シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

2020年ひとりアカデミー賞 第一部

皆さんこんばんは。忌々しき年末恒例行事のお時間がやって参りました。

当ブログでは3年目だけど、過去によそのSNSで7回やってるので、今年で通算10回目を迎える惰性の結晶体『ひとりアカデミー賞』。よくもまぁ10年も続いたもんだよ。どうしたもんだよ。

今年から読んでくれたニューカマー民のためにツルッと説明しておくと、『ひとりアカデミー賞』とは毎年12月31日になると厳かに開催される権威ある映画賞のこと。選考委員は不肖ふかづめ、ただひとり。今年観たすべての映画の中から各部門に沿ってノミネート作品を3本選び、その中から栄えある1等賞を決めてオスカー像を無理くり押し付けていくという、厚かましくもしたたかな振舞いである。

また、新旧さまざまな作品を対象とするため「作品賞」や「撮影賞」といった主要部門はだいたい古い映画が取りがち…という悪しき風習に染まりきったフレッシュ感ゼロの出来レース、懐古趣味、バイアスゲーム、古典礼讃にも傾きがち。

でもこればかりはねぇ。私としては新旧問わずさまざまな映画を選出したいので、なるべく新しい映画もゲタ履かせてノミネートさせたり受賞させたりはしているが、純粋な質や技術に関してはどうしても名人揃いだった戦後黄金期あたりの作品に分があるし、これは致し方のないこと。

そもそも「新旧問わず審査対象とする」というルール自体がザルなのだろう。 ファジーすぎた。

そんなわけで、ルール自体が大いなるザルといえる『ひとりアカデミー賞』。参ります。

※タイトルをクリックすると評に飛べるよ!

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【ベスト作品賞】

『麦秋』(51年)

『駅馬車』(39年)

『モンパルナスの灯』(58年)

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BAKUSYU。

今年の作品賞はOZUのBAKUSYUである。綴り合ってる?

もともと 『麦秋』は私の生涯ベストの作品なので、特に面白味もないまま穏当に受賞してしまったのだけど、近ごろ映画好きの若い子に小津を勧める機会があって、改めて小津を言語化することの難しさに直面。

その子から「小津って結局何なんですか?」と訊かれたので、先輩風をゴーゴー吹かせながら「あれだよ。フィルムの破壊者だよ」と答えたはいいものの「でも創造者でもある…」なんて言われてしまい、思わず気圧されて「でも創造者でもある…」とアホみたいな顔でオウム返し。とても恥ずかしかった。

よお若ェの、まさかこの俺にダガーナイフを向けるとはな。

過日、その若ェのから小津のおすすめ映画を訊かれたので、他の代表作と合わせて 『麦秋』をそれとなく挙げたところ、2~3週間したあとに「あれから全部観ましたが『麦秋』が一番よかったです。たしかにフィルムを破壊してましたね!」と言われたので、間髪入れずにこう答えてやったわ。

「でも創造もしている…」

ハイ、一本取ったオレの勝ち~。刺されたダガーナイフで刺し返すゥー。

『駅馬車』『モンパルナスの灯』に関しては何をか言わんやである。全身ノミネート要素でラミネートされとるわ。

 

【ベスト撮影賞】

『めくらのお市 地獄肌』(51年)

『午後8時の訪問者』(16年)

『アド・アストラ』(19年)

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人に見せない私の心ぉ~

あなただけには見てほしかった~

さよなら さよなら お別れなのねェ~ん

世間知らずの あのころ恋し

泣いて泣かせる ああん あん あん!

三度~笠~~♪

…ハイ。非常にやかましいわけでありますけども、「ベスト撮影賞」に輝いたのはボンカレー女優として鳴らした松山容子ちゃんのボボンと華麗な『めくらのお市 地獄肌』。ああん、あん、あん!

