いだ!」といって志麻ちゃんを激烈に憎んだという。

志麻ちゃんをおばちゃん呼ばわりするな、このガキッズが!

それにしてもヒールを演じてこれだけ嫌われるとは。まったく女優冥利に尽きるよなぁ。

f:id:hukadume7272:20191114062141j:plain

ぎゃくたいのようす(米詰め事件と洗剤事件)。

 

そんな鬼嫁・志麻ちゃんの尻に敷かれている夫役の緒形拳もいい。

『砂の器』(74年)『復讐するは我にあり』(79年)などで知られる昭和の名優だが、寡聞にして私はそれほど多くの緒形ムービーを観ておらず、本作で初めて「あ、ケンケンってこんなに上手いの?」と思った次第である。はっきり言って本作は志麻ちゃんの怪演よりも緒形拳の表現力に目を奪われる作品かも。

ファーストシーンでは妻と愛人に責められて頭をぽりぽり掻くような意志薄弱ぶり、その後も育児放棄した志麻ちゃんに代わって不器用なりにキッズの面倒を見るような気の弱い亭主だったが、やがて志麻ちゃんの悪意が伝播して「子供たちさえいなければ…」と思い始める。

ネグレクトが原因で末っ子が病死したことで残りの2人も排除せねばと考えた緒形は、次女を東京タワーに置き去りにしたあと長男を青酸カリで毒殺しようとして失敗。毒殺計画が失敗に終わったことで自分がいかに恐ろしいことをしていたかに気付き、後悔、反省、滂沱たる熱き涙をスプラッシュさせながら「ごめんよぉぉぉぉ」と懺悔。心を入れ替えて長男に愛情を注いだのも束の間、すでに2人排除しているので後には引けず、熟考の末に能登の崖から長男を突き落とすニュープランを立てたのでありました(どないやねん)。

自責の念に駆られながらも「排除」を繰り返してしまう愚図亭主を抜群の感度で演じた緒形の拳さん。私生活ではカタブツで知られる俳優だが、どうやら生前はドラえもんの大ファンであることを公言していたらしい。

曰く「ドラえもんの色や形が好き」とのこと。ド変態じゃないですか。

f:id:hukadume7272:20191114062336j:plain

ドラえもんの色や形を愛する緒形拳。

 

◆誰がいちばん鬼畜なの選手権◆

タイトルの『鬼畜』とは誰のことなのか。誰のことだと思います?

真っ先に脳裏をよぎるのは無視と暴力でキッズを追い詰めた志麻ちゃん。次に、いけないことだと知りつつも「排除」を実行した緒形である。志麻ちゃんが動の鬼畜なら、緒形は静なる鬼畜だ。かっこいいな!

ややっ、待たれよ待たれよ。もう一人忘れてやしまいか?

諸悪の根源にしてすべての元凶はファーストシーンという名のエピソードゼロで夫婦の家にキッズを置き去りにした小川真由美にほかならぬ。

百歩譲ってよ? 百歩譲って置き去りにするにしても、去り際にキッズの方を見やって「ごめんね…」と涙の一粒でもこぼしていたなら幾らか心証もよかっただろうに、あろうことかエピソードゼロ小川(以下エピ川)は「生活費が払えないならアンタ達がこの子らを育てるこったね! あたしゃもう知らないよ。我関せず焉! えんえーん!」と捨て台詞を吐いて風のように逃げていっちゃうンである。

 

その上、エピ川は志麻ちゃんからビッチ説まで提唱される。志麻ちゃんは、3人のキッズが緒形の子供ではなくエピ川がよその男との間に作った子供ではないかと推理したのだ。

志麻ちゃんだってぜんぜん似てないじゃん。かすってもいないじゃん

言われてみれば緒形とキッズの顔はぜんぜん似ていない。かすってもいない。緒形の顔面はCDケースのような四角形だが、キッズたちは卵のようにまん丸とした顔面造形をしていたのだ。さすが志麻ちゃん、抜群の推理力といえる。

志麻ちゃんアンタ、どうせ阿婆擦れなんだろう? トルコでも行けばすぐに雇ってもらえるだろうサ!

もちろんトルコというのはトルコ風呂(今でいうソープランド)のことだ。これを言われたエピ川は金剛力士像みたいな顔になって逆上。

エピ川なにさ! チキショー。なにさ!

