シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ザ・ピーナッツバター・ファルコン

蟹籠焼くなよ。

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2019年。タイラー・ニルソン監督。シャイア・ラブーフ、ザック・ゴッサーゲン、ダコタ・ジョンソン。

養護施設で暮らすダウン症のザックは、子どもの頃からの夢だったプロレスラーの養成学校に入るため施設を脱走する。兄を亡くして孤独な日々を送る漁師のタイラーは、他人の獲物を盗んでいたことがバレたことから、ボートでの逃亡を図る。そんなタイラーと偶然に出会ったザック、そしてザックを捜すためにやってきた施設の看護師エレノアも加わり、3人はザックのためにある目的地へと向かう。(Yahoo!映画より)


生きとし生けるもの、集まり~。
昨夜ヒマすぎて「第三のビール選手権」をやったので結果報告をします。5種類もの第三のビールを慎重に飲み比べた。これから第三のビールを飲んでいこうかなって人はぜひ参考にしてほしいし、「いやいや、俺はすでに第三のビールを飲んでる第四の男だよ」って人はぜひ第五をめざしてほしいって思ってる。

【金麦】
栄えある優勝は金麦でした。まあ何がどうということもないけど優勝です。金と言われて嫌な気はしないし、青い缶も綺麗といったところで、さすがサントリーです。うまくまとめてきましたよ。缶の潰しやすさが魅力。
やはり金麦ですかね。冷蔵庫をあけて金麦があるという事実。これは例えるなら、プールに行ったときに監視員がいることと同じです。ええ。まあ優勝です。


【アサヒ ザ・リッチ】
別段こっちを優勝にしてもよかったんですが、気分が乗らなかったので今回は第4位です。
でもよく買ってますよ。缶も青くて高級感があるので、金麦と間違えてよく買います。缶が柔らかいので潰しやすさも満点。でも柔らかすぎるがゆえに潰した拍子に缶が裂けて指を裂傷することも。見方を変えれば、アルミ缶はビール業界の盲点を突くことに成功したとも言えます。


【本麒麟】
缶が潰しやすいです。
味の方はよくわかりませんが、たしか赤い缶をしています。目にうるさいですが、こういうのが一人いるとうまく回るのがアイドルグループかもわからない。
テレビCMではタモリとか有名俳優らがえらいうまい言うて宣伝してましたが、そもそも巨富を手にした一流芸能人は第三のビールなんか飲まないでしょう。ふざけるな。コマーシャルのカラクリに騙される僕たちではありません。僕たちは、もっとこう、クールです。


【麦とホップ】
麦とホップはたくさん飲むと気持ち悪くなってきます。まあ、たくさん飲まなければいいだけなのですが。
缶の硬さは覚えてませんが、たぶん根本はどれも一緒なので潰しやすいと思いますよ。今年の夏は麦とホップで明日にジャンプ、とはよく言ったもの。僕の言葉です。スーパーでお会いしましょう。


【ホワイトベルグ】
実は飲んでません。
ラベルにいかがわしいモンスターが象られていたので外国のお酒かな、という先入観から一度も買いませんでした。でもサッポロなんですね。ぜひ今度買ってみようと思いますけど缶が潰しにくかったらイヤなので買いません。
ホワイトベルグというネーミングもふざけてる。洋酒のフリをしてトリックを仕掛けようとしてるのは明白だ。明々白々とすら言えていく。大体、いかがわしいモンスターがプリントされたラベル缶なんて、こっちは真っ平だ。なめてくれるなよ!

 

まあ、そんなわけも、どんなわけも、そんなわけで本日は『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』です。こんなわけか。

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◆おれの思い出話、聞き◆

 カスみたいな思い出を聞いてくれ。
小学5年生のとき、めっぽう美しい女の子が隣のクラスに転校してきた。たちまちその娘は学年のマドンナになったが、見た目とは裏腹に愉快活発な気質のようで、ある夕刻、その娘が「ファルコンキーック!」と奇声をあげながらハイキックの練習をしていた。たまたまそれを目撃した私は「せっかく美しいのに?」と吃驚。
しかもパンツ丸見え。たしか白かった。
せっかく美しいのにファルコンキックしてパンツ丸見えなっとる。
でも、儲け!
直後、その娘と目が合ってしまったことで、てっきり「パンツ見たわけ?」と責められるのかと思いきや、なんとその娘、またぞろ「ファルコンキーック!」とか何とか叫びながら、今度は私の眼前でハイキックを披露。真正面からパンツチャンス。
儲けっ。
その後、ファルコン女は納得した面持ちでランドセルを背負い、つむじ風のように去っていった。なぜか特等席でのパンツ丸見えイベントに無料招待された私は、爾来「ファルコン」と聞くたびに、この謎の転校生……否! 純白に輝くパンツのことを思い出してしまうのであった。

