シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

江戸っ子肌

恋の火、江戸の火、ダブルミーニングでバーニング。ヤケドじゃ済まない、アチチのチ組。

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1961年。マキノ雅弘監督。大川橋蔵、黒川弥太郎、山形勲、桜町弘子、淡島千景。

情緒たっぷりな大江戸を背景に火消しと町火消しの対立、その陰で泣く女心。悪の非道に立ち向かう江戸っ子火消しを描いた痛快巨篇。(東映より)


 おーおー。やろか。
昨日、顔馴染みのおっさんとスーパーの前ですれ違ったんだけど、右腕にロックマンみたいなギプスを付けていて、とても痛々しかったな。
このおっさんは、いつも私を見ると「元気?」と声を掛けてくれるのだが、この日も「元気?」と言われたので「おまえが元気かよ?」と思った。むちゃむちゃ骨折しとるやないか。そんな有様で「元気?」もヘチマもないよ。誰が誰に言うとんねん。

 そんなわけで、私が「腕、大丈夫ですか?」と問うたらば、おっさん、「最初に折った骨がまた折れてん」と言った。
最初ってなに。
「また」ってなに。

「最初に折った骨」とか「また折れた」とか言われても、こっちは肝心の1stブロークンボーンを知らないんだけど。1巻読んでないのに2巻の話されても。
たとえば私が以前、このおっさんから1stブロークンボーン・ヒストリーを聞かされていたら「ええっ。また折ったんですかぁ? あほちゃう?」とかなんとか返せるけど……読んでないのよねえ、その1巻。
だのに、おっさんときたら、皆さんお馴染みのあの名作漫画には続きがありました!とばかりに「最初に折った骨がまた折れてん」だなんて2巻をグゥ~~っと突きつけてくる。
知らん。読んでへん。
2巻グゥ~しやんといて。

 その後、こっちはイライラしながら「1stブロークンボーンの話をぼくは知らない」と何度も言ってるのに、おっさん、「骨がズレてんねん」「ズレたまま折れたからタチ悪いねん」「で、その骨のカケラが肘に悪さしよんねん」などとのべつ幕なしに話し続ける。
ちょお、止まれ止まれ。
むちゃむちゃ新巻だすやん。
おまえ…いま一気に5巻まで出したけど、おれ1巻読んでへんからな?
正気か。なんやこいつ。こっちがとうに見失ってる話を「よっしゃよっしゃ。付いて来てるね!?」みたいな班長ヅラして喋りまくっとる。夜にカレー作るんか? ロックマンみたいなギプスしてるのに?
もう面倒臭くなったので「お大事になさって下さい」とだけ言って、スーパーの中にピュッと逃げた。

そんなわけで本日っ。
なんと、8月から続いた「復讐の昭和キネマ特集」も今回が最終日です!

2ヶ月半近くもダラダラやってた事へおどろき、というパワートピック。

せっかくなので皆さんと一緒に驚いてみたいと思います。うわああああ。
2ヶ月半近くもやってた割にたった14記事しか残せなかったというパワーニュース。安倍さんのような働きを僕はしました。
そんな最終回となる本日は『江戸っ子肌』です。せっかくの最終回なのにハナシは逸れに逸れ、ぶりんぶりんに脱線してます。へた打った~。

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◆ 火事と喧嘩は江戸の華! ~この二人いいー編~◆

 マキノ雅弘『江戸っ子肌』を観た。
張りきってレビューを書いたはいいものの、大きいポスター画像が見つからず150×210の極小サイズしかなかった。とっても残念。
引き延ばしたらスーファミのドット絵みたいになるから、引き延ばす気がある人はぜひ引き延ばしてみて。

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証明写真ですか級の小ささ。


気を取り直して『江戸っ子肌』です。
ある夜。加賀藩お抱えの大名火消し「加賀鳶」の大川橋蔵は、権力を笠にきる旗本・石黒達也にかどわかされた生娘・桜町弘子(以下SAKURA)を救い出したが、SAKURAは加賀鳶と敵対する「は組」の纏持ち・黒川弥太郎の妹だった。
橋蔵と弥太郎は、江戸で火事が起これば競って消し札を立てる間柄。されど、は組と加賀鳶の因縁は親の代より継がれし遺物に過ぎぬ。当人同士には何の怨みもないが、ただポーズとして親同士の因縁を子が踏襲しているだけなのだ。

弥太郎「妹を救ってくれたのは有難いが、その相手がよりによってお前さんとは。こりゃまた礼が言いづらい…」

橋蔵 「いいってことよ。は組のメンツもあらァしな。気にすんなぃ!」

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この二人…いい!

