シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ストリートファイター 

うなれ鉄拳!オレは猛犬! 街の喧嘩自慢による大怪我上等フェスティバルin倉庫。いつだって倉庫。いま切られた何らかの火蓋!  ~うらびれた倉庫街から緊急独占潜入ルポSP~

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1975年。ウォルター・ヒル監督。チャールズ・ブロンソン、ジェームズ・コバーン、ジル・アイアランド。

今宵も倉庫街は賭け試合で賑わっていた。そんな折、喧嘩師をマネジメントする男スピードの前に、流れ者の鉄拳自慢チェイニーが現れる。意気投合した二人は一攫千金を狙ってタッグを組んだ。
右だ、左だ。ワンツーパンチ。俺のジャブを喰らえ! これが俺のジョブだ! やっちゃいけないのはシャブだ! おまえはモブだ!
いま始まる、力と力の拳ケーション。本気と書いて「マジ」と読む者だけが倉庫の覇者となる!

 

うんうん! うん!うん!  ふかづめでーす!
勝利に逸ったりしないよ。べつに好戦的でもないし。皆はどうバトルする?
ぼくは「勝つ戦い」よりも「負けない戦い」を昔からしてきたね。そしてこれからも、していくつもりだね。
勝ち筋を通すのではなく、負け筋をひとつずつ潰していくんだ。
そうすると自ずと勝つでしょう。勝手に勝つよ。だって負けないんだから。負けない戦いを延々やり続けてたら結果的にはいずれ勝つよね。
それに、勝つ戦いはきわめて危険よ。なんとなれば攻撃するということは攻撃されることと同義。つまり反撃されたり避けられる可能性があるわけですから、いわば「攻めること」と「攻め返されること」の2つのリスクを同時に考えなきゃいけないわけ。
でも負けない戦いだと、相手の攻め手に「対応」してればいいだけですから、考えることが1つ減るんですよ。リスクが減るわけ。
だからドラクエとかでもね、ぼくは鋭い剣よりも立派な盾を買いますよ。そりゃあ。そして打点が足りないキャラには防御させますよ。中途半端に攻撃して次の敵ターンでバッチィーいかれるぐらいなら守っとけと。
だからヒーラーとか好きですよ。回復魔法や補助魔法に長けたキャラをぼくは重用するし、逆に「おれは打たれ弱いけど攻撃力は絶品よ。先手必勝。一撃必殺。この家訓だけを大事にしてきた18年間だったんだ。どう思う?」とか言われても、そんなやつは仲間にしてあげない。おまえン家の家訓とか知らねーよ。
まあ、ドラクエ、あまりした事ないけどね。

そんなぼくがスポーツのリーダーとかしたら、すごい戦績を叩き出すんじゃないかなあ。
例えばバスケね。ぼくがバスケチーム「今日も今日とて京の華」のリーダーだったら、「みんな集まり~。聞いて~。まず自陣のゴール前で横一列になって、みんなで手を繋ぎます。そのまま花いちもんめみたいに、敵を通せんぼしながら前進。すると相手チームはコートの端に追い詰められて身動きが取れなくなります。あとは制限時間一杯まで粘れば勝ちです。勝ちっていうか引き分けです」って言いますよね。作戦会議で。まあルール的にアリなのかどうか知らないけど、アリだったらそう提案します。
すると何が起きるか!?
「今日も今日とて京の華」が100戦した場合、0勝0敗100分けという奇跡のような字面がスポーツ紙のトップを飾ることになります。瞬く間に話題沸騰。「100回もやってんのに1回も勝ってねえのスゲェ」勢VS「1回も負けてねえのスゲェ」勢の苛烈なバトルがSNSで勃発。でもそのバトルすら引き分けになるほどに、我がチームは今日も今日とて引き分けるんですよ。
まあ、引き分けは実質ぼくの勝ちです。
もしこっちが普通に戦ってたら、九分九厘、相手チームが勝ってたと思うけど、それを0対0の引き分けに持ち込んだのはこっちのポイントっていうか、ぼくの手腕あってこそなので、引き分けは実質こっちの勝ち。
だって相手チームは正々堂々「勝つ戦い」をしてたのに最終的に勝てなかった(引き分けた)わけですから、これは事実上の負けといえるよね。望みを達成できなかったんだからね。翻って我がチームは、ハナから引き分けるつもりで戦って(戦ってというか…花いちもんめして)、結果的にちゃんと引き分けたわけですから、どう考えても僕たちの勝ちです。
この事からなにが言えるか!!?
0勝0敗100分け=実質100勝
こういう理屈が通るわけです。つまり負けない戦いはビバ!ってこと。ZARDの「負けないで」は最高ってこと。

