シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

シークレット・ジョブ

動物がいないなら自分たちがなればいい。閉園危機の動物園スタッフが思いついた窮余の策とは? 臭っせぇ檻の中から決死の独占生中継SP! ~その時コアラが動いた~

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2020年。ソン・ジェゴン監督。アン・ジェホン、カン・ソラ、パク・ヨンギュ、キム・ソンオ、チョン・ヨビン。

有名法律事務所で見習い弁護士として働くテスに、廃業寸前の動物園「ドンサンパーク」の経営を3カ月で立て直すという案件が舞い込む。客はおろか動物すらほとんど残っていない動物園を救うため、新園長に赴任したテスは、スタッフたちが動物に扮装して勤務するという奇想天外な打開策を打ち出す。(映画.comより)


うん! ふかづめでーす!
まあ、ちょっとイヤな話になるけど、私は映画好きの皆さんのことを見力(みりょく)というバロメーターで測ってます。つまり映画を見るのが上手いか下手かをこっちで勝手に数値化してるわけなんだ。偉そうでしょ?
いわば映画スカウターだね。
なんでそんなドラゴンボールみたいなことをするかって言うと、映画の話を振られたときに「何をどこまで話せる相手なのか」を瞬時に判断するためです。
大なり小なり専門領域を持つ人なら分かってくれると思うけどさ、自分の得意分野の話題になった時ってなるべく相手のレベルに合わせて話すじゃない。
だって、「やば」と「うける」と「まじで」ぐらいしか語彙を持たずにすぐ仲間を集めてBBQをしたがるような人たち相手に現代映画体系とか説いても仕方ないでしょう。ていうか説いても聞かねーし。
そういう連中は見力0とみなします。
一言で消し炭だ。
「ネオレアリズモ!」って唱えたら消し炭。
ハリーポッターみたいでしょ?
ハリーポッターなんですよ。

逆に、対等以上に話せるレベルの持ち主とは有意義な映画談義ができるよね。むしろこっちが消し炭にされちゃったりして。
「実はボク『戦艦ポチョムキン』(1925年) のモンタージュ理論について研究してまして、『ポチョムキン』をグリフィス・モンタージュで撮った場合の仮説を立ててみたんですけど聞いてもらえますー?」とか言われてみ。
見力よよん…45万! 全身からレンズフレア発してるゥ。きゃあー。って叫びながら消し炭になるしかないよねえ。
それくらい映画談義というのは消すか消されるかなんですよ。
ゴッドファーザーみたいでしょ?
ゴッドファーザーなんですよ。

事程左様に、こちらが消し炭にされないためにも相手の見力を設定しておくことが肝要なのである。もちろん人の見力を発表したり吹聴する行為はよくないけどね。自分の心の中だけにしまっておこう。
ちなみに、冒頭で述べた「映画を見るのが上手いか下手かを数値化してる」という発言に対して「映画を見るのに上手いも下手もない。ただ感じたまま見ればいいし、映画なんて楽しんだ者勝ち!」みたいなカウンターパンチがTwitter界隈ではイイネを集めるんだろうなあって思ってるんだけど、この“架空の反論”に対して“架空の反論返し”をしておくと、まあ確かに、自分が今まで縋ってきた価値観が脅かされるのがイヤっていう保守的な人たちにとってはそういう感情論も有効だと思うんだけど、残念ながら上手い下手はあります。
そも、映画の見方がうまい人とへたっぴな人とでは見えてる世界が違うよね。というか見えてる世界の次元が違う。両者は同じ映画を見ててもまったく別の景色を見てるし、それに対してまったく別の感動を覚えてます。そこに読み込むコードも別。へたっぴな人はこのあとの展開に心躍らせるが、うまい人はひとつ前のショットの奇跡としか言いようのない瞬間への興奮を抑えながらもうこの後の展開などどうでもよろしいと思っている。例えばね。
まあ映画に限らず、何でもそうですよ。
「サッカーなんて、ちょこまか走ってよくコケたりしてるのに、なかなか点入んないからじれったい。あとテレビ中継だとロングショット主体だから誰が誰かわかんない。ビデオゲームみたいに選手の頭の上に名前表示せえ。あとHPも」
俺にとってのサッカーの世界だ。でもこれをサッカー好きのやなぎやさんに言うと赤レンガとかで後頭部ぶっ叩かれて死んじゃうわけですよ。
そういうことです。
ついでに「映画なんて楽しんだ者勝ち!」といった物言いに対しては、それ映画への冒涜ですけど言っていいんですか? と思って、いつも笑っちゃう。弁護人が依頼人の罪を暴いてどうする。