志麻ちゃんの暴言ラッシュにぐうの音も出ないエピ川だったが、去り際にとてつもなく酷いことを言って志麻ちゃんのハートを傷つけてしまいます。

エピ川ぐわははは、分かったわ。さてはアンタ…産めない身体なんだね? 私が3人も産んだから妬んでいるんだろう? どうなのさ! そうに違いないのさ! チキショー。なにさ!!

エピ川クズ説まで持ちあがった。最悪だろ、この女…。

 

後日、緒形は消えたエピ川を方々捜し回った末に彼女が以前住んでいたアパルトマンを突き止め、そこの住民からエピ川の目撃情報を仕入れることに成功します。

住民エピ川さんならついこないだ越してったわよ。『ようやく人生のエピソード1が始まるぅー』とか何とか叫んでたわね。たしか羽振りのいい男が一緒だったな

はい鬼畜確定。

要するにエピ川は3人のキッズを捨ててボーイフレンドと暮らしたいと思っており、邪魔なキッズを緒形夫婦に押し付ける口実を作るためにわざと金がないフリをして払えぬ額の生活費をせびり、困窮した夫婦に「金はいいから」と言って体よくキッズを押し付けたわけだなァ~~~~~~~~。

そしてこの周到にして邪悪な計画を看破していたのが志麻ちゃん。だがエピ川の策が成った今となっては看破したところで仕様がない。体よくキッズを押し付けられ、そのうえ緒形に愛人=エピ川がいたことを始めて知った妻の胸中たるや…如何ほどのものだろう!

そりゃあ確かに児童虐待はよろしかァないが、志麻ちゃんが苛立つのも無理からぬこと。一方的に押し付けられたキッズに愛情を注げるわけもないのだ。

血も繋がってない…あんな女の子どもを育てるなんて真平御免だよ。キンピラゴボウだよ!

※キンピラゴボウは筆者による創作ギャグである(大目に見るべし)

 

唐突ではありますが、ここで誰がいちばん鬼畜なの選手権の結果発表をしたいと思います。

 

1位 エピ川

f:id:hukadume7272:20191114062252j:plain

待ったなしの1位。

薄汚れた欲望のためにキッズを緒形夫婦に押しつけて自由を獲得、ようやく人生のエピソード1を始めたが、その身勝手な幸福は彼女が陥れた緒形家の不幸の上に成り立っている。

他者を傷つけたことすら自覚できない哀れな女だ。今よりは幾らかまともだったであろう前世まで遡って小学生からコツコツやり直せ。

 

2位 緒形

f:id:hukadume7272:20191114062211j:plain

良心の呵責とやらに苛まれながらもキッズを排除した、哀れなほど弱い人間。なぜかキッズの純心にダメージを与えながら自分も精神的ダメージを喰らうという生まれながらの自爆体質。

ましてこの夫は、3人のキッズと同じく幼少期に親に捨てられた過去がある。人の痛みが分かるはずの人間が同じ痛みを我が子に与えてしまうとは。想像力に乏しい人間ほど有害なものはない。弁当持って暗黒空間に行ってこい。そして二度と帰ってくるな。

 

3位 志麻ちゃん

f:id:hukadume7272:20191114062409j:plain

高い破壊力を持つアタッカー。無視、怒声、暴力などでキッズに多大なダメージを与えた緒形家のダメージソースである。

誰が見ても鬼畜…という分かりやすいアタッカーゆえに「本作屈指の最恐キャラ」と思われがちだが、実はエピ川や緒形に比べて鬼畜度はそれほどでもない。ただし末っ子が病死した夜に狂ったように緒形とセックスするシーンには閉口。

そもそも「児童虐待」よりも「夫を支配するような高圧的な態度」の方が鬼畜。夫の印刷所はブレーンの志麻ちゃんがいてこそ成り立っているので、誰もこの女には逆らえないのである。悪夢のかかあ天下。

 

4位 蟹江敬三

f:id:hukadume7272:20191114062427j:plain

先には紹介しなかったが、緒形家の下で働く印刷工である。

夫婦と毎日一緒に働いているので当然虐待も目の当たりにしているだろうに、我関せず焉とした態度で見て見ぬふりをする事なかれ主義のクソカス。だが映画はあくまで「気のいい善人」としてサラッと描いているあたりが実に意地悪だが、オレには全部見通しだ!

