シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ずべ公番長 夢は夜ひらく

圭子の夢ばっかり夜ひらくやん。

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1970年。山口和彦監督。大信田礼子、宮園純子、賀川雪絵。

新宿での啖呵も颯爽と、女だてらに仁義をきる。とびきりハクいずべ公どもが、魅せて! 聞かせて! 暴れます! 「ずべ公番長」シリーズ第1弾!(Amazonより)


前回までのあらすじ。
『アングスト/不安』評を最後に突如行方をくらましたふかづめ。思わぬ事態に、ヘヴィ読む者たちはアングスト/不安を抱えながら眠れぬ夜を過ごすこととなった…。
だが失踪から20日後、消滅したかに思えたふかづめが奇跡の帰還を果たす!
そんなわけでおはよー。
いっやー、後頭神経痛で頭がパキパキになっており、座して頭痛と戦う20日間を過ごしていたよ。幾らかマシになってきたので更新を再開するね。お待たせえー。

それにしても、連日感動を届けてくれたよね。東京オリンピック。とりわけ新競技の「ベッド破壊」からは目が離せませんでした(イスラエルの選手が金メダルにかがやいた)。
ちゅか、トップアスリートたちが一堂に会すオリンピックがあるのなら、一般人…通称パンピーたちの間で繰り広げられるパンピックが開催されてもいいのにねえ?

パンピック。それは並以下の身体能力を誇るパンピーだけに出場資格が与えられる国際競技大会。スポーツ経験といえば学生時代の体育のみ、という生粋の運動不足勢による生活習慣病の祭典である。
いま、ルール理解すらおぼつかない凡人同士の頂上決戦の火蓋が切って落とされる!
凡戦に次ぐ凡戦! 肉離れに次ぐ肉離れ! プレミの嵐。失格の竜巻。反則の輪舞(ロンド)。退場の仮面劇。棄権のハリケーン!
選手村が廃倉庫。競技中にスマホ。何かにつけてチャレンジ要求。ビデオ判定のトルネード! ほぼビデオ鑑賞会! 審判はその辺の自治会役員。しかも乱視! 開会式はおばはんの「夏色のナンシー」。おばはんも乱視! コートの中に犬乱入。混合ダブルスで味方しばく。スタートダッシュで足ぐねる。国旗のかわりに犬つるす。うっかり帰省して決勝ポシャる。セットポイントで犬乱入。ビデオ判定に犬乱入。閉会式はおっさんの「セイユーセイミー」。こいつも乱視。閉会式にも犬乱入。
そんなパンピックを、『シネマ一刀両断』は応援しています。
頑張っちゃおっか!

茶番もそこそこに、本日より昭和キネマ特集が始まるで! これがシネトゥなりの東京オリンピックじゃいいいいいいいい。
これまでに昭キネは三回開催してます。「昭和キネマ特集」、「続・昭和キネマ特集」、「帰ってきた昭和キネマ特集」。過去の昭キネが読みたい奴はこちらをレッツ・クリック、クリティック。
そして第4弾となる今回は……
「復讐の昭和キネマ特集」
復讐の毒牙があなたを襲う! 読む者を混沌のちゃんこ鍋へと突き落とす、目くるめく鍋奉行によるおしおき!

 そんなわけで本日は『ずべ公番長 夢は夜ひらく』です。とにかく夢がひらきます。ひらかないかな…?と不安視してた夢も、結局ひらきます!

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◆圭子の夢がのべつ幕なし夜ひらく◆

 東映の梅宮辰夫主演の『不良番長』シリーズを皮切りに、和田アキ子と梶芽衣子が主演を務めた日活発の『野良猫ロック』シリーズや、鈴木則文が東映で手掛けた『スケバン 女番長』シリーズなど、60年代末~70年代初頭にかけては不良映画の最盛期であった。やくざ映画に無関心の若者をターゲットに、セックス・ドラッグ・ハードアクションをごた混ぜにした低俗娯楽産業の祝福さるべき勃興!
 そして本日は、東映の山口和彦が贈る『ずべ公番長』シリーズの第1弾!
主演は大信田礼子。当ブログでは『めくらのお市 命頂きます』(70年)におけるチャキチャキの下町娘の役で登場。