~今日のまなび~
人のことを見力とかいって数値化する行為はよくない。
でもする。

あい。そんなわけで本日は『シークレット・ジョブ』です。第1章は読むのがしんどいです。わざとしんどく書きました。かといって2章も大したこと書いてません。いよいよ後がなくなった3章では屁理屈を書きました。
屁理屈を書くのはたのしいです!

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◆根本を破壊せし者、イルケ登場◆

 倒産寸前の動物園「ドンサンパーク」のスタッフ各位が起死回生の策に出た。それは精巧に作られた動物の着ぐるみを着用し、文字通り自らが客寄せパンダを演じることで大赤字からのV字回復を図るといった一世一代の大ペテン!
いま開園さるる、なりすまし型アニマルパーク・コメデーの金字塔『シークレット・ジョブ』。Zoo!
愛を下さい。ウォウオ~。愛を下さい。
ズウ!

 まあ、こう聞くとなかなか面白そうな内容に思えもするが、『シークレット・ジョブ』は韓国映画特有の“ヘンな生真面目さ”によってやや硬い出来栄えにおさまっていた! 残念!
詳しくは後述するが馬鹿はやるけど馬鹿になれない映画なのよね。

 映画は、JHパートナーズの弁護士研修生アン・ジェホン(以下アホ)が、株価操作の容疑で逮捕された「楽園グループ」財閥三世のイ・ヒョヌクを訪ねるシーンに始まる。御曹司の小間使いに甘んじていたアホだったが、ある日、JHへの抗議デモからパク・ヒョックォン(ヒョックォン!)社長を守ったことから、その夜ヒョッコン社長に呼び出され、英国のプライベートファンドが買収した倒産寸前の動物園・ドンサンパークを3ヶ月で立て直すことができれば正規の弁護士として雇ってやる…と持ち掛けられる。

 ここまでがセットアップの第一幕。
回りくどくね。
もちろんヒョッキョンの提案を二つ返事で引き受けたアホは、その後ドンサンパークの新園長に就任→赤字経営を立て直すべく着ぐるみ作戦を発案…と話は流れていくのだが、そこに至るまでのセットアップが冗長すぎて一回失神しちゃった。
正確に、一回、失神した。

拘留中の財閥三世を訪ねるファーストシーンなんかは、主人公(アホ)の職業や身分を示すためだけの説明的な映像言語が羅列されるだけだし。
その後、会社に戻ったアホは臨時用の社員証を使ってしまったためにセキュリティに引っかかり慌てふためく。ようやく通れたかと思えば、同期の弁護士パク・ヒョンスが同じエレベーターに乗ってきて「よう、アホ。最近つきあい悪いな」などと突っ掛かってきて口論に発展。ようやく仕事を終えたかと思えば会社の外ではデモ集団が抗議しており、アホがデモ騒動からヒョッキョン社長を守ったことで「こいつは使えそうだ」と白羽の矢が立ち、晴れてドンサンパークの園長に抜擢されるという寸法だ。

f:id:hukadume7272:20211006073933j:plainドンサンパークに就任することになったアホ。

 悠長。

「セキュリティに引っかかる場面」は、のちに似たシーンが繰り返される演出材料なのだが、いかんせんヘタすぎて反復効果ゼロ。
「同期ヒョンスとの口論」に関しても、ヒョンスはのちに都合よくアホを助けてくれるキャラなので…いわば“ご挨拶”のシーンなのだが、いかんせん両者の関係性はろくすっぽ描かれず、あとになって「そういえばこんなキャラいたな」的に辻褄を合わせられるよう逆算的に誂えただけ。ヒョンスはあとで登場するお助けマンだから一応覚えておいてね~、である。
しかもだね。その夜、アホがピョッコン社長に呼び出された中華屋には、アホが訪れる前に楽園グループ常務のハン・イェリなる女がピョッコン社長と密談していたのだが、その内容から察しうる事実が2つありました。