…なぜこんな話を思い出したのかというと、ほかならず『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』のファーストシーンが養護施設を脱走したダウン症のザック・ゴッサーゲンの白きブリーフに染め上げられていたからである。
ザックは施設内で仲のよい老人(ブルース・ダーン)から身体中にボディソープを塗りたくって窓の格子をニュルンとすり抜ける作戦を伝授され、かかるニュルン計画のためにパンツ一丁となるのだ。
その夜、ついにザックの脱走計画は成功!
いま! ジョージア州サバンナの郊外にパンイチでぬるぬるの男がぽつねんと佇み「うー」って言う!

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パンツだるだるやないか。
めいっぱい伸びきっとるぞ。

この映画は伝説のプロレスラー「ソルトウォーター・レッドネック」に憧れるあまり、彼のレスラー養成学校の門を叩くべく施設を脱走したザック坊と、蟹籠放火事件を起こしたはぐれ漁師のシャイア・ラブーフが出会うロードムービーである。
ザックを追うのは施設看護師のダコタ・ジョンソン。一方のシャイアは蟹籠を放火した同業者に復讐の牙を剥けられた。
いま始まる、レスラー憧れと蟹獲り男の逃避行! ~その心はブリーフのように白かったSP~

◆“イイ話“の戦車砲すごい◆

 本作はわずか600万ドルの製作費に対して1億3000万ドルの大ヒットを記録し、全米の批評家が絶賛するなど、興収/批評の両面で大成功をおさめた。日本での評価も上々。
そもそもが内容的に“わかりやすい感動作”なのだ。
そんな歓喜のムードに水をさすわけではないけれど、私の評価は少々辛め。もっとも、本作をピーナッツバターぐらい甘く評価している人にとっては今から私が綴る言葉はコチュジャンのように辛く感じるかもしれないが、まあ、なるべくマイルドな表現を心掛けるわ。


 キレイキレイし過ぎてるんだよね。
撮影といいシナリオといい、とにかく設計図に忠実な模型を眺めているようで、「上手にできたね」とは思えど、そこに“表現”はあるのかと言われれば呻ってしまう。写生大会の優秀作品みたいな“お行儀のいい作品”である。そういう映画って沢山あるよね。

「いい映画だったな~」で半年後には大体忘れてる映画というか。

なんかランキングとか作る際に「う~ん。この映画もよかったんだけどね~」とか言いつつも絶対に選ばない映画というか。

往々にしてその手の映画はシンプルである。
本作もまたシンプル一点特化の作りで、話のアウトラインは「素行不良の漁師がダウン症の青年と旅するうちに“無垢な魂”に触発されて“無限の可能性”とか“諦めないきもち”を知ってゆく」というもの。
主要人物も途中合流するダコタを含めて3人しか出てこない。これで97分。極めつけはジョージア州サバンナのティビー・アイランドの素朴で温かいロケーション。
未見の人は『最高の人生の見つけ方』(07年) とか『最強のふたり』(11年) とか、あの辺の映画をイメージしてもらえればいいです。クセも雑味もない人畜無害なファストフード美談。
“イイ話“の戦車砲でゴリゴリ突き進んでいく感じ。
「3時の方角『イイ話』! 撃てーっ!」
どーん!!って。一生やってる話。
戦略も用兵もなく、ただ戦車一台で全部どうにかしようとしてる。
ザックとシャイアのハートフルな交流を重点的に描く一方、ザックを追ってきた担当看護師のダコタが都合よく旅の道連れになって都合よくシャイアと結ばれちゃったりなんかして。恋と友情の十字砲火がわれわれを撃つのね!?