~今日の一句~
灯台下暗し
始めのうち
灯台モトクロスだと思ってた

これマジな話。「故事成語にバイク登場すん?」って。二十歳まで思ってた。
そんなわけで本日は『ストリートファイター』ですよ。当時54歳のチャールズ・ブロンソンの肉体美が見所です!
あとバスケ好きの皆、ごめんな。ごめん。

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◆ブロンソンとコバーンが狂った夜に咆哮す! 燃えろ鉄拳。治れ腰痛◆

 未だにウォルター・ヒルは玉か石か?」というテェマに取り組んでいる。
男臭い物語とカルト的な世界観がまるで煙幕のように彼の映画的本質を被覆していて、なかなか“映画”の部分が露出してこないのよねぇ。近年ではシルヴェスター・スタローン主演の『バレット』(12年) を観て「やはりうまい」と思ったが、自作の『レディ・ガイ』(16年) はからっきし駄目で「じゃあどっちー!?」と頭を抱える…の繰り返し。そんな繰り返しが、この一大テェマに今もなお私を縛り続けるのである。
映画作家としてはジョン・フリンやジョン・ブアマンの系譜なので、どこまでも渇いた画面と大陸的な性格をもった映画ばかり撮っているが、それもそのはず、下積み時代には『華麗なる賭け』(68年) の助監督や『ゲッタウェイ』(72年) の脚本を手掛けていたので、まあ良くも悪くも埃臭い環境下で爪を研いできた無頼漢といえるのだろう。

そんなウォルター・ヒル御大。のちに伝説的なカルト映画となる『ザ・ドライバー』(78年) を撮ったり、祝祭的乱痴気ロック映画『ストリート・オブ・ファイヤー』(84年) でマイケル・パレとダイアン・レインにかりそめの夢を見せたり、一夜にしてエディ・マーフィをスターダムに押し上げた『48時間』(82年) で異人種間バディの礎を築いたり、貢献度不明ではあるが『エイリアン』シリーズの製作に一丁噛みするようになるわけだが、すべてはこの処女作から始まった―…。

ストリートファイター!

ただしリュウもケンも出てこなければ波動拳もヨガフレイムも放たれない方のストリートファイターである。
「じゃあしょぼい」
なんてこと言う! 主演チャールズ・ブロンソン、共演ジェームズ・コバーンと知ってもまだそんな口が利けるか! 言わずと知れた『荒野の七人』(60年)『大脱走』(63年) でも共演した二大レジェンド、マンダムとタフガイだぞ。ある意味リュウとケンだよ!
リュウとしてのブロンソン、ケンとしてのコバーンが、ここにはいるわけだ。
どういうわけだ!!
ふざけるな!

f:id:hukadume7272:20220311091100j:plainブロンソン(左)とコバーン(右)。

時は1930年代のニューオリンズ。夜の倉庫街では賭け試合をおこなう町の喧嘩自慢たちが拳をブンブンにうならせていた。そこへ流れ者のブロンソンがファイターを潰されたばかりのマネージャー・コバーンに自分を売り込み、二人は手を組んだ。
倉庫での賭け試合に飛入り参加したブロンソンは、連勝記録を持つ強敵、ダレニーモ・マケナーイ(仮名。アメリカ出身。得意技:ケチャップチョップ。未婚)を一撃でノした!

コバーン「つ…つよーっ」

ニコニコしながら儲けた6ドルを山分けした二人。ブロンソンの強さに目をつけたコバーンは「これならあいつに勝てるかも」と野心に燃える。あいつというのは町一番の金持ち マイケル・マクガイアのことであり、コバーンは過去2度も賭け試合で負けて枕を濡らした夜があった。
それもそのはず。マクガイアが手塩にかけて育てたメーニシタモーノ=ゼンブ・シバーク(アメリカ出身。得意技:目にしたもの全部しばく。未婚)は天下無双のファイターであり、戦車砲すら跳ねかえす鋼の肉体であらゆる攻撃を無力化。相手が「何しても意味ねえっ」と焦ってる隙に顔をメチャメチャにしばく…といった戦法不明戦法で生涯無敗のファイター人生をひた走ってる奴だった!

