シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

2019年ひとりアカデミー賞 第一部

ご機嫌さまー。忌々しき年末恒例行事『ひとりアカデミー賞』のお時間がやって参りました。

去年も読んでくれたヘヴィ読者にとっては慣れたもんだよ。今年レビューしたすべての映画の中から各部門ごとにノミネート作品を3本選んで栄えある一等賞を決めようじゃないか、という恐ろしく自己完結した企画です

ていうか、こんなわけのわからない記事ごときに余暇という余暇を根絶やしにされて大変遺憾でありますされど『ひとりアカデミー賞』を始めて早9年、今となっては私の意に反して悠久の歴史を持つ権威ある映画賞と化してしまったので、おいそれと辞めるわけにもいかない。もはや私の一存ではどうすることもできないのです。戦争のようにな。

ちなみに去年の授賞式では主演男優賞に犬がかがやくというハプニングが起きてしまったので、今年は「ベスト動物賞」なる部門を新設。演技賞を荒らしかねない動物は全てこっちに流し込んだ。

ほかにも幾つかの部門を新設したり解体したりと神のごとき気まぐれな身振りで開催されてゆく『ひとりアカデミー賞』をどうぞよろしく。

 

※受賞作を赤のデカ文字にしていて、ノミネート2作を併せて表記しております。

※気になった映画があれば ぜひタイトルをクリックして丁髷。その評に飛べるようにリンク貼っておいたので後でじっくり読めね(うれしいシステム)

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【ベスト作品賞】

『赤線地帯』(56年)

『ウエスタン』(68年)

『脱出』(72年)

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んんんんんんんんんんんん!

赤線ド―ン!!!

なんと作品賞をもぎ取ったのは溝口健二の『赤線地帯』だというのか!

とはいえ順当な結果、必然のビクトリーといえる。去年観ていれば去年取ったし、来年観たら来年取った…というほど観た時点で作品賞が確定してしまうような傑作なので、ある意味では反則の受賞とさえ言えるのではないか。

溝口健二は反則。

 

イワン「おっと、いま溝口健二さんにイエローカードが配られました! 反則級にすぐれた映画を撮った溝口さんにイエローカードです! 次イエローカードを喰らうと退場になるので気をつけてください、溝口さん!」

 

おっと、みのる・イワンを助っ人に呼んでたことを忘れていた。紹介が遅れたが、こいつはとにかく見たもの全ての有様を実況せずにはいられない男です。

「実」の人名訓が「みのる」で、「況」の訓読みが「いわん」なので、みのる・イワンという名前なのだろう。

ちなみに惜しくも敗れ去ったノミネート作品は『ウエスタン』『脱出』。マンダムがハーモニカ吹く映画とデブがケツ掘られる映画である。どちらも男臭い作品だが、受賞したのは女だらけの『赤線地帯』

それはそうと、こと「映画の被写体」という点に関して言えば男優よりも女優の方がすぐれていると常々思うんだよな。女優は感情表現の振幅が広く、ヘアメイクやファッションの自由が利くぶん変身性も高い。そして奴らは“風”を持っている。髪が靡き、ドレスの裾が翻るという純映画的な優位性こそが映画女優の精華なのである。コンピュータグラフィックスが氾濫する濁世において、彼女たちの“風”は実に貴重だ。

ていうか、みのる・イワンより私の方がいいコメントしてない? 帰ってもらおうかな。

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みのる・イワン(42歳)

 

 

【ベスト撮影賞】

『赤線地帯』(56年)

『浮草』(59年)

『心中天網島』(69年)

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またギュン!

赤線またギュン!!!

また『赤線地帯』がギュンではないか。いい加減にしろ!

とはいえ評を読んでもらえれば妥当な受賞だということが分かって頂けると思います。

今年は改めて宮川一夫のすごさに打ち震えた一年だった。ちなみに 『浮草』の撮影も宮川一夫である。もっと言えば『羅生門』(50年)『雨月物語』(53年)全部この人。私が日本一の撮影監督と考えている不世出のカメラマンだ(世界でも五指に入ると考えている)。

ちなみに『心中天網島』は既存の撮影法を無視したところをひょうかしました。

わっ、またイワンがしゃしゃり出てきた。

 

イワン『赤線地帯』 の快進撃が止まらなーい。早くも主要部門でV2達成です! このままいくと全部門独占しかねない『赤線地帯』を脅威とみなした大会本部は同作のノミネート権を剥奪することを発表しました!