 映画は女子鑑別所・赤城学園における謎のキャットファイトに始まる。道を踏み外したズベ公たちが花嫁講座を受ける中、ナチュラル・ボーン・ズベの夏純子が「女の幸せは結婚にあり」と説くババア講師に向かって生卵をぶつけ、花嫁衣裳を着た淑女ズベに掴みかかったのだ!
その夜、どうにも気が収まらない夏純子は再び淑女ズベに言いがかりをつけ、仲裁に入った大信田礼子を風呂に突き落としてしばき合う! 無論スッポンポンで。

純子「花嫁修業が何さ。あたい達がシャバに出ても、一生かかったってあんな白無垢が着られるわけないんだよ!」

礼子「ソレとコレとは話が別でやんすよ!」

どうにも気になるやんす口調。
悲鳴を上げながら全裸で逃げ惑うエキストラ・ズベたちの尻が右へ左へとスクリーンを横切るさまは、さながら尻の六本木交差点。
刹那、ストップモーションが掛かって『ずべ公番長 夢は夜ひらく』のタイトルバック。ジャジャーンと流れたるは藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」

赤く咲くのは けしの花
白く咲くのは 百合の花
どう咲きゃいいのさ この私
夢は夜ひらく~

十五、十六、十七と
私の人生暗かった
過去はどんなに暗くとも
夢は夜ひらく~

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ひらいたなぁ~。
ひらくべくして、ひらいたな~。

 そのあと、赤城学園の独居房で過ごすメインZUBEたちの営為が映し出され、不意のストップモーションとともに各キャラクターの役名・出身地・罪状がキャプションされ、そこに「ジャジャ~ン♪ ドコドン!」という大仰なSE。のちに『仁義なき戦い』(73年)でも使われた東映お得意のキャラ紹介演出である。

 1年後、シャバに出た礼子はミニスカートでチャリンコを漕ぎもって「圭子の夢は夜ひらく」を熱唱しながら町中を飛ばしていた。
またすぐひらくやん。
たったいま聞いたばかりの主題歌、またすぐ歌うやん。
それにしても、このシーンの大信田礼子。汚いハスキーボイスとは裏腹に、いかにも可憐なおさげ髪! このギャップがいい。カメラは露出した礼子の太ももやパンティーをジャッカルのように追い続ける。礼子も礼子で「まあ、撮りたいなら撮ってもいいよ」と言わんばかりの余裕の面持ちでチャリンコを漕ぎ続けた。「圭子の夢は夜ひらく」をしつこく歌いながら。

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 礼子はクリーニング屋に住込みで働いていたが、鑑別所あがりの不良少女ゆえに婦人から嫌悪されており、そのうえ主人からスケベをされた為についに激怒。これまで淑女のように振舞っていたが、べらんめえ口調で啖呵を切って出て行った。古巣の新宿に戻った礼子は赤城時代のズベ公仲間たちと合流し、ナイトクラブ「ばあ 紫」で働く。
ばあ 紫…。
「…多分あかんのちゃう?」と不安視したくなるようなネーミングセンスである。
そこに居たのは、男騙しの橘ますみ、ジャックナイフの賀川雪絵、嘘八百の集三枝子、盗み上戸の佐々木梨里、ゲイの六本木はるみ
彼女たちの上に君臨するママも赤城出身の元ズベ公、宮園純子

クラブでのシーケンスはなかなか楽しいです。
70年代初頭の日本風俗は当時のアメリカやフランスのサイケデリック文化に感化されていたので、本作でも最先端のファッション、ゴーゴー、GS(グループ・サウンズ)を申し訳程度に取り入れている。
 わけても見所はゴールデン・ハーフの出演シーン!
ゴールデン・ハーフとはメンバー全員がハーフで構成された女性アイドルグループで、1970~74年までテレビ・映画・音楽シーンで鋭意活動しました(のちにリーダーのユミが純日本人だったことが発覚)
本作では、デビュー間もないゴールデン・ハーフの面々がスリー・キャッツの「黄色いさくらんぼ」を鋭意カバー!!!