詳しくは評にすべて書いたが、撮影の度肝抜き力では 『めくらのお市 地獄肌』が今年ダントツ。

キュアロン、ノーラン、サム・メンデスなど、毎年のように革新的な映像スタイルを打ち出した新作映画が持て囃されてはいるが、まだまだ50年前の日本映画の前衛性にすら追い付いておらず、また日本映画にそのような時代があったことも知らずに「韓国映画がアカデミー賞を取ったのに日本映画ときたら甲斐性のない」と知ったふうな顔で憂いてみせる連中に対して「ああ、こんな奴らばかりだから日本映画は衰退したのかな」と思った、そんな1年だった。

その他、今年観て感動したのは『午後8時の訪問者』『アド・アストラ』。誰もショットなど観ない時代にあって、ショットのおもしろさに全体重を乗せられる勇気。今年観た200本近い映画の中でも数少なく“映画”してたわ。ノミネートおめでとうございます。

ていうか一昨年の「ひとりアカデミー賞」でも言った気がするけど、 そもそも「撮影賞」を部門化する意味を本家の映画賞に問いたいわ。

撮影が素晴らしいことなんて全ての映画の条件なんだから、わざわざ「撮影賞」を設けるということは、そこにノミネートすらされなかった作品は、たとえ他の部門でどれだけ受賞しても映画としてはダメ…ということになりはしまいか。

たとえばスポーツ選手の各能力をパラメータ化する際に「持久力」とか「跳躍力」とか色々あるけれども、いわばその全てを包摂した「すごさ」に当たる概念が「撮影賞」であって、その意味では「作品賞」と同等、もしくはそれ以上の価値があるはずなのにィーッ!

だって、どれだけその作品が主演男優賞や美術賞を取りうるクオリティでも、肝心の撮影がダメダメでそれが汚く映ってしまったら元も子もないわけでしょう。すべての映画は撮影ありきなんだから、そんな当たり前のことをいちいち部門化すんなっていうか、むしろそれを部門化することによって撮影という要素が「持久力」や「跳躍力」のように各要素の一部として見做されてることが、イヤだ!

 

【ベスト脚本賞】

『深夜の告白』(44年)

『SEX発電』(75年)

『アイリッシュマン』(19年)

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「ベスト脚本賞」の一等賞は『深夜の告白』に決まりました。

ビリー・ワイルダーの『深夜の告白』は、保険外交員の青年が人妻と恋に落ちて彼女の夫を殺害する…という愛憎ぐちょぐちょノワールだが、単なる状況説明かと思われた主人公のモノローグの中に事件の顛末や二人の運命がすべて象徴化されているという、米文豪レイモンド・チャンドラー畢生の映画脚本術。言葉ひとつでストーリーの歯車が一斉に動き出して、然るべきタイミングでガチッと噛み合う修辞学的トリックにおったまげました。

『SEX発電』物語の展開力風刺の殺傷力による合わせ技がなんか変なハーモニー奏でとった。スコセッシの『アイリッシュマン』1言えば済むことを10もクドクド言い続ける伝統芸能が堂に入っていたのでノミネートです。おめでとうございましたね!

そもそも、私はあまり脚本で映画を観てないので脚本の評価方法がよくわからん。「要するにストーリーが面白ければいいんでしょ?」と思う人もいるかもしらんが、脚本ってストーリーだけじゃないからねぇ。

 

【主演男優賞】

ロバート・レッドフォード『さらば愛しのアウトロー』(18年)

デンゼル・ワシントン『ローマンという名の男』(17年)

稲垣吾郎『半世界』(19年)

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人はクリント・イーストウッドについて考えることはあってもロバート・レッドフォードについて考えることは滅多にない生き物だが、『さらば愛しのアウトロー』は珍しくロバート・レッドフォードについて真剣に考える機会をそれとなく提供した“間に合った引退作”だと思う。

人は、有名人が死んだあとになって「素晴らしい俳優でした」とか「また一つの時代が終わった…」などとさも生前から評価してましたみたいなツラして知った風な口を利くが、全部バレてるぜ御同輩。生前は一度たりとも話題にしなかったくせに、死んだ後になって「大好きでした」とか「数々の功績がどーのこーの」って散々カマしたあとにその人の映画見返したりベストアルバム聴いて浸ったり…間に合ってへんねん。

その意味でも『さらば愛しのアウトロー』は、レッドフォードが生きてるうちにレッドフォードと向き合える作品になっており、引退作としては素晴らしい出来とタイミングに恵まれていた(まあ、これが本当の引退作かどうかはまだ分からないけどね)。

