シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ブライト

箒ぶん回してフェアリーしばき殺す男。

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2017年。デヴィッド・エアー監督。ウィル・スミス、ジョエル・エドガートン、ノオミ・ラパス。

 

はるか昔から人間と他種族が共存してきた世界。ロサンゼルスで警察官として働く人間ウォードとオークの相棒ジャコビーは、夜の巡回中に謎の少女と出会い、魔法の杖「マジック・ワンド」の存在を知ったことをきっかけに、地球の運命をも揺るがす巨大な事件に巻き込まれてしまう。種族間の衝突を乗り越え、正体不明の敵と戦いながら事件の全貌に迫るウォードたちだったが…。(映画.comより)

 

らい、おはよ。 あい。

近ごろ執筆速度が落ちてるのでなかなか更新頻度を上げられない。そんな中、2日に1回ペースを守ってるだけでもエライのに、今日ときたら2日連続更新エライ!

「最近2日に1回ペースだから今日更新したということは明日は更新しないだろうからアクセスしなくていいか~」なんてフザけたことを予想してやがる打算的な読者を裏切るためにも不規則なペースで更新することで毎日アクセスしてもらおうとする私が結局いちばん打算的というオチ!! くは~!

とはいえ「今日は更新してるかな? どうかな…?」というハラハラ要素も込みで『シネ刀』流エンターテイメンツなのです。そういう意味では「更新しない」という行為を通してブログを更新してるとも言えるよねー。

そんなわけで、ネトフリ映画特集第3弾は『ブライト』です(全5弾)。勢いに任せてシューッて書いたわ。読み応え? ないよそんなの。

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◆また筋肉です◆

設定からしてしんどい。

エルフ、オーク、フェアリー、ドワーフたちが人間と共存する現代アメリカを舞台に、バディを組んだロス市警の人間とオークが願い事が何でも叶う「魔法のワンド」を奪って逃亡しているエルフの少女を匿ったことで悪のエルフ軍団「インファーニ」に追われる…といったロー・ファンタジーである。最終的にはワンドの力を身に付けて世界を救いもする。

アホの中学生が授業中に考えたみたいなストーリーだ。勘弁してくれよ。

もちろん作り手も真性のアホではなく、こんなプロットじゃ子供も騙せないことぐらい重々承知しているのでファンタジー要素を使って人種差別問題を盛り込んでいる。

主人公の相棒であるオークはロス市警初のオーク警官ゆえに警察署内部での偏見に晒されており、また純血ではなく雑種のオークでもあるので貧困街のオーク・コミュニティからも迫害されてる、といった感じなのだが…露骨すぎ。

ここまで露骨だとファンタジーに置き換える必要あるか?と問いたくなるレッヴェールなのだが、いちばんの問題は「ただの筋肉映画と思われたくないから一応シャカイ性らしき要素を付け加えたんだよねー」という裏事情がモロバレだということ。

そう、この映画はただの筋肉映画なのだ。

「昨日の『スペンサー・コンフィデンシャル』(19年)に続いてまた筋肉映画かよ!」だって? 「二夜連続筋肉放送は身体に堪えるよ!」だって?

しょうがないでしょうが。事実、筋肉なんだもの。事実としての筋肉がそこにはあったんだもの。

 

なんせ主演がウィル・スミスなのである。キング・オブ・ポップコーンムービーじゃないか。

この時点で社会性とかもう無理だよ。

映画は、ウィルが庭で悪さをするフェアリーを箒でしばき殺すシーンに始まる。去年公開の『アラジン』(19年)ではランプの精を嬉々として演じていたウィルが。

お前がフェアリーだよ。

そしてオーク役はジョエル・エドガートン。ここ10年、話題作に引っ張りダコの売れっ子オヤジで、『ザ・ギフト』(15年)では監督業にも手を出したマルチプレーヤーだが、エドガートンは筋肉を使わない筋肉俳優として知られています。しかも本作では特殊メイクで識別不能。筋肉自慢のオークにされてしまい、このザマよ。

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ロス市警コンビ、ウィルとエドガートン。

 