若いむすめは ウッフン♡
お色気ありそで ウッフン♡
なさそでアハン♡
ありそでアハン♡
ほらほら 
黄色いさくらんぼ~

つまんでごらんよ  ワン!
しゃぶってごらんよ ツー!
あまくてしぶいよ  スリー!
ワン・ツー・スリー ウ~ン!
黄色いさくらんぼ~

 

ふむ。


ゴールデン・ハーフ「黄色いさくらんぼ」(YouTubeより)


 そのあと登場するのが、さっき夢がひらいたばかりの藤圭子ご本人! で、出た~。宇多田ヒカルのリアリーママンだね。
藤がギターを引っ提げて店内で歌い上げた曲は、当然ながら「圭子の夢は夜ひらく」

昨日マー坊 今日トミー
明日はジョージかケン坊か
恋は儚く 過ぎて行き
夢は夜ひらく~

夜咲くネオンは 嘘の花
夜飛ぶ蝶々も 嘘の花
嘘を肴に 酒をくみゃ
夢は夜ひらく~

なんぼほどひらくねん。

圭子の夢ばっかり夜ひらくやん。
OPで1回、礼子の鼻歌で1回と、こちとら既に2回聴かされてるんだけど。しかも3回目に至ってはフルコーラスだよ。
映画はまだ22分。わずか22分のあいだに同じ主題歌を3回も聴かされる方の身にもなりなよ。
圭子、ひらきすぎだから! 夜に!! 夢が!!!

f:id:hukadume7272:20210604083516j:plain夜とあらばすぐひらく、圭子の夢。

◆ギシギシうるせえ安物のセットの橋のうえで女待ってる男は大体ラストでガッサァーいかれて死ぬ説◆

 ここからようやく物語が動き出します。
その夜、ジャックナイフ雪絵の妹・五十嵐淳子がバーに現れ、姉に金を無心した。淳子は薬物中毒で、ドラッグの売買や売春を斡旋している大羽興業の金づるであった。ドラッグを捌いているのは、オープニングシーンで風呂ファイトを仕掛けたナチュラル・ボーン・ズベこと夏純子。
余談だが、ヤク中女子を演じた五十嵐淳子のリアリー夫は中村雅俊(長男の中村俊太は2009年に大麻所持で逮捕されてます。黄色いさくらんぼ~)。

 そんなわけで、姉の雪絵は大羽興業からシャブ漬けの妹を救うために単独奮起し、そこへ礼子率いるズベ公たちが助力。一方、ママの宮園純子は高利貸しと結託してバーの買収をはかる大羽興業社長・金子信雄の罠にかかり金をゆすられるエブリデイ。

ていうかジュンコ多いな、この映画。
宮園純子に、夏純子に、五十嵐淳子…。ジュンコばっかりやないか。いちど整理してニックネームをつける必要があるわ。

宮園純子…クラブのママ。以降「純子ママ」で表記。

夏純子…悪役のナチュラル・ボーン・ズベ公。以降、ナチュラル・ボーン・ズベを略して「NBZ純子」で表記。

五十嵐淳子…雪絵の妹。ヤク中。以降、わかりやすさを考慮して「ヤク・チュー子」で表記。


 その後、礼子はドラッグを奪って逃げたヤク・チュー子を匿ったために、追手のNBZ純子から決闘を挑まれます。空地でのキャットファイトが火をふく!
「これでも喰らいな」「そんなん、しやんといて」「たんま、たんま」などと訳のわからない呪文を唱えながらのヘナヘナのハードアクションが観る者を興奮のるつぼへと叩き落す!
技斗がしょぼい!!
パンツ丸出し!!!

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手に汗握るハードアクションがあなたの胸を打つ!

 死闘の末、礼子がNBZ純子の腹に膝蹴りをかまし「ウッ!」と前屈みになったところへ、お祈りの時みたいに両手を組んで相手の背中にドーンって叩きつける『ドラゴンボール』でよく見るやつをやってのけ、見事NBZを撃破した。
だが勝利後、礼子は大羽興業のやくざに拉致され、この報を受けた純子ママは、礼子の解放を条件に300万円を大羽興業の金子に支払う。
一方、雪絵がやっとの思いで救い出したヤク・チュー子はオーバードーズで死亡してしまい、純子ママはその遺体と引き換えに店の権利書を渡してしまった。完全敗北であった。女だてらに不良を気取れど、大組織の大羽興業には敵わないのか…。

 そんな折、純子ママの想い人が刑期を終えてシャバに出てきた。
この男は、かつて純子ママの父親を殺した大羽興業のヒットマン。だが純子ママは、あろうことかこの仇に惚れてしまい、人知れず彼の出所を待ちわびていたのである。
その男こそ…梅宮辰夫

f:id:hukadume7272:20210604085901j:plain純子ママと辰ちゃん。

大羽興業への復讐を決意した純子ママは、ひとり雨の夜、ギシギシうるせえ安物のセットの橋を渡っていると、その橋で傘をさして待っていたのが、辰ちゃん!

