シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

チャーリーズ・エンジェル

チャーリーズ・エンジェルって4人もいたっけ?

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2019年。エリザベス・バンクス監督。クリステン・スチュワート、ナオミ・スコット、エラ・バリンスカ。

 

国際機密企業チャーリー・タウンゼント社の女性エージェント組織=通称「チャーリーズ・エンジェル」のサビーナ、エレーナ、ジェーンのもとに、「新開発のエネルギーが兵器化される」という情報がもたらされ、それを阻止すべく3人は命を懸けた戦いに挑む。(映画.comより)

 

へい、めん。

最近ビールを飲むと気持ち悪くなるので別のお酒を飲んでいます。「飲むなよ」と思われるかもしらんが、私は「酔筆」の実践者なので飲めば飲むほど執筆が捗るんですよ。

今日伝えたかったことはこれだけです。

伝えたいことがないのに何かしら伝えなきゃいけない苦しみってあると思うんですよ。自分で詞を書いてるミュージシャンとかそうじゃないですか。「べつに世の中に対するメッセージとかないから抽象的な言葉を並べてお茶濁そう」みたいな思想の薄いミュージシャンって多いでしょう。「だからもう迷わずに進めばいい」とか「きみからもらった幸せは心の中でずっと輝くの」とか。何か言ってるようで何も言ってないよ! みたいな、あっさい歌詞。

僕は今までそういうミュージシャンを馬鹿にしてきたけど、ようやく彼らの気持ちがわかった気がした。きっと彼らは、前書きに苦しんでるときの僕みたいな気持ちがしてるんだ。

というわけで、僕は2020年代のJ-POPを背負って立ちます。レコード会社の皆さん、いつでもデビューできるのでお声がけ下さい。1stシングルの曲名は「個室で予約しといてって言うたやん」でお願いします。曲は出来てます。

そんなわけで本日は『チャーリーズ・エンジェル』です。

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◆おい、一人多いぞ◆

さあ、『チャーリーズ・エンジェル』である。

もはやファラ・フォーセットのテレビシリーズ版よりもマックGが手掛けた映画版のイメージの方が強いが、いやー、今にして思えばある意味すごい映画だったねぇ。

知ってるようで知らない人が多そうなので簡単に説明すると、『チャーリーズ・エンジェル』(00年)『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』(03年)はマックGというハリウッド業界で5番目にアホな人間が撮った難解映画だ。

当時全盛期のキャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リューが出ているので映画は間違ってヒットしたが、それだけ多くの人が観たにも関わらずコマーシャル同然のMTVムービーゆえに誰も内容を説明できないという不思議な作品なのである。
というのも、映像や筋運びがモザイクみたいに羅列されているので作品全体に“流れ”という概念が存在せず、5秒気を抜いたり、一瞬よそ見したり、ひとつ台詞を聞き逃すだけで画も話もわからなくなるという前代未聞の映像魔術が観る者を翻弄したのである。10分に1回衣装が変わり、発作的に踊り狂い、ヘビメタの次に坂本九が流れる始末。挙句、エンジェルたちが軍用車両ごと橋から落下すると、次のカットでは車内にいたはずのキャメロン・ディアスがなぜか戦闘機で現れて空中の仲間をキャッチしていくという現代科学では到底説明のつかない時空超越映像の数々。

そのデタラメな脚本はアインシュタインやソクラテスの頭脳を以てしても理解不能で、殺人的な編集リズムは少なくともヒトの反射神経や動体視力では捉えきれない次元に到達している。

つまりハナから人体のメカニズムを見込んで作られていない。

ちなみに私は2作連続で鑑賞したところ風邪をひいて寝込んだ経験がある(極端にわけのわからない映画を観ると頭がオーバーヒートして体調を崩してしまう)。

f:id:hukadume7272:20200630060613j:plainマックG版『チャーリーズ・エンジェル』

 

この私に風邪すらひかせたマックG版から16年が経ち、ついにシリーズ3作目(というか事実上のリブート)として封切られ全米で大コケを記録した新生『チャーリーズ・エンジェル』

観ている最中、ある違和感が脳内をずっと駆け巡っていた。

あれ、チャーリーズ・エンジェルって4人もいたっけ?