(1)イェリ常務は拘置所送りになった財閥三世の妹。
(2)イェリ常務はピョッコン社長より格上。しくじった兄を超えたいと思っている。

どうでもいい情報をありがとうだよ。
だって捕まった財閥三世は金輪際登場しないし物語にも関わらないので、イェリ常務との兄妹設定…まったく要らないんだよね。そもそも財閥三世自体いらねえよ。ファーストシーンで2分だけ映った財閥三世役のイ・ヒョヌクいらね~。
そして(2)の「しくじった兄を超えたいと思っている」
勝手に思とけ。
知らないよ。おそらく一切ストーリーテリングに寄与しないであろうオメェの野心なんかよ。

いずれにせよピョッコン社長とイェリ常務は裏で繋がっているらしく、どうやらアホは彼らの私利私欲のためにドンサンパークの園長に仕立て上げられたのでは…といった妖しき香りがプーンと漂う第一幕。
たったそれだけの導入部でやたら時間つこた。
そんなわけで、二幕以降は動物なりすましコメディと並行してビッグマネーをめぐる権謀術数のマネーゲームが描かれてゆくのだが…。

なんか面倒臭ぇな。

スマホの前のおまえだって「今日のふかづめさんの批評、なんか面倒臭ぇ。登場人物とか色んな状況とかズラズラ書かれてて文章読むの面倒臭ぇ。おもしろくなーい」って、いま思ってるでしょ?
そうなんだよ。面倒臭ぇんだよ。
疑似体験させてんだよ、この面倒臭さをよ。

大体なァ~~~~!
『動物園スタッフが動物になりすます』ってだけのハッピー単細胞な映画にこんな大企業の陰謀がドロドロ絡んで登場人物ワラワラ出てきて状況ガチャガチャみたいな要素……いるけ?
根本を破壊せし者、イルケだよ。
こんな複雑にする必要も…あるけぇ?

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さっさと開園せえ。

◆いま明かさるる! 着ぐるみ大作戦の全貌!◆

 動物なりすましコメディ…というパワーアイデアありきの骨子なので、本来的にはアイデア一発勝負の出オチ映画に分類されると思うのね。
しかし、ここ数年の韓国映画はヘンに生真面目なので、アイデア一発モノには終わるまいとあれやこれやを肉付け、肉巻き、歯肉炎。だからセットアップに時間を取って、アホが新園長に就任するまでの流れをバカ丁寧に追ってしまう。
物語が進むにしたがい、マネーゲームの他にも、地上げ動物保護環境問題スタッフ間の友情/恋愛SNS批判開発事業の闇といったおびただしい主題群によって“アイデア一発勝負”が見栄えよくドラマタイズされていくのだけど…
違う、違う。そうじゃ、そうじゃない。
誰も求めてないとこ弄くってるんだよなぁ。

それをすることで本来の面白味であったアイデア一発勝負の部分がドンドン腐っていくのになー!

見栄えのよさを意識するあまり大事なもの見失ってもうとる。高校2年の恋愛か?
他作品だが『フィッシュマンの涙』(15年) という映画に対しても同じこと感じたわ。
『フィッシュマンの涙』という映画は、新薬治験の副作用で魚人間になった男の悲哀を描いたシュールなブラックコメディなのだが、物語が進むうちに宗教やジャーナリズムや格差社会への風刺に傾斜していって、最終的にはメチャメチャお行儀のいい社会派映画みたいになっちゃうの。
先生、思わず花マルあげちゃった。
だがつまらん。
不条理なものを社会派ぶって説明してんじゃねえって。

