シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ドミノ・ターゲット

47歳が浜辺で追いかけっこすんな。

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1977年。スタンリー・クレイマー監督。ジーン・ハックマン、キャンディス・バーゲン、リチャード・ウィドマーク。

模範囚・ロイはCIAから脱獄の手引きと引き換えにある暗殺を依頼される。妻との幸せな生活を手に入れるべく、一度はその要求を呑むが、そのターゲットが政府要人だったことから事態は急転し…。巨大組織に立ち向かう主人公を名優G・ハックマンが演じる。 (キネマ旬報社より)


おもんねぇ~~!
あっ、おはようございます。
ここ数年、なんか発信欲というのがないのですよ。昔はSNS、掲示板、自作小説、連載マンガ、萌えイラスト、危険ポエム、幻想哲学、リキッド随筆、神通力講座などなど、何かしらを常に発信していた私であるけれども、近年、そのバイタリティが徐々に落ちてきた。映画批評も然り。
なんというか…いちいち労力かけて発信するに足るほど、時代、おもしろくねえな…って。

ここ5年ほど時代おもんないわ~。

2010年代中期あたりから、時代の価値観とかイデオロギーとか、そういうモロモロがイロイロと均されて、発信者のアクションに対して皆が同じリアクションをするように感じている。Siriに向かって話しかけてる気分だ。誰かの意見をコピッペしたような、どこかで聞いた手垢レスポンス。「歌手がこうした時は客はこう返す」と教育されたコンサートのファン状態。感情のパントマイム。集合知の誘い水。1つひっくり返ったら隣もひっくり返るオセロ。セロリ。
 日常生活の中で人と話してても「その意見、ネットでよう見聞きするわ」ってモノばかりだから、その人が意見する前に先が読めちゃうの。一行先が見える凡庸なJ-POPの歌詞みたいに。
だもんで、なにかを発信する前から“受信メールの内容”におおよそ見当がつく。だからこそ映画も音楽も言論も、おしなべて現代の文化位相は“大衆にどう思われるかを想定した上でのブランディング”の上に成り立っていて。要するに、“打ちたい手”ではなく“打ってどう思われるかを加味した手”を探る統計学と化してるわけです。
そんな状況でモノを発信することの悪魔的退屈さと、それでも発信し続ける人たちの悪魔的貪欲さを思いながらの6月中旬を、オレは過ごしているぜ。

そんなわけで本日は『ドミノ・ターゲット』です。1章でケリつけたのですぐ読めると思います。暇なら読み。

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◆ジーン・ハックマンはすぐ駆けちゃう◆

 模範囚のジーン・ハックマンのもとにCIAが現れ、要人暗殺と引き換えに脱獄させてやると持ち掛けた。同室の親友を連れて行くことを条件に依頼を引き受けたハックマンだったが、脱獄後に親友はCIAに射殺され、コスタリカに残した妻の命を握られたまま要人暗殺の任務に就く。
ベトナム帰還兵のハックマンにしてみれば、ヘリから身を乗り出して1キロ先の要人を仕留めることなどお茶の子さいさいであった。
バリバリ!
わざと狙いを外したはずだったが、要人は死んだ。ハックマンの裏切りを想定したCIAは念のために別の狙撃兵を配置していたのだ。その“念のためスナイパー”の正体は…死んだはずの親友! 怒ったハックマンはCIAの面々を脅しつけ、妻とともに国外逃亡したが、あたら妻はトラックに爆轢きされて死亡。悔し涙を飲んだハックマンはCIAというCIAを撃ち殺したが、さあこれから本拠地を潰しにいこうという段で、ひとつの銃口がハックマンを狙う。おわり。

…こう書くとそこそこ面白そうなアクション映画に思えもする『ドミノ・ターゲット』は、その実この上なく自堕落で忌々しい映画である。
監督がスタンリー・クレイマーという時点でおおよその察しは付こう。映画製作者としてそれなりに辣腕を振るっていたクレイマーは『真昼の決闘』(52年)『乱暴者』(53年)などをプロデュースしたが、図に乗ってメガホンを振り回し『渚にて』(59年)『招かれざる客』(67年)を監督したことで底が割れた凡才のひとり。

