シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

科捜研の女 劇場版

京都市民なのに科捜研を見たことない。そんな掟破りの男が今宵、劇場版だけは観るというズルを犯す! ~積水化学工業京都研究所の屋上から緊急徹底生解剖! 京都府警に敬礼SP~

2021年。兼崎涼介監督。沢口靖子、内藤剛志、佐々木蔵之介。

木曜ミステリー『科捜研の女』が曜日の概念を超えスクリーンに登場!
世界各国で科学者が謎の転落死を遂げた。原因は帝政大学の教授・加賀野亘が研究していたダイエット菌? なんじゃそら! 事件を受け、京都府警科学捜査研究所―通称「科捜研」の法医研究員・榊マリコが立ちあがった!
「マリコ、立ちあがりますっ」
シリーズ最大の強敵がマリコの前に立ちはだかる! 立ちあがったり立ちはだかったりの新感覚ぼっ立ちミステリ! 驚愕の結末にあなたは耐えられるか!?


ちすちす。やろけー。
そういえば4ヶ月半ぶりに更新したんだっけか。前回の記事で。この4ヶ月半で生活や環境がガラッと変わったり、去年デビューウしたばかりのスマホを水に浸けた内釜の中につるっと落としたり、死んだと思ってた敵とばったり出会ったりと色々あったけど、まあ最近は相も変わらず映画…将棋見てるわ。
みんな、ABEMAトーナメント見てた?
藤井聡太竜王、森内俊之九段、藤井猛九段による新旧最強の「チーム藤井」がアッと言う間に予選敗退ってよ。信じられるか? ABEMA特有のフィッシャールール(持ち時間5分の超早指し)とは言え、漫画でもありえない完敗ぶりに開いた口が塞がらず。天下一武道会で悟空、ピッコロ、天津飯が予選落ちするようなもんだ。「誰が読むの、そんなジャンプ」って。
でもそこにはロマンがあったわ。
令和の天才・藤井聡太は言うに及ばず、藤井猛と言やぁ、棋界に革命を起こした「藤井システム」の考案者よ。それにかつて羽生善治から竜王位を奪取した永世名人たる森内俊之がこうもアッサリ完敗。
とりわけ森内九段の個人全敗には、ある種の美学を見てしまった。苦い展開だが“物語”としては好きな展開だわ。『北斗の拳』のトキみたいなさぁ。
毎年毎年、ひたひたと衰えに追いかけられても、実直に読み続け、指し続け、解き続ける将棋。ぶち抜けず、壁の前で項垂れても、負けた棋譜を月に浮かべ、またコツコツと検分し続ける将棋。3歩さがっては1歩進み、また3歩さがって…。それでも見えない手がまだまだあるんだろうな。私みたいなアホには想像もつかん事だが。
千年後か、一万年後か……将棋はいつ完成するのだろう。平安時代から江戸時代、そして今日も指し続けてるんだよな、奴らは。

映画もまた見えない。

ややもすると「映像撮影」という技術は人類にとっての禁忌なのではないかと思えてくるほどに、千思万考を尽くしても未だ映画はまったく見えてこない。
我々は、いつ、映画が観れるのか。
もっとも映画鑑賞は素人遊戯でもあるので、見えた気になろうと思えばいくらでも見えた気になれるぶん将棋より罪は重いのかしら。“詰み”だけにね。

なんてことを思案しながらの『科捜研の女 劇場版』。ミステリ要素についてべらべら喋ってるけど決定的な部分はネタバレしてません(してたらゴメンね)。



◆京都の一本槍すごい ~それ一本だけで何もかも貫こうとしてるSP~◆

 科捜研の映画、観たで。
今年、シリーズ23年の歴史に幕を下ろした『科捜研の女』。その集大成たる劇場版が去年公開された。
しかし私。生まれも育ちも京都で、なんなら数年前に沢口靖子さんと軽くお話したこともあるのにこれまで一度も科捜研を見たことがない…という掟破りの京都市民なのである。
いまや科捜研といえば沢口靖子の代表作だが、私のなかでは市川崑のSF珍作『竹取物語』(87年) でのかぐや役が鮮烈に残っていて。あと「タンスにゴンゴン」のCMですか。


メタ発言連発の珍CM「タンスにゴン」


 さて。映画が始まるとひとひらの紅葉が風に踊り、読書中の女性の肩にはらりと落ちた。それを口実に声をかけてきたスケベ老人(伊東四朗)相手に女性が見せたのは司法解剖に用いる保存液の資料。生々しき臓器の画像に吐き気を催した老人、声をかける女を間違えたとばかりに退散したが、ひとり嬉々として解剖談義に花を咲かせ続けたのは榊マリコ、その人であった。
ほぇ~。
鑑賞中は「しゃれたファーストシーンやん」ぐらいにしか思わなかったが、この落ちる紅葉というモチーフが、のちの科学者連続転落死事件を表象してるのよね。


解剖談義で四朗を追い詰めるマリコ。


所変わって京都府警察本部。シリーズファンにとってはおなじみの科捜研メンバーの日常が軽快にモンタージュされ、名前/肩書きのキャプション付きでダーッと紹介されていく。
化学研究員、風間トオル
映像データ研究員、山本ひかる
物理研究員、渡部秀
科捜研所長 兼 文書研究員、斉藤暁