辰ちゃん「待ってた…」

純子ママ「辰ちゃん…。あんたには関係ないわ!」

辰ちゃん「さぁ。そいつぁどうかな…」

純子ママ「父を殺したことの義理立てだったら、やめて…」

辰ちゃん「昔のことは忘れた。俺はてめぇの好きにするだけだよ」

純子ママ「言い出したら聞かなかったわね。昔から…(ちょっと笑う)」

辰ちゃん「そう、昔からだ…(ちょっと笑う)」

なんやそれ。
ふたりは相合傘をして大羽興業に向かいます。ロマンチックなJAZZのトランペットが雨夜の二人をプープー冷やかす。
パターン入りました。
これは完全にパターン入っとる。『緋牡丹博徒』シリーズもそうだけど、この展開は任侠映画の定石なんだ。
女だてらに殴り込みに向かう道中にゃあ愛した男が待っていて…のパターンだよ!
そしてラストシーンでは必ず男が瀕死の重傷を負い、女の胸の中で「俺ぁ、おめぇに惚れてたんだ…」とかなんとかブツブツ言いながら死んでいくっていう、お決まりの流れなんだよ! ぜんぶ見通しだ!!

f:id:hukadume7272:20210604083802j:plainギシギシうるせえ安物のセットの橋で純子を待ってた辰ちゃん。

 さて。大羽興業に殴り込みをかけた純子ママ&辰ちゃんがドスを振り回してハードアクションをしていると、ズベ公を引き連れた礼子が「助けに来たぜ、ママ!」と助太刀に現れた。
ここからは切った張ったの大乱闘ズベ公シスターズである。大羽興業のやくざ達を短刀でズバズバ斬り殺すのだけど…世界観的に殺人はナシじゃない? と思わないでもない。一応、本作はやくざ映画じゃなくてスケバン映画なので、殴る蹴るの暴力沙汰はあっても「殺人」とは一線を引くのが筋なんじゃ…。
…と、このように、私が映画内のリアリティラインに思いを馳せているあいだもズベ公VS大羽興業の殺し合いは騒がしくおこなわれていて、途端! 辰ちゃんが社長金子の一太刀から純子ママを庇って背中をガッサァーと斬られてしまう。
ぶっ倒れた辰ちゃんを抱きしめ、涙滂沱として禁じえない純子ママの悲しきロォマンスが火をふく! 冷やかしのトランペットがプープーと火をふく!

辰ちゃん「俺ぁ、足洗って、おめぇと…おめぇと…。がくっ」

純子ママ「辰ちゃん、しっかりして! 私を残して逝っちゃヤだ!」

ソーレミーローだよっ。
それみろ、言わんこっちゃねえ!

ギッシギシうるせえ安物のセットの橋で辰ちゃんが傘さして待ってた時からこうなる事はわかってたよ!!!

キザに死ぬヤツだけがギシギシうるせえ安物のセットの橋で惚れた女を待ってんだよ。ほいで絶対ガッサァーいかれんだよ。ガッサァーの運命(さだめ)なんだよ。この手の映画は。
きしめ、ベタな愛!

f:id:hukadume7272:20210604090512j:plain辰ちゃんが斬っちゃんされて逝っちゃん。

 大羽興業を全滅させたあと、警察に捕まった礼子たちが護送車の窓越しに夜明けの新宿を眺めながらワイワイと騒ぐ様子を最後に映画は終わる。
「どうやらこれであたい達、赤城に再入学ってワケだ!」
「あたいも入学するワ!」と嘯いたのはゲイの六本木はるみ。すべては想い人を失った純子ママを励ますための空騒ぎだった。カラスが鳴き、白んだ空に太陽が昇りくる…。
そこへ流れる、例の曲!

前を見るよな 柄じゃない
後ろ向くよな 柄じゃない
よそ見してたら 泣きを見た
夢は夜ひらく~

一から十まで 馬鹿でした
馬鹿にゃ未練はないけれど
忘れられない 奴ばかり
夢は夜ひらく 夢は夜ひらく~

 

朝やぁ言うてんねん。

空白んでカラス鳴いとんねん。なんで夜明けのラストシーンなのに「圭子の夢は夜ひらく」を是が非でもねじ込もうとすーん。
本日4度目だぞ、この曲。歌謡プロパガンダがすごいよ。耳のサブリミナルがすごい!

f:id:hukadume7272:20210817030053j:plainむちゃむちゃ明け方やんけ。「圭子の夢は夜ひらく」を流すんだったら夜終われ。朝迎えんな。

殺すぐらいなら遊ばせろ。それがシネスコの掟!