立場上は険悪な関係を演じてはいるが、本当は気の合う仲で、分かり合おうと思えばスッと分かり合えるんだろうね。
いいー!
他方、SAKURA救出劇に一役買ったのは、揉め事仲裁で小銭を稼ぐ貧乏家人・山形勲であった。なんとも間の抜けた大男だが、その気になれば天下敵なしの剛剣の士。ソードマスター。こちらにも妹がいて、柳橋芸者の淡島千景は橋蔵にゾッコン。兄のソドマスを使って橋蔵と恋仲になろうと必死だ。
ところが此度のSAKURA救出劇を機にSAKURAが橋蔵に惚れちまう。橋蔵もSAKURAに岡惚れときた!

f:id:hukadume7272:20210922003259j:plain兄のソドマスに恋愛相談する千景。

さぁ、話はややこしくなってきた。敵対関係にある男女が禁断のトゥルーラブに落ちたのだ。こいつぁまさしくロミオとジュリエット。
火消しの恋はさらに燃えるか鎮火するか!?
火事も恋路も、お熱いね。
「隊長! この愛、消火できません」
そんな二人の陰に千景あり。柳橋の炎帝にして、燃ゆる瞳の恋敵。火遊びに非ずは火を見るより明らか。
恋の火、江戸の火、ダブルミーニングでバーニング。ヤケドじゃ済まない、アチチのチ組。
火事と喧嘩は江戸の華! 最大火力でこんがり焼かれた、マキノ渾身の燃えカス映画! “燃え”と“萌え”が詰まった感動巨篇に心焦がれる86分!

『 江 戸 っ 子 肌 』!

f:id:hukadume7272:20210922003431j:plain大迫力の火事場面。

◆マキノの金脈を採掘せい ~モーレツ管巻き編~◆

 実にちゃきちゃきな作品といえるんだよな~。
江戸の火消しの恋と人情をさらりと描きあげた快活作。世界で唯一と言っていいほどジョン・フォードと同列に語りうるマキノ雅弘の美技が冴え渡った。
いやねえ。私事ではあるが、マキノ雅弘ってオシッコちびるから観たくないのよね。
あまり理解されないだろうが、映画好きとして「ここを掘り切ったら、もう終わり」という危うげな予感が私にマキノを鑑賞させぬのだ。俗にいう“ラストダンジョン症候群”の映画版なのかもしらん。

ラストダンジョン症候群…RPGゲームにおいて、ラスボスがいるダンジョンの手前(=ストーリー終盤)で急にゲームをやめてしまうこと。長期に渡るゲーム体験の思い入れから「ここをクリアしたら全て終わってしまう」という虚無の心理に陥るあまり「逆に言えばクリアさえしなければ一生ゲームの世界に居続けられる!」と飛躍した結論を唱えてラストダンジョン手前でゲームを放置する人民の生態。その静態。イェア。


俗にいうラストマキノ症候群である。アメリカ人にとっては当時のフォードやホークスがそれに当たるのかもしらん。
尖った作家性ゆえに不幸にも「天才」扱いされた溝口健二や、映画史に対するごく慎ましやかなテロ活動ゆえに正しく「奇人」扱いされた小津安二郎、あるいは作品の知名度を監督の知名度が上回ってしまったことで映画人から「有名人」になってしまった黒澤明などがメディアを賑わせたことで、その後の日本映画は鈴木清順にせよ深作欣二にせよ大島渚にせよ若松孝二にせよ、何らかの“爆弾”を抱えた個性的かつ戦闘的な作家が台頭し始めた。いや、台頭せざるをえなかった(もっとも野村芳太郎のような個性も技量もない愚才もいれば牧歌的無害性に充足した伊丹十三などもいるが、80年代末に北野武が出現したことによって色々なんかチャラになった)。


 さて。海外の映画シーンに目を移してみると日本映画がいかにマシかがよく分かる。どいつもこいつもショットが撮れず、というか多分ショットという言葉の意味すら分かっておらず、作家性それのみで映画を撮ってらっしゃるじゃん。
本人の名誉のためにも名指しは避けるが、まあ、近年でもヨルゴス・ランティモスとかアリ・アスターとかニコラス・ウィンディング・レフンとか。日本にも沢山いるけどね。岩井俊二とか園子温とか蜷川実花とか。本人の名誉のためにも名指しは避けるけど。
こんなのは氷山の一角よ。むしろ今挙げた連中は“それ”でここまで来たのだから、よほど豪運のラッキーボーイ&ガールだ。一定数のファンを魅了するくらいにはカリスマ性もあるのだろう。HA! 賞状でもやらんと。

 だが、それに類した有象無象どもが次から次へと湧いてくるのだ。キューブリックごっこやリンチごっこやタランティーノごっこのうすら寒い事といったらないだろ。いつから映画は“天才監督さん”のオママゴトに付き合うスクリーン越しの接待になったんだ? 
こいつはまさしく、作家主義を拡大解釈したかのような「個性主義」とも呼びうる無手勝流の極北。しかし、奴らが後生大事に抱えてる“爆弾”はオモチャの爆弾でしかない。
結局のところ、そういう連中は「個性」にすがることでしかモノを表現できないのだろう。
…いや。ショットが撮れないから個性に走る。あ、なるほど。
まかり間違っても70年代に日本映画をアジテートした“個性的かつ戦闘的な作家”を称賛するつもりなどないが、それ以降の映画は特にひどいねぇ。私に言わせれば、奴らがすがっているのは「個性」ではなくハッタリ。「戦闘的」ではなく戦闘的なポーズを取ってるだけの強がりだ。
ハッタリと強がり。つまりガキってことだ。