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『フィッシュマンの涙』

前章で「馬鹿はやるけど馬鹿になれない」と言ったのはそういうとこなのよ。
動物の着ぐるみで客を騙くらかすまでの“経緯”や、それによる“影響”ばかり描き込んで、肝心の“動物の着ぐるみで客を騙くらかす部分”がおざなりになっちゃって。
とはいえドンサンパークのスタッフが個性派揃いということもあり、動物園シーケンスは割合楽しいよ。
ホッキョクグマの「クロ鼻」を長年世話している獣医のカン・ソラは、アホが提案した着ぐるみ作戦に懐疑的。元園長のめげめげ中年パク・ヨンギュは自分のせいで倒産寸前に…と自責の念に苦しむあまりダメもとで着ぐるみ作戦に再起を賭ける。飼育員のチョン・ヨビンはダメ彼氏に金を貢ぎ続けるスマホ中毒のバカ女で、キム・ソンオはヨビンに片思い中の冴えない男(この2人はバカだから着ぐるみ作戦に興味を示した)。
さて、アホが提案した着ぐるみ作戦の企画書がこちら。

 

ドキドキ着ぐるみ大作戦!
~アホ全面監修~


作戦1:ドンサンパークは赤字を埋めるべく園内の動物をすべて売り飛ばしたため現在空っぽ。そこで、着ぐるみ制作会社にホンモノそっくりな動物の着ぐるみを作ってもらい、それを被った我々スタッフが動物に扮することで来場者を笑顔にします。

作戦2:発注する着ぐるみは、人ひとりがギリ入れるサイズの動物に限り、その中から(1)客寄せ効果が望める人気動物(2)ジッとしてても成立する動物(3)あんま癖のある動きをしない動物が選考されます。選考結果がこちら。
ライオン
ゴリラ
ホッキョクグマ
ナマケモノ

作戦3:獣医ソラがライオンに扮し、元園長がホッキョクグマ、スマホ中毒がナマケモノ、片思いがゴリラの着ぐるみを着用することを命ず。わたくしアホは、事務所の監視カメラを随時確認しながら無線でスタッフに指示を送る司令塔を担います!

作戦4:演者4名は、まじまじ見られるとペテンがバレるので客から十分に距離を取り、あんま動かないこと。

以上がドンサンパーク復興の秘策、着ぐるみ大作戦の全貌です。リアルな着ぐるみに来場者は釘付けになること請け合い!
5人で力を合わせてお客さまを喜ばせましょう。

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誰が喜ぶかあ!!!

よく思いついたな、こんな宇宙のチリみたいな企画。
だって、せっかくお客さんが見に来てくれても肝心の動物が柵からいちばん遠い所にいて、まんじりともせずジッとしてるだけなんでしょ?
写真で済むレベルのことしてるゥ!
来場者のキッズから「あのライオンさん、ぜんぜん動かないけど本物なのぉ?」と疑われたときだけ申し訳程度にモソモソ動いて本物ですアピールすんのか? しらこいわぁ。
そもそも展示動物4体の時点で終わってるだろ。ほぼ根絶やしじゃねえか。

動物4体はもう…ちょっとした動物好きなヤツの家やねん。

ドンサンパークの敷地面積に対して動物4体は、もはや動物園とは呼べない。
「園」になってないからね。
その程度で動物園と呼べるなら坂上忍の家だって動物園だよ。
それによ。ライオン、ゴリラ、ホッキョクグマまではええわい。
なんでナマケモノが選考通過しとんねん。
あいつはナチュラルボーン客寄せ効果ゼロだから実質3体だよ、お前んトコの動物園。ナマケモノは“戦力外”最強の選手だよ。頭数にも入らねぇ(実際ギャルの来場者に「何あれ。きしょ」ってスルーされてたし)。


あと私がいちばん気になったのは、スタッフ総出で動物役をやってるもんだから園内にスタッフが誰もいないっていうスタッフ無人化現象ね。
園長のアホも事務所の監視カメラに張りついてるので、開演中、園内にはスタッフ不在。もちろん入場ゲートも無人だけど、チケットのもぎりとか誰がやってんの? 見たところ自動券売機でもなさそうだし。
どういうシステムゥ…。

