シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

音楽

凡人コンプレックスの裏返しとしての「シュール」が横溢する浮世にあって本作のシュルレアリスムはハクビシンすら「白眉」と讃える ~でもお母さんKORENANI?~

2019年。岩井澤健治監督。アニメーション作品。

漫然ぬらりと生きてる不良3人組が思いつきで音楽を始め、思いつきで「古武術」というバンドを結成し、思いつきで町内会レベルのしょぼい音楽フェスに参加する。だが本番間近、リーダーの研二がバンド活動に飽きてしまう(思いつきが祟った)。
果たして町内会レベルの音楽フェスはどうなってしまうのか? そして自宅にCD3万枚を保有するフォークソング部・森田が出会った新たな音楽とは!?
思いつきで進んでいく青春脱力音楽譚、いま幕上げ。


うんっ。無論ふかづめ!!!
はっきり言って、全盛期を思わせる更新ペースを維持するのは簡単なことだ。なめんじゃねえ。
全盛期…年間更新数270記事を叩き出したブログ開設1年目の2018年。
ただ、いつも前書きで詰まってる。
評自体はとっくに出来上がってるし、出そうと思えばいつでも出せるのに、前書きの話題がなさすぎて、そのために更新を見送ることもしばしばの柴田理恵なのである。
だいたいよ~、映画評ブログに前書きなんて必要ないし、現に初期のシネトゥは(前書きなく)いきなり評に入ってたわけだが、まあサービス精神の発露ってやつだろうな、いつしか前書きシステムを導入し始め、やがてアバンタイトルに凝り過ぎてそこがピークになった映画みたいに前書きの比重が大きくなり出し、回によっては「前書きメインで、その余力で映画評書いてる」みたいな本末転倒沙汰すら巻き起こってる。
シングル曲がカップリング曲になって、カップリング曲がシングル曲になって!


こないだの『Mr.ノーバディ』(20年) 評もさ、映画評より前書きの方が長かったことを謗るようなコメントしてきた、イケズな連中がいたの。Twitterで。
まず、サッカーばっか見てぜんぜん『Yayga!』を更新しないやなぎやさんが「読んだ、短か!」とイジワル言ってきた。
短くても更新してるだけ『Yayga!』よりYayga!してるやろがいいいいいい。
最近の『Yayga!』ひどいぞっ。ブログトップに「叫びたくなるような映画への思いを書き殴ります」って誓ってるのに、5ヶ月にいっぺんしか更新せん…! こっちが叫びたくなる。

次に、ビールばっか飲んでぜんぜん『今日の経験値』を更新しないとんぬらさんが「短かっ!オリビアニュートークのほうが長かった。」とイケズを言ってきた。
アンタもはよブログ更新せえ。
2022年の更新数、現在0やぞ。
経験値どないなっとんねん。
ポイントカードやったら失効してるぞ。
観た映画の感想を頻繁にツイートしてるけど…それをブログにせえて。

さらに、とんぬらに触発されたやなぎやが、再度「オリビアニュートークしたかっただけなんじゃ?」と嫌味を被せてくる。
人のオリビアニュートークにやいのやの言う前に、はよ叫びたくなるような映画への思い書き殴ってYaygaしよぉ~?
おねがーい。
せっかくYay!+映画=イェイガ!っていう気の利いたブログ名をご友人につけてもろたのに5ヶ月もほっぽって…。ず~っとサッカーの「もうやん」のコンディションに一喜一憂して!
誰やねん、もうやんて。

そして最後に現れたさんが一言…
「みじか」
短いのはおまえのリプや…。
みんなして俺をからかうのはいいけど、せめてもうちょい長い文章つむいでくれ、よぉ。テ~~キト~すぎる。3文字で片づけて。句点すら書かんと…。KONMAか、おまえは。
でも『ミセスGのブログ』は活発に更新しとるがな。なかなかにえらいやん。褒めてつかわす。
でも「みじか」の3文字ですべてを片づけようと企んで…! 句点もなしに。

そんな中、渋谷あきこさんだけだよ。「更新がマメで嬉しい!」とストレートに僕を評価して、嬉しさをにじみ…っ滲み出させてスパークさして!
にっこりして「嬉しい」ゆうてえ!
倉木麻衣くらいの癒しを僕に与えてえ!