そうなのだ。クリステン・スチュワートナオミ・スコットエラ・バリンスカらに世代交代した新生エンジェルの中に一人だけおばさんが紛れ込んでいたのだ。本作の監督・脚本を務めたエリザベス・バンクスである。バンクスが演じたのはエンジェルたちの上司なのだが、もう先に言いますね。

邪魔。

上司なら上司らしくエンジェルたちの任務を遠隔通信でサポートしたり、絶体絶命のピンチに駆けつけてクールに救うといった“輝ける端役”で居てほしいのに、いかにも正規メンバーでございといったエンジェル顔でクリステン、ナオミ、エラのスリーショットを妨害、これ見よがしにエンジェル風を吹かせて3人の行くところにくっ付いてくるのである。チャーリーズ・エンジェルwithバンクスかよ。

そんなわけで、お局女優エリザベス・バンクスの存在がヤケにうるさい本作。彼女の暑苦しいまでの自己顕示欲がとにかくノイジーで終始げんなりした。せっかく好きなバンドがミュージックステーションに出演したのに後ろに座ってる剽軽者のジャニーズがちょいちょい口挟んできてトークの時間取っちゃうみたいなやるせなさが漂ってたわ。

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ほら4人いるやん。

しかもバンクスが一番目立ってるやん(左から2番目)

 

さて物語だが、例によって国際機密企業チャーリー・タウンゼント社のエージェントがスパイ稼業をがんばるという中身で、何やらかなりやばいエネルギー装置“カリスト”の軍事利用を企む会社を内部告発しようとして命を狙われた研究員ナオミをエージェントのエラとクリステンが護衛しながらカリストの回収をめざす…というマクガフィン争奪モノである。

本作では、一般人のナオミが2人のエンジェルと行動を共にするうちに「私も役に立ちたい」とか言いだして最終的にエージェントの仲間入りを果たすところまでを描いている。続編構想ありきのプロットだが、残念ながら本作はずばずばにコケてしまったので監督のエリザベス・バンクスはデビルみたいな顔をしたという。エンジェルだっつってんのに。

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それだけでもうありがとう

主要キャストはいずれもマネーメイキングスターではないが非常にバランスの整った3人で、はっきり言って本作の見所はほとんどここに集約されている。

何はともあれクリステン・スチュワートが持ち前のクールさを残しつつも悪態つきのお転婆ガールを演じているのが白眉。クールなイメージを脱ぎ捨てるのではなく、そこに別のイメージを重ね着することでキャラクター造形をコーディネートする感性がそのまんまビジュアルに還元されていて、とにかく見ていて刺激的だ。私としてはクリステン史上最高のクリステンだと思う。

負傷してフェリーで運ばれるクリステンが向かいの席に座った女の子と変顔合戦を繰り広げるシーンをごらんよ!

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『パワーレンジャー』(17年)で知名度を上げ『アラジン』(19年)で大役を掴んだナオミ・スコットは典型的な“巻き込まれ顔”で、継起するトラブルやアクシデントにことごとく巻き込まれる…いや、むしろ彼女がいるからトラブルが起きるというような厄災トリガーとしての役割を全うしている。

こういう役者が一人いると、たとえご都合主義な展開でも無理なく見れてしまうのでエンジェルたちにとっても映画にとっても潤滑剤であった。

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さて。新生『チャーリーズ・エンジェル』のレガシーは、まったくの無名である新人エラ・バリンスカを発掘したことに結局尽きた。

