シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

オンリー・ザ・ブレイブ

勇敢者たちの祝祭空間(J・ブリッジスの歌付き)。

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2017年。ジョセフ・コシンスキー監督。ジョシュ・ブローリン、マイルズ・テラー、ジェフ・ブリッジス、ジェニファー・コネリー。

 

学生寮で堕落した日々を送っていた青年ブレンダンは、恋人の妊娠をきっかけに生き方を改めることを決意し、地元の森林消防団に入隊する。地獄のような訓練に耐えながら、ブレンダンはチームを率いるマーシュや仲間たちとの絆を深め、彼らに支えられながら少しずつ成長していく。そんなある日、山を丸ごと飲み込むかのような大規模な山火事が発生する。(映画.comより)

 

やっほー人民。

いつも前書きに苦しめられている私から究極の提案です。

この前書きさぁ…読者が書いたらいいんじゃない?

このスペースに載せてほしい文章を読者から募るわけ。私としてはその文章をコピペするだけで、このくそ忌々しい前書きの呪縛から解放されるので両者ウィンウィンという寸法です。

どんな文章でもいいし、お仕事のPRとして利用してくれてもいい(こう見えてそこそこPV数あんねんで)。犯行予告みたいなヤバい文章以外なら何でもええわ。持論、日々の愚痴、お手軽レシピ、ペット自慢、自作のゴミみたいなポエム、安倍政権への一家言、クッパ攻略法、おすすめ健康法、マスクやティッシュの転売法

また当ブログに対するご意見、ご感想、愛の告白、恋人応募、遺産の分け与え、秘宝の贈呈、最終奥義の伝承など、随時受け付けております。

ご応募はお問い合わせフォームか、僕のトゥイッターから!

もしご応募がなければ再び前書きに苦しむことになるので、その場合は次回から自作自演の人生相談をやります。

そんなわけで本日は『オンリー・ザ・ブレイブ』

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◆ダブルJ.B共演。そしてマイルズ・テラーはやっぱり怒られる◆

今年に入ってからというもの火災映画をよく観ている。やはり私は生粋のヘルファイターなのだろうか。

本作は『バーニング・オーシャン』(16年)のちょうど1年後に公開された作品で、共通点も多い。

(1)あっちは海上火災で、こっちは本場の山火事。

(2)どちらも実話に基づいている。

(3)男汁噴出系マチズモ映画。

 

そして最大の類似性はキャストである。

『バーニング・オーシャン』の主演は、公私問わずヒトやモノを破壊し尽くす筋肉増強野郎マーク・ウォールバーグ。一方、本作の主演は指パッチンだけで全宇宙の生命体の総数を半分にできるジョシュ・ブローリン。どちらもゴリラの親戚の親戚みたいな顔をしており、タフなオヤジ役を得意とするジョン・ウェイン系のスターだ。

また脇役にも類似性がみとめられる。

『バーニング・オーシャン』でマー公の先輩を演じたのはカート・ラッセル。本作でブロ公の先輩を演じたのはジェフ・ブリッジスだ。どちらもSFと自動車に縁のあるオヤジで、なぜか髪型がほぼ同じ。カート・ラッセルは『ユーズド・カー』(80年)で自動車を売りまくり『ゴーストハンターズ』86年)で霊をしばき回した。ジェフ・ブリッジスは『タッカー』88年)で自動車を売りまくり『ゴースト・エージェント/R.I.P.D.』(13年)で霊をしばき回した。

話は逸れるが、そろそろ私たちはクリス・クリストファーソン、ジェフ・ブリッジス、カート・ラッセル、ジョシュ・ブローリン誰が誰やら問題に向き合っていかねばならないと思います。顔が…というよりもいぶし銀のような風格が4人とも同じで、役者としても同一グループにいるジョン・ウェインの末裔。なんとなく大型トラックが似合うことからトラック系俳優と呼んでいるんだよ、俺は。

そんなジョシュ・ブローリンとジェフ・ブリッジスのダブルJ.Bが揃った本作。ジョシュと思ったらジェフだったみたいな場面が至る所にあるので紛らわしい事この上ない。

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トラック系のジョシュ・ブローリン(右)とジェフ・ブリッジス(左)。見た目ほぼ同じ。

 

本作は2013年に起きたヤーネルヒルの山火事を扱っているが、『バーニング・オーシャン』のリアリズムとは好対照をなした純度100%の劇映画である。

物語が始まると、山に囲まれたアリゾナ州ブレスコットで人と自然を守っている森林消防隊「チーム☆ジョシュ」の指揮官ジョシュ・ブローリンのもとに麻薬常習者のマイルズ・テラーが入隊希望に訪れる。

マイルズ・テラーといえば『セッション』(14年)でバチバチに怒られながらドラム叩いてたジャズ小僧だが、本作では知り合ったばかりの女を妊娠させた麻薬常習者というロクでもないクズを演じていた。

麻薬を断ったマイルズは、生まれくるベビーのためにチーム☆ジョシュに入って生活費を稼ごうと一念発起するが、過酷を極める訓練と隊員たちによる洗礼を受け「こりゃあ参ルズ」とつまらぬシャレを発した。だが、同じ隊のテイラー・キッチュジェームズ・バッジ・デールらに厄介者扱いされながらも、同じ釜の飯をシェアーするうちに少しずつ認められ、最終的には男3人でベビーの世話をするほどのマブダチになってゆくのだ。モロに体育会系の世界だが、なんか微笑ましいな。

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ジョシュ隊長に「山ではドラム叩くなよ!?」と釘を刺されるマイルズ・テラー(左)。結局こっちでも鬼コーチに怒られる役。

 

それと並行して描かれるのがジョシュ隊長の心労あれこれである。

チーム☆ジョシュは民間の消防隊ゆえに、火災現場では農業省が認定したホットショットと呼ばれるエリート消防隊に指揮権を譲らねばならず、いまいちポテンシャルを発揮できずに燻っていた。かかる状況に業を煮やしたジョシュは、昔馴染みの親友でもある消防署長ジェフ・ブリッジスから市長に口添えしてもらいホットショットへの昇格試験を受けることになる。マンガやん。展開が。めっちゃアツいやん。

そんなジョシュも家に帰れば一人の男。外では火災を鎮めても妻の前では燃えまくり。一緒にお風呂に入ったり、傷だらけの駄馬を二人で世話したり、子供を作る作らないでたまに揉めたり。

しかも妻役がジェニファー・コネリー

やったー! これには全ジェニファンが泣いて喜んだ。ジェニファン兼コネリストという意味重複のビッグファンたる私に至っては、泣いて喜んだあとに鼻かんで一旦落ち着いてもう一度泣いて喜んだほど喜んだ。

ていうか、たとえお芝居であってもジェニファーとお風呂に入ったジョシュ・ブローリンを私はずるいと思う。

だいたいこの男は俳優業の恩恵を受けすぎなのだ。いい歳ぶっこいて『オールド・ボーイ』(13年)ではエリザベス・オルセンを抱きーの、『恋のロンドン狂騒曲』(10年)ではナオミ・ワッツという妻がありながらフリーダ・ピントーとイチャこきーの。そして遂にジェニファーとの入浴まで楽しむ始末。

甘い汁吸いすぎだろ!

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今日も髪がすてきなジェニファー!!!

 

また、ジェフの妻役にはアンディ・マクダウェル

ひっさしぶりに見たなぁ。スティーブン・ソダーバーグがカンヌ史上最年少でパルム・ドールを受賞した『セックスと嘘とビデオテープ』(89年)、ヘリコプターからの殺虫剤散布に始まるロバート・アルトマンの群像劇『ショート・カッツ』(93年)、ループ映画の金字塔『恋はデジャ・ブ』(93年)などで大車輪の活躍を見せた90年代美人である。

現在61歳と知って「そうなん!?」と思った。娘はパリコレやヴォーグ表紙を荒らしまくってるモデル兼女優のマーガレット・クアリー(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でブラピの車に乗り込んだ腋毛のヒッピー)。

 

◆仕事に家庭に大忙しのチーム☆ジョシュ◆

『オンリー・ザ・ブレイブ』はアリゾナの雄大な大地と地元民の営為を伸びやかに素描した、実に大らかな映画であった。

前半部の主人公はマイルズでもジョシュでもなくである。

マイルズは隊におけるポジションを確立しながら家庭を築き、夜中に熱を出したベビーにパニクって東奔西走。ホットショット認定を夢見るジョシュは以前にも増して熱心に指揮を取り、調子が悪かった日はジェニファーに慰めてもらう。隊員のテイラー・キッチュは彼女と別れて帰る家を失いマイルズのアパートに転がり込んだ(その後ナースに一目惚れして鋭意攻略中)。消防署長のジェフは悩めるジョシュにアドバイスを送りながらも隙あらばホームパーティを開こうとする陽気なじじい。

