シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ハイ・クライムズ

モーガン・フリーマンがBSで冠番組を持つ映画。

f:id:hukadume7272:20211201042411j:plain

2002年。カール・フランクリン監督。アシュレイ・ジャッド、モーガン・フリーマン、ジェームズ・カヴィーゼル。

建設会社を経営する夫トムと幸せな結婚生活を送っていた女性弁護士のクレアは、今日も今日とて「被告人は悪くないとおもう!」なんつって八面六臂の活躍をみせる。
だがある夜、二人の家に強盗が侵入。警察の捜査により、トムが元特殊工作兵のロナルド・チャップマンという男であることが判明した。しかもチャップマンには、1988年にエル・サルバドルで一般市民9人を殺害した容疑がかけられていた。夫の無実を信じるクレアは、軍事裁判の専門家チャーリーを擁して法廷に立つ…。
「被告人は悪くないとおもう!」


 おー、よっしゃよっしゃ。やろか。
やったらみんな喜ぶからな。

こないだ新京極通りをぷらぷらしてたら、私の前方を2人組の女が歩いてたんだが、なぜかその女たち、プリクラの背景エフェクトみたいなキラキラした燐光に包まれててFantasy。なにあれすごーい。「地上を視察してる天使なんかな?」って思うぐらい輝いたはる。
だが目を凝らして合点。
シャボン玉あそびしてた。
シ ャ ボ ン 玉 あ そ び !!!
しかもよく見ると「どこが天使やねん」と思うような汚ったねぇコギャルで。
汚ったねぇコギャルがシャボン玉遊びしながらオレの前歩いてた。
まあ、それだけなら「ギャルとシャボン。クレイジージャポン」と思うだけのコギャル珍百景なのだが、ちょうどそのとき向かい風だったので奴らのシャボンが全発オレにかかるという開発元ギャルでお送りするクソゲー必至の弾幕シューティングに巻き込まれて。
全身にシャボンを受けて石鹸まみれと化したオレ、「大変大変…」と思って第2波を避けようと頭をブンブン振りながら「ウルフ金串戦の矢吹ジョーかな?」ってぐらいシャボンの弾幕を、しゅ、しゅ、避けまくる。しゅ。おそらく傍目にはイヤポン付けてないのにヘドバンだけはしてる狐憑きのリアルファンシーボーイに見えただろう。
誰が狐憑きのリアルファンシーボーイや。

大体なぁ~、シャボン玉は無垢なキッがやっていい遊びだろ!!
コギャルが商店街でシャボンぷわぷわさすな!!!
家帰って鏡見たら顔つるっつるなっとったわ。「クリアな素肌へ…」やあらへんねん。腹の立つ。
そんなわけで本日は『ハイ・クライムズ』です。勿体ぶりながら謎を宙吊りにした法廷サスペンスなのに誰がどう見ても犯人秒バレ映画の最高峰ですよ。

f:id:hukadume7272:20211201045839j:plain

◆最初から一択の二択◆

 実は過去に書きかけた記事のひとつに『アシュレイ・ジャッドとは何だったのか特集』というアシュレイ・ジャッドでも読まないであろうボツ企画があった。
元来、短命バンドが多いハードロックや、文字通り短命の作家が多い純文学を好む身として、電光朝露、いのち短し表現者の儚さには大いに感じるところがあるのだけど、まさにハリウッド・バビロンこそがその縮図。ある時期の3~5年だけ活躍してポッと消える一発屋スターの何と多いこと。

 アシュレイ・ジャッドは90年代後期からゼロ年代初頭にかけて破竹の勢いでスターダムを駆けあがり破竹の勢いでスターダムから駆けおりたハリウッド女優である。
『コレクター』(97年) 『氷の接吻』(99年)『ダブル・ジョパディー』(99年) など、主にサスペンス映画の代表作が目立つ彼女だったが、『恋する遺伝子』(01年) と本作『ハイ・クライムズ』の興行的不振により陽炎のように銀幕を去ることになったのだ。
黒い髪と赤い唇が織りなすノワールのごとき妖しさと、1940年代のスターと見紛うオールドハリウッドの雰囲気をまとったアシュレイ・ジャッドを…
人は忘れてはいけないとおもう!

f:id:hukadume7272:20220103013527j:plainアシュレイ・ジャッドさん。

 そんなアシュレイ、全盛期最後の作品を飾ったのが本作『ハイ・クライムズ』
エル・サルバドルでの民間人虐殺容疑をかけられた夫を救おうと軍事法廷で戦う弁護士を熱演なさいました。
相棒となる弁護士役はモーガン・フリーマン。通称フリーガン。アシュレイ・ジャッドとは『コレクター』以来2度目となるタッグ共演である。
そしてアシュレイの夫役にジェームズ・カヴィーゼル。この人も90年代後期に活躍した忘却俳優の一人で、『シン・レッド・ライン』(98年) 『オーロラの彼方へ』(00年) を代表作に持つ。そうそう。メル・ギブソンが手掛けた『パッション』(04年) では全編にわたって拷問を受け続けるイエス・キリストも爆演してたな。
その他、味方のヘナチョコ弁護士役にアダム・スコット。そんなアダム坊と肉体関係を持ったアシュレイの妹をアマンダ・ピートが演じぬく。
なんとまぁゼロ年代初頭の郷愁を感じる配役だろうか。心ぬくぬく!

