シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

めくらのお市 みだれ笠

大事な巻物を落としたり無くしたりする世紀の紛失劇。

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1969年。市村泰一監督。松山容子、伊吹吾郎、栗塚旭。

 

シリーズ第3作。 旅の若者から火薬の製法の秘密を伝える包み袋を預かったお市が、包み袋を狙う悪人を倒し、遂には幕府打倒の野望を抱く悪家老と対決する。道中、命を救ってくれた怪浪人・榊弦之助に淡い恋心を抱くお市だったが、弦之助のかつての許嫁・琴江の幸せを祈り、一人旅立つのだった。

 

はっけよーう。

ヘアバンドが欲しいと思ったって話、聞いてくれる? 聞いてね。

過日、汗をかいて顔がじくじくしたので洗顔しようと思ったが、私は髪が長いので何かで持ち上げる必要が生じ、沈思黙考の末に輪ゴムでこれを解決せんと決意。しかし額を圧迫する輪ゴムが毛髪を巻き込んで痛ってーの何のって。とにかく痛ってーのよ。

すぐに輪ゴムを外そうと思ったが、間の悪いことに爪は切りたて。むろん深爪、おれはふかづめ。ちくとも輪ゴムをつまむことが出来ず、その間も頭はピシッと圧迫され、「わしゃ孫悟空か」とそこそこ面白いフレーズを口にしたあと「ヘアバンドがほしい」と率直に感想した。

この勢いに乗じていよいよ本格的に洗顔トークをします。

洗顔ってさ、たとえヘアバンドをしてても少なからず髪の生え際に洗顔剤が付着するじゃない? あれ、そろそろやめてほしいよね。もう令和なんだから。

洗顔剤を洗い落とそうとすれば生え際も濡らさないといけないし、「じゃあ何のためのヘアバンド!」って思うし。まあ、ヘアバンドの有無に関わらず洗顔って若干洗髪になってるよねということが言いたいわけ。髪の生え際が水で濡れちゃうとその後がすごく面倒なの。乾かさないといけないし。もっとも、世の女性にとっては至極日常的な贅沢な悩みかもしれないけど。

と、私がこんなことを言うと、普段洗顔なんてしない下水住みのポーク野郎が「風呂入ったときに洗顔すればいいじゃん。どうせ濡れるんだし」としょうもないことを言ってくるのが世の常だが、当然風呂のときも洗顔はしている。でもそれ以外のときに洗顔する事だって生きてりゃ一杯あるんだよ。首を洗って出直してきなよ、バカヤロー! そして燦々たる希望の顔をおいらに見せておくれよ…。

うん、まあシメがちょっと微妙だったけど本日は『めくらのお市 みだれ笠』です。微妙とか言うな!!!

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◆シリーズ三作目はすこぶるガッカリ◆

しつこく続くシリーズ第三弾。ボンカレーの女神・松山容子が朱塗りの仕込み杖を狂ったように振り回す、盲目お市の痛快股旅劇だよ!

前回の『めくらのお市 地獄肌』がすばらしい力作だったので柄にもなくニッコリしちゃったが、『地獄肌』を最後に松田定次が映画界を退いてしまったために今度の『みだれ笠』では監督が市村泰一にチェンジ。

寡聞にして市村泰一のことはこれっぽっちも知らないが、一作目『真っ赤な渡り鳥』で時代考証ドン無視ギャルを演じた荒井千津子を主演に『女めくら 花と牙』(68年)というお市シリーズの前身みたいないかがわしい作品を手掛けた実績を持つという。盲目コンテンツの濫造ぶり。

映画ちゅうのは監督が代わればすべてが変わってしまうものだが、当シリーズに関しては前二作が同一人物による作品にも関わらず別の映画みたいな変わりようなので、むしろ良い変化も悪い変化も楽しんでいきたいナ、と俺は思ってる。

思っちゃいるが『みだれ笠』……

これはツマラン『みだれ笠』!

 

はっきり言って映画の腐乱死体と言わざるをえない。

何かを付け足すことも差っ引くこともなく、基軸なきまま撮られゆく贅肉ショットの数々。直線的な物語と何のアイデアもない映像設計。剣技表現も人物描写もぬかるみに嵌ったがごとく鈍重で、安いTVドラマのようにただ話が進んでいくだけの上っ面脚本。

何よりお市が精彩欠きすぎ。

弱者に見せる人情に燃えもしなければ、時折見せる愛嬌に萌えもしない。めくらの業にもノータッチ。女の幸せ、なんじゃそら! 作り手側に「さあ、今度の松山容子はどう魅せよう」の姿勢がなければ『めくらのお市』である必要などなし。荷物まとめて田舎に帰れ。

まさかとは思うが「前二作でキャラが確立したからもう描かなくていい。ただ松山容子がそこにいるだけでお市たりうるじゃん」とでも思っているのだろうか。だとしたらそれこそ盲である。なめんなハゲ。

唯一の売りはお市の乗馬シーンだろうか。お市がとうとう馬に乗っちゃうという馬鹿馬鹿しさ。これは買えるが…買えるというか笑えるが、いかんせん盲の芝居、あらぬ方を見ながらガックンガックン揺れてるお市が妙に不気味で「怖いからやめて」と思ってしまいました。

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相変わらず目も化粧もバッキバキ。

 

配役面で残念なのは『真っ赤な渡り鳥』の荒井千津子や『地獄肌』の松岡きっこのようななぜか紐状の武器を好むギャルが出てこないことだ。また、マスター長門やジェダイ近衛のような師匠枠も消滅。

とんだ事業縮小だよ。

このシリーズからギャルと師匠を取ったら何が残るんだよ! この枠が面白かったからどうにかレビューを書いてこれたのに。今回どうすればいいんだよオレは。

まぁ、新たなキャラクターに生真面目な浪人・伊吹吾郎と生真面目な用心棒・栗塚旭が出てくるけど…生真面目は2人もいらないよっ。

マスター長門みたいな半笑い要員が一人ほしいんだよねえ。なんて思ってると、お市と友達になる若い男女の片割れ役に佐藤蛾次郎。あのアフロヘアーの前身みたいな髪型を披露しておりました。

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手近なところに半笑い要員がいた。


◆巻物落としゲー◆

さて、誰も興味のないストーリーを義務だから書くけど、本作はマクガフィン争奪戦ものです。新火薬の製造法を記した巻物を託されたお市が追手からこれを死守して無事に届けるまでのロードムービーだ。

マクガフィン…作劇上、登場人物にとっては重要な物だが、それ自体には特に意味のない物の総称。要するに主人公たちが探したり奪い合ったりする上で必要な「動機づけのアイテム」のこと。何やら大事なものが入ってるらしいアタッシュケース、核の発射ボタン、デス・スターの設計図など。『ONE PIECE』におけるワンピースや『プライベート・ライアン』(98年)におけるライアン二等兵もこれにあたる。つまり本作では「巻物」がマクガフィンにあたるわけだす。わかった?

 

映画が始まるといきなり火縄銃を構えた男が映って、馬でぱかぱかしてる巻物運送係をズド撃ちした。ズドーン。運送係は「痛すぎるー!」と叫んで落馬。

あのね、普通ね、開幕一発目はエスタブリッシング・ショットといって地理情報を伝えるための風景ショットから入るんだけどね。いきなり火縄銃の男を捉えるあたりがいかにもTVドラマだね。まあ、この時代の低予算映画には多かったけどね。イタリア映画とかね。

撃たれてひくひくした運送係は、たまたま通りがかったお市に「この巻物を火薬博士の浜村純先生に渡して下され」と頼んで死んじゃいます。浜村純といってもすぐ映画の結末を話しちゃう方の浜村淳ではないが、せっかくなのでこの博士を「ありがとう浜村純です」と呼ぶことにする。

で、その巻物を狙ってるのがアンチ幕府の悪家老・沼田曜一。顔が大沢たかおに似てるって理由だけで「セカチュー」と呼ぶことにするが、なんとセカチューは農民を拉致して火薬場で銃器製造をさせている大悪党。自分が世界の中心だと思い込んでいる痴れ者なのだ。

さあ、この輪郭。話の輪郭。どうやら鉄砲が絡んだ物語のようなので、きっと夢見がちな皆さんは剣VS鉄砲という対決の図を思い浮かべるだろ? 誰だって思い浮かべる。俺だって思い浮かべる。

例えば、そうだな。クライマックスで火縄銃に苦戦するお市とかな! セカチューの手下が鉄砲をズドンズドン撃ってくる。そこにかつて剣を交えた浪人が現れ、お市を庇って銃弾を受けるね!? 怒りに燃えたお市、びゅんびゅん飛んでくる銃弾をかわして鉄砲隊に斬りかかるよな。てやぁー!たぁーっ! 言うてな。シリーズ第三弾だからそれくらい派手でもいいわけです。

まあ、しかし…一個もないわな。

これだけ「鉄砲」というモチーフを全面に出しておきながら火薬臭さゼロ。何のための鉄砲なんだかナ!!

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大沢たかお。 沼田曜一。

 

運送係を殺したやくざ達をお市が斬り捨てるところまでがアバンタイトル。

本編が始まると、巻物を預かったお市が川辺でランチを取ろうとした矢先、空腹ティーンの二人組、佐藤蛾次郎と新井麻夕美がお握りをかっぱらおうとしたので「めっ!」と杖で手をぶったが、二人の困苦を知ってお握りをプレゼントすることにした。二人の両親はセカチューの火薬実験に巻き込まれて木っ端微塵になったんだそうな。最悪じゃん…。

お握りの礼に目的地・野州太田原まで案内してもらうことになったお市は、橋の上で襲ってきた刺客から二人を守り、宿代わりに足を運んだ神社で顔に疵のある浪人・伊吹吾郎と出会う。伊吹吾郎といえば『水戸黄門』(69-11年)における三代目・格さんだ。本当は「スカーフェイス伊吹」と呼びたいところだがムダに長いので「格さん」で妥協しよう(まあ、ムダに長いとか言い出したら「ありがとう浜村純です」はどうなるんだって話だけど)。

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現在の格さんこと伊吹吾郎。

 

明くる朝、格さんに「お主と闘ってみたくなった!」というノーロジックの極みみたいな理由で決闘を申し込まれたお市は早朝の野原で剣を交える。

お市 「一刀流・ワイキキビーチの涙っ」

格さん「秘剣、熊肉あぶってゴー!」

しゅっ。あぶな。びゅ。かきーん。きりっ。両者一歩も譲らず必殺技を出し合う。途端、決闘に夢中になりすぎたお市は、激しい鍔迫り合いの最中に大事な巻物を落としてしまう。

落とすなよ。

そこに人がやって来たので「一時休戦!」と言った格さんは巻物を拾ってランニングで逃げた。格さんの正体は火薬博士のありがとう浜村淳ですに破門された元弟子で、許しを得るために巻物を届けようとしている生真面目なウーバー剣士だったんである。

f:id:hukadume7272:20200603063542j:plainお市の必殺技「一刀流 ワイキキビーチの涙」…敵全体に40のダメージを与え、3ターンのあいだ「おセンチな気分」にする。
格さんの必殺技「秘剣、熊肉あぶってゴー」…命中率は低いが当たれば敵一体に150のダメージ。自分は次のターン行動できない。

 

一方、なくした巻物を探し歩いていたお市はセカチューの子分達から騙し討ちに受け「巻物をよこせ!」と脅されたが「なくしたからむり」と弁明。もちろん信じてもらえず、蛾次郎を誘拐されたが、巻物がなければ取引きできないので力ずくで蛾次郎を奪還する…という駆け引きもヘチマもない剛腕ムーブで敵をばったばったと斬り倒したが、途端、崖縁から足を踏み外し「ぎゃー」と叫んで転落。したたか頭を打ちつけて気絶しているところを格さんに救われるも、あろうことか格さんはお市を抱き上げる際に巻物を落としてしまいます!

だから落とすなって。

おれはすぐモノを落とす奴がいっちゃん嫌いなんだ。なにを落とすことがあるん? なぁ、なにを落とすことがあるん? もしこいつらが現代人だったら絶対スマホすぐバキバキにするタイプでしょ。嫌いだわ~~~~。

その後、格さんの家で手当てを受けたお市が「こないだ巻物パクったよね?」と切り出すと、格さんは「すまん。なくした!」と言ってバツが悪そうな顔をした。

この映画さぁ…、曲がりなりにもマクガフィン争奪モノなのにやってることは争奪じゃなくて紛失なんだよね。「奪い合い」じゃなくて「なくす」ことでしか話が動かないから一個も面白くないんだよ。

自分のポカに基づきすぎ。

井上陽水の「夢の中へ」を歌いながら巻物を見つけた頃にはすっかり仲良くなったお市と格さん(秘かに両想い)。蛾次郎と麻夕美のキッズから「夫婦みたいじゃん」と言われて赤面するみたいなしょうもないくだりもあったが、やがてキッズに別れを告げ、野州太田原に馳せ参じる。

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まるで家族のような4人。左から蛾次郎、麻夕美、格さん、お市。

 

だが既にありがとう浜村淳ですはセカチューの協力を拒んだために拉致されており、浜村邸にはかつて格さんの許嫁だった娘・光川環世しかいなかった。環世と楽しげにトークしてる格さんを木の陰からこそりと見やったお市、すっかり失恋気分でベコ凹み!

ありがとう浜村淳ですが拉致されたわりにはヤケに皆のんびりしてるのが不思議でならないが、お市に至ってはそのあと酒場でやけ酒を煽るほどのんびりしちゃう。

しかもその店でお市がさすらいの用心棒・栗塚旭に「LINEおしえてよ」なんてナンパされていると、そこへ現れた格さん、「環世とはとうの昔に破談になったんだ!」と愛の申し開きをおこない、お市を懸けて栗塚と喧嘩をする。

そんなことしてる暇があったらありがとうを助けてやってはどうか。

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栗塚にナンパされるお市。

 

さて。ここまでの物語はいかついほど一本調子。「そう? それなりに面白そうだけどな」とキミが思ってくれたならそれは俺のお陰。俺の文章が映画超えてるだけ。でもそんな風に思ってくれてどうもアリス。頬っぺにチュッチュしちゃう。でも映画は本当にひどい。そう俺は大人。

なんしか、まぁ~~お市と格さんの夫婦さながらの交歓や、蛾次郎&麻夕美との疑似三姉弟の親睦が浅ましいほど表面的で。皆よく笑うが「笑顔」だけで人間を描いた気になってて、そこに「演出」がないの。キャラクターたちの人間模様がきわめて相関図的なんである。キャラからキャラにギューンと線引いて「片想い」とか「仲良し」って書いてるだけの…なんというか「公式ホームページですか?」みたいな味気なさね。

そんな『みだれ笠』に早くもクライマックスが訪れます。

翌朝、格さんはありがとうを救い出すべく農民に化けて火薬場に侵入したが、その救出作戦を邪魔したのが実は敵側の用心棒だった栗塚。格さんと環世はセカチューに取っ捕まり黒ひげ危機一発の刑に処されようとしていた。

そこへ格さんとは別行動で火薬場に潜り込んでいた蛾次郎。このピンチをお市に知らせるべく馬を盗んで逃走を図ったはいいが、セカチューから背中に火縄銃をぶち込まれ「あっつー」と馬上にて悶絶。どうにか余喘を保ってお市のもとに辿り着くも「お姉ちゃん…背中が熱いよ…」と呟いて絶命ッ。その死体に泣きつく麻夕美!

