シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

映画 も〜っと! おジャ魔女どれみ カエル石のひみつ

キッズの心にトラウマを植え付けた怪奇作  ~わずか25分というソレ~。

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2001年、山内重保監督。アニメーション作品。

夏休みに山奥の神社に祀られている魔女ガエルそっくりの石像を見に行ったどれみ達は、そこでえらい騒動に巻き込まれる。返り咲く劇場版第2弾!(第1弾はレビューしませんでした)


おはようごぜーやーす。
本日は随筆と映画評の豪華2本立てです(映画評が思いのほか短文で終わったため)。
まずは書き下ろしのメルヘン随筆『おジャ魔女ハグコットをさがして』を読んで下さい。読んで下さいっていうか…別に読まなくてもいいけどね。一応文章を発表する手前「読んで下さい」とは言うけれど、こんなもんは言葉の綾っていうか、本当に読んでほしいかと言われると「別にイエスでもノーでもない」って感じなんだけどね。読みたい人は読めばいいし、読みたくない人は読まなくていいし、俺は俺だし、太陽は太陽だし、月は月って感じだし。
そんなわけで、メルヘン随筆『おジャ魔女ハグコットをさがして』です。急遽1時間ぐらいでビャーッって書きました。読んで下さい。

 

~おジャ魔女ハグコットをさがして~

6月某日。TVシリーズ『おジャ魔女どれみ』の最終話を観終えた私は、泣きながらインターネットゥをして、『おジャ魔女』のハグコットのガチャポンが販売されていることを泣きながら知りました。
このガチャポンが設置されているのは拙宅の近場だと京都駅のヨドバシカメラのみ。開闢以来2021年。最近はお目当てのガチャポンの設置場所をインターネットゥで探せるらしいですネ。吃驚したよ。吃驚は「びっくり」じゃなくて「きっきょう」って読んでね。どっちの読み方も可能だけど、僕は「きっきょう」派だから。

さっそく泣きながらヨドバシカメラに向かった私は、人目を忍んでガチャポンをプレイしようとしたわけです。
それにしても、ガチャポンなんてするのは25年ぶりくらいなので、1回300円と知って「そんな阿漕なっ」と吃驚。ちゃんと「きっきょう」って読んでるね!?
昔は全部100円だったのに、いつの間にやら300円とか500円の高額ガチャばかり。
バンダイ、しばく。
しかしまあ、どえらい空間だ。ヨドバシカメラ京都店の3階には「がちゃがちゃランド」なるガチャポン専用空間が広がっており、数百台ものガチャポンがコインを入れられることを望んでいました。
気が狂いそうです。

f:id:hukadume7272:20210715011151j:plain場所:ヨドバシカメラ京都店3階。そこにいる者:私。

私が訪れた時には、ほかに客は一人もいないのかと思いきや、女がひとり、壁にもたれて「うー」と言っていました。何かに負けた、みたいな雰囲気で、結構「うー」って言ってました。
本来、ガチャポンをする姿なんて恥ずかしいから人に見られたくないのだけど、この女なら、まぁ…いいか。

さて。おジャ魔女ハグコットは全5種類。どれみはづきあいこおんぷももこのメインキャラ5人です。ンーフーン?
基本的に私はガチャポンというものを忌み嫌っているのだけど、その理由は「被るから」です。被るとむかつくからです。
全5種類をコンプリートするには何回プレイせねばならないのか。何回「また被った!」と嘆かねばならないのか。それを考えると気分がムカムカしてくるのです。
ですが、今の私はオジャマージョ・ハイですから、多少の被りはゆるしていく所存ですよ。だけど私にも堪忍袋の緒というものがあるので、20回以上引いてもコンプできなかったときは…、そのときはマシンを壊します。しばき壊す。

それはそうと、最近のガチャポン売場には両替機なんてあるんですね。もうカジノじゃん、やってること。きっと私みたいに「絶対コンプするぞ」と心に決めた大きいおともだちが意固地になってガチャを回し続けられるように設置されているんだね。店側の思う壺だね。
さぁ、いよいよ私のガチャポンが始まります。なるべく少ない試行回数でコンプリートを目指し、なおかつ童心を忘れずに楽しむのです!
レッツ、ガチャポン!!!