はい。この最終章ではマジメに映画評しまーす。

 元来、女主人公の東映アクション映画といえば藤純子や梶芽衣子のような“オンナ”の匂いがする役者が選ばれがちで、業を背負いし主人公の裏社会における渡世を演歌調に描いた復讐譚が主だったが、そこへきて大信田礼子のカラッとした陽性ミューズぶりはいかにも意外、されど明朗。サイダーのような爽快感! こいつはまさにアウトサイダー!
手足が長く、肉感的で、親しみやすく目鼻立ちがくっきりとした“わかりやすい顔立ち”。
まるで本作に出演した宮園純子を『緋牡丹博徒』シリーズの藤純子に、ゲスト出演の藤圭子を『女囚さそり』シリーズの梶芽衣子に重ね合わせ、それでも大信田礼子の主演女優としての素質、そして東映アクションの未来を観客に見せつけるかのような威風堂々たるキャスティングである。限りなく王道キャスティングに映りもする飛び道具としての大信田礼子がここまで開花することを、果たして宮園純子と梅宮辰夫が主演を飾った『妖艶毒婦伝 お勝兇状旅』(69年)を担当していた当時のスタッフの誰が予想していたでしょう。

f:id:hukadume7272:20210604093656j:plainサイダーのような大信田礼子。

 同時に本作は、ある程度の映画論に堪える強度を持った作品としても褒めておかねばなりません。
本作は16:9のシネマスコープで撮られているのだけど、それが好く活用されているのが横臥のイメージ。
映画後半、オーバードーズで死にかけているヤク・チュー子が姉の自宅に運ばれて横の構図にすっぽりおさまると、時を同じくクラブの買収を取りやめることを条件に金子に抱かれた礼子もまた横の構図におさまる(2つのショットの相似性については下記添付の画像を参照せい)。
しかも、ダメ押しとばかりに2つとも白のイメージで統一されているのが分かると思うナ。死を連想させる白装束だよ。実際、ヤク・チュー子はそのまま死亡してしまい、金子に犯された礼子も大羽興業のやくざから半殺しにされて事務所の外に叩き出される(その時のショットも横構図)。

f:id:hukadume7272:20210604093638j:plain金子に抱かれた礼子(上)、死んじゃったヤク・チュー子(下)。

 また、シネスコを“イメージの連鎖”に活用した構図演出は、よりファッショナブルに、よりナンセンスにフィルムの切っ先で遊戯する。
人物ではなくカメラそのものが横臥するというのだっ。
自動車整備工場のシーンでは、車の下に潜っていた整備士の視点から大信田礼子を見上げ、ナイトクラブのシーンではイントロでリズムを取るゴールデン・ハーフ(エバちゃんかな?)をアオリ構図からカメラがすっぱ抜く。
シネスコによく映える洒落たショットだが、いずれも女の子たちのパンチラを狙っただけという撮影意図を汲んでしまうと途端にくだらなく思える、本作屈指のキラー馬鹿ショットと言えすぎる。
まぁでも、タランティーノとか好きな人にはタマランティーノでしょう?

f:id:hukadume7272:20210604101652j:plain当時の観客はどう思ったか知らんが、今見ると結構いかすよね。 

シネスコをまったく活用できぬまま、愚かにも“死んだ余白”を作り続けてしまう作家が(主に松竹/日活で)散見される中、本作のように通俗映画でありながらも悪戯心を跳ねさせる余裕を垣間見れたのがうれしい。「殺すぐらいなら遊ばせろ」をシネスコ論に持つ私としてはねえ!

 そんなわけで本作の魅力は、大信田礼子の茶目っ気とパンチラ、シネスコを贅沢に乱用した画面構図とパンチラ。
「圭子の夢は夜ひらく」も4回聴けます。
実際、人気絶頂だったころの藤圭子を拝める映画としても本作は重宝されていて、「出番が少ない」「もっとセリフ増やせ」「チョイ役なのにポスターにデカく映りすぎ」など高い評価を受けているというよ!

最後に、私が発表するBESTパンツ丸出しショットに選ばれたのは、恋仲になった幼馴染み、礼子と谷隼人の海デートで激写されたこの一枚。
礼子のパンツがやたらでかい。
心なしかズレてもいる。

f:id:hukadume7272:20210604091955j:plain「白組、海へ帰る」