しかも、たったいま溝口健二さんにイエローカードが配られました! 審判から厳重注意を受けた溝口さんはとても悲しそうな表情を…あっ、速報? みんな速報ですって。

『天才すぎて賞レースが成立しない』として溝口さんを危険人物に認定した大会本部は衛星による14日間の監視を発表。また、溝口さんに『ひとりアカデミー賞』からの永久追放を命じたんだってさ! 政治が動いてます…。  開幕早々から大波乱の『ひとりアカデミー賞』だぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

うるせえな、こいつ。大会本部?

さて、今年の『シネ刀』は批評レベルを目盛り1つ分上げ、撮影技法についてチョロチョロと触れてきた。

そも、映画の愛好者や評論家という生き物はなぜゆえ撮影技法に固執し、評価するのか?

それは、多くの人民は「撮られたモノの美しさ」だけに酔っておるけれども「撮り方それ自体の美しさ」を知れば俄然映画がおもろくなるからである。これぞ芸術の醍醐味であるが、それを知らぬから人は芸術を難しいと云ふ。

たとえば音楽なら、メロディは聴けど音を聴いていない人民多数。絵であれば「何が描かれているか」に気を取られて雄渾な筆遣いをまるごと見逃す。文学も然りで、物語を追うあまり言葉の味わいをスルーしてしまう(これが本当の既読スルー)

そのような連中はロクに噛みもしないで料理を丸呑みする大食漢を私に思わせます。

とりあえず腹が満たせればいい。ストーリーさえ分かればいい。手っ取り早く内容だけ知れたらそれでいい。

そういう奴ほど映画を倍速で見がち。

本も斜め読みしがち。

ベストアルバム聞きがち。

カラオケでメドレー歌いがち。

競歩で美術館回りがち。

最悪、画集で済ませがち。

ていうか画像検索で済ませがち。

定番観光スポット好みがち。

ウィキペディア利用しがち。

LINE読点ごとに刻みがち。

食事中にスマホ触りがち。

まとめサイト読みがち。

出前取りがち。

 

死ねえ!!

 アクセントは「し」にあります。

 

【ベスト脚本賞】

『スパイナル・タップ』(84年)

『さよなら、僕のマンハッタン』(17年)

『女経』(60年)

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『スパイナル・タップ』が勝利の旋律を奏でたねぇ。

架空のロックバンドに密着したドキュメンタリーならぬモキュメンタリー…否、ロキュメンタリーだ。この映画を観て本当の音楽ドキュメンタリーと勘違いした観客をレコード店に走らせ、多くのロック・ミュージシャンを居た堪れない気持ちにさせるなど、妙にリアリティのある音楽コメディだった。

機材トラブルや発注ミスでコンサートはグダグダ、モーツァルトとバッハに影響を受けたギタリストは「これはその中間のモッハさ」と豪語しながらピアノを弾き狂う。そして歴代ドラマーは爆破や自然発火でことごとく死んでいく。

エピソードの紡ぎ方からセリフの一言一句まで、すべてが研ぎ澄まされた「笑いの隕石」みたいな映画であったよなー。ロブ・ライナーの最高傑作は『スタンド・バイ・ミー』(86年)じゃなくコレ!

思いつきでモノを言うが、すぐれた脚本の第一条件は「上映時間が短いこと」だと思う。『スパイナル・タップ』は82分、『さよなら、僕のマンハッタン』は88分『女経』は一篇30分のオムニバスだがヘタな監督が50分かけそうなサイズの話を綺麗にドラマタイズしている(特に第1話の増村保造)。

あまねく映画脚本家に必要な素質は画面を邪魔しない慎ましさであります。ちなみに私が山田洋次やアイヴァン・ライトマンをまったく評価しないのは「見せる」ことより「語る」ことを優先するストーリー脳だから。画面を邪魔するぐらいなら脚本なんて無くていい。

 

【悲しいお知らせ】

みのる・イワンがしゃしゃって来ると話がややこしくなるので、同氏を危険人物に認定した私は衛星による14日間の監視を発表、また『ひとりアカデミー賞』からの永久追放を命じました。

ノリで登場させた新キャラだけど金輪際出てくることはないでしょう。思いのほか使いこなすのが難しかった。

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みのる・イワン(乙女座)

 

【主演男優賞】

ユ・ヘジン 『レッスル!』(18年)

市川雷蔵 『濡れ髪牡丹』(61年)

ウィレム・デフォー 『永遠の門 ゴッホの見た未来』(18年)

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突如彗星のごとく現れたユ・ヘジンが主演男優賞を鮮やかにかっぱらってゆくぅ――――!