1発目、どれみ NEW!
2発目、どれみ

きれそうになりました。
のっけから被るかね。せめて、もうちょい後じゃない? 被るにしても、もうちょい後やん。この悲しい状況を「時期尚早」と言わずして、他に言いようがあるでしょうか。
あります。「屋上架屋」です。
屋根の上にまた屋根を架けるさまから「無意味な重複」を意味する四字熟語です。どれみの次にまたどれみを出してしまった今の私にぴったりの言葉です。
気を取り直してガチャポンを続行します。私のガチャポンは始まったばかりです!


3発目、あいこ NEW!
4発目、はづき NEW!

あっ、好い! すごくいい調子です。これで初期メンバーの3人が揃いました。波がきてます!
ガチャポンの女神が私に微笑みかけているのを、私は感じることができます。なぜならガチャポンの女神とは…………ガチャポンの……
…なにも思いつかないのでガチャポンを続行します。

5発目、どれみ(3体目)
6発目、あいこ(2体目)

しんどいわ~~。
これ、全3種類だっけ?
って思うくらい、どれみ、はづき、あいこのループから抜け出せません。それとも何か。オレだけ初期メンしか引けない魔法にでも掛かっとんけ?
特にどれみは既に3体目。いくら主人公とは言えしゃしゃり過ぎだとおもった。あいこも既に2体目。どれみに肉薄しとる。
後はおんぷとももこさえ出ればコンプリートなのになァ。どうやら「マラソンとガチャポンは中間地点が一番しんどい」という言葉は本当だったようです。
私の言葉です。

その後、気を取り直して7発目を回そうとしたのだけど、どうも3枚目の硬貨が入らない。どうやらマシンの中で硬貨が詰まってしまったようです。
潰しちゃった。
ガチャポンの投入口を潰しちゃった。きっと、コンプリートを目指して一心不乱にガチャを回し続ける私の情熱にマシンが耐えきれなくなったのでしょう。
すぐさま、走って店員さんを呼びに行って謝罪しました。
「どうもすみません。ついに私は、おジャ魔女ハグコットのガチャポンを潰してしまったのです!」
店員さんは「あーはいはい。すぐ直せますよ」つって、ドライバーではないけれどもドライバーみたいな工具を使って投入口に詰まった100円玉を中に押し込んでくれました。

店員さん「これでカプセルが出ますよ。ガチャってしてみて下さい」
ふかづめ「ガチャ」

7発目、あいこ(3体目)

どれみに追いついた。

ふかづめ「あいこは3体目なので、できれば返金をお願いしたいです。300円返して」

店員さん「申し訳ありませんが返金はできかねます」

ふかづめ「うそん。なんで」

店員さん「このガチャポンはメーカーであるバンダイさんの管理下にあり、ウチはただマシンを設置してマージンを貰ってるだけだからです。文句があるならバンダイさんにおっしゃって下さい」

ふかづめ「そんなのは野蛮ダイ。どう?」

店員さん「ギャグを作っても無駄です」

ふかづめ「でも、詰まった硬貨をマシンの中に押し込んだのはアナタじゃないですか。その結果、3体目のあいこが出てきてしまったのです。もしもあの時、『押し込む』のではなく『取り除いて』くれていたら、少なくとも100円は僕の手元に帰ってきたわけだよね」

店員さん「でもさぁ? 急にそんなこと言われても、困っちゃう」

ふかづめ「あなたが3枚目の硬貨を入れて、私がレバーを回して、あいこが出た。いわば、このあいこは私と店員さんの共有財産です。これを財産分与するには、少なくとも100円の返金が必要だと思うのですよ」

店員さん「なにをいってるかよくわからない」

ふかづめ「僕もよくわからないので、この話はもう結構です。ていうかさ? いま我々は言い争ってるけど、もとを正せば硬貨が詰まるようなマシンを設置したバンダイさんが一番悪いよね」

店員さん「そう言われるとそんな気もしてきた」

ふかづめ「やっぱりバンダイは…」

店員さん「野蛮ダイ

ふかづめ「はい。ご苦労様でした」

そんなわけで、店員さんと五分に戦った私だけど、よくよく考えるとすべて自分が悪かったような気もする。私が戦うべきはメーカー側だったのです。無茶言ってすみませんでした、ヨドバシの店員さん。
この件はイーブンです。
さぁ、気を取り直してガチャポンをプレイしますよ。残すはおんぷとももこ!

8発目、おんぷ NEW!
9発目、ももこ NEW!