まったく失礼しちゃうよね。
これからも意地悪なリプをしてきた人たちは全員晒して悪口言っちゃうからね!!
もらぁ!!!
誤字ってオラァが「もらぁ」になったところで本日は『音楽』です!
なにが音楽やねん。
くそったれが。
Twitterでイジワルされてくさくさしてる時に『音楽』もヘッタクレもあるかあ。なんでこんな感情高ぶってるときに音楽の話せなあかんねん。



◆不良がバンド組んだらプログレになった◆

 「音楽の初期衝動」という言葉が嫌いだ。
というより、初期衝動という言葉をあたかも拙い演奏技術の免罪符にしてるような連中の音楽観が嫌いだ。そういう音楽雑誌だってオレは燃やしていくし、そのことを決して悔いることもないだろう。
あまねく表現とは“世界との対峙”であり、またそれによって相対化された自我の埋葬である。初期衝動とか言ってむやみに情熱を振りかざしてもムダだ。おまえの情熱など世界にとっては些事にすぎないし、オレには何の関係もないことだ。オレの一人暮らしを邪魔するな。
ていうか初期衝動って何だよ。
そんな言葉ねえよ。
ふざけた造語に酔うとったらいてまうどお!

 さて。あるいは、さて。
岩井澤健治という謎めく男がわずかなスタッフと7年間に渡って完成させた動画枚数4万枚を超えるアニメーション作品『音楽』では実にわかりやすく“ロックの初期衝動”が描かれているが、それってもしかして表層!
この作品で描かれてるのは本当に“ロックの初期衝動”なのだろうか?

不良高校生の研二太田朝倉の三人組は、およそ不良とは程遠いほど大人しく、寡黙で、覇気どころか生気すらない奴らだった。
物語冒頭、売られた喧嘩を買うべくライバル校の丸竹工業に殴り込みをかけようとした研二は、不良仲間の亜矢に向かって「土産話は明日してやるから、楽しみにしてなさい」と呟いた。
不良とは思えんセリフだ。
口調が眼鏡でセーターの土曜日のパパ。

左から朝倉、研二、太田。

しかし、歩けど歩けど目的地に着かぬ3人。あなや、丸竹工業の場所を知らないことに今さら気づいた研二が、近くに建物をみとめて「ちょっと聞いてくる…」と入ったはボクシングジム。
残る2人もジムに入り、ベンチに腰掛けた3人。スパーリングを見学し、その日は帰路についた。
帰路についたん?
丸竹工業…殴り込みは?
結局「めんどくさい」という理由で丸竹工業との対決を反故にした研二は、次の日の放課後、引ったくりを追おうとしたバンドマンから「兄ちゃん、ちょっとコレ持っててくれ」と預かったベースを黙って持ち帰ったことから音楽に興味を抱き始める。
動機が犯罪。
晴れてバンドを結成した3人だったが、何がどうなってそうなったのか…担当楽器は研二がベース太田もベース朝倉がドラム
ギターが定員割れすることあるん?
花形のギターとボーカルが不在。
画竜点睛どころか…竜のボディまるまる欠いとるぞ。
まあ、本人がいいならいいけど。

早速「せーの」で合わせた3人の音は、なんというか、鍾乳洞の中で暴れてるダメな魔物みたいな演奏であり、鳴ってるのはもっぱら朝倉のドンドンドンドン…という無表情なドラムだけ。そこに時おり研二だか太田だかの「べろん」というベースが搦め手のように滑り込む。
ピンク・フロイドとジミ・ヘンドリックスを合わせてキング・クリムゾンの『レッド』(74年) で割ったような珍妙プログレ…といえば聞こえはいいが、要は雑音… 前衛音楽である。
ずっと聴いてたら頭おかしなる…。
だが、感想を求められた亜矢は「いいんじゃない。男らしくて」と評価した。
男らしくていいん?
評価基準が昭和すぎた。なんやねん「男らしくていい」て。前衛音楽やぞ…。

バンド名を考案した際、研二は朝倉が提案した「古武術」を即決する。意味は不明。なんでも、朝倉の親戚のおっさんが古武術をやってたから思いついたんだと。
そんなわけで、新バンド「古武術」は成り行きのままに誕生した。
のちに同じ学校のフォークソング部に「古美術」という紛らわしい名前のフォークグループがいることを知った研二らは、かぐや姫をパクったとしか思えない彼らの演奏にいたく感銘を受け、地元の超小規模なロックフェスへの参加を表明し、ちょっぴりだけ緊張した。
う~~ん、古武術と古美術っ!
水野真紀と水野美紀くらい紛らわしい…ってツッコミはいささかベタか~。
う~ん! 血色が悪いときのブラッド・ピットと血色が好いときのベニチオ・デル・トロぐらい紛らわしい…!


これもベタの範疇か~!

 いま始まるっ、情緒欠乏型の青春脱力音楽譚。何考えてるのかわからんポーカーフェイスで淡々と進む不思議生態をその目にやきつけろ。
田んぼのように起伏なき不良3人組によるベース過多の意味深長すぎ演奏がキミたちを包みこむかもしれない(包みこまないかもしれない)。

…………。

これなに~~~~?

