シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

死亡遊戯

四階建てのデビルズマンションの前にりーはいた。りー、というのは人名であり、この物語の主人公だ。ジークンドーをまあまあ極めた、まあまあいけるクチの武術家である。

このデビルズマンションは、各フロアに悪魔級の強敵が待ち構えており、挑戦者をむごたらしく殺すことにかけてはまあまあ定評のあるマンションである。つまり洒落にならないサスケのようなものだ。

りーは今まさに、このデビルズマンションを攻略せんとしていた。服を脱いで上半身裸になったりーは裂帛の気合いを入れた。

「りいいいいいいいいいいいいいいいいいい」

そしてデビルズマンションのインターホンを鳴らして「挑戦者の、りーです。開けてください」と云った。

 

一階に待ち構えていたのはチョリソーおじさんという名のおじさんだった。

このおじさんの得意とする戦法は、自慢のチョリソーで相手が死ぬまで頭を叩き続けるという、通称「チョリソー裁判」である。

りーとおじさんは、互いに握手を交わして「フェアにやろうな」と誓ったあと、早速バトルに突入した。

先手を取ったのはおじさん。

一気に距離を詰めたおじさんは「チョリソー裁判っ」と叫んで、りーの頭をこれでもかとばかりに叩いた。頭だけを執拗に叩いた。

りーは一発叩かれるごとに「まあまあ痛い」、「まあまあ痛い」と己の肉体にもたらされた痛覚を乏しいボキャブラリーで実況したが、やがて、頭をガードする、という機知を得た。

頭をガードしたりーに死角なし。

ここにきて、チョリソーで頭を叩くという唯一の戦略を崩されたおじさんは、いわばグウの音も出ないほど論破されたに等しく、この時点で負けが確定したも同然であった。

おじさんは「負けたよ。頭をガードされたら私に勝ち目はないよ。完封だよ。先に行きたまえ」と云って、手に持っていたチョリソーを一口かじってりーを見送った。

 

二階に待ち構えていたのは包丁ばあさんという名のババアだった。

このババアの得意とする戦法は、包丁が刺さるまで遠距離から投げ続けるという、通称「安全圏から包丁」である。

先手を取ったのはババア。

予め包丁を山積みした段ボールから、むちゃくちゃに包丁を投げてくる。抜群の反射神経で包丁を避け続けるりーであったが、次第に体力が消耗してきて、「このままやったらいつか刺さるな」と思ったまさにそのとき、こちらに投げられた包丁を投げ返してみたらどうなるだろう、という機知を得た。

試しにりーは、足元にちらばった包丁を掴んでババアに向かって投げてみたところ、割とあっさりババアに包丁が刺さって、ババア死んだ。

死に際にババアは「負けた。包丁を投げることに関しては他の追随を許さなかったわしだけど、逆に包丁を投げられることに関しては他の追随を許しすぎたんだな。そしてオマエは、包丁を投げることに関しては他の追随を許すかもしれないけれど、逆に包丁を投げられることに関しては他の追随を許さなかったんだな」と頭がこんがらがるようなコメントを残した。どれだけ考えても意味がよくわからなかった。

 

三階に待ち構えていたのは縄跳び少女という名の少女だった。

この少女の得意とする戦法は、楽しそうに縄跳びをしているかと思いきや、いきなりその縄で叩いてくるという、通称「油断したら縄」である。

先手を取ったのは少女。

少女はりーの存在を無視して「ある日ー、森の中ー、熊さんにー、出会ったー」と鼻歌交じりにひとりで縄跳びを始めたので、りーは「すごく和むな」と思って和みに和んだ。

すると急に眼光鋭くなった少女は、隙まる出しのりーに思いきり縄を叩きつけた。あまりの痛さに、りーは「りいいいいい」と鳴いた。

少女は再び「あまねく森の中ー」と歌いながら縄跳びを続行した。この瞬間りーは、少女が攻撃モードに入る前に先手を取ったらええんちゃう? という機知を得た。

試しに縄跳びをしている少女をごく普通にど突いてみたところ、少女はあっさりと降参した。

少女は「完敗よ。この技の弱点は同じ相手に二度通じないこと。というかそれ以前に、普通に殴られたら終わること」と自己分析みたいなコメントを述べた。

 

四階に待ち構えていたのは死体青年という名のただの死体だった。

この死体の得意とする戦法は、すでに死体であるという意外性と、死体相手に何をもって勝ちとするかという戸惑い、そして単純にイヤなものを見てしまったという後味の悪さを相手に与えるという、通称「死体の強み」である。

これら三重苦を一挙に喰らったりーは頭痛と吐き気とパニックに襲われたが、冷静さを取り戻し、とりあえず警察に電話して自宅に帰った。

だが、果たしてこれでデビルズマンションを制覇したことになるのだろうか、俺はあの死体青年に勝てたのだろうか、そもそも勝負として成立していたのだろうか、という疑問はその後生涯に渡ってりーを苦しめたのであった。

おしまい

 

~今日の一枚~

目をつむって描いたリトル・マーメイド。大成功。

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