f:id:hukadume7272:20210922003708j:plain橋蔵の戦うようす。

 話が長くなってすまん。だがまだ終わらん。
いま、世界的に“ショットが撮れない病”が蔓延しており、ほとんどの映画が消耗品化しているが、まあ尤なことだ。どれだけすぐれた映画を撮っても、それを「すぐれている」と評価できる目が観る側にないのだし、そうなると経済的必然性をもって映画は商業主義と個性主義に二分化されるからだ。
早い話が、いま劇場でかかってる映画の大半は「バカ向け映画」「おしゃれ映画」の大体2種。お好きな方をどうぞ。日本の場合は、自国で「バカ向け映画」を量産しつつ海外から「おしゃれ映画」を買い付けるという作戦でコソコソやってる。ホムンクルスみたいに。


 このモーレツ管巻きを通じて言いたいことは、う~~ん…なんだろな。職業監督と呼ばれる人たちの文化的裨益なめとったらど突いたんぞ、ってことかな。どう思う?
厳密にはマキノ雅弘は“作家”なのだが、おそらく素人目には職業監督にしか見えないだろうから便宜上ここでは職業監督という事にしておく。

日本映画はマキノ雅弘を最後に、すぐれた“職業監督”の系譜が絶たれてしまったまま、たとえばアメリカにジョン・フリンやリチャード・フライシャー、また最近の人でもジェームズ・マンゴールドなどの逸材の出現を許しながら今日までのうのうと生き長らえてきた。そんな体たらくで日本映画の不況を嘆かれても「そっちが撒いた種なのに?」としか言いようがないだのけど。

つべこべ言う前に、まずマキノの金脈を採掘せい。

あほみたいにザクザク採れるぞ。

f:id:hukadume7272:20210922003752j:plain大川橋蔵と淡島千景。

 大川橋蔵の見栄と美貌をはじめ、さっぱりとした艶笑譚、パンチライン多き台詞回し。また黒川弥太郎と山形勲を同形フォルムにまとめ上げた戦略的ミニマリズムのハリウッド的昇華。日本にいながら“ハリウッド映画”を撮れるマキノというものに対して、人はもっと意識的であっていいはずだ。
それでいて胸突き八丁を知らぬ、縷々としたショットの旋律。
おや。よく見るとスタジオ撮影だろうに役者陣の吐く息が白い。季節感を出すためにここまでやるか。画面の隅でも端役に芝居をさせるシネスコも実に見応えがある。

さらに驚くことに、ドリーアウトはするがドリー/ズームのアップはほとんど使ってない。つまりアップで見せたいときほど役者をカメラに向かって歩かせているわけだ。この振舞いがキャラクターの能動=カメラの受動を制度化させる。キャラクターが物語を引っ張り、その活力が“活劇”となるから、自ずと透徹するカメラはそこに存在しながら不在化してゆくわけ。
その他、カメラのフォローや細かい回り込みといった一切のテクニックが無痕跡化された“証拠なき傑作”の完全映画が1秒ごとに輝きを増していく、何らかの罪状をつけられて然るべき快楽体験。

ゆえにオシッコをちびるという。
裁きようもねぇぞ、こんな映画。


 頼むから、これだけは知っていてくれ。
よくTwitterとかにのさばってる映画好きは、これ見よがしの技巧に「しゅごーい!」と絶叫しもって傑作だとか天才だとか完璧なんて語をみだりに濫用するが、ヘイヘイ、浅瀬でパチャパチャやっとったらしばいたるぞ!

この世には“技巧すら見えない映画が存在する”ってことをそろそろ分かれ。

そして、オレたちはそういう映画をずいぶん見落としてるな~~見逃してるな~~まだまだ浅瀬の観る者だな~~…って、一緒に反省しようや。
しょせん我々ごときが思い上がっていいほど映画は単純ではない。現にオレは「映画」という日本語さえ意味も分からずに使ってるんだし。


 そういえば学生時代、頭はよさげだが無性にイラっとする人と映画の話になったことがある。開口一番「映画って深くておもしろいよな~」とそいつが言った。
顔たたいてやろうかと思った。
この手の輩はたたくに限る。
当時、芸大に通いながら「芸術」というものにキレ散らかしていた私は年中無休で気が立っていた。今にして思えばとんだ気ちがい沙汰だが、当時の私はぶち切れながら週4で劇場やレンタル店に通い、ぶち切れながら映画を年間630本ぐらい観て、ぶち切れながら毎日SNSに映画評を2本あげていたのです。タイピングに怒りを込めすぎてパソコンを3台潰した。スタタタタタ…パチーン!やからな。
なぜ、当時の私はぶち切れながら映画を観ていたのか。
その答えは、そいつが最後にしてきた「ふかづめクンにとって映画とはなーに?」という銀河系最大級にしょうもない質問への答えに集約されていると思う。


知らん。
観れば観るほどわからなくなる。

それでも観続ける。
答えになってなくてごめんな。
でも ありがと♡


「映画って深くておもしろいよね」? 
笑わせんな。でもありがと。

f:id:hukadume7272:20210922004356j:plainARIGATO。