シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

アングスト/不安

「本物の“異常”が今放たれる。後悔してももう遅い」んだって(あんま興味ないからサッと書きました)。

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1983年。ジェラルド・カーグル監督。アーウィン・レダー、シルヴィア・ラベンレイター。

実在の殺人鬼、ヴェルナー・クニーセクが起こした一家惨殺事件を映画化した衝撃作。1980年にオーストリアで実際にあった事件を基に、刑務所出所後に凶行に及んだ主人公の行動に肉薄する。(Yahoo!映画より)


おい、ははよう。
なんと「はい、おはよう」がアナグラムになっているという嬉しいギミック付き!

最近、よく思うのよ。
コンビニエンスで100円おにぎり2個買ったときに紙おしぼりを呉れる店員さんに「アリス」って。
100円おにぎり2個ごときで紙おしぼりを呉れるって、大概やさしいじゃん?
だって、どう考えても手ぇ汚れるやんってモノを買った時でさえ紙おしぼりを呉れない店員さんが跋扈している昨今にあって、この店員さんは海苔でベタベタになるであろう私の指先を気遣ってくれているわけだよ。ちょっと感動しちゃうな。
だって考えてもごらん。売上に200円しか貢献していない私みたいなツナマヨ&コンブ野郎に対して「これで指先をお拭きよ。清潔を保ちなよ」とばかりに紙おしぼりを呉れるんだぜ。こんな、おにぎりを食うことしか能のないシャケ&おかか野郎に。これに泣かずに、何に泣くんだよ。ここで流さなかった涙は、じゃあ、どこで流すのが正解なんだよ。むしろ、ここで流した涙を拭くために紙おしぼりを呉れたのだろうか? 時系列、矛盾してるけどね。
まぁでも、私が紙おしぼりを使うことはまず無いがな。なんとなれば、私は指一本たりとも海苔に触れないように上手におにぎりを食べることができるから。
だから、この紙おしぼりは、大事に取ってる。いつか私が、誰か、手がベトベトしそうな人と出会ったときの為に。「これで指先をお拭きよ」って。「清潔を保ちなよ」つって。

…というような話を、あまり親しくない知人にしたら「おにぎり好きなんですか?」と訊かれた。

ハナシ聞いてた?

紙おしぼりのくだりを全スルーして「おにぎり好きなんですか?」は、もうハナシ聞いてなかった奴の返しやん。
「おにぎり」というテーマだけで脊髄反射で会話してるやん。「紙おしぼり」こそが本当のテーマなのになぁ。この場合。すっ飛ばしてるやん。真のテーマ。
それでも私は、訊かれたことに対してまじめに答えます。
「別におにぎりが好きってわけじゃないんだけどね。労力をかけずに短時間でサッと食べられるから買ってるだけだよ」
すると相手。「ふー」と言った。

「ん」まで言え。

せめて「ふーん」て言ってくれ。「ふー」だとギリ相槌になってへん。私のハナシに興味ないのはいいけどさ。それは私が悪いから。でもさ。素っ気ない相槌で私を傷つけるにしても、せめて「ふーん」まで言って傷つけてくれよ。中途半端なとこで刃が止まるのが一番痛いから。
~うれしいエピローグ~
後日、そいつから「そろそろオリンピックですね」と話しかけられたので、こないだの意趣返しとばかりに私、「オリンピック好きなんですか?」と返したところ、なんかフツーに会話成立しちゃった。
そっか。ムズいな…。


そんなわけで本日は『アングスト/不安』です。かれこれ15年近くも映画評をやっていると稀に当たる語ることがない系の映画なので、どうにかして言葉を紡ごうと頑張ってる姿をお楽しみ下さい。
ほとんど編集・推敲してないので誤字とか読みづらいトコがあるかも。
※こわい画像が転がってます。