 物語は筋紹介に書いた通りである。読んでない? 読んでこい。
アシュレイの家が押込み強盗に遭ったことで、カヴィーゼル演じる平凡な夫が経歴詐称のダマシ者だったことが発覚。彼は海兵隊の元工作員であり、12年前にエル・サルバドルで一般市民9名を虐殺した事件の容疑者として逮捕されてしまったんだ。
「僕はやってない!」
カヴィーゼルは、かつて同じ部隊にいた副官、ファン・カルロス・ヘルナンデスとかいう昼の帯番組みたいな名前したヤツが真犯人で、上官のブルース・デイヴィソン准将がヒルナンデスを庇って自分に罪を着せたと無実を主張した。アシュレイは誰より信頼していたカヴィーゼルが経歴を偽っていたことにビッグショックを受けながらも、夫の無実を信じて軍事裁判に明るい老弁護士フリーガンに協力を仰ぐ。

いま始まる、やったやらないの押し問答! 
熱き軍法会議の結末をその目で見届けろ!

f:id:hukadume7272:20211201045825j:plain右側がフリーガン。そして左から3人目がフリーガン。

そんなこと言われても、ねえ…?
話の導入部がヘタだから「どうせカヴィーゼルが犯人じゃん」としか思えないわけですわ。
まずアシュレイが夫の無実を頭から信じきってて、虐殺の真偽に関してはやってない前提で話が進んでいくのね。
アシュレイ「夫は絶対無実よ。そんなことより濡れ衣を着せたブルース准将をどうやってギャフンと言わせようかしら!」

そこに焦点を当ててる時点で「実は夫が犯人でした」以外に着地のしようがないでしょ。
作劇的に。

本来であれば、相棒のフリーガンが“裁判には協力しながらも独りで真相を調べる(カヴィーゼルを疑う)役回り”としてミステリを中立化するべきだが、そのフリーガンさえもアシュレイ同様にやってない前提で動いてて。
2人揃って“見てる角度”が同じなんだよ。
つまり観客に「やっぱりカヴィーゼルは冤罪なんだ。かわいそっ」と思い込ませるための粗末なミスディレクション。
てことは、結末で明かされるのは「実カヴィーゼルがやってた」以外ないよね。

 更にメタ発言が許されるなら…まあ、貌を見れば一目瞭然だよ。
ジェームズ・カヴィーゼルという役者はロボットみたいに端正かつ無感動な顔立ちで、嘘をついてるサイコパス丸出しなんだよねえ!
ほな絶対こいつやん。
私が中学生の頃、正義のはごろもを纏った担任教師が「人を見た目で判断してはいけませんョ。偏見は世界を狭くします」とか何とかぬかしてやがったが、うるせえよ。
人は見かけによるんだよ。実際ゲイリー・シニーズは大体黒幕だし、ダニー・トレホもムショ上がりの役者だろ! 偏見は世界を狭くします、という偏見こそが世界を狭くしてることに頼むから気付いてくれ。おねがい。
というわけで、開幕10分で犯人が分かっちゃう底抜けバケツ映画『ハイ・クライムズ』

どこがハイ・クライムズやねん。

アホみたいな映画見せられて…。
俺の気持ちが暗いムズだよ。f:id:hukadume7272:20211201042854j:plain
嘘つきサイコ丸出しのジェームズ・カヴィーゼル(クリスチャン・ベイル似の二枚目でもある)。

◆モーガン・フリーマンのウイスキー千夜一夜◆

 とはいえ私はショットを観る者。シナリオに関してあーだこーだと揚げ足を取るのはポリスィーに反する。
しかしどうだろう! もしポリスィーを曲げてまで揚げ足を取らねばならないほど酷いシナリオだとしたら!?
いいか。これから書くことは酷評ではない。
供養だ。 

まったく、一から十まで粗末なシナリオと言わざるをえな~~い! 4ヶ月半ぶりのブログだってのに復帰1発目がコレかよ! まあ選んだのは俺だがな!
やいやいやーい!!!
そもそもこの映画はフツーの弁護士が専門外の軍事裁判の特殊性に翻弄されながらも頑張って「いぎあり!」って言う映画なのに、肝心の裁判シーンが極端に少なく、法廷映画の醍醐味ともいえるロジカルな舌戦がほとんど行われない。
かわりに何が行われるのかというと海軍による脅迫行為である。
上映時間の大部分がコレ。海軍サイドはアシュレイに対して暴行、いけず、ストーカーといった嫌がらせを続けて「事件から手を引け」と圧力を掛けるわけだが、前章でネタバレした通り…やってないんだよね。海軍サイドは。
圧力なんて掛ける必要ないのよ。
やってないんだから。
なにこの怪しまれたい願望に満ちた清廉潔白な組織。
なぜシロなのにクロの振りをするのか。
映画終盤なんて、車をぶつけてアシュレイとフリーガンを殺しかけてるからね。清廉潔白なのに。ワケわからんわ。
もともとアタック抗菌exで洗ったシャツくらいシロいのに…ほんまにアタックすなよ。