そして二人を追うインファーニのボス役がノオミ・ラパス

『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(09年)『プロメテウス』(12年)の頃はスウェーデンが生んだ個性派女優という感じだったが、近年の『アンロック/陰謀のコード』(17年)『セブン・シスターズ』(17年)では鼻の穴膨らませてワアワア言いながらハードアクションに身を投じるヘン顔が売りの筋肉女優として開花。腹筋もバキバキに割れている。オレの心がバキバキだよ。

f:id:hukadume7272:20200330075936j:plain今回のラパさんはこんな感じ。

 

極めつけは海軍上がりの筋肉監督デヴィッド・エアー

この男は三度の飯よりミリタリーが好きで、自らの軍歴を活かして『U-571』(00年)『S.W.A.T.』(03年)の脚本を手掛けたあとに監督デビューを果たしたが、自作で扱う映画はことごとく警察、軍隊、戦争をモチーフにしたものばかり。

キアヌ・リーブスが銃を振り回す『フェイク シティ ある男のルール』(08年)、ジェイク・ギレンホールが銃を振り回す『エンド・オブ・ウォッチ』(12年)、アーノルド・シュワルツェネッガーが銃を振り回す『サボタージュ』(14年)、ブラッド・ピットが戦車乗り回す『フューリー』(14年)など物騒な映画ばかり撮ってきた男だ。撮影機材のことを重火器と思い込んでるのだろうか。

また、マイケル・ベイ然りピーター・バーグ然り、現代の筋肉監督は撮る映画に似合わず本人は痩せ体型である場合が多いが、デヴィッド・エアーに関しては本人もムキムキ。言い方は悪いがネオナチにすら見えるコワモテだ。ハーレイ・クインのオシャレ映画として撮るべき『スーサイド・スクワッド』(16年)すらミリタリー映画に仕上げた戦犯でもある。

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筋肉監督デヴィッド・エアー。

 

このように、とても豪華な筋肉戦隊が揃い踏みした『ブライト』は、申し訳程度のシャカイ性を盛り込みながらも、基本的には筋肉一直線である。人種差別のほかに格差社会や内部不正にもメス入れてみました、みたいな要素もあるが…だから無理だって。

銃を撃ちまくり、敵をしばき倒し、車ごと店に突っ込む。あちこちでモノが爆発し、不思議な衝撃波が発生し、いろんな人がいろんな方向に吹き飛ばされて「あー」って言う。そんな映画。ただただそんな映画。

 

◆ウィルがギューンってする映画◆

映画が始まると、妻にフェアリー退治に頼まれたウィル・スミスが家の前で鳥籠のエサを狙うフェアリーを「うおおおお」と言いながら箒を振り回してシバき殺すシーンに始まる。早くも筋肉箒映画としての様相を呈し始めたが、どうやら人間にとってフェアリーは害虫のような存在らしく、その後物語にもまったく関わってこない種族である。

だったら出さなくてよくない?

また、ドワーフも台詞で言及されただけで登場しないので、人間が多種族と共生した世界観とかなんとか言う割には事実上オークとエルフしか出てこない。どうやらドラゴンも存在するようだが過去映像として1ショット登場しただけだった。ん~~、セコい!

第一、世界観があまりに不明瞭なんだよ、この映画。

エルフ>人間>オークというヒエラルキーがどのようにして形成されたのかという社会的背景(物語の裏設定)も説明せずにオーク差別がどーのこーのと言われても「や、その前になんでオークは嫌われてんの?」という根本的なMOYAMOYAは最後まで観る者を捕えて離さないし、後にウィルたちを追うことになるFBIエルフ率いる魔法特殊部隊がどういう存在なのかという設定詳細も明らかにされないので「や、専門用語を出すなら意味くらい説明して?」というMUKAMUKAに苛まれることにもなる。

いちばん分からないのは敵情報。悪のエルフだけで構成されたインファーニ予言書に従いワンドを使って復活させようとしているダーク・ロードが一体何なのか…全部わかんね。特にダーク・ロードの分かりづらさは異常を極めんばかりだ。

専門用語を!