麻夕美「畜生! 虫ケラのように殺されちまって…!」

もうちょっと言い方考えて。

苦楽を共にした蛾次郎の死を虫ケラに例えるのはやめたげて。

サァ、怒髪天を衝いたお市。蛾次郎が乗ってきた馬に跨り火薬場に向かう! ガックンガックン揺られながら。

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乗馬経験はあまりないのか、スゲェおっかなびっくりでした。

 

◆見辛い殺陣は気分がへこみます◆

だだっ広い火薬場でのラスト7分はシリーズ屈指の大乱戦。『真っ赤な渡り鳥』のオモシロ忍者戦や『地獄肌』の舞台転換&静止画スライドショーのようなアッと驚く仕掛けはなく、シンプルに切った張っただけで畳み掛けんとする物量剛腕押しなのである。

どれくらい剛腕かというと敵側の栗塚が「気が変わった!」と言ってお市と格さんに助太刀するぐらい剛腕。

格さん「ご助力、かたじけない!」

栗塚 「痩せ浪人の気まぐれだ。気にするな」

んんんんんん気分の問題!!!

「気まぐれだ」って……もう語るに落ちてるやん。それを言わせないために「動機付け」という概念が映画脚本にはあるのにっ。

デタラメもここまで来るといっそ清々しいが、せっかくの大立ち回りが少しく、いや…かなり見辛い点だけは看過できない。基本は遠くのフィックスからズームしちょるのだが、メイン三人の動線しか計算してなかったのか…斬られ役の人たちがお市や格さんの手前を遮るようにまあ映りこむ映りこむ。

それだけでなく、ズームしすぎて役者の動きをまったく捉えきれてなかったり、遮蔽物をナメすぎて画面半分が遮蔽されてたりと、もうハチャメチャ。『みだれ笠』と言っておきながらカメラがいちばん乱れてたという。

セカチューの火縄銃は蛾次郎を撃ったきり二度と放たれることなく、たっぷり溜め込んでた爆薬もすべてカタがついたあとに火薬庫を吹き飛ばす為の道具として用いられるだけ。極めつけは、お市、格さん、栗塚が敵100人余りをノーダメージでぶった斬って楽勝するという途方もないハッピーエンド。

犠牲者は蛾次郎のみ。

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栗塚旭(左)と伊吹吾郎(右)のドリームタッグ。

 

モノをなくすことで話が進んでいく前代未聞の紛失劇『めくらのお市 みだれ笠』に無理やりウットリポインツを見出すとすれば、まず第一に伊吹吾郎(格さん)と栗塚旭のハンサムね。劇画のごとき濃い顔を持つ伊吹吾郎と、どこかフランスじみた艶を持つ栗塚旭の好対照。それぞれのみりょくがえいがをひきしめた(無理やりウットリ)。

また、栄えあるウットリシーンはお市が川辺でランチを取ろうとしたファーストシーンに贈られます。お握りをもらった蛾次郎(のちに死亡)が米粒でベタベタにした手をお市の眼前で振って目が見えないことを知り「おれ水汲んできてやる!」といって川に駆けだす爽やかさ。「おや、案外気が優しいんだねぇ」と微笑んだお市が、せっかく蛾次郎(のちに死亡)に汲んできてもらった竹水筒を家の鍵みたいにぶんぶん振り回す所作も親しげだ!(無理やりウットリ)

ウットリポインツは、まあ……以上かな。

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さて、残すは最終作『めくらのお市 命頂きます』だけと相成った。本作と同じく市村泰一の作なので何ひとつ期待はしてないが「せめて見辛い画面だけやめて」と願うばかりの気構えである。

あ。あと最後にひとつだけ。

旅芸人の厄介になったお礼に剣投げショーに参加したときのお市が引田天功をダメにした感じで少しショックを受けたことを正直に告白しておくわ。

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おまえがイリュージョン。