ここで描かれているのは、仕事が終われば家に帰っていく男たちの生活だ。

消防士ではなく一人の男として群像化することで自然と共存するアリゾナの暮らしが瑞々しい鮮度をもってスクリーンの全域に駆け巡る。「家」を主役とした陽性のドラマがアメリカ南西部を祝福しているようでもあり、とにかく観ていて心地よかったわー。

ジェフ邸で開かれたホットショット認定記念パーティーでは、生まれ変わったチーム☆ジョシュ改めグラニット・マウンテン・ホットショット(実際の名称です)に感極まったジョシュが町人にロゴ入りの格好悪いTシャツをプレゼントし、ジェフは以前オフィスの椅子を木っ端微塵に破壊したジョシュに新しい椅子をプレゼントする。バカな隊員たちはチェーンソーでビール瓶のフタを開けて大喜びしていた。

焦げついたバーベキュー!

鳴り響くヘヴィメタル!!

ジョシュの横でにっこりしてるジェニファー!!!

えらい楽しい祝祭空間だな。

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ホットショット認定記念パーティーの様子。家族や友人を集めてマズい料理食ってます。

 

祭りは終わらない。まだ終われないッ。

ホットショットに昇格したことがそんなに嬉しかったのか、夜になるとバーに移動した一同は1975年のディスコブームみたいに踊り狂い、消防局長のジェフに至っては一人でギター掻き鳴らして喜んでた(一応ミュージシャンでもあるからね、この人)。

胴上げされた誰か!

ぶちまかれたビール!!

ジェフの横でにっこりしてるジェニファー!!!

いつまで続くんだ、この祝祭空間。

そしてステージに立ったジェフは、カントリー・ミュージックのスタンダード「ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ」をさも自分の曲かのように歌い散らしていた!

ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ」の私物化がすごい。

恐らくジェフは誰よりもこの曲を愛し、相当歌い込んできたに違いない。というかこのシーンを演じたいがために本作のオファーを引き受けたのだろう。それぐらい“歌手ジェフ・ブリッジス”が全面に出ていた。スタン・ジョーンズの原曲からは随分アレンジされてる……というかほぼ原型を留めてないが、そんなことも意に介さず、得意になって「ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ♬」と歌い散らしたジェフ・ブリッジス68歳。他を顧みないワンマンショーぶり。これぞオナニーを超えたオナニー。

貴重な上映時間の内の5~6分を完全に乗っ取ったオナニスト・ライダーズ・イン・ザ・スカイとしてのジェフ御大に万雷の拍手!

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ジェフの「ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ」を皆で聴く時間(ジェニファーだけ半笑いだった)

 

やはりドラマパートの中核を担うのはジョシュとジェニファーの愛情物語である。

ジョシュ・ブローリンとジェニファー・コネリーという役者はすべての出演作で輝いているわけではないし、どちらかと言えば撮るのが難しい役者だが、監督のジョセフ・コシンスキーはビビッドな空間に人物を配置するのがなかなか上手い。これまでに手掛けた『トロン:レガシー』(10年)ではオリヴィア・ワイルドを、『オブリビオン』(13年)ではトム・クルーズの貌を職人的に描いてきた新鋭監督だ。

森林消防隊という職に理解と覚悟を示したジェニファーは、毎日仕事で疲れて帰ってきたジョシュの愚痴を聞いたあとに「今日、私こんなことあったんだ」と自分の話をする。どんなに話したいことがあっても、まず仕事の愚痴に付き合ってやるのだ。これにはジョシュも感謝しているようで、そんな二人の関係性が羨ましくもあり。

ジェフ邸で仕事の話をするときも、ジェフの脇には妻のアンディがいて、ジョシュの隣にはジェニファーがいる。四人は公私問わず家族ぐるみの付き合いなのだが、そのまったりとした空間が実に心地いい。もっぱら男性キャラクターが活躍する災害映画においてヒロインが添え物になっていないからだろうな(『ヘルファイター』の継承!)。

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馬と大地と焚火と男女。魂安らぐー。

 