コバーン  「でもブロンソンならやってくれるかも…」
ブロンソン「なに?」

いま始まる! ファイターとマネージャーの二人三脚友情譚! 歓声と悲鳴が倉庫にこだまする! 賭け試合でしか生きられない男たちの生き様をその目に焼きつけろ! それはそうとマネージャーのことを「マネジャー」と表記してみるイズムがあるけど誰もマネジャーなんて発音してねえし。
「マネージャー」でいいだろ!!

f:id:hukadume7272:20220311093125j:plainマネジャー表記勢しばく。

◆戦いそうで戦わない! やれよ決闘。行けよ倉庫◆

 事程左様にですね、チャールズ・ブロンソンからペンネームを取ったことでお馴染みの漫画原作者・武論尊が手掛けた『北斗の拳』ばりに男臭い作品なのだが……中盤からガタガタと失速するのよね。
というのも、マクガイアとの賭け試合に俄然はりきっていたコバーンは、けんもほろろに「ファイトマネーとして3000ドル用意しなきゃイヤ」と言われてしまったのだ。
で、方々から借金するシーンが延々描かれます。
なにこの資金工面に特化した映画…ってくらい資金工面に特化したシーンが打ち続く。ストリートファイトを題材にした映画なんだから試合で稼げよと思うのだが、なんかずっと地道にお金集めてんの。
はよ倉庫いけや。

その間ブロンソンは夜のダイナーで女をナンパします。
だめじゃん。
さらぬだに彼女は婚約指輪をはめていた。尚だめじゃん。しかも彼女を家まで送ったあと部屋の中に入ろうとさえするのです。

 女 「だめ!」
ブロンソン「だめか…

だめだよっ!!
ブロンソンのイメージ壊れるやつやめて。ブロンソンはそんなチャラチャラした男じゃないでしょ。世界でいちばん硬派なの!
スターシステムで決まってる事なの!!
でもこの女優…よく見たらジル・アイアランド
ブロンソンのガチ妻でした。
『夜の訪問者』(70年)『メカニック』(72年) などブロンソン映画のミューズとして数々の映画で共演。1990年に乳がんで他界するまで長年連れ添ったブロンソン女優の草分け的存在! イーストウッドにとってのソンドラ・ロック枠である。ヒロイン役がガチ彼女みたいな公私混同イズムね。今で言うところの菅田将暉とコマツナちゃん的な構図のやつね。うんうん。
じゃ、ゆるす。
俺はブロンソンをゆるしていく。妻に声をかけるのは当たり前のことだ。たとえ映画の中では他人同士という設定でも、俺は設定や物語を信じるタイプのお花畑ダイブ型の映画ファンじゃないからな。どちらかと言えばメタ視点っていうか…映画のなかに現実を持ち込むタイプの次元の往還者だ!
ていうか…

最前からどこがストリートファイーやねんコレ。

さっさと倉庫行って戦えよ。
コバーンがストリートで金ナイナーしてる間に、ブロンソンは女にうつつ抜かしてストリートダイナーしてるだけの時間がスーッて流れてる…。
ウォルター・ヒルって稀にこういう癖が出ちゃうのよね。急にボケて本筋忘れてチンプンカンプンなシーンを撮っちゃう。居眠り運転してる爺さんなんだよ、次元が。

f:id:hukadume7272:20220311091458j:plainジル・アイアランド。生涯ブロンソン映画でミューズを飾った公私にわたるパートナー。

さて、映画後半でやっと正気に戻られたヒル御大。
激闘の末に見事シバークを破ったブロンソンの前にさらなる強敵、タカミオ・メザスオ(アメリカ出身。得意技:びっくりキック。未婚)が現れる!
こいつはとにかく高みを目指す奴だった。すべてにおいて高みを目指す…という抽象的な目標を掲げる奴だった。
絶体絶命のブロンソン。果たして勝負の行く末は? 夜の倉庫に最終ラウンドが響き渡る!