 また、その砲身が長いのよ。
特に男2人が戯れてるシーンなんて各シーケンスに配置されとるからな。いわゆるエモいシーンってやつ? みんなエモいって言葉好きでしょ? ふたりが海辺でプロレスしたり山で兵隊ごっこしたりと、無邪気に遊び回るさまが多幸感満載のスローモーションで描かれちゃったりなんかして。
ただ、私の目には多幸感過多に映る。
怜悧狡猾。あえて語を誤用して「あざとい」と言えばわかりよいかしら。男2人のキャッキャウフフな場面をしこたま用意して観客を和ませにきてるなあっていう。
なんだこの戦車…。
メタクソに撃ってきてるぞ。
「イイ話だったね」以外の感想を言わせないための外堀が埋められていく。
このあからさまな仲良し描写がベタベタしてて気味悪くもあり。メロドラマに傾斜しすぎて…もはや深夜アニメだよ。

f:id:hukadume7272:20220111004305j:plainシャイアとザック。

ただ、カットはすごくいい。
「これ、編集技師なら切りたくないだろうな」と思うようなショットもバツバツ切っていくし、回想シーンが終わったあとに現在時制から進めるのではなく既にシーンが進んでるという手法がごく自然におこなわれていて感心しちゃった。“バックしないフラッシュバック”というか。
誰ですかね、これ。ナサニエル・フラー? 新人の技師かしら。骨あんじゃん!

◆蟹籠焼くなって◆

 ただね、やれ美談だ戦車砲だと言ってきましたけどね、根本の根本にはシャイアはクズという人格否定を覆せずにいる自分がいるわけです。
映画冒頭において、シャイアは死んだ兄を揶揄された怒りから漁師仲間の蟹籠に火を放って逃げた。放火は重罪である。それが原因で追われるわけだが、映画は追手たちを悪役のように描く。
なぜさ!?
シャイアを追い詰めた追手のジョン・ホークスは賠償を要求し「俺たちにも生活があるんだ」と言った。せやな。この言葉の意味は「なにも俺たちだって好き好んでオマエを追ってるわけじゃない。償ってもらわないと生活が立ち行かないんだ。ていうか、そもそも蟹籠焼くなよ」である。
にも関わらず、その場はザックが「僕の友達を傷つけるな!」とかなんとか言いながら銃を突きつけてジョン達を追い払い(どちらかといえば傷つけられたのはジョン達なのだが)、その後もシャイアは無反省に逃避行を続ける。

や、償えよ。

呑気こいてロードムービーしてる場合やあらへん。 ごめんちゃいして来いよ。すべてが身から出た錆っていうか…フツーにシャイアが悪いだけの話じゃねえかよ、これよ。身から出た蟹エキスだよ。
それなのに何をオマエ…“いわれなき罪で追われてます然”とした顔で逃げとんねん。
『パーフェクト・ワールド』
(93年) のケビン・コスナーでももう少し悪びれとったぞ。

蟹籠焼くな。

f:id:hukadume7272:20220111003030j:plain私生活でもトラブルメーカーのシャイア(本作の撮影中にもトラブルを起こした)。


 『パーフェクト・ワールド』で思い出したが、本作はクリント・イーストウッドの『真夜中のサバナ』(97年) と同じくジョージア州サバンナがロケ地だというのだ。
サバンナという地は、やけに太い木しかないヘボい湿地帯だが、生意気にもエキゾチックな情感がその全域に宿っている。昼間でもオバケが出そうだ。
おそらく本作へ向けられた絶賛評の大部分はロケに依存している(批評者の意識/無意識によらず)。
深緑の中をドラクエ歩きで渉猟する豊かな森の構図。ボート、筏、浮き輪と、渡河手段に富んだ川の描写はフォードやホークスすら思わせる伝統主義がその水面に光る。そこまでやるなら野生動物の一頭でも…と願うのは高望みだろうか。

 …と、まあ、なんとなく『ショート・ターム』(13年) が不断にチラつきながらの鑑賞ゆえか、私の評価は大体こんな感じ。
SMエロ映画『フィフティ・シェイズ』シリーズのダコタ・ジョンソンは相変わらず何物でもないシルエットを纏っていた。ほどよく役におさまるが、貌がない。

f:id:hukadume7272:20220111003153j:plainドン・ジョンソンとメラニー・グリフィスの娘ダコタ・ジョンソン。

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