ぜんぜん分からん。

む~~ちゃむちゃ漢字多い。
入社初日に職場仲間を次々紹介された時のような忙しなさ。「どうせ覚えきれやしないのに?」っていう紹介の仕方ね(ドラマ見てないくせに劇場版だけ観たツケが早くも俺に回ってきたと言うのか?)。
すると、洛北医科大学解剖医の若村麻由美が紹介された際、彼女がふと窓を見やったときにウイルス学研究者の片岡礼子が転落死する瞬間を目撃してしまう。
キャラ紹介中に早速事件起こす手際のよさ。
現場に駆けつけたのは捜査一課の内藤剛志。ムッとした顔でなんか調べてた。
さて。片岡の死亡時の状況を精査した結果「ゆうて自殺やろ」と断じられたが、死の2日前に片岡が東京の帝政大学を訪ねていたことを知り、まあ色々あって帝政大学で菌の研究をしている佐々木蔵之介に嫌疑がかかるわけです。

京都前面に押し出してきとる。

劇場版にかこつけて京都出身の蔵ぴょんにオファー出してる…!
もともとドラマのロケ地も京都市内で行われていたらしいが、とりわけ劇場版たる本作では東福寺、錦市場、先斗町など、さまざまな名所が今か今かと出番を待っているのです!
ぜ~んぶ京都で固めようとしてる。
オセロの四隅にぜんぶ京都置いてる…。どうひっくり返っても「京都ええなぁ」って言わす映画にしかならないような外堀の埋め方してるー!
京都のネームバリューを詰め込めるだけ詰め込んだおこしやすハラスメント映画の最先端『科捜研の女 劇場版』
人物名も相関図もわからぬ私をよそに、話はもりもり進んでいきます!!!

蔵ぴょんにちょっとビビってるマリコのようす。

◆名称不明の撮影技法 ~私はそれをこう呼ぶSP~◆

 このさくひん、基本的には巷に溢れるTVドラマの劇場版という感じなのだが、作劇面でおもしろいなと思ったのはハナから黒幕が割れてることなのよね。
完全に蔵ぴょんでしょ。
彼が開発したダイエット菌の新薬は瞬く間に痩せられる一方、副作用で高所から飛び降りちゃうという窪塚現象…異常行動を起こす諸刃の痩せ薬。これは割と序盤で明かされます。
その後、新薬の危険性に気づいた研究員4名がことごとく「急に飛びたくなったぁ!」とか何とか言いながら転落死を遂げたことで、われわれ観客は「副作用を隠蔽するために蔵ぴょんがやったんでしょー!」と思うわけで、現にマリコたちも遺体から検出された成分と新薬の成分が一致することを証明して「蔵ぴょんがやったんでしょー!」と追及する。
つまり観客とマリコは同じ気持ちになるわけ。口を揃えてこう呟くわけ。

「もう蔵ぴょんじゃん」

もう蔵ぴょんでしか無いじゃん、って。
いかにも黒幕でございといった顔で蔵ぴょんが抗弁するほどに「その時点でもうお前じゃん」って。
ところがどっこい、すっとこどっこい!
蔵ぴょんが“黒幕”だからといって“犯人”とは限らないというのがミソで。
ここに本作のミソリーディングがあるわけちゅん。微かな差分でしかないけれど、厳密には「黒幕」と「犯人」って必ずしもイコールじゃないからねぇ。
そしてこの差分に着眼したからこそ、“なぜか目の前にあるはずの真実に辿り着けない”という蜃気楼のごときミステリを本作は体現しましたな。おもろ。


物語が進むほどに黒幕でござい化する蔵ぴょん(だが果たして犯人なのか?)。

 物語上の見せ場は、やはりクライマックス。
マリコが何者かに新薬を浴びせられたことで、4人の犠牲者と同じように飛び降り衝動に駆られてしまう。そして予告編でも使われていた、東福寺の通天橋から身投げするシーン(奇しくもマリコ自身がファーストシーンの“落ちる紅葉”になるわけです)。
絶体絶命のピンチ!
とはいえ、もちろん死ぬわけねえんだけど、いかにしてマリコは助かったか? という理由付けが極めてメタ映画的というか、どことなくトリュフォーの『アメリカの夜』(73年) を彷彿させるような映画が映画であることを自覚している映画としての相貌が垣間見えた、割と攻めたカラクリとなっております。

上からマリコ。

「攻めた」といえば、撮影面でもその意匠は爛々たる眼を光らせとったわ。
内藤剛志が監察官に不当捜査を咎められるシーンでは、なんとカメラを垂直にして撮ったショットを水平で提示するという名もなき撮影法をなさっています。是非はともかく、かなり珍しいショット体験ではあろうさ。『シン・ウルトラマン』(22年) ぐらい攻めてる。
用語が分らんから、私はこの撮影法をダッチアングルどころの騒ぎじゃねえアングルと命名したわ。
用語知ってる人いたら教えて。


ダッチアングルどころの騒ぎじゃねえアングル。略して、そうね…ダッチアングルどころの騒ぎじゃねえアングル。


あと、顔面半分キリトリ技法ね。
ベルイマンの『仮面/ペルソナ』(66年) かよ。


略称…まあそうね。顔面半分キリトリ技法。


 斯様に、東映京都撮影所が『大奥』(06年) ぶりに総力を挙げた“ありがちなTVドラマの劇場版かと思いきや一丁前に尖ってた半前衛映画”の変態性。
かつては『次郎長三国志』(63年) 『仁義なき戦い』(73年) 、また当ブログで扱った中では『血槍富士』(55年) などを生み出した京都撮影所の底意地が「るるおー」とばかりに狂奔した内容となってたわ。
なんといっても「55歳」という数字すら己が美とした沢口靖子の軍事兵器的美しさ。
「55歳とは思えないほど美しい」のではない。55歳だからこそ今の沢口靖子は美しいのだっ。
最後、なんか分かんなくなっちゃった。

(C)2021「科捜研の女 劇場版」製作委員会