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◆ヴァイスヴルストかじり映画の金字塔◆

 世界各国で上映禁止になり、イギリスとドイツではビデオまで発禁になった幻の映画『アングスト/不安』が不死鳥の翼を羽ばたかせながらの復刻。当時日本では『鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜』という邦題でビデオスルーされていたが、2020年に37年越しの解禁となり全国公開。
サディスムに取り憑かれたシリアルキラーが8年の刑期を終え出所した。さっそく新たな標的を探し求めた男が、たまたま忍び込んだ一軒家に暮らす3人家族を惨殺するまでの一夜が息詰まるワンシチュエーションで描き出される。
※オーストリア史上最悪の殺人犯を扱った実話ベースの物語が観る者のひとみに襲いかかります。

 モデルになった殺人鬼はヴェルナー・クニーセク
1946年にオーストリア・ザルツブルグで「あー」って産声をあげ、16歳の時に母親をナイフでメッタ刺しにしてドイツに逃亡するも強制送還され2年の拘禁。その後、数件の強盗を繰り返したあと1973年に73歳の女性を銃で撃ち再逮捕される。その際「あー」と言った。
1980年、職探しのために3日間の仮出所を許されたクニーセクは、ザンクト・ペルテンの郊外で一軒家を見つけ、窓を叩き割って侵入。夕方に帰宅した55歳の母親、身体障害を持った26歳の息子、24歳の娘の3人をロープで縛り付け、7~11時間にわたる拷問の末に殺害した。一家が飼っていた猫も殺害したが、なぜか犬は殺さなかった。

遺体のそばで赤子のように眠ったクニーセクは、翌朝、一家が所有していたメルセデス・ベンツのトランクに3人の遺体を乗せ、カールシュテッテンのレストランでぷりぷりのソーセージを食べる。ミュンヘン名物のヴァイスヴルストだ。あの白いソーセージである。
熱したフライパンで表面をカリカリに焼かれ、見栄えも気にせず皿の真ん中にコロッと躍り出た一本のヴァイスヴルスト。添付のマスタードをしっかりと絡めて齧るのが吉。齧った際は「ぷちっ」というソーセージ独特の音ではなく「ブチュッ」と潰したような音が響き、口内では甘い肉汁とともに肉が優しくほどけていく。つまるところ幸せとは存外こういうものかもしれない。
したところ、先刻からクニーセクの挙動に妖しき香りを覚えていた従業員が秘かに連絡していた憲兵が現れ、トランクの中を見てあじゃぱー。お縄にかかったクニーセクは終身刑を言い渡され「あー」と言った。そんなこと言っても意味ないのに。
その後、奇しくも本作公開年に脱獄を図るも失敗。今もなお刑に服している―…。

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 シリアルキラーの心理を探求するというコンセプトのもとに自主制作されたジェラルド・カーグル唯一のこの長編映画は世界中で問題視され、あまりに陰鬱で残酷な描写から大バッシングを受ける一方、徹底した精神異常者ファーストの演出に芸術性を見出す熱狂的なファンも存在し、『カノン』(98年) のギャスパー・ノエは本作を60回以上鑑賞したとのたまった。
事程左様に、上映禁止や発禁処分も手伝って、今やすっかり“伝説の問題作”として神格化されている本作。主演は『U・ボート』(81年) 『アンダーワールド』(03年) アーウィン・レダー。痩身でギョロ目、おまけにピラニアのような歯並びをしているので、この手の異常者役にはまさに適任。

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◆見たら精神に異常をきたす怪作なんだって◆

 映画は、幼少期から現在に至るまでの写真を羅列しながら精神科医らしき男がクニーセクの半生をボイスオーバーで語る…というドキュメンタリー調のアバンタイトルに始まり、それが終わるとクニーセク役のE・レダーが血走った目で町を彷徨する本編へ。ステディカムを自分に取り付けて自撮りしたような魔訶不思議のカメラワークがさながら主人公の不安障害と同化したような映像効果を生む。
民家のインターホンを鳴らしたクニーセクがドアを開けてくれた老婆をピストルで撃つと、ややあって『Angst』のタイトルバック。すなわち老婆発砲シーンはアバンのアバン。その数年後に出所したクニーセクがまたぞろ血走った目で町を彷徨するシーンからが本当の本編、ちゅわけだ。

