シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

従うために生まれたんじゃない

はい、またしても随筆回ですね。映画のレビューストックは徐々に溜まりつつあるから安心してね。でももう少しストックに余裕がほしいから、引き続きサボらせてね。

そんなわけで、過去に書いたロックンロール・エッセイ「従うために生まれたんじゃない」を発表します。豪華リミックスバージョンです。

 

 

京都・四条の繁華街を歩いていたら、足しげく通っている中古シーデーショップの入口に「もうすぐ閉店」という張り紙がしてあるのを目にして、反射的に「マジかよ」と呟いた。それを聞いた通りすがりの汚い犬が反射的に余の方を振り向いた。犬と目が合った余は、反射的に「犬や」と思った。たぶん犬の方も「ふかづめや」と思ったことだろう。反射的にね。

このシーデーショップは余が長年ご愛顧にしている素晴らしい店だ。開店時間が11時15分というものすごく微妙な時間帯からも、店主のポリシーを感じるだろう?

扱っているシーデーはハードロックやヘヴィメタルが多く、まるでB'zの松本孝弘+小林武史÷2みたいな雰囲気の店主がひとりで切り盛りしている、わずか8畳ほどの狭さで、客が3人も来たらもうむり、みたいな店である。

この店の魅力は、松本孝弘+小林武史÷2といった感じの店主(以下÷2)の“ロック好きなのに謙虚”という人柄に尽きる。

÷2の人柄は開店時間の設定からすでに滲み出ている。

「ロック好きは午後から仕事をするというのがお決まりのパターンっていうかパブリックイメージだし、そうしたロックの文法をオレは踏襲していきたいと常々思ってはいるけれども、まぁ、この歳にもなってロックだなんだといって世間や常識に逆らい続けるのも社会人としてあかん気もするので、そこは折り合いをつけるっていうか、だから譲歩して11時15分に店を開くことにします。ぎりぎり午前。攻めるところは攻めつつ、折れるべきところは折れる。そう、人生はシーソーゲーム…」みたいな、ロック小僧としての自分と社会人としての自分がひしめき合い、相克、葛藤、アンビバレント、そして己との闘争の末に÷2が導き出した11時15分開店という現実的妥協に、ロックの悲しみを肌に感じ、余は泣いちゃうのである。

「OPEN…11:15」という看板だけで、これほどロックの諦念や哀愁を掻き立て、店の前で滂沱たる熱き涙に視界を滲ませるシーデーショップが他にあろうか。断じてない。まぁ、11時15分オープンの店なんて探せばいくらでもあるかもしれないが、探さない。この店構えからして、すでにロックだ。そしてブルースだ。つまりこの店自体がひとつの音楽であり、泣きのギターを奏でている…ということが云えていくわけだ!

 

÷2は決まってレジに居る。決まっていつもレジに居る。決まって、いつも、ずっとレジに居る。

というより、レジから出たところを見たことがない。まるでレジが÷2にとっての生活空間であり、肉体の一部であるかのようだ。「レジ…それは俺の神殿」とでも言いたそうな顔をしている。

そして、÷2がレジで何をしているのかというと、特に何もしていない。たまにシーデーを磨いたりコンピューターに張り付くみたいな作業をしているときもあるが、押し並べて仕事してるフリをしてるようにしか見えないなんて言うと失礼だが、まあ実際そんな感じなのである。

仕事らしい仕事といえば、せいぜい客がシーデーを持ってレジに来たときの対応ぐらいであり、その以外の時間はただ黙って宙を見てるか、うつむいてるか、天を仰いでるかの三択しかない。おまえは休日の昼下がりを無為に過ごす無趣味なOLか? でも、その腑抜けた感じもよくて、世間の荒波に揉まれるうちにロック魂が消えかかった中年感が出ていて、非常に味わい深いんである。そう。腑抜けという名のヴィンテージだ。

無口な性格もまたいい。いかにも人付き合いが苦手といった佇まいで、余がシーデー持ってレジに行くと、ようよう絞り出したような小声で「ポイントカード…持ったはります?」と話しかけてくる。余が「持っておりません」と答えると、普通は「では、お作りしましょうか?」と勧めてくるところを、÷2の場合は「あぁ…持ってないんだ…」というような顔をして終わり。

余にしても、ポイントカードなんて財布を肥満させるだけの可燃性のゴミとしか認識してないし、たとえそのとき持っていたとしてもあえて提示しないことで「ポイントなんかいるか。むしろ溜まんな!」とノーロジックで逆上するタイプなので、傍から見ればぎこちないコミュニケーションに映りもしよう余と÷2のやり取りは、しかし無口な人間同士にとっては至って普通。なんなら心地良いぐらいなのである。

これほど無口で謙虚で控え目な÷2なのに、着ているTシャツだけは一丁前にメガデスだったり、店内BGMがアイアン・メイデンだったりして、やはり芯の部分はロックなんだなぁと思うことしきりだ。余は“÷2萌え”という四条界隈特有の文化を世界に向けて発信したい。そして多くの観光客に来てほしい。まあ、店には3人しか入れないんだけど。

かように、根はロックの÷2だが、シーデー不況の時代とはいえ音楽配信を呪ったりしてないし、いわんや道行く人々を「このダウンロード野郎っ」といって棍棒で殴りかかるようなこともしていない。ただレジでボーッとしてるだけだ。この無害性。

余の家にある数百枚のシーデーの多くはこの店で買ったものだし、そこでいろいろ漁ってるときに巡り合えた奇跡の一枚も多いので、正味の話、この店が余を育ててくれた第二の故郷といっても過言ではない。

ところで、何だろうね。この「~といっても過言ではない」という物言いにつきまとう胡散臭さは。「過言ではない」って言ったときは大体過言だからね。

まぁ、せんど語っておいて今さらこんなこと言うのも何だが、店の名前は知らん。

 

集後記

「もうすぐ閉店」という張り紙は後に虚偽だったことが発覚。2020年現在もたくましく営業しています。 

 

~今日の一枚~

春の黒幕。

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