物語後半ではジェニファーが「ベビーが欲しい」と言い出し、「結婚する前にベビーは作らないと約束したはずだ」と言ったジョシュと激しく衝突する。死と隣り合わせという仕事柄、家族を持つことのリスクをジョシュなりに考えての公約だったが、ジェニファーは「ベビーができればもっと自分の命を大事にするはず(だからベビーを作るべき)」という論調で責め立てる。

ある日、そんなジェニファーが居眠り運転で自動車事故を起こす。マイケル・ベイ映画みたいに派手に横転したのだ。幸い軽傷で済んだのでジョシュには知らせなかったが、一番弟子のジェームズから事故の話を聞いて慌てて家に帰ってきたジョシュは「なぜ夫が妻の一大事を部下から聞かなきゃいけないんだ。すぐ知らせろ!」とぶち切れたが、馬小屋で駄馬の世話をしていたジェニファーは「仕事の邪魔しちゃいけないと思って知らせなかったのよ。私の忖度を忖度しろ!」と逆ギレして応戦。

どちらの言い分もわかるし、いち観客としては出来ればこの二人には喧嘩しないでほしいのだが、それ以上に感じたことは「お似合いの夫婦だなぁ」といった羨望でした。

だってケンカの理由が愛だものぉぉぉぉぉぉ。

愛すればこそ衝突してしまう健康な夫婦生活。妬けるじゃないのさ!

余談だが、ジェニファーは生粋のアリゾナ娘という設定らしく、テンガロンハットを被って馬を駆るシーンがすこぶるイカしております。

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ジェフより彼女の方がゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイでしょ。

 

と言っても、もちろん馬鹿騒ぎしたり夫婦喧嘩してるだけの映画ではない。

ちょいちょい山火事が起きてはその都度ジョシュたちは出動するわけだ。時には他のホットショットに消火活動を任せて樹齢2000年の神木を守るためだけに出動させられることもある(ゲラゲラ笑いながら神木の前でピラミッド組んで記念写真撮ってた)。

それではここで森林消防隊のお仕事を皆さんと一緒に学んでいこうと思います!

山火事は空気が乾燥しやすい夏~秋にかけて発生しやすいが、鎮火作業に使うのは水ではない。当たり前だが、山に消火栓などなく、ポンプ車が通れるような道もないので水を使った消火活動ができないのである。旅客機を使って上空から水をぶちまける方法もあるが、自治体の予算不足や一回のぶちまけ量が少ないという問題点から多用するのは厳しいようだ(よって山火事の鎮火には何週間もかかる)。

となるとマンパワーに頼らねばならない。

ではどうやって火を鎮めるのか? 息をフーフー吹いて火を消すのか。違うんである。超能力を使って火を小さくするのか。違うんである。

火を使って火を制するのだっ。

火の進行方向に先回りして木々や草木をチェーンソーと斧で伐採し、シャベルでせっせと土を掘り返して、火災源をぐる~~~~っと囲むように“防火帯”を築く。そこにわざと“迎え火”を放つことで火の進行を遮断してやれば、やがて行き場を失った火は円の中で燃え尽きる…という寸法だ。よう考えられたあるわ。

もちろんこの作業には並外れた体力と頭脳が求められる。湿度と風向きを常に計算しながら火の動きを読み、木を切ってはそれを運び、土を掘っては退路を確保し…というのを灼熱地獄のなかで何週間も繰り返さねばならないのだ(想像しただけで意識が遠のく)。

それだけではない。彼らには機動力が求められるので耐火服で重装備することができず、まるで業者がエアコン直しに行くみたいな軽装で業火との戦いを強いられるのである。

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水を使わず山火事を鎮める森林消防隊の皆さん。

 

彼らを火から守るものは緊急シェルターという防火グッズだ。

シェルターとは言っても耐火性の掛布団みたいなもので、これは260℃までの高熱に耐えることができる。消防隊が最後の手段として頭から覆い、火が通りすぎるまで地面に蹲るという苦肉の策である。

マイルズたちが馬鹿騒ぎしているとき、ジョシュは事あるごとに緊急シェルターの抜き打ち訓練をおこなう。隊員19名が30秒以内に緊急シェルターをバッグから取り出し、そこに身を包んで地面に突っ伏するのだ。

とはいえ住宅火災ですら500℃を超え、山火事では1500℃もの高温に達するというのに、果たして260℃しか耐えられない緊急シェルターがどこまで役に立つのだろうか(ちなみに普通の消防士が着ている防火衣は1200度の高温に17.5秒耐えられるらしい)。