f:id:hukadume7272:20211201050158j:plainアシュレイの妹役はアマンダ・ピート。

 こういう揚げ足のとり方は本来オレのフィールドではないが、すべての登場人物がバカでもあるんだよね、この映画。
まずは真犯人のカヴィーゼル。
今回の裁判に勝ち目はなく、ほぼ死刑確定コースが見えてるにも関わらず、なぜか検察から持ち掛けられた禁固5年の司法取引を断っちゃうのよ。
「君たち弁護士には想像もつかないだろう。刑務所で過ごす1日がどれだけ長いか! 禁固5年なんて断固つっぱねるぞ!」

真犯人なのに!?

無実の男が言ってなんぼのセリフを真犯人が言っちゃうん?
真犯人ならありがたく5年の刑喰ろとけよ。9人殺して禁固5年は大バーゲンやぞ。なんでわざわざ死刑確定の択とんねん。アホなんか?

f:id:hukadume7272:20211201043539j:plain
真犯人の分際で司法取引を断るカヴィーゼル。

 一方のフリーガンは、禁酒中のアルコール依存症という設定である。酒の誘惑を超克する場面が何度もある。ところが、その設定がビタ一文たりとも物語に絡んでこない。
いいか。およそ映画において、禁酒した者は遅かれ早かれ酒に手を出し、うっかり飲んだことで致命的なミスを犯す…までがお約束。これは“禁酒”というモチーフの共示義だ。
にィィィィも関わらずゥ~!
フリーガンったら辛抱たまらずウイスキー飲んで「うまっ」と感想。そのあと何事もなく裁判のお仕事を続けるのである。

ミスは?

何かしらの“酒に手を出したツケ”は? 飲んだからには何か起きろよ。何も起きないなら、それはもう設定じゃないよ。

グルメだよ!!

『モーガン・フリーマンのウイスキー千夜一夜』ってか? BSか。BSつけたらええんか?
何も起きねえのに酒だけうまうま飲みやがって貴様! 禁酒中のアルコール依存症という設定…なんも関係ねえ。
ただジジイが美味しそうに酒なめてる…!

f:id:hukadume7272:20211201050321j:plain禁酒した分際でウイスキーに手を出すフリーガン。

 最後はアシュレイ。
せっかく見つけた証拠を片っ端から棄却され、ついに追い詰められたアシュレイは、起死回生の策とばかりにマスコミの前に立ち、カヴィーゼルの無実を裏付ける情報を一般市民に求めたが…梨の礫。
ださっ。
ま、そらそうだわな。カヴィーゼルが真犯人なんだから。
にしては、このシーンがヤケに見せ場然と撮られてるんだよ。勝利への突破口見つけましたみたいな。というのも冒頭シーンでは、アシュレイが凶悪事件の犯人を弁護していて「真相はともかく被告にも守られる権利があります!」とマスコミに強弁を唱えていたのだ。
つまり起死回生の策シーンは、この冒頭シーンの反復なんだよね。マスコミを使ってアメリカ全土に声を届けるという。あと、“仕事柄たとえ犯人でも守らねばならない”という彼女の主張がのちに夫を弁護する彼女自身へと向けられた皮肉のようでもあり。この冒頭シーンはよく活きてます。
なのに梨の礫っていうね。
「12年前のエル・サルバドル虐殺事件に関する情報を皆様から募集します!」
す―ん…。
ださっ。
やっと勝利の突破口見つけて、見せ場然みたいに撮って、それで「すーん…」て。
満を持して打ち上げた花火、シケっとんがな。
ださぁ…!

f:id:hukadume7272:20211201044337j:plain見せ場然とした分際ですーん…とさしたアシュレイ。

 事程左様に、最初からカヴィーゼルが犯人と思いながら見ていた者、あるいは見終えたあとに内容を反芻した者は「結局あのシーンは何だったーん? なあ? 何だった~~ん?」と逆算的矛盾の袋小路でポキポキと首をかしげるハメになること請け合いの『ハイ・クライムズ』
ここまで「ローちゃう?」と思うクライムズもないよなぁ~。
まさに逆算的矛盾という言葉がピッタリだわ。話の流れを逆向きに辿り直すと全部破綻してるっていう…嘘つきの落語みたいなヘボいストーリーだったなぁ。
辻くんと褄ちゃんが付き合ったその日に別れとる。


★お得なプチ情報★

本作はモーガン・フリーマンのファン垂涎の作といえる。
柄にもなくフリーガンが、バイク、革ジャン、ピアスといったイケおじルックで観る者を虜にするのだ!

f:id:hukadume7272:20211201044951j:plain

どこがイケおじやねん。

ダメなマッハGoGoGoやないか。
ほんでウイスキー飲んで「うまぁ」言うて。
BSで冠もって。
なんやこいつ…。