リュック・ベッソンは一度パリから引きずり出さねばならない。
2019年。リュック・ベッソン監督。サッシャ・ルス、ルーク・エヴァンス、キリアン・マーフィ、ヘレン・ミレン。
1990年、ソ連の諜報機関KGBによって造り上げられた最強の殺し屋アナ。ファッションモデルやコールガールなどさまざまな顔を持つ彼女の最大の使命は、国家にとって危険な人物を消し去ることだった。アナは明晰な頭脳と身体能力を駆使し、国家間の争いをも左右する一流の暗殺者へと成長していく。そんな中、アメリカCIAの巧妙なワナにはめられ危機に陥ったアナは、さらに覚醒。KGBとCIAがともに脅威する究極の存在へと変貌していく。(Yahoo!映画より)
おはようございます。
私生活はボロボロ!
そんなわけで本日は『ANNA/アナ』ですよー。
◆むっつりハードアクション◆
ナタリー・ポートマンの『レオン』(94年)やミラ・ジョヴォヴィッチの『フィフス・エレメント』(97年)で知られるロリコン大先生リュック・ベッソンの最新作は、殺し屋として教育された若き女性アナの運命を描いたむっつりハードアクションの金字塔であった。
またかよ!
『ニキータ』(90年)、『レオン』、『LUCY/ルーシー 』(14年)、『ANNA/アナ』…。
傍目には全部いっしょだよ!!
なんべん繰り返すんじゃ。同じことを何度も何度もよォーッ!
今回、ベッソンミューズに選ばれた主演女優はロシア出身のサッシャ・ルスというスーパーモデル。インスタグラムのフォロワー数は35万人。
『アンジェラ』(05年)のジャメル・ドゥブーズといい、『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』(17年)のカーラ・デルヴィーニュといい、ベッソンって本当にモデル体型(というかモデル)の娘が好きよねぇ。ナタポとミラジョボも元はモデルだし。
サッシャ・ルス。
そのうえ本作では、KGBの凄腕スパイであるサッシャがモデル業界に潜入するというモデル内幕シーケンスが無駄にこってりと描かれている。あくまで映画は「要人暗殺任務の一環だから」と言わんばかりに飄々と画面を重ねていくが、実際は綺麗なオネエちゃんをいつまでも撮っていたいというベッソンの道楽。モデルの卵に扮したサッシャは、カメラの前でセクスィポーズをして、パーティーではシャンパン片手にコネを広げ、モデル宿舎に帰ればレズビアンの恋人とイチャイチャするのだ!
それ、要るん?
流石はスケベッソン。監督の立場を利用して撮りたいものを撮りまくるというあからさまな職権乱用、既得権益に満ち満ちていたわ。
サッシャを見出したKGB職員役には近年ブレーク中のルーク・エヴァンスが起用されている。『ドラキュラZERO』(14年)や『美女と野獣』(17年)に出演することに成功しています。
また、サッシャの動向を見張るCIAエージェント役には呪術人形みたいな顔立ちで知られるキリアン・マーフィ。『28日後...』(02年)や『麦の穂をゆらす風』(06年)を代表作にしてやまない。
この2人の男がサッシャと恋に落ち、不思議な三角関係に発展するんだよね。そんなサッシャの才能を利用しようとする老獪なKGB上官役にはヘレン・ミレン。
ヘレン・ミレンは映画ファンなら大体好きだと思う。エリザベス1世&2世を演じて大英帝国勲章をゲット。さらにはイギリス王室からデイム(ナイトの女性版)の称号まで授与されたエリザベス女優にしてイギリスの室井滋である。由緒正しいロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの出身であり、かつてはシェイクスピアの戯曲やイギリス王室の史実モノを演じるような正統派英国女優だったが、還暦を迎えた近年は『RED/レッド』シリーズや『ワイルド・スピード』シリーズのような火薬がばんばん爆発する脳筋アクションで銃をぶっ放すような庶民派路線に切り替え、多くのポップコーンたちから支持を集めている。
ポップコーンたち…ポップコーンムービーが大好きな民のこと。
左からルーク、デイス・ヘレン、呪術人形。
◆ロシアから逃げるな◆
物語は単純。身寄りのないサッシャがソビエト連邦の諜報機関KGBに勧誘され、ヘレン上官の下で捨て駒同然のスパイとして暗殺任務に駆り出される…というものだ。
先述の通り、諜報活動の一環としてファッションモデルに扮するという理解に苦しむ寄り道パートを経たあと、暗殺任務をしくじってキリアン捜査官に拘束されたサッシャは、両組織からの解放を条件にCIAに寝返る決意を固めます。
まあ、二転三転するプロットといい、女スパイの壮絶な戦いといい、近年流行りのアクションコーディネートといい、完全に『アトミック・ブロンド』(17年)や『レッド・スパロー』(18年)の二番煎じ、三番煎じで…煎じすぎてもはや出涸らしという有様。血みどろガンフーを長回し風に撮ってみたり、ゴミ箱やお皿を技斗に絡めてジャッキー風に撮ってみたりと「あ、またコレ?」っていう既視感満ち満ち映画の金字塔といえる。
そこにベッソン作品ならではの珍味がサッとかかっていれば存外おもしろかっただろうに、今回に関してはただトレンドに乗っかってるだけなので半年後には綺麗さっぱり忘れてるだろうな。前作『ヴァレリアン』のアシッドで下品な映像感覚がとても良かっただけに、今回のセンスの退行は残念至極。
またこの感じです。
ロシア、フランス、アメリカと世界を股に掛けた観光映画としての側面も強いが、これも失敗の遠因。もちろん映画の主舞台はKGB本部のあるロシアだが、基本的にリュック・ベッソンは自分が撮れる範囲の中でしか映画が撮れない人なので、すぐに物語の舞台をフランスに移したり、アメリカに行ってみちゃったりするわけだ。そんなベッソンに贈る言葉があるとすれば、多分これだな。
ロシアから逃げるな。
尤も、こちらとしてもベッソンにロシアが撮れるなんて思っちゃいないのだけど、物語の舞台にロシアを選んだのはベッソン自身。ロシア人のサッシャを起用したのもベッソン自身。だったらロシア撮れよ!
しかしベッソンはすぐフランスに逃げる。再三に渡って「サッシャがモデルに扮する寄り道パートがある」と言ってきたが、何を隠そう、そのシーケンスの舞台がパリなのだ。
おまえ、パリむっちゃ好きよな。
パリはもうええて。ベッソン作品におけるパリはもう見飽きたよ。監督作以外にも、アンタが製作に関わった映画は大体パリや。
『キス・オブ・ザ・ドラゴン』(01年)では麻薬捜査のためにジェット・リーが中国からパリ入りして、『96時間』(08年)では誘拐された娘を救うためにリーアム・ニーソンがパリ入りして、『ラストミッション』(14年)ではCIAから足を洗おうとしているケビン・コスナーが憩いを求めてパリ入りする(パリの市場で自転車すら漕ぐ)。
ほら、すぐそうやってパリ入りするぅー。
ほんと悪い癖よ。ベッソン作品の主人公ってすぐパリ入りしたがるのよ。パリ入りさえすれば勝ちだと思ってるんだよ。そういう考えはよくない。
ちなみに2009年、ベッソンはパリ郊外にメガスタジオを建設したという。最新設備の整った9つの防音スタジオから構成されてるんだって!
すぐパリにメガスタジオ建てないよ?
どえらいスタジオ建てとる。
◆初めから伏線なんてないのに伏線回収した風の偉ぶりテリングが火をふく◆
『ANNA/アナ』はツイストのよく利いた展開重視型のプロットなので、どんでん返しとかサプライズの好きなポップコーンたちほど楽しめる映画だろう。ほどよく楽しめて、ほどよく突っ込めて、ほどよい気持ちのままDVDプレーヤーからディスクを取り出すことに成功するはずだ。だが私は違う。そんなほどよいベッソンの罠に引っかかるほどほどよく瞳をスポイルされたほどほどの映画好きではない。
何をおいても時制操作がズサンの極みで。開幕早々に5年前、3年後、3ヶ月前、現在、また3ヶ月前…という風に時間軸が激しく変化するのだ。これはヘタな語り部の特徴よね。
で、極めつけはクライマックス。これまでのコンゲームのトリックをぜんぶ後付けで絵解きしていくテリングが猛烈にダサいのである。何度も何度も数ヶ月前に遡っては、そのつど別キャラクターの別視点から「実はあの時、こんなことがあったんです!」とドヤ顔で新事実を浮上させてゆくわけだが、いやいや…そんな後出しジャンケンが許されるなら何とでもなるんですよって。
あまつさえ、そこに至るまでには何の伏線も張られてないからね。だからベッソン的には上手くハナシを畳んだつもりなんだろうけど、むしろハナシを広げてるだけなのよ。ちなみにこれは時制操作のズルい活用法。ぼんやりと映画を見てるだけのポップコーン諸兄は「あ、そうだったのか!」ってあっさり納得しちゃうから、シナリオが書けない人ほどこの手に頼りがちなんです。初めから伏線なんてないのに伏線回収した風の偉ぶりテリングというか。全部バレてるがな!
騙し騙されコンゲーム。
そんなぶりぶりにしてバレバレの映画『ANNA ANNA/アナアナ』だが、美女を撮る腕に関してだけは天賦の才を発揮する下心すけすけスケベッソン。主演のサッシャ・ルスをはじめ、端役の美女たちは「そない輝かんでも」と思うくらいむやみやたらに輝いており、加えてファッションやインテリアなども目に楽しく、ダブルミーニングとしての“甘さ”が際立つ作品となっておる。
質的には『アトミック・ブロンド』と『レッド・スパロー』の下位互換ではあるけど、とはいえこの2作品も決して出来のいい映画ではないので、ことによると『ANNA/アナ』の方が断然スキという人もいるだろうし、それはそいつの好みだから俺はズケズケと干渉する気はない。おまえは好きに『ANNA ANNA/アナアナ』を愛でるがいい。俺はベッソンがベソベソにベソをかくまで叱り続ける。それだけのことだ。
リュック・ベッソンは愛すべきどうしようもないオヤジだが、この調子で映画を撮り続けるとロクなことにならないだろうし、ひょっとするといつかポルノまがいのロリコン映画を撮って地獄に堕ちてしまうかもしれない。ロマン・ポランスキーやウディ・アレンのように「ロリコン」を作風にしたロリコン作家ならまだしも、ベッソンはただスケベッソンでしかないのだ。
いずれにせよ、この男は一度パリから引きずり出さねばならない。パリに背を向けた時にこそ、ベッソンのエッフェル塔は屹立するのだ。下ネタみたいになってごめんな。
(C)2019 SUMMIT ENTERTAINMENT,LLC. ALL RIGHTS RESERVED.