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緊急シェルターの抜き打ちテスト。ゲラゲラ笑いながらもちゃんと30秒で被る隊員たち。

 

◆ブレイブ20◆

このように、ほとんど不協和音なしに進行していく微笑ましいドラマは、しかしそれぞれが過ごす日常の中で突如起きた未曾有の山火事によって音もなく均衡を崩し始める。

アヴァンタイトルでは、ジョシュが山火事の最中に火だるまの熊が飛び出してくる夢を見るが、後のシーンでこの夢の話をジェフにしたとき、ジョシュはその熊に自分を重ね合わせた。山に生き、炎に包まれながらも美しく野を駆け、そして山に死んだその熊を…。


2013年6月28日にアリゾナ州ヤーネルヒルで発生した山火事は、記録的な猛暑と最悪の強風という悪条件が重なったパーフェクトストームで、炎は猛暑と乾燥と強風によって瞬く間に山全体を覆い尽くした。延焼地域は約400ヘクタールを超え、住宅約100棟が全焼、ヤーネルヒルの住民には避難命令が出された。

一早く現場に駆けつけたグラニット・マウンテン・ホットショットの20名は決死の消火活動に当たったが、アリゾナ州当局はその内の19名の死亡を確認。このヤーネルヒル火災による消防士の犠牲者の数は9.11テロ以来最多となる。当時の大統領バラク・オバマは「彼らは英雄だった」と声明を発表して彼らの死を悼んだ。

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緊急シェルターに入った隊員たちを容赦なく襲う業火。

ただ1人の生存者を本作で演じたのがマイルズだった。たまたま怪我をしていたマイルズを見張りにして消火活動に当たったジョシュら19人は、空中消火用の旅客機からも気付いてもらえぬまま炎に囲まれ、緊急シェルターの中に身を隠したが、ようやく炎が収まり救助隊が駆けつけたころには既に焼けた遺体となっていた。

同日、市長が遺族を中学校に集めて説明会を開くことになり、生き残ったマイルズは周囲の反対を押し切って学校に向かう。生存者が1名いることを知った遺族たちは自分の夫や恋人ではないかと一縷の望みを懸けたが、マイルズが中学校の体育館に現れると誰もが泣き崩れた。

これはキツい…。

遺族たちの、失意の底から湧き出た「お前かよ…」という声なき声を聞いたマイルズは「俺が死ねばよかったんだ」と自分を責めたが、ジェニファーは慟哭するマイルズを抱きしめ「生きててよかった。夫も喜んでる」と言った。声を震わせながら。

それから3年後。3才になった娘を連れて山を訪れたマイルズは、かつて皆で守った樹齢2000年の神木に仲間たちへの供物を捧げた。ジェニファーはジョシュと育てた馬に跨って町が一望できる山に向かう。ジョシュが気に入っていた場所だ。

 

寡聞にしてヤーネルヒル火災の顛末も知らずに呑気こきながら観たので、映画終盤は衝撃と放心に身をこわばらせながらの鑑賞でありました。

この映画のすばらしさは強靭にドラマタイズされた説話技法もさることながら、観る者の瞳を惹きつけてやまないその説得力である。

図々しいほどに剥き出された喜怒哀楽が皮膚感覚に迫ってくるフィルムの情緒。これといったエピソードなどなくとも瞳の交歓だけで伝わる男女の愛情。

火災シーンでは「実際の火」と「VFXの火」と「CGの火」を何層にもレイヤーを重ねて形成しており、とりわけ見張りに立たされたマイルズが火に囲まれて絶体絶命のところを他のホットショット隊員に助け出されるシーンの迫力たるや「嗚呼、このようにして人は焼死するのか…」といった火の恐ろしさがぐんぐんに伝わってきて、思わず目や喉に渇きを覚えたほどである。この熱感覚はこれまでの作品にはなかったので、火災映画としての質では『タワーリング・インフェルノ』(74年)『バックドラフト』(91年)を優に超えている。

つまり「火災映画の歴史」を華々しく更新した快挙を讃えるに余りあるぅぅぅぅなんて言うと少し大袈裟だが、そんな大袈裟なことも言ってみたくなるほど好い映画、そう、良い映画というより好い映画なのである。

何にもましてカラッとしたアリゾナの景色がいい。直球のヒューマンドラマやスポ根モノが好きな人には確実にぶち刺さるであろう秘境の逸品。

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