ニュース映像のパッチワークに米国政治の陰謀論を唱えるアバンタイトルは実にスリリングだし、ハックマンの写真をドミノで囲っていくクレジットタイトルのセンスもいいが、今にして思えばこの開幕5分が本作のピークだった。
何といっても冒頭で描かれる刑務所生活のシーケンスがあまりに悠長。ハックマンと親友役のミッキー・ルーニーがロクでもない猥談に花を咲かせ続けること30分。その間、画面に映っているのはオッサンと大ジジイである。
もっとも、『ティファニーで朝食を』(61年)での出っ歯&ハチマキの日本人役で知られるミッキー・ルーニーは芸歴80年のレジェンド俳優なので、彼の出番をまとめて確保するための“捨てシーケンス”だったのかもしれないが、だからといってこんなことをされると、観る者…そう俺はとても困ルーニー。

f:id:hukadume7272:20210327025717j:plainジーン・ハックマンとミッキー・ルーニーの猥談。

 脱獄後のハックマンのムーブも極めて謎。
CIAはサンフランシスコのホテルにハックマンを泊まらせ、彼が逃げないように逐一監視しながら任務遂行の日を待っているのだが…その期間がムチャポコに長い。たぶん1ヶ月くらいは監視し続けていたと思う。
それならハックマンを脱獄させる計画自体を1ヶ月ずらせばよかったんじゃない? あたまが悪いの?

ハックマンもハックマンで、その期間に何をするかというと、妻のキャンディス・バーゲンに会いに行き、二度目の結婚式だと言わんばかりにハネムーンを満喫しちゃう。
しかもこの時点では、自分に与えられた任務が要人暗殺であることをハックマンは知らないの。つまりCIAから何をさせられるか分からない状態なのだし、そもそも彼らの目的も正体も知らない状態なんだから、普通だったら自分の置かれた状況を整理したり、色んなことを疑ったりするでしょう? しないの。ハネムーン満喫しちゃうの。のんびり屋さんなの? のんびり屋さんなの。

 
で、このハネムーンシーケンスが例によってまた長い。ベッドの上で乳繰り合うわ、オープンカーで海岸すっ飛ばすわ、レストランで変な肉食うて喜ぶわ。挙句に浜辺で追いかけっこまでしちゃう。
浜辺で追いかけっこが許されるのは20代までだよ。
それなのに撮影時のハックマンは47歳。

47歳が浜辺で追いかけっこすんな。
しかも悪鬼の形相で追いかけるの。全速力で。ハードアクションじゃん。浜辺で追いかけっこは恋人同士の戯れなんだから、そんな本域で走らないの。
まあ、『フレンチ・コネクション』(71年)とか観ればわかるけれども、基本生態としてジーン・ハックマンって駆けたがりなのよね。すこし目を離すとすぐ駆けだしちゃう。子供なの?

f:id:hukadume7272:20210327025253j:plain見よ、この形相を。獣みたいな速さで妻を追い回すハックマンのようすだ。

 ベッドシーンも長かったわぁ。少女漫画のようなシャローフォーカスにキラキラ包まれて、妻役のキャンディス相手に口をぱくぱくさせ「あーん」「うーん」って。口を吸い合って。
こういうのは別にジーン・ハックマンで見たくねえ。
何が悲しくてジーン・ハックマンのハードラブシーンを見なきゃならんのか、誰か教えてくれ。たのむから。


 ちなみにCIAの面々を演じたのは、手塚マンガにも頻繁に登場したリチャード・ウィドマーク『続・夕陽のガンマン』(66年)『ゴッドファーザー PARTⅢ』(90年)イーライ・ウォラック、エディ・アルバートのせがれエドワード・アルバートなどムダに豪華。
映画は、鈍臭いショットを死体のように積み上げながらノロノロと進んでいく。「観た方がいい映画ですか?」と訊かれたら爆速でノーを突きつけよう。『パララックス・ビュー』(74年)のような陰謀論じみたポリティカル・サスペンスが好きだと言うなら止めはしないが。
ただし、石段の最上段に待ち構えて敵を射殺したハックマンが、転じて刺客に見下ろされる側となるラストシーンの不穏な構図だけは一丁前。この後味の悪さ。ニューシネマの嫡子か…!

f:id:hukadume7272:20210327025242j:plainバッドエンド確定演出(だいすき)。