 終始フィルムには錆びた鉄の味がべっとりと染みこみ、元タンジェリン・ドリームのクラウス・シュルツェが手掛けた病的なスコアが鳴りしきる中、天高く浮遊するカメラが挙動不審のクニーセクの足取りを追う。タクシー運転手を靴紐で絞め殺し損ねた彼はパニックを起こし、ヨダレを垂らしながら森へと駆け込み、逃れ逃れて郊外の屋敷に辿り着くや否や拳でガラスを叩き割り闖入。一連の奇行を猫のような眼差しで捉え続けるカメラはあくまで無機的。屋敷の住人と出くわさないかとドキドキしながら家の中を物色するクニーセクのへっぴり腰はまるで被害者のようだ。
そう。開幕から老婆を撃ったり運転手を殺そうとするなどメチャメチャなことをしてるのに、なぜか被害者のような挙動と面構えなのだ。「誰でもいいから殺さねばならない」という使命にプレッシャーを感じているかのように、その相貌は緊張と怯えからくる脂汗feat.ヨダレでギトギトの様相を呈していた。

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 さて。屋敷の前にメルセデスベンツが停まり、3人家族が家の中に入ってくると、無計画の極みともいえる性急さでこれに襲い掛かったクニーセクは、まず半身不随の息子が乗っていた車椅子を力任せにひっくり返して機動力を奪い、次にばばあと揉み合って体力を削った(クニーセク自身も体力が削れた)。
続けざまに娘にタックルをかまして揉み合っていたところ、「ロープか何かで縛りあげたら楽だな」と閃いたのか、ビャーッと隣の部屋に走っていってガムテープを入手する。そのルート上には体力を取り戻しつつあるばばあが居たので、タックルをかまして再び体力を削っておくことにした。
ヒィヒィ言いながら娘のもとに帰ってきたクニーセクはガムテープで娘の片足をドアノブに括りつけ、機動力を奪った。よく機動力を奪う男である。
全員を無力化することに成功したクニーセクは、この後たっぷりと時間をかけて3人をいたぶる…というスケジュールを夢想したが、思わぬハプニングの惹起により“理想のショー”はボロボロと破綻してゆく…。

f:id:hukadume7272:20210629030824j:plain死んだ母ちゃんに漂うデヴィッド・リンチ感。

 ここから先はひどい話なので書かないことにする。私にそんな趣味はないし、犯行の手口をレポートするくらいならソーセージのことを書いていた方がましだ。
本作の公式サイトでは多くの著名人が、やれ「伝説の傑作」だの「見たら精神に異常をきたす怪作」だのと持ち上げていたが、べつだん私は何の刺激も受けなかった。むしろ恐ろしく退屈で、目をトロリとさえさせていた。
好事家いわく「殺人鬼の生態がリアルに活写されてるから凄い」らしいが、リアリティとやらに凄さを感じることほど映画鑑賞において無用な視座はなく、また、そのために引き延ばされたワンシーン・ワンショットのフィルム的遅延を許容するに足る映画的衝動がもっぱら主人公の殺人衝動へと転嫁されている点もなかなかに度し難い。

早い話が、映画としてのおもしろさが“主人公の人物造形のおもしろさ”にすり替えられた作品だってことがオレは言いたいのかなぁ? 訊かれても困るよね。

同じ実録殺人鬼モノでも『ヘンリー』(86年) の方がよほど腰の入った作品だと思うのだけど、まあ、この辺は好みだろうな。つまるところ『アングスト/不安』は勘だけで撮られた感性優位の作品なので、正直こちらとしても論じるべきことがない。こんな所で好き嫌いの話をしてもしょうがないのだし。
あ。犠牲となる娘を演じたシルヴィア・ラベンレイターが可愛かったです。

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娘ちゃん。

(C)1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion