シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

誰かに見られてる

誰も見てねえよ、こんな映画。

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1987年。リドリー・スコット監督。トム・ベレンジャー、ミミ・ロジャース、ロレイン・ブラッコ。

友人が殺されるのを目撃した令嬢クレア。彼女を護衛することになったキーガン刑事。命の危機を越えるうち、二人はやがて魅かれ合う。しかし、刑事には家庭が、二人の間には身分の違いがあった…。(Yahoo!映画より)


僕、ふかづめです!
今日は読む者たちに重大発表がある。
今までは朝6~7時に更新するという健康派スタイルでお送りしてきた『シネマ一刀両断』だけど、これからは夜更新も辞さないチンピラスタイルでいく。
夜にブログを更新するなどチンピラ以外の何物でもないことくらい百も承知だが、夜更新にするメリットは幾つかあります。
まず、なんといっても家族団欒、晩ごはんを食べながらシネトゥを回し読みするという夢が実現!
「ママー。ふかづめさんが『ショットの廃棄』とか言ってるー。どういう意味~?」「そんなのいいから野菜も食べなさい!」「なあ母さん、ふかづめさんが『ナチュラルボーン股間ボーン』だって。今夜どうだ?」「スマホ置いてはよ食え」といった家族間の円滑、潤滑、豚カツなコミュニケーションの一助となりうるわけである。冷めた夫婦関係もシネトゥを読めば再燃(家族がもうひとり増えるかも)。

また、疲れきった会社員の諸君においては、帰宅途中の電車内でシネトゥを読むことで目的の駅を寝過ごすことが回避できる! 尤も、ブログがおもしろ過ぎたために目的の駅で降り損なう危険性と隣り合わせだがな。あは。あはん。
そして帰宅して晩ごはんを食べるとき、一人娘にこう言ってあげるといい。
「時に一人娘よ。最新記事は読んだかい?」
「まだー。読んでみる~」
ママお手製の唐揚げをもりもり頬張りながらシネトゥを熟読する娘。
「マ…ッ! ママー! またふかづめさんが『ショットの廃棄』とか言ってるゥーッ。これどういう意味ィイイイイ!?」
「母さん今夜どおぉぉぉぉ!?」
母さんは大忙しである。
20年後…。
その娘は「かぎづめ」というハンドルネームで辛口映画ブログを運営していた。
彼女が敬愛する『シネマ一刀両断』の運営者は、夜に更新しすぎたせいで寝不足により志半ばに死亡。星となったのだ。その遺志を継いだ新星かぎづめは、寝不足による死亡を恐れず夜更新を貫き、のちに市長から何らかの表彰状を受け取ったというが、そんな彼女も寝不足により死亡。
その遺志を継いだのは、歳の離れた弟「かんづめ」であった…。

~今日の一句~
「重大発表」という言葉で人の気を引いたはいいものの
その発表内容が言葉に耐えきれた試しなし

そんなわけで本日は『誰かに見られてる』です。読んでくれなくても悲しくはないけれど、読んでくれたら嬉しいな。

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◆アンドレアス来ない◆

 リドリー・スコットの長編5作目は『1492 コロンブス』(92年) と比肩しうるほど存在感がなく、米映画史に何も寄与せず、また何も奪わない人畜無害な凡作として巨大なクレバスへと滑り落ちていった。
なんというバイバイ沙汰だ。
そりゃまあ、リドスコといえば『エイリアン』(79年) であり『ブレードランナー』(82年) であり、それでなくとも『ブラック・レイン』(89年) であり『グラディエーター』(00年) であって、間違っても『誰かに見られてる』ではないのです。

誰も見てねえんだから。こんな映画。

現にわたしも15年前に見たきり内容をフル忘却してしまったので改めて鑑賞した次第。


 これはトム・ベレンジャーミミ・ロジャースの共演作です。80年代まる出しキャスティングとはこのこと。
トム・ベレンジャーは『新・明日に向って撃て!』(79年) で一躍有名になったが、やはり思い出されるのは『プラトーン』(86年) でウィレム・デフォー演じる3等軍曹にプラトーンといえば?で人が連想する例のポーズをさせた鬼軍曹役。また『メジャーリーグ』(89年)『山猫は眠らない』(93年) はヒットを受けてシリーズ化された。

一方のミミ・ロジャースは『ガン・ホー』(86年)『ロスト・イン・スペース』(98年) をはじめ数多くの映画に出ているが、正直これといった当たり役がない。はっきり言ってトム・クルーズの1番目の奥さんと紹介した方が早かったりする。
意外と知らない人多そうだし。

f:id:hukadume7272:20220207050323j:plainトム・ベレンジャーとミミ・ロジャース。

 さて内容は、新米警官のトムが殺人現場を目撃した令嬢ミミの護衛を任されるという、某『ボディガード』(92年) 型エンダーイヤー系ストーリー。
殺人犯アンドレアス・カツーラスの報復を防ぐべく、トムは同僚数名とミミの住むタワーマンションの夜間警備に当たるが、次第に惹かれ合った二人はアンドレアスの報復そっちのけでセックスに励みます。トムは妻子持ちで、ミミには恋人がいるというのに!
これじゃあ夜間警備というより股間快美。
いま、そそり立つトムの摩天楼! ミミが奏でる恍惚のオペラ! イヤンあふんも夜のうち! 取った受話器は浮気の合図! 軋むベッドと夫婦の関係!
リドリー・スコットが贈る都会派ラブ・サスペンスの金字塔『誰かに見られてる』ゥ~!