出すなら!!!

意味くらい!!!

説明して!!!!!

f:id:hukadume7272:20200401032153j:plain箒ビュンビュン振り回してフェアリーをしばき殺したウィル・スミス。

 

大体なぁ、ろくすっぽ世界観を造形できない三流ファンタジーほど「複雑な設定」や「凝った専門用語」をゴテゴテ乗せることで「多要素ですー」なんつって広大な世界観然としやがるが、そんなもん、おまえ…コーンフレークでかさ増ししたパフェと同じだからな。

ファンタジーどころか自己満タジーだよ、そんなもんは。おまえ。

フレークまみれの自己満タジーパフェ880円でのご提供だよ。

 

とりわけ本作のように現実社会が舞台のロー・ファンタジーではリアリティとの擦り合わせが必要なので、一般的なファンタジー(ハイ・ファンタジー)よりも設定面で苦労することも多かろうが、その中でも『第9地区』(09年)なんかはよく出来ていた部類だと思うわ。「エビ」と呼ばれる異星人が南アフリカ共和国の上空で宇宙船がぶっ壊れて難民化して政府に隔離されて差別されて…っていう。そうした世界観を通してアパルトヘイト政策を暗に風刺した物語構造も持ってたわけしょ!?

対して本作はどうか。

ウィルはエサを欲してただけのフェアリーを筋肉の力でシバき殺して大いに喜び、汚職警官たちに相棒のエドガートン殺しを教唆されて一瞬その気になるも土壇場で掌返して汚職警官たちを筋肉の力で全員射殺し、インファーニから逃げてきた幼女エルフのルーシー・フライ筋肉の力で守り、彼女が持ってたワンドを奪いにきた連中を筋肉の力で返り討ちにする。

これはひどい。ロー・ファンタジーどころか筋肉ファンタジーだ。

コーンフレークとプロテインでかさ増しした自己満タジー筋肉パフェ1500円でのご提供だと遂に言うのか貴様っ!!

f:id:hukadume7272:20200330080543j:plain悪のエルフ集団「インファーニ」から抜け出したルーシー・フライ(中央)。

 

そんなわけで、ルーシーのお守りをするウィルとエドガートンだが、なんか気がついたらインファーニ、汚職警官、FBI、街のチンピラの計4グループから追われており、観客ともども「なんでこんな事になっとるんだ」と頭を抱えながらの逃亡劇を強いられる。

ルーシーが持っていたワンドはどんな願いでも叶えられる最強の魔法グッズだが、選ばれし勇者以外が触ると一瞬で焼け死ぬという物騒なグッズでもあった。ところが布越しなら触ってもOKという激ショボ設定ゆえに誰でもカンタンに持ち運ぶことが可能。ユルいなー。

その後、インファーニの大将ノオミ・ラパスに追い詰められたウィルが焼死覚悟でワンドに触れると紅白の小林幸子みたいにピカーッと光り、「は、はぅあー!」って顔をしたエドガートンから「ウィル…、あんたが勇者だったんだ!」と言われます。まぁ、知ってる。ウィル・スミスって選ばれし勇者の役しかしないからね。

そこで、すかさずルーシーが「攻撃魔法を唱えるのよ! 合言葉はヴァイクワラス!」って叫ぶんだ。

スミス  「なに、ワロス?」

ルーシー「ワラスよ!」

スミス 「ワラス! ヴァイクワラス!

 

はい、ギューン!

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ラパス、ギューン!

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エブリシング、ギューン!!