末っ子が病死し、次女まで行方不明になった(緒形が東京タワーに置き去りにした)映画終盤では「母ちゃんが病気なんで故郷に帰ります…」といってそそくさと退職したが、オレの見立てだとありゃ嘘だね。今までは見て見ぬふりをしてきたけど、キッズが2人も消えていよいよヤバくなってきたから逃げ出したのさ。そうに違いないのさ(警察にも行かずにさ!)。

蟹江の嘘だよ!

 

◆吐き気をもよおす『邪悪』とはッ◆

このように暗澹たる子殺しの顛末を描いたダークムービーだが、まるで映画は緒形、志麻ちゃん、エピ川の鬼畜BIG3をめいっぱい冷笑するかのように逆説的なブラックユーモアの感覚に満ちている。ほのぼのした日常描写と陽気な音楽に彩られたごく普通のホームドラマの様相!

悪魔のような芝居をする志麻ちゃんを天使のようなカメラでおさめていくのね。天使のような悪魔の笑顔。これは近藤真彦ですけども。

だもんで、本稿で筋だけ聞かされた未見者は「ビンビンの恐怖映画じゃん」とお思いだろうが、実際に観てみるとまるで炭酸の抜けたソーダみたいにダラッとした作品なんですよ♡

長男が口ずさむガッチャマンのテーマ曲も可愛すぎるし。あと志麻ちゃんがずっと汗だくでセクスィだし。お決まりの志麻角度もしっかりあるで。

f:id:hukadume7272:20191114062951j:plain

安定の志麻角度。

 

まぁ、典型的な異化だわな。

恐ろしい物語ほど楽しそうに見せることで却って恐ろしさを増幅させるという手口なわけ。虐待や暴力の恐ろしさはそれを受けることではなくそれが日常になることだからな。

心底ゾッとしたのは一度は毒殺されかけた長男が父を好くようになる映画後半だ。

自らの愚行を悔いた緒形をあっさり許した長男は「父ちゃん大好き!」なんつって犬みたいに懐くのだが…

自分、毒殺されかけてんで?

しかも妹は消えて、弟に至っては死んでるからね。

やはり実行犯の緒形がいちばん鬼畜なのかもしれんな。

f:id:hukadume7272:20191112105201j:plain

緒形の愚行はブチャラティの邪悪論にピッタリ符合する。

 

そのあと緒形は長男と二人旅を楽しみ、目的地の能登に辿り着いて「ごめん、やっぱり死んでちょ!」と言って崖から長男を放り投げた。この長男は親の名前や住所が言えるほど頭がよかったので生かしておくわけにはいかなかったのだ。

だが長男は奇跡的に一命を取り留め、所持品から足がついて緒形は逮捕される(志麻ちゃんは直接関わってないのでギリセーフ)。

警察署にしょっぴかれた緒形を一目見た長男は、「この男がキミを崖から投げたパパですね!?」と訊ねる刑事に向かって「父ちゃんじゃないやい! 知らないおじさんだよ!」と涙ながらに訴えた。蹲って慟哭する緒形…というラストシーンである。

このシーンの長男のセリフには父をかばったとする向きと父を拒絶したという向きがあるらしいが、脚本家が意図した「正解」はあります。普通に筋を追っていれば間違えようのないほど明らかな正解が。

f:id:hukadume7272:20191114062506j:plain

長男をやさしく尋問する婦警役に大竹しのぶ

 

監督が野村芳太郎なので技術的な点を論っても仕方ないが、画はダレまくり、演出は三流、しょうもないモチーフに固執するなど、口が裂けてもいい映画とは言えない出来栄えにおさまっている。

それでも原作者・松本清張が豊かな妄想と考察に耐えうる「物語の強度」を保証してくれているのでエンターテイメントとしてはなかなかよく出来た作品と言えなくもなくもなくもない…かな?

緒形拳が旅館で酩酊しながら自分の過去を語る一人芝居は絶品。涙ながらに心情吐露しているのに長男ときたら話半分に聞きながら海でゲットしたヤドカリと遊んでいるインサート・ショットの切なさがたまんねえ。

憐れ、ヤドカリに負ける父のきもち!!!

f:id:hukadume7272:20191114062621j:plain

涙ながらの心情吐露(ヤドカリに負けた)。

 

©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社