どこがラブ・サスペンスやねん。

む~ちゃむちゃタダの不倫やないか。
まあ、トムも最初の数日間はマジメに警備してたんだけどね。ミミの部屋の前で。まんじりともせず。でも1週間もすると「今夜もアンドレアス来んなー」言うて。だんだん飽きてきて。ミミもミミで「部屋でお酒でも飲みましょうよ、刑事さん」言うて。ウイスキー飲んで、カッカしてチューして。
乳いらって…。
どこがラブ・サスペンスやねん。
警備に飽きてセックスしとるだけやないか。なあ。
しかもこの映画は(ジャンプ・カットを使わず)1日ずつ丁寧に見せていくので、劇中で描かれた日数の大半は“何も起きない”わけですよ。

アンドレアス、来ん夜おおすぎ。

そうなのよ。この映画って「殺しの現場を目撃された犯人が証人を抹殺しようとする話」なので、アンドレアスがミミを殺しに来ないことにはハナシが一個も進まないわけ。とはいえ、アンドレアスも毎晩のようにミミ宅に突撃するわけにもいかないので、確実に抹殺できるタイミングを虎視眈々と狙ってるのよ。

つまり、それ以外の時間は何も起きない。

「いつくーん?」ゆうて。俺。「アンドレアスいつくーん?」ゆうて。
トム側も手持ち無沙汰だ。ひま。アンドレアス全然こん。じゃあミミとくっ付けてイチャイチャさせよう! つまりラブとサスペンスの融合…。ラブ・サスペンスだ!!

下半身で脚本書いとんのか。なあ。

なんやこれ。命を狙われた美人証人がなかなか殺人犯が襲って来ないので身辺警護してくれてる警官と寝てばかりして…!
本作をジャンル分けするにしても、決して「ラブ・サスペンス」ではないよ。

「アンドレアス来ない」だよ!!

ビデオ屋に「アンドレアス来ない」ってコーナー作って、そこほり込んどけ!

f:id:hukadume7272:20220207043657j:plain右から順に、ミミ、トム、トムの嫁。
左からだとトムの嫁、トム、ミミとなる。

宮殿を汚すな

 わりあい本格的な不倫映画なのよね。逆にサスペンス要素はかなり希薄。だってアンドレアス来ねーんだもん。どないもこないもならんわ。
本作はトムの奥さんがただただ可愛そうな映画ですョ。
トムの奥さんは結婚を機にキャリアを退いた元刑事で、非常に気っ風のいいチャキチャキ嫁。クイーンズの下町で夫と息子と、どっこい生きてる! そんな妻を演じたのが『グッドフェローズ』(90年) で知られるロレイン・ブラッコ

一方、トムは長年ロレインが選んだネクタイを愛用していたが、護衛任務の初日、ミミに「なんて下品なタイなの」と言われ、高級ブティックで新しいネクタイを買ってもらった。そして、あろうことかトムはそのネクタイを着用したまま家に帰っちゃうわけです。当然、妻にしてみれば好い気はしない。それでもニコッと笑って水に流す、気立てのよさ!
でも、こんなことが何度も続くのです。
夜間警備のために昼夜逆転の生活を送るトムは、次第に夜の訪れを望みはじめる。夜になったらミミに会える。乳いらえる。あのブロンドヘアーのふわふわを思い出しただけでトムの摩天楼は天を衝くのであった!
夫の浮気に薄々勘づけど、ロレイン夫人は出来るかぎり我慢し続けた。ストレスを発散すべく息子を連れて射撃場に赴き、的を狙ってバキュン、キューン!

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あら…。

息子「ママ、心臓を狙わなきゃ…」
何も知らない息子はそう呟いたが、皆まで言うな…。



この場合は股間でいいのよ。

 以下はネタバレになるが、物語終盤でようやく正体を現したアンドレアスはトム宅に侵入。ロレインと息子を人質に取り、ミミを連れてくるようトムに要求する。「家族を殺されたくなきゃ云々~」ってヤツだな。
窮地に陥ったトムだったが、ライバル刑事のジェームズ・E・モリアーティがミミに扮してトムとともに家の中に入った。つまり女装だ。ミミ偽装作戦だっ。

で、コレ…最後どうなると思います?
通常であれば主人公(この場合トム)が目にも止まらぬガンアクションで悪党をバキュン。それでなくともアッと驚く奇襲戦法で悪党をバキュン…が定石であるが、なんとこの映画、人質のロレインが悪党をバキュンするーん!
年端もいかぬ息子がテーブルの裏に隠していた拳銃を抜き取り、『リオ・ブラボー』(59年) を思わせる身振りで母に渡すと、流れるような銃さばきでアンドレアスの心臓をバキュン、キュキュンと3発で射抜く。駄目押しにもう1発。キュンです。