運の巻き返しがすごい。
なんとピンポイントでおんぷとももこをゲット。無事に5種類すべて揃えることができました。すごいぞ。目を見張る成果だぞ!
帰り際、「とは言え、もう二度とガチャポンなんてする事ないだろうな」と思いながら「がちゃがちゃランド」の方を振り返ると、先ほどの女が、壁にもたれて「うー」って言ってました。

さっきから何してんねん、おまえは。
ずっと気になっとったけど。
何かに負けた、みたいな雰囲気で、ずっと壁にもたれて。「うー」ってやって。「うー」やあらへん。まず何に負けたのか教えてくれ。頼むから。いったい何に負けたらヨドバシカメラの3階の「がちゃがちゃランド」の壁にもたれて「うー」ってなるのか教えてくれ。
そして……どんなガチャポンをしたのか、教えてくれ。

以上、メルヘン随筆『おジャ魔女ハグコットをさがして』でした。
そんなわけで映画評に移りたいと思います。本日は『映画 も〜っと! おジャ魔女どれみ カエル石のひみつ』です!

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◆ジジイの膝の上争奪戦にはじまりジジイの寿命心配戦に終わる夏物語◆

 小学生の時分、夏休みといえば祖父母の家に遊びにいくのが大いなる楽しみであった。特に何があるわけでもなく……否、むしろ祖父母の家には風呂とトイレすらなかったが、それでも子供心に楽しく、風呂は近くの銭湯で済ませ、その帰りに自動販売機でアイスを買ってもらうのが至福のひと時であった。
あの自販機のアイス、わかるかなぁ?
ぜんぶ舐めたら最終的に剣みたいな棒が残るのよ
剣といっても勇者が持つような剣じゃなくて、フェンシングみたいにチュンチュンチュン…って突く専門みたいなレイピア系の剣だよ。言ってることわかるだろ?

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調べたところセブンティーンアイスでした。

 さて。小学5年生になった春風どれみもMAHO堂の仲間とともに飛騨高山にある父方の祖父母の家に遊びにいったが、その村に伝わる「カエル石」の伝説に惑乱される!
本作は東映アニメフェア(前・東映まんがまつり)の一環として制作された劇場用アニメだが、なんと尺がTVシリーズ1話分のソレ。

わずか25分というソレ。

思わず「セコッ」と言わずにはおけないコレ。
たった25分で「劇場版」と冠してしまうのはドレ。コレ。
尺の感覚がチャップリンのソレ。
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  まあ、コレとかソレとか言っててもしょうがないので話を進めるけど、本作の時系列はTVシリーズ第3期『も〜っと! おジャ魔女どれみ』第22話のあと。
第3期といえば、英語あやつりの帰国子女・飛鳥ももこが5人目の魔女見習いとして加入したシリーズである。
ちなみに劇場版1作目の『映画 おジャ魔女どれみ♯(しゃーぷっ)』(00年) は、どれみとぽっぷの姉妹愛を描いた劇場版にふさわしい内容だったけど、今度の『カエル石のひみつ』は異色作として語り草になっているのよね。

 オープニングでは飛騨高山での川遊びが描かれ、漆工芸職人の祖父の家で水羊羹を食べるといった微笑ましき描写が観る者に童心を取り戻させる ~Be a kid again~。
 ところが楽しそうな雰囲気が一転。祖父が彫った不気味なお面に触れようとしたあいこが「触るなッ!」と怒鳴られるところから俄かに暗雲が垂れ込めます。

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どれみのお爺ちゃんに怒鳴られたあいこ。暗雲ビギニング。


さて。囲炉裏を囲っての夕食後、ももこが祖父の膝の上に飛び乗って「おじいちゃんの膝の上、ベリーグー」とその座り心地を評価すれば、これに触発されたどれみ、はづき、おんぷが「私も座らせて!」、「次は私!」とジジイの膝の上争奪戦が始まる。
孫のどれみはともかく、他3人に関してはよく他人の祖父の膝の上に座るよな…としか言いようのない図々しさに満ち溢れたシーンだが、あいこだけが「うちはええ」と遠慮して座ろうとしなかった。