ノミネートはデンゼル・ワシントンと稲垣吾郎。どちらも忘れがたい相貌をフィルムに焼き付けていた。それにしてもアレだな、デンゼル・ワシントンと稲垣吾郎という字のこの上なくビザールな連なりよ。


【主演女優賞】

浜辺美波『センセイ君主』(18年)

グレタ・ガルボ『グランド・ホテル』(30年)

ハルドラ・ゲイルハルズデッティル『たちあがる女』(18年)

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グレタ・ガルボに関しては昔からせんど観てるので、今年イチバン新鮮気分ですごいなと思った女優は…ってなると『センセイ君主』浜辺美波かなあ?

生粋のコメディエンヌではないのに、生粋のコメディエンヌよりもテカテカと蒲焼きみたいに輝いており、言葉は悪いが余技でこれだけ出来てしまったら生粋のコメディエンヌたちは堪ったもんじゃねーだろうなって(もっとも日本には生粋のコメディエンヌなんてほぼ存在しないけど)。

たとえば『ステキな金縛り』(11年)で深津絵里ができなかったことを全部できていたり、『女子ーズ』(14年)の桐谷美玲や高畑充希が持ってない貌をすべて持ち合わせていたり。たぶん同業者からすれば一番厄介なタイプだろうね。天然なのか算盤尽くか、他人がやり損ねたことや出し損ねた貌をダーッと弾き出して修得して、その隙間を縫うようにしてオリジナリティを出してくる。しかもコメディ以外も適正あり。

大昔の話だが、かつてのハリウッドではシャーリー・マクレーンがそうだった。平凡な顔だけど誰とも被ってない。その間隙を度胸一発で射抜く力。たぶん毎朝ヨーグルトを食べて力を付けているのだろう。

あとはうまく世渡りするだけかな、浜辺さんは。最近ぽきぽきだけど。肉を食え、肉を。

 

【助演男優賞】

サム・ロックウェル『リチャード・ジュエル』(19年)

ジーン・ハックマン『ニューオーリンズ・トライアル』(03年)

ベジータ『ドラゴンボールZ 復活の「F」』(15年)

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サム・ロックウェルって面白いよね。

本当はちょっぴり苦手なんだけど、私の中のサム・ロックウェルは、隣りのクラスにいるほんのりエキセントリックな奴って感じね。自分のクラスに居られるとヤだけど、休み時間に廊下の窓からチラッと覘くぶんには程よく気になるぼちぼちの変人というか。

ゆえにサム・ロックウェルの主演作でサム・ロックウェルがロックウェルロックウェルしてると鬱陶しいが、『リチャード・ジュエル』のように要所要所で現れてロックウェルロックウェルしてる程度のロックウェルだと「ナイス、ロックウェル!」って。

そしてジーン・ハックマンとベジータという字のこの上なくビザールな連なりィィィィイイイイ。おるおるおるおる。

 

【助演女優賞】

岩下志麻『秋刀魚の味』(62年)

ドリス・ダウリング『にがい米』49年)

ベッキー『初恋』(19年)

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助演女優賞は『秋刀魚の味』で笠智衆に向かって言った「飲んでる飲んでるぅ!」で観る者の顔に微笑みを配った岩下志麻ちゃんが受賞されました!

実は志麻ちゃんはこの10年間で一度もノミネートすらされてなかったのである。その意味では過去にノミネート経験を持つ『魔法少女まどかマギカ [新編]叛逆の物語』(13年)のマミさんや『リメンバー・ミー』(17年)で全然リメンバーできないババア、といったアニメキャラクターにも負けており、そのたびに志麻ちゃんは大変くやしい思いをしてきたのです!

だが今宵、無冠の女王だった志麻ちゃんが念願叶って10年越しに助演女優賞に輝いた!

この万感の思いをキミは何とする!?

お雑煮の中には何を入れる!!! 