結句、トムは何もしてないし、ジェームズの女装作戦も発動することなく、すべては人質のロレインが丸く収める形で映画はハッピーエンドを迎えたのであるるでるるる。

アンドレアスの死を確認したあと、泣きながら抱擁するロレインと息子に「俺なんかがこの場に立ち会っていいのだろうか」と一抹の後ろめたさを感じながら抱擁に参加するトムと、その様子を遠目から見守ったあとに、もはや私が介入する余地なし顔で姿を消したミミに胸がすく思いをしたのは私だけではないはずだ。
結局のところ、家族のために命を懸けられるのは男ではない。女だ。我が子のために死ねるのは、いつの時代だって妻である。

妻なめんな。
これはフェミニズムとか、そんなくだらん次元の話ではない。もっと原始的で、戦闘的な話をオレはしてる。
死ぬ気になった人間は後先考えないから何でもできるだろ? つまりこの世で一番強いのは妻だ。
家庭とは、女が死ぬ気で作った宮殿や。
その神聖さを知らない男だけが気安く不倫などする。せやろがい。べつにオレは世の男に対して「不倫すな」と言っているのではない。するんやったら上手にせえ。

ただ、宮殿を、汚すな。

…と、いま言ったような持論を見事に描き切っているので、次章でいささか貶しもする本作をオレは嫌いになれない。嫌いになれへんのや。

f:id:hukadume7272:20220207044030j:plain妻ロレイン。彼女こそがヒーロー(よう頑張った)。

◆相変わらずMTV◆

 さて。この映画は商業的にも批評的にもダダ滑りした失敗作として巨匠リドリー・スコットの輝かしいフィルモグラフィに刻印されているが、私はリドスコを「巨匠」だとも、いわんや「輝かしい」経歴の映画作家だとも思ってないので、その意味では相対的低評価はしていません。
「リドスコにしては凡作」ではなく「リドスコのいつもの凡作」として微笑ましく鑑賞したのね?

『エイリアン』
『ブレードランナー』で確立されたバックライト(逆光照明)の濫用ぶりや、スモークを焚きまくったフォギーな映像設計などは相変わらずMTV的ではあるけれど、まあ当時の流行として「ほっほーん」と楽しみましたョ。
この靄がかった青い映像は80'sアメリカンシネマの象徴だったからねぇ。『E.T.』(82年) のスピルバーグや『フラッシュダンス』(83年) のエイドリアン・ラインなど、皆やってたよな~。

f:id:hukadume7272:20220207044733j:plainリドスコといえばバックライトとスモークの多用。

ただ致命傷なのは街が撮れてないこと。
主人公が往還するクイーンズとニューヨークの街並みにカメラを向けず、もっぱら室内シーンばかり繋げてるのでロレインとの幸せな家庭=クイーンズミミとの刺激的な逢瀬=ニューヨークという対比に情感が宿らないのよ。
「きっとコッポラだったら、二人が入ったバーのエスタブリッシングのあとに踊り子の肩ナメからカウンターで話す二人の後姿を…」なんて想像で補完しちゃうほど、リドスコのカメラは味気ない。
広い画もない、すぐスモークに逃げる、ドリーショットがひたすら退屈etc…。
おれ、リドスコ映画の街並みってぜんぜん思い出せないのよね。
ほとんどの映画が、船上だったり闘技場だったり宇宙船だったり…とセットばっかり。セットとスモーク。すなわち舞台装置の中で映画を撮ってる人で。やってることはMTVだったりドラマだったり…どこまで行ってもテレビなんだよね。
なので未だに、リドリー・スコットといえば「テレビを芸術に昇華させた人」というイメージで。いつになったら“映画”を撮ってくれるのかしら、と思いながら毎回新作をチェックしてるのだけど。
あ。でも、以前撮ってた『悪の法則』(13年) はよかったな。ちょっとベルトルッチっぽくて。

まとめ:トニー・スコット生き返れ。

 

嬉しいおまけ ~ミミ・ロジャース考~

 前章では「妻なめんな」と言って本妻ロレインの味方をしたけれど…とはいえミミ・ロジャースの色っぽさね。
抗しがたい。
オスカー像のようにシュッとしたスタイルに、ひし形シルエットのパーマネントヘアー(ふわふわ)が醸す女の色香。
殺人犯の報復に怯えてる彼女を無下にできる男など何処にいよう!
トムによる「暴漢に襲われない夜道の歩き方講座」を実践してるシーンは必見。健気にも、変な歩き方をちょらちょらとして…!
一方の主演トム・ベレンジャーも、この頃は色男であった。若い頃のミッキー・ロークとライアン・オニールを足して鬼殺しで割ったような顔してますね。
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f:id:hukadume7272:20220207044904j:plainのちの『ダークシティ』(98年) 『インセプション』(10年) を彷彿させるゴシック感。