 じつは本作は妹尾あいこの当番回である。
あいこの両親はすでに離婚しており、ママンは元夫との駆け落ちが原因で実家から勘当され、実母の死目に会えなかったことで厳格な父から憎悪されている。その憎悪の牙は孫娘のあいこにも向けられているので、いわばあいこは「祖父」というものに対してトラウマを抱えている…といったダークバックボーンがTVシリーズで語られているのだ。
ゆえに、あいこはどれみの祖父に対しても恐怖心を持っており、あくる日、畑で取れたてのトマトをくれたどれみの祖父に自分の祖父を幻視して取り乱してしまうのであった。ここのサブリミナル演出はなかなかに不気味で、背筋がゾクッとしてしまいます。

f:id:hukadume7272:20210515165156j:plainどれみの祖父越しに自分の祖父(画像3枚目)を幻視してしまうあいこ。ホラー演出が火をふく。

 その日の午後、どれみ達は祖母からお面にまつわるダークエピソードを聞かされる。
昔、善十郎という若者が代官の圧政から村人を救おうとして打ち首獄門となり、それを悲しんだ恋人のマユリは川へ身投げしてしまう。マユリの亡骸の傍には1匹の蛙が泣いていた…というのだ。
だから、どれみの祖父は二人を弔うためにお面を作り、毎年夏になると森に祀られたカエル石に奉納しているらしいのだわ。

 祖父からは「カエル石には近づくな」と警告されていたが、そう言われると行ってみたくなるのがどれみ心。5人はさっそく魔法の箒で山へ向かうが、なぜか途中で魔法が解けて全員墜落。どうやらこの森は魔力を封じ込める不思議な領域であるらしい。
おまけに雨まで降ってきて、あたりを霧が覆い尽くす。急にドキドキしてきちゃう一同であったし、怖がり屋のはづきに至っては半狂乱の様相を呈していた。極めつけは、どれみの祖母から教えてもらった「カエルが一つなきゃ」というわらべ唄を、まるで何かに取り憑かれたように歌い続けるおんぷ…。
わらべ唄ってよく聴くと結構怖いんだよねぇー。歌詞といいメロディといい、どこか不気味で、ずっと聴いてると不安な気持ちになってこない? 「かごめかごめ」とかトラウマなんですけど。

 その後、雨宿りに入った洞窟の奥でカエル石を発見したどれみ達は、そこに奉納されていたお面が割れていることに気付く。
すると、不意に後ろから現れたのは謎の覆面巨漢。
さながらスラッシャー映画の殺人鬼である。

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こえーって。

一同「あぱあぱあぱあぱ…」
はづき、あいこ、おんぷ、ももこの4人は、腰の抜けたどれみを置いて全速力で逃げた(薄情)。
ひとり残されたどれみは「あぱあぱ…」と言いながらカクカク震えていたが、殺人鬼に向かって「…? ひょっとして善十郎さん?」と声をかけてみた。
どれみは、この覆面巨漢が善十郎の霊であると推測を立てたのだ。
そう思うと、どれみは途端に寂しい心持ちがしてきます。

「善十郎さん。マユリさんのこと大好きだったのに、一緒になれなくて…。辛かったんだろうねえ…」

悲恋のうちに死んだ善十郎に声をかけてポロポロと涙を垂らすどれみであった。普段はバカでドジなどれみだけど、何だかんだで心根の優しい娘なのよねー…。
ただひとつ解せないのは、割れたお面を装着しながらの涙の声かけだったこと。

f:id:hukadume7272:20210515165309j:plain善十郎の悲恋に共感して泣くどれみ(仮面を装着しながら)。


人間やめるの?

「おれは人間をやめるぞ! ジョジョ――ッ!!」をしてるの?
 やってることが意味不明すぎて、もんどり打ちそうです。

すると覆面巨漢がどれみに向かって「おまえ、こんな所で何しとるんじゃ」と話しかけた。
じつは覆面巨漢の正体は殺人鬼でも善十郎の霊でもなく、どれみの祖父なのであった。お面を奉納する際は顔を隠して山に登る、というしきたりがあったのである。
 そのあと、カエル石の前で善十郎とマユリの冥福を祈ったどれみは、祖父とともに下山。祖父母宅で過ごす最後の一晩が描かれます。
ようやくここでいつもの『おジャ魔女』らしいムードになり、みんなで楽しく食事をしたあと、遂にあいこが祖父の膝に座る…!