私の淀んだ瞳は鑑賞中ずっとエラだけを追っていて、「タランティーノ風の映画に映えそうだな。主演作のロマコメも見たいかも」なんて劇中アレコレと“彼女に合う映画”を妄想しながら、そのあまりにスクリーンに映える佇まいに感激し通しだったのだ。

見える…。私には彼女の活かし方が見えるぞ。いっそ私をエラ・バリンスカのエージェントにするべきだと思った。

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そんなわけで主要キャスト3名…特にクリステンとエラが放つ光彩に「ウン、それだけでもうありがとう」と凋落ジジイみたいに満足した私をムリに引き留めて「いや、内容も面白いからちゃんと観ろよ!」と胸倉を掴んできたのが三流監督エリザベス・バンクス。

なんと言っても編集の粗さ。特にアクションパートがめちゃめちゃ見づらい。カーアクションの見づらさに至っては風邪ひきそうになるレヴェル。

なんかカッコイイ運動してます風のハードアクションとかやってんだけど、とにかくカット割りまくりで画が繋がってないから具体的に何をしてるかは不明。

研究員であるナオミの会社に潜入してカリストを盗み出すシーケンスなんて、何食わぬ顔で社内を歩きまわる3人を大勢の警備員が「あそこだ、捕まえろ!」とか言って追いかけるんだけど、追えども追えども追いつかないのよ。実際ならとっくに捕まってるんだけど、編集で“なぜか捕まらない”ように見せてるわけ。まるでゼノンのパラドックスだよ。アキレスがどれだけ走っても亀に追いつけないっていうアレだよ。哲学問答を視覚化すなよ。

「いかに知恵と体力を使って相手を出し抜くか?」というあたりがミソなのに、もうぜんぶ編集頼みなんだよね。マイケル・ベイやマックGの遺伝子を受け継ぐんじゃないと言いたい。

競馬場でのシーケンスが特にひどい。エラは射撃のエキスパートというキャラクターなのに、普通に麻酔銃を外して「バレた、退散!」とか言ってんの。何かしらアクシデントが起きたせいで狙いが外れたというなら分かるが、万全の状態で狙撃したのに普通に外してんだよ。射撃のエキスパートなのに。もうエンジェル辞めてしまえ。

そのあと馬に跨ったクリステンが要人を乗せた車を追うんだけど…この馬がとびっきり遅いの

なにその馬? ポニーなの?ってぐらい遅い。この世で最も迫力のないチェイスシーンを見せてくれてどうもありがとうだよ。実際、車との距離がグングン開いてるのに、出ました編集マジック、次のカットでは何故か追いついてるんですねえ。なんでェーッ!?

あと、あまりに馬鹿馬鹿しくて笑ってしまったのは、エンジェルたちが無事回収したカリストの使い道ね。このアイテムは電磁パルス攻撃を可能とする強力な電子エネルギー(なんじゃそら)なのだが、なんか知んないけどロックされたドアやシャッターを随意に開けることができるという謎の付加価値があって。

だから…広義にはなんだよ。

強力な電子エネルギーっていうか何でも開けられる鍵。なんてことのないシーンでその機能を活用するエンジェルたちが、思い思いにシャッターを開けてみたり、開けるべきか閉めるべきかで喧嘩したりする無意味さには失笑を禁じ得ないよ。

開けるか閉めるかで迷ったなら、うーん、とりあえず開けとけば…?

 

もっとも、映画人としてのエリザベス・バンクスの技量は『ピッチ・パーフェクト』シリーズで底が割れてるのでハナから何も期待しちゃいなかったのだけど、やはりこの人はモンタージュの感覚が致命的に欠落している。

今さらクドクドと「映画における編集とは」みたいな高説を垂れるつもりもないので少し話題を変えるが、監督業に手を出そうとする映画俳優は最低ラインとして全員メル・ギブソンとジョディ・フォスターを見習うべきだと思う。最低ラインとしてな。