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ワンドから発されたワロス光線をギューンと浴びたラパスは「ゴメスでギューン」と叫びながら消滅しました。合掌。

ていうかなんなんそれ。ワンドの効果って願い事を叶えることじゃなかったの? なんで光線出してんだ。ほな兵器やないか。

もぉ~~~~だから専門用語出すなら最初に意味説明してってぇ~~~~~~~~。

この期に及んでなに勝手に光線出してんだ。ギューンすな。

 

◆ベスト・ビューティー・ラパスが見れるで◆

そんなわけで、自己満タジー筋肉パフェを一気食いしてお腹を下してしまいました。ざんねん。

だるんだるんに弛みきった世界観の中で都合のいい便利グッズを駆使して人々を救ったウィル・スミスはさすがだと思った。それでこそのキング・オブ・ポップコーンだと思った。

とはいえウィルはシャレのひとつも言わないキャラクターをシリアスな芝居で表現してるので愛想がないことおびただしい。相棒のエドガートンも糞真面目な性格だし…バディムービーとしての楽しさは皆無ね。

もっとも、デヴィッド・エアーにユーモアが足りないことぐらい『スーサイド・スクワッド』が既に証明していたとはいえ、ここまで馬鹿馬鹿しい筋肉ファンタジーだとユーモアで乗り切るしかないと思うんだけど…。それなのに硬派気取っちゃってさ。なにさ。

とはいえ、エアーは他の筋肉監督に比べてショットが軽くないし、カッティング・イン・アクションとか並行モンタージュといった諸々の技術面も手堅く整える人なので、まぁ、筋肉バカ映画ではあっても映画としては実は結構まともだったりするんだけどね。実際(私と同じように)この映画を貶してる人たちが指摘してることも「世界観が分かりづらい」とか「大風呂敷広げすぎ」とか、しょせんその程度の事なのよ。たしかに設定や脚本面では杜撰と言わざるをえないパフェ作品だけど映画としては何ら問題なく観れる。

夜間撮影を主としたノワール調の画面にネオンサインやキアロスクーロを印象的に塗したウエットな映像がなかなかセクスィーだったりするんです。物語を牽引するキャラクターが一人もいない割には話もポンポン進んでいくし。『スーサイド・スクワッド』の反省点をちゃんと踏まえてたわ。

f:id:hukadume7272:20200330080838j:plainま、こういうノワールもアリかな。

 

ビジュアル面もなかなか好いんやで。

ウィル・スミスは終盤に向かうにつれて目の下ダルダルになって宮迫みたいな顔になっていくのが若干笑えたし、オーク役のジョエル・エドガートンはゴッチャゴチャに特殊メイクを施されて誰アンタ状態なのに警察バッヂに懸けた矜持だとか差別に耐える悲しみをよく表現していてさ。寡黙ながら主演のウィルより遥かに魅力的だったわ。いいじゃん、エドガートン。

初監督作の『ザ・ギフト』(15年)は許しがたい出来だったけど。

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ジョエル・エドガートン(通常版)。

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ジョエル・エドガートン(初回限定版)。

 

そして敵の大将を嬉々として演じたノオミ・ラパス。

『アンダーワールド』(03年)のケイト・ベッキンセイル、あるいは『マイティ・ソー バトルロイヤル』(17年)のケイト・ブランシェットを思わせる二次元的なアニメキャラを身ひとつでビジュアライズしていて、しかもスタントマンを使うことなくジェット・リーみたいなアクロバティックな技斗もこなしている。まあ、見えないワイヤーが役者を助けてもいるのだが、それにしてもクルクル回っとったわ。

今後も筋肉女優を極めるつもりなのだろうか。なお、顔はCGで整形してて普段よりダンチで美人だった。ベスト・ビューティー・ラパスが見れるのは『ブライト』だけ!

f:id:hukadume7272:20200404070813j:plainノオミ・ラパス(初回限定版)。

 

そんなわけでふてぶてしく117分を駆け抜けた本作だが、どうやらウィル・スミス続投で続編が企画されているようです。

正気か、こいつら。

続編では今回出てこなかったドワーフやドラゴンが登場するのだろうか。興味ないけど。なお、続編に言及したエアー監督は「より深く世界観を掘り下げる」という声明を発表したが、いやいや…

「掘り下げる」も何もそもそも掘れてへんねん。

スコップ一発も入ってないから。

やや決まりが悪そうに申し訳程度のシャカイ性を打ち出した『ブライト』はNetflixから絶賛配信中であります。

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目の下ダル・スミス(完全初回生産限定盤…暗闇で光るステッカー付き)。

 

Netflixオリジナル映画『ブライト』