 

 ※お詫びと訂正※

ミスが発覚しました。「志麻ちゃんはこの10年間で一度もノミネートすらされてなかったのである」と言いましたが、執筆後に確認したところ去年新設した「殺しすぎで賞」において思いっきり受賞をかっぱらっていました。つまりオスカー二冠。

ウソの文章を作成したうえに一人で騒いだことをお詫びします。しかし、この謝罪文をしたためているのは12月30日の夜(お酒も頂いており、ほんのりと顔を赤らめております)。したがって、今から書き直すのは大変に面倒臭いので再審査はおこないません。重ねてお詫び申し上げます。何卒、ご理解ご協力のほどご愛顧下さいますよう、皆様のご多幸とご健勝をお祈り申し上げながら、重ねてお詫びとお悔みの言葉とさせて頂きたく、挨拶の言葉と代えさせて頂きます。敬具。絵の具。

 

【最低男優賞】

三島由紀夫『からっ風野郎』(60年)

ニコラス・ケイジ『シティ・オブ・エンジェル』(98年)

ヒメーシュ・パテル『イエスタデイ』(19年)

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こんなもん三島一択しょ。

オスカー直送だよ。何も悩むこたあらへん。しょうもない。

今年も多くの男優たちにイライラさせられたが、三島由紀夫のポンコツぶりに関してはヘタだからこそ面白く見れたとなぜか胸を張って言えるほど堂々として稚拙であり、その意味では苛立ちはおろか母性すら感じさせるもので、なんだかユーミンを歌いたくなっちゃった。

You don't have to worry.worry

守ってあげたい あなたを苦しめる全てのことから

' Cause I love you, ゆうて。

' Cause I love you, ゆうて。

三島の最低男優ぶりは、こちらの努力と歩み寄り次第では愛せるわけです。愛せる素地を持った憎たらしヘタかわいい最低ぶりなのである。「憎たらしい」と「ヘタ」と「かわいい」が複雑に絡み合う、三文芝居のスクランブル交差点や。大根だけでなく、きゅうり、獅子唐、プチトマトなども交差する、多角的な下手さ!

というわけで優勝です。優勝っていうか受賞です。

ニコラス・ケイジとヒメーシュ・パテルは面構えからして愚の骨頂だった。

あまつさえヒメーシュ・パテルは人を不快にさせる主人公だったし、さらには丁度ビンタしたくなる顔でもあるんだよね。しょうもない。漢字の「壺」みたいな顔しやがって。

 

【最低女優賞】

死霊オールスターズ『死霊の盆踊り』(65年)

ジュリア・ロバーツ『食べて、祈って、恋をして』(10年)

ジュディ・デンチ『キャッツ』(19年)

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今年も多くの女優たちにイライラさせられたが、とりわけ野放図に乳を振り回した死霊オールスターズの皆さんに「最低女優賞」が贈られます。

『死霊の盆踊り』 は、墓から蘇った死霊という体(てい)の素人女性たちが乳をほっぽらかして珍奇タコ体操を熱心にこなす…というだけの逆セクハラまがいのゴミ映画で、こんなモノを観たところで夢や希望が心に湧き立つこともなければ、「自分らしく生きていこう!」と明日に誓う気も起きず、いわば悪臭のするスナックで不味いナッツを齧りながら愚かな中年による自己顕示欲の不法投棄みたいなカラオケを聴かされてるような死に時間がぶざまに流れるだけザッツオールである。

興味本位で観た私も悪いが、興味本位でこんなものを作った方も大概どうかしてると思った。

『食べて、祈って、恋をして』のジュリア・ロバーツにもムカついたなぁ。自分のことを「女子」とか言っちゃうアラフォーのセレブ女が“自分探しの旅”という名の男漁りの旅に出て1ヶ月ぶっ通しでセックスして膀胱炎になる話ね。

ムダに料金の高い歯医者の待合室に置いてあるような都心で働くハイブロー向けの女性雑誌にありがちな「40代からのひとり旅 ~異国情緒があなたをキレイにする~」などと謳ってる気の触れた旅行特集をそのまんま映画にしたような、実におめでたい内容だった。

 

 

第一部はこれにてお仕舞い。なんか悪口ばっか言ってた気がする。

今年の「ひとりアカデミー賞」を書くにあたっては、いちびった茶番や膨大な文字数はナシにしようと決めていたので、出来るだけすっきりとまとめてみました。

第二部は今夜更新予定。

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