それでは早速、ユに受賞の喜びを訊いてみましょう!

ユ「반갑습니다! 정말 감사합니다!

なにいってるかぜんぜんわからないのでもういいです。帰れ。

ユがきらめき倒し輝き散らした『レッスル!』のインパクトがあまりにスゴくて遥か格上の市川雷蔵とウィレム・デフォーを一撃粉砕!

だが、ユが受賞できたのはのお陰でもある。『レッスル!』の中でも「奇面の道はオに始まりユで極まる」と独自の奇面論を展開したように、名脇役オ・ダルスが築いた奇面的土壌の上にこそユの奇面的受賞があるわけだ。いわばユとオのW受賞といっても過言ではない。この場合どうしようかな…ユとオを同時に発音すると「ヨ」になるので…そうだな…ヨの受賞です。

受賞者はヨ。

の受賞はのお陰なので、

にとっては手柄半減でにとっては棚ボタだけど、

を分かち合うは、のような(ハンサム)ではないが(魅力的)

(つまり)(ヨの受賞は)(必然といえます)

(市川雷蔵と)(ウィレム・デフォーは)(残念でした)(来年がんばってください)

 

 

【主演女優賞】

若尾文子 『卍』(64年)

トニ・コレット 『ヘレディタリー 継承』(18年)

アリータ 『アリータ:バトル・エンジェル』(19年)

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逆に訊きたい。若尾以外あるんですか?

通年『シネ刀』を読んでくれた暇なヘヴィ読者なら「でしょうね」てなもんだろう。そりゃあそうだわさ。こうなるわいさ。むしろこうならずしてどうなるわいさ。

若尾文子の受賞は6~8月におこなった「昭和キネマ特集」の時期から確信してたというか…何ならすでに受賞してた。じつは8月の時点で若尾邸にオスカーを配達していたンですよ、私。

評の中では、キャワオチャーミー若尾あややあやぽんなど色とりどりの渾名で呼び分け、その偏愛ぶりをまざまざと読者に見せつけた。まさに圧倒的必然がもたらした受賞とはいえまいか。

本当なら若尾文子、京マチ子、山本富士子、岩下志麻あたりで主演女優賞を競ってもらいたかったが、日本の女優ばかりノミネートするのもどうかなーと思ってトニ・コレットとアリータを突っ込んだ次第である。私はトニ・コレッターであると同時にアリーターでもあるが、やはり今年は若尾の年でした。

キャワオリズムを受け継ぐあやぽニストとは俺のこと。

ついでにマチリストであり富士ニストであり志麻ラーでもある。デフォリアンでもある。

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京マチ子(左)、山本富士子(中央)、岩下志麻(右)。

 

【助演男優賞】

ヘンリー・フォンダ 『ウエスタン』(68年)

イーサン・ホーク 『6才のボクが、大人になるまで。』(14年)

玉川良一 『しびれくらげ』(70年)

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助演男優賞は往年のスター、ヘンフォの手にすっぽり収まっていくぅぅぅぅ。

アメリカの良心ばかり演じていたヘンフォが残酷非道の悪党をダーティに演じ、貫禄などという抽象的なオーラを見せつけることに成功なされた。

評では書かなかったが『ウエスタン』のヘンフォを見ていると無性に涙が出そうになるのだ。肩に背負った「善人役者」という巨像を下ろすことでハリウッド神話を道連れに無理心中を遂げた、その一世一代のお芝居に。映画と心中した役者だけを「名優」と言う。

息子の誕生日にビートルズのコンピレーションCDを贈りつけた『6才のボク~』のイーサン・ホークもよかったね~。『しあわせの絵の具』(16年)でも素晴らしい助演ぶりだったし。イーサン・ホークはこれまで何度も主演を張ってきたスターだが、実は助演がうまいと思う。マンタにくっ付いてるコバンザメみたいな俳優です。

それはそうと、よく見たらダメ虫こと玉川良一が生意気にもノミネートしていやがる。「主演を助ける」と書いて「助演」なのに渥美マリに助けてもらってばかりだったな。マンタか、おまえは。 

 

 

【助演女優賞】

京マチ子 『浮草』(59年)