「お爺ちゃんの膝の上ってこない温かかったんや~!」

あいちゃん…。でもそれ、どれみのお爺ちゃんだから…。
自分のお爺ちゃんで試せよ。
人の祖父で「お爺ちゃん全般の膝の温かさのアベレージ」をはかるな。

f:id:hukadume7272:20210515170614j:plain他人のお爺ちゃんの膝に座って「お爺ちゃん全般の膝の温かさのアベレージ」をはかるあいこ。

 ラストシーンは、お迎えボクロを見せて「ワシはもうすぐ死ぬ」とか縁起でもないことを言い出したどれみの祖父に、あいこが「そんなん言わんと長生きしてぇぇ!」と涙ながらに抱きつき、それに触発された一同も「死ぬとか言わないでぇぇ」と泣き叫ぶ…という謎の大団円であった。
ジジイの膝の上争奪戦の次はジジイの寿命心配戦である。
孫のどれみはともかく、他4人に関してはよく他人の祖父のために長寿を祈れるよな…としか言いようのない慈愛に満ちたシーンだ。

f:id:hukadume7272:20210515171443j:plain他人のお爺ちゃんの長寿を祈って号泣するももこ(左)、はづき(右)。

◆子ども向けと見せかけて実は子どもを裏ぎるキッズ攻撃型アニメ◆

 本作は、クセの強さから評価の分かれる演出家として有名なアニメーター・山内重保によって、玄妙で霊験あらたかな雰囲気を醸した『おジャ魔女どれみ』屈指の異色作である。
 まるでデヴィッド・リンチを観てるかのような神経症的な世界観と、不安感を煽るくすんだ配色。
気味の悪いわらべ唄や転調だらけのフラメンコギターなど、音楽による演出も脱臼技の連続でケレンに溢れている。
さらには善十郎とマユリのダークエピソードも行間を読ませる構成になっているほか、過去と現在が複雑に去来する時制操作など、キッズ層にはまず伝わらないであろう難解演出のカラクリ屋敷!

 なにより全体の雰囲気が薄気味悪くて……正直キモいです。
ホラー表現も容赦がないし、これはもう『どれみ』のメインターゲットであるキッズ層への明確な“攻撃”になっている。
ジブリ作品みたいに子ども向けと見せかけて実は子どもを裏ぎるキッズ攻撃型アニメは多数存在するが、ここまであからさまなのも珍しい。キッズが見たらトラウマだよ、こんなもん。

f:id:hukadume7272:20210515171839j:plainキッズを攻撃する山内演出(結構まじで怖いです)。

 でもなぁ~。『おジャ魔女』に限らず、かような実験精神は往々にして「『ドラえもん』でこれをやったのはスゴい」だとか「『クレヨンしんちゃん』なのにこんなシュールなことしててスゴい」なんて知った風な口ぶりで評価され、その奇態性ゆえに消費の対象として瞬く間にスノッブたちの餌食になるんだよなぁ。
 本作のクオリティは、握る・渡す・持つ・落とす…といった“手の動態”によってのみストーリーが語られていて、アニメーションとしては非常に高いのだけど、監督・山内のわがままの貫き方は好みが分かれるところ。少なくとも一部の観客から「『どれみ』でこれをやったのはスゴい!」と言われることを見越したような癖演出は、キッズだけでなくその保護者をも唖然とさせただろうし、(私のような)うるさ型からは「少しあざといかな…」と鼻をつままれちゃうかもしれない。

あと、そうそう。本作のどれみ達は魔法を使わないんだよ。
魔法少女アニメなのに魔法縛りの制約を設けてる時点で、その意図や推して知るべしって感じだよね。
 もっとも、“作品が持つ雰囲気を自分色に塗り替える”というのは毎話毎作のように監督や演出家がコロコロ変わるアニメ業界では当然の風習。東映時代の細田守が手掛けたTVシリーズ4期の「どれみと魔女をやめた魔女」のように、従来のどれみテイストからは大きく逸脱しているにも関わらず未だに傑作と名高い回も存在するので、本作の山内の実験精神が必ずしも悪いとは思わないのだけれど。

実際、メイン5人はコマ送りで見たいほど可愛らしいし、作画も好調で、やはりコマ送りでじっくり楽しみたい(面倒だからしねーけど)。あいこの祖父嫌いのエピソードがその後のTVシリーズで回収される点もステキです。
 なにより、あいこ役の声優・松岡由貴がマイ・フェイバリット・おジャ魔女・エピソードに本作を挙げていたので、あいこ推しの私が本作を褒めないわけにはいかないのであります。危険思想? うるせえ。

◆こぼれ話◆
本作は、筆者ふかづめが発表する「夏に観たい映画ランキング」において堂々の81位にランクインしています!

f:id:hukadume7272:20210515171034j:plain人に花火を向けるどれみ。