ていうか何でいっつも倉庫なんだ。

なんぼほど倉庫が好きなのか。戦うとなったらすぐ倉庫行って…。

何発殴られてもぜんぜん効かへんのなんで! 受けろダメージ。しろよ蓄積

 でもね、血と汗がきらきら舞う筋肉映画かと思いきや、存外しっとりとした摩訶不思議作なんである。『ザ・ドライバー』と同じくほぼ全編ナイトシーンで、音楽もないのでスッと落ち着いたトーンに仕上がっとるよ。
深夜にウイスキーでも舐めながら観る分にはなかなか渋い作品ではあるけれども、まあ「深夜にウイスキー」なんて条件を課さないと擁護できない時点で出来栄えはお察し。その出来栄えをブロンソンとコバーンの豪華共演が担保してくれているが、逆に言えばこの共演に「男の世界」を感じぬ人にとってはいよいよアクビ誘発装置としての用途しか持たない映画になること請け合いだ。


あと、技斗がしょぼいですね。
曲がりなりにもベアナックル・ボクシング(ボクシングの原型となった素手喧嘩)を扱った作品にも関わらず、技術/戦略的な描写は一切ないです。ただナックルでしばき合ってるだけ。
また、私が発表する「昔のアクション映画における格闘シーンあるあるランキング」で堂々の1位に輝いた“何発殴られてもぜんぜん効かへん”を地でいっとる。
素手でガスガス殴られてるのに、出血しない、顔腫れない、ダメージ蓄積しないっていうね。お互いダメージ0。サイヤ人同士の戦いかよ。殴られた瞬間は痛がってるけど、2秒後には無かったことになってんの。筋肉映画や少年マンガにありがちな“受けた端から癒える傷現象”ね。
かと思えば必殺技めいた一撃で急に決着ついちゃう。
「今の一撃で100から0に!?」っていうね。「じゃあそれまでの攻防意味あった?」って言いたくなるやつ。
ヤボ言ってるのは百も承知だけどさ。

f:id:hukadume7272:20220311092951j:plain何発殴られてもぜんぜん効かへん。

とはいえ80's少年ジャンプみたいなラストシーンは後味がキリッとしてて好きですねえ!
コバーンとマクガイアの和解。敵ファイターへの敬意。そして次なる町をめざすブロンソンを駅まで見送るコバーン。…物言わぬ別れ!
まるで『北斗の拳』。というか北斗サイドが影響を受けたのか。
そうそう。私は『北斗の拳』のビッグファンなんですョ。こないだ友人2名と酒浸りになりながら「どのキャラの死に様が好きかを言い合う大会」をしたのだけど、友人Aはユダをチョイス。クーッ! 悪役だけど良い最期なのよね~。ほいで友人Bはトキをチョイス。カァ~~ッ。敵のリュウガを腕に抱えたまま事切れたやつね。
私は断然レイをチョイス!
ラオウに敗れて「3日後に死ぬ秘孔」という都合よすぎな秘孔を突かれたあとに永遠の好敵手ユダを討ち果たし、醜い姿は見せたくないという美学のもと、ひとり小屋の中で全身砕けて死亡。夜空に浮かぶ巨大顔面! 最期まで美に生きた男であった!
あ。なんでこんな話になったんだっけ。まいいか。そんなわけで『ストリートファイター』
箸にも棒にもかからん映画だ。
最後に、本作に登場した敵ファイターをまとめたから、みんなで復習しようね。

【ファイター列伝】

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ダレニーモ・マケナーイ

戦闘能力:攻撃5 守備3 素早さ4 魔力0
政治思想:みんながハッピーになること。
昆虫飼育:しない
戦闘成績:映画冒頭でコバーンのファイターを撃破したが、のちにコバーンの新ファイターとなったブロンソンと対戦。めちゃくそにシバかれ「むりむり」と弱音を吐いたのち撃沈。

 

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メーニシタモーノ=ゼンブ・シバーク

戦闘能力:攻撃7 守備9 素早さ2 魔力0
政治思想:みんながハッピーになること。
昆虫飼育:しない
戦闘成績:マクガイアが手塩にかけて育てたファイター。守備力が売りの選手だったが、ブロンソン必殺の3連ジャブを12セットほど喰らって轟沈。気絶する直前に「塵も積もれば山となる」と日本の諺を呟いたとの逸話あり。

 

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タカミオ・メザスオ

戦闘能力:攻撃8 守備6 素早さ8 魔力0
政治思想:みんながハッピーになること。
昆虫飼育:しない
戦闘成績:マクガイアが繰り出した切り札。別名・シカゴの猛犬。激闘の末ブロンソンの腹パンを喰らい「吐きそうー!」と叫んで倒れる。だが気絶するまで闘いをやめなかったことから、後にシカゴ市から「メザス賞」を授与されて喜んだ。