若尾文子 『祇園囃子』(53年)

ジェニファー・コネリー 『アリータ:バトル・エンジェル』(19年)

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主演女優賞を若尾にイかれた京マチ子が怒涛の追い上げを見せたよ。

「うち、ビナスや!」と言ってのけた『赤線地帯』(56年)や、マッチー七変化を見せつけた『穴』(57年)もよかったが、なんといっても『浮草』の京マチ子は奇跡の相貌におさまっていた。中村鴈治郎との雨中の罵り合いもさることながら、駅のラストシーンで「うん。やりましょ。やろ、やろ!」からの「桑名2枚!」なんて向かう所敵なしの最強ほっこりエンドだよ。

Twitterでは同作を鑑賞した渋谷あきこさんが「ラストの汽車の晩酌シーンでおくれ毛が風でそよいでいたのが素」と秘かな見所を耳打ちくれました。評自体も今年一番の自信作だし、『現世と冥界の往還者 ー京マチ子追悼ー』も書けたし。だけど京マチ子の死が未だに悲しい私であります。

ジェニファー・コネリーに関しては私の中の全細胞がコネられた「ガーターベルトでウッフンinベッド」の一点だけでノミネートである。「贔屓がすごい」などとボヤく人あらば問う。あなたは細胞をコネられたことがあるですか?

ジェニファー・コネリーに全細胞をコネられたこともないのに屁理屈をコネてはいけませんよ。だいたいこんな賞に選定基準なんてナイんだよ、初めから。強いて言うなら趣味と気分だな。贔屓だってするさ。

これぞコネリスト、ダダすらコネていく。

 

 

【最低男優賞】

半魚人 『ドラキュリアン』(87年)

プー 『プーと大人になった僕』(18年)

長谷川一夫『銭形平次捕物控 まだら蛇』(57年) 

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まぁ、なんだ、「最低男優賞」というかぶん殴りたいと思った奴を上から順に列記しただけです。

まず半魚人は確実に殴っておきたいところだ。こいつだけは命に替えても殴る。なまじ見た目がすごく好みなだけにビタイチ活躍せずに死んでしまうという甲斐性のなさに失望した! わかるけ。例えばあなたがMCU好きだとして、一番好きなキャラがちっとも活躍しないばかりかロクに戦いにも参加せずに画面の端っこで一人気儘にヨーヨーで遊んでたらどうする?(しかもハイパーヨーヨー)

殴るでしょ? 殴るんですよ。

そうなんだよ。殴っていくんだよ俺たちは。今から一緒に。これから一緒に。ヤー言うて。

それで言うならプーも殴っておきたいところよなー。「博多に来た以上はラーメン食って帰りたい」というのと同じで半魚人を殴ったからにはプーも殴っておきたいなと、こうなるわけです。

で、その勢いのままレジェンド・長谷川一夫も殴る。「どうせ終電もないし、もう一軒いこか」の感じで殴りつけていくわけです。Tシャツを脱ぐように。胸にしまった季節を抱くように(ヤー言うてな)。

 

 

【最低女優賞】

メリル・ストリープ 『31年目の夫婦げんか』(12年)

リース・ウィザースプーン 『キューティー・ブロンド』(01年)

ヘルメ(黒島結菜) 『プリンシパル ~恋する私はヒロインですか?~』(18年)

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誰もが絶賛すると思ったら大間違いだよ、メリル・ストリープくらァーッ!

コテンパンに叩いた『31年目の夫婦げんか』はその大部分が監督のせいだが、メリルもメリルで芝居の組立て方を間違えたと思う。トミー・リー・ジョーンズがシリアスに演じてるんだからメリルの方はもっとラフに演じなきゃコメディにならない。結果としてこの上なく不愉快で痛々しい映画に仕上がりました。

でも誰にでも間違いはあるもの。ぼくたちは人の子。だから私はメリルをゆるす。メリルをゆるすことができるのは私だけだと思う。なぜならこの大晦日にメリル・ストリープに対してここまでブチ切れているのは私だけだから。

あと、いちびってるリース・ウィザースプーンがとにかく苦手なので「とりあえず生」みたいなノリでノミネートしてしまった。でも濱田マリは好きです。実際、濱田マリの喋り方は割と好きだ。

濱田マリをゆるす。

 

以上をもちまして第一部は終了です。

新年になる直前にジャンプして「年越しの瞬間地球にいなかった」なんて言う人間にだけはなるなよ!!