こないだもエドワード・ノートン監督/主演の『マザーレス・ブルックリン』(19年)を観て苦虫を噛み潰したばかりだが、どうもハリウッドスターが監督・出演した映画の多くは自己顕示欲との相克に敗北する傾向がある。“映画を見せる覚悟”が“見られたいという期待”を下回ることの醜悪さに埋没した映画ばかりだ。

ケビン・コスナーの『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(90年)、ロバート・デ・ニーロの『グッド・シェパード』(06年)、ジョージ・クルーニーの『ミケランジェロ・プロジェクト』(14年)、デンゼル・ワシントンの『フェンス』(16年)

やんなるぜ!

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◆『シャーリーズ・エンジェル』に期待するほかなし◆

シナリオについてはいちいち論っても仕方ないが、目先のどんでん返し(味方だと思ってたヤツが敵だった…みたいなしょうもないやつ)と戯れるあまり「え? じゃあ今までしてきたこと全部無駄だったじゃん」みたいな大いなる徒労と化してるあたりが何ともやるせない。

かと言ってマックG版ほど突き抜けたシナリオ破綻や放送事故はなく、さまざまな映画・音楽のパロディに溢れた遊び心も影を潜めているだけに、なーんだか煮ても焼いても食えないんだよなぁ。マックG版は、あまりにヒドすぎて難解芸術映画の域に達していたのが一周回って面白かったのだけど。

そこへさして、なまじ半端に整えようとした痕跡が退屈さを一層加速させたバンクス版『チャーリーズ・エンジェル』は、優等生にも不良にもなれない端境でその輪郭の薄さを反省するかのように、映画終盤では歴代エンジェルの老醜をスクリーンに刻みつけることで辛うじてドラマ版のファンに訴求する。

 

また、ガールズムービーとしても大いに疑問の残る作品で、本作では「お色気スパイもの」という当コンテンツの売りである要素が“過剰に”排除されている。痛快なガールズムービーというよりも過激なフェミニズム映画というコンセプトが一貫していて、女性差別への撤廃意識が、却って逆性差別という形で顕在化しているあたりがなんともチグハグだ。エンターテイメントとしても上手くまとまってないし。

たとえば敵役は全員男。しかも下劣なセクハラ野郎ばかり。その一方でエンジェルの味方である男性キャラクターは黒人とゲイなのよね。おまけにチャーリー・タウンゼント探偵社のボスが実は変声機で男性の声を装っていた女性だった…というオチ。この極端さ。

要するに“格好いい女”よりも“格好悪い男”を描くことに腐心していて、本作が掲げてるガールズ・エンパワーメントが完全に本末転倒。はっきり言って“格好いい女性”の見せ方として一番カッコ悪いやり方をしてる。

せっかくキャスト陣がキレキレにクールなんだから、そこの良さをもっと伸ばすべきだと思うんだけど。結局のところ、監督のバンクス自身が“女優の力”を信じられてないのだろう。それが本作のつまらなさに直結している(技術的な拙さも勿論あるが)。

エリザベス・バンクスが『SUN』という雑誌のインタビューで「もしこの映画がヒットしなければ、“男性は女性主体のアクション映画を見に行かない”という偏見を助長することになるでしょうよ!」と発言したようだけど、うん、そういうところですよ…バンクスさんっていう。そんな言い方で映画がコケたときのために保険をかけてるけど、実際この映画が大コケしたのはただ単につまらなくて口コミが広まらなかっただけだよ。あとマネーメイキングスターの不在ね。

続編の可能性は望み薄だが、私としてはクリステンとエラをまた見たいので、監督がバンクスでさえなければ次作に期待したい。むしろ監督を代えてどんどんシリーズ化すればいいんじゃないとさえ思っている。個人的にはシャーリーズ・セロン主演/制作の『シャーリーズ・エンジェル』が観てみたいのだけど。

まあ、そんなマインドだ。バンクスの監督作はたぶん二度と観ないわ。

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