f:id:hukadume7272:20211006073217j:plainチューバッカと間違われるナマケモノ。

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こっちのセリフだ。

◆映画における“本物”とは?◆

 中盤以降は、徐々に軌道に乗り始めたドンサンパーク(なんでやねん)の日常と、その裏で渦巻くヒョッコリ社長の思惑が並走する。
過労で倒れた元園長に代わってホッキョクグマの着ぐるみに入ったアホがあまりの暑さからコーラを飲んでしまったところを来場客に見つかってしまうも、その様子を撮影した動画が「コーラを飲むホッキョクグマ!」としてSNSで鬼バズりして話題沸騰。瞬く間にV字回復を達成してようやく園長業にやり甲斐を見出した矢先、マッコリ社長がリゾート開発のためにドンサンパークを売却すると言い出したことで突如閉園に追い込まれてしまう。
そのあとは、モッコリ社長を敵に回してまでドンサンパークを守ろうとするアホと、ある人物によってバッコリ社長にリークされた着ぐるみ疑惑の顛末が描かれるのだけど、まぁ、その辺はどうでもいいです。
アイデア一発勝負の“始末の付け方”になど興味はないし、なんなら始末なんてつけずに放ったらかしにするくらいが丁度いいとさえ思うわ。
着地のことしか考えてない体操競技ほどつまらんモノはないようにな!
…まあ、体操競技は違うか。


 映画としては少し厳しい評価を下さねばなりません。
わりに人懐っこい作品ではあるし、スタッフ役の俳優陣のわちゃわちゃした空気感は楽しいのだけど(とりわけ『サニー 永遠の仲間たち』で知られる獣医役のカン・ソラと、さまざまな映画で三枚目を演じる片思い役のキム・ソンオ)。
まあ、再三言ってきたように見栄え優先のドラマタイズ過多に見る“退屈なまでの生真面目さ”だけでなく、ダメな日本映画を観ているような悠長な編集や、“現場と指令室”のサスペンス演出の度重なる失敗など、瑕疵は多いです。

f:id:hukadume7272:20211006074602j:plain『サニー』のカン・ソラ。右はアホです。


あと、これはメッタメタのメタ視点から気になった点なのだけど、獣医ソラが愛情を込めて飼育していたホッキョクグマの「クロ鼻くん」ね。ドンサンパークに唯一存在する本物の動物なのだけど…これがめちゃくちゃ粗いCGなのよ。
心の病気を患っていることから普段は展示されないクロ鼻くんは、いつも倉庫の檻に入れられてるんだけど、ドンサンパークにヤラセ疑惑が浮上したクライマックスで大活躍します。早い話が、興奮して客前に飛び出しちゃったことで「あのホッキョクグマは本物だった! ヤラセじゃなかった!」という流れになるんだけど…

いや、本物じゃないからねっていう。

そもそもクロ鼻くんはCGだから。
ヤラセかヤラセじゃないかで言えばヤラセだよ。

近年の動物映画は『猿の惑星:創世記』(11年) 『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』(12年) のように動物がCGで描かれることが多いし、われわれ観客もCGで作られた動物を便宜上「本物」とみなすリアリティラインを共有しながら映画に臨んでるわけだが、本作に関しては「本物」と「CG」の間に「着ぐるみ」という第三の要素が存在するうえに、画面上のモチーフ=動物の着ぐるみが本物か否かという真偽の議論それ自体が作劇上の重要なフックにもなっているので、「CG」という偽物によって造られながらも「本物」として振舞うクロ鼻くんには近似値としての違和感を覚えてしまうのね。わかるかな。「着ぐるみは偽物なのにCGは本物とみなすんだ?」っていう気持ち悪さよ。

 結局のところリアリティラインが相対化されてるわけ。
だから、着ぐるみで本物を演じる以上は、劇中に出てくる本物は“本当に本物の動物”を使うしかないわけで。つまり本物のホッキョクグマを使ってこそクロ鼻くんは成立するのである。
まぁ、あくまで映画論としてはねってことを付け加えておきたい。構造的に映画論を突き詰めていくと、本物のホッキョクグマを使うしかないという結論に着地するよって話。
「屁理屈こねてんじゃねー」って人は、ぜひともフォード、ホークス、黒澤あたりをしっかり見直してごらん。特にハワード・ホークスの『ハタリ!』(61年) は必見。合成で済ませるか、本物を使うか…。そのへんの匙加減が映画のリアリティラインにどのような影響を及ぼすかがよく判ると思うわ。

f:id:hukadume7272:20211006072842j:plainクロ鼻くん。

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