ず~~っとわけわからん…。
古美…古武術?

お母さんKORENANI~~?
なあなあ、お母さ~~ん。

古美術(右側)の演奏に感銘を受ける古武術(左側)。鬼ほど紛らわしい。

◆ビバ! 三日坊主◆

 この、無表情で非情緒的な3人組によるたっぷりと間を使った日常の描写は、とかく「シュール」という語で誤謬されがちなアニメ演出です。
①間の長さ、②無表情、③淡々とした描写。
この三拍子が揃えば「シュール」と認定される美的感覚の磁場が21世紀のサブカルチャーを取り巻いてるんだ。
でもホントは逆。
この場合はシュール(超現実)ではなく、むしろリアル(現実的)なんだよな。
それでも世間からシュールと評されたいクリエイターほど、間や感覚を意図的に脱臼させたオフビートな作風を好み、たとえば映画なんかでも北野武やジャームッシュに惜しみないリスペクトを捧げてみせるのだが、そうした珍奇の身振りは凡人コンプレックスの裏返し。
つまり凡人ほど奇人ぶるという変身願望が動脈硬化を起こした成れの果て。
大体そういう奴らは「へんこ」の意味を履き違えている。「変子」になりたいあまり「偏固」になるってね。
わしゃしゃ!

わしゃしゃやあるか。
ちなみに私、“シュールと思われたがってる奴”に対しては人一倍鼻が利く。なんとなれば、かつて私自身もシュルレアリスムに傾倒し、葛藤し、憎悪し、一周も二周もして脱却…というか、うまい付き合い方を見つけた人間なのでな。
だから今時分「シュールw」とか「センスあるね」と思われようと必死になってる映画監督や漫画家、はたまたタレントやミュージシャン各位の心理は概ね推し量れるつもりです。
『ポプテピピック』とか全部わかるからね。
ダリとかもわかる。

すまん、ダリはわからん。

古武術のミューズ、亜矢。よく見たら結構かわいい。

 そこで本作。
自称シュール警察たる私は「狙ってない」と結論しました。シュールを狙った作品特有の“自意識の背伸び”がなく、ごく自然に変なのよ。
ことシュール系アニメでは、台詞ひとつ、表情ひとつ、中割りのひとつに至るまで拘り抜いて「変子」を自演するが、本作にはそのような作り込みがなく、むしろ隙だらけなのである。「ここで一発カマせたのに。勿体ない…」と思わしむるほどに、研二たちは時に真っ当な行動や、特におもしろくない発言、凡庸な演出にストンとおさまってしまうのだ(ゆえに異化作用が働いて逆におもしろい)。
「この監督は狂ってるのか? 存外そうじゃないのか? あるいは狂っててほしいと願うオレが狂ってるのか? じつは全員正常なのか?」のルーレットの上でコロコロと跳ねっ返るボールの心地よさ。
その感覚こそが超現実=シュールの醍醐味なんじゃないの。
また本作との共通点を、私は京都アニメーションの『日常』(11年) に見た。


『日常』の主人公ゆっこ。私の「スンとした自画像」に計り知れない影響を与えることに成功。

『日常』
はデフォルメした絵柄とキテレツな内容でありながら、時おりアニメーションとしての地肩の強さを見せつけるのだ。『音楽』でも演奏シーンの描き込みほか、背景美術で揺れる木葉が不気味なまでに活き活きしてるんだ。
シュールだけを狙ってるとなかなかコレはできない。
なんとなれば、シュールと思われたい勢は「なんだフツーに巧いじゃん」と思われたら終わりだからである。
だからこそ、一気呵成に書いたような雑な脚本のおもしろさが際立ちます。研二は何の前触れもなく「音楽飽きた」とか言って突然バンドを抜けてしまうし、かと思えばある日突然ベースをリコーダーに持ち替えて音楽活動を再開する。しかもリコーダーの腕はピカイチ。そこには「なぜ」も「どうして」もない。
ただ飽きて、なんとなく再開して、ふとリコーダーを吹いたら、たまたまピカイチだったのだ。

あと言い忘れたが、こいつらは練習などしない。
『けいおん!』(09年) の放課後ティータイムでさえ楽器練習や強化合宿に勤しんでいたというのに、古武術の面々はいっさい練習しない。というか最初の音合わせがすでに完成形だと本人らが思い込んでるので向上心を持つ道理すらないのだ。…なんだこりゃ。練習シーンのないバンドコンテンツなんて初めて見たわ。

バンド活動に飽きた研二のようす(露骨に飽きてる)。

 だから、これは“音楽の初期衝動”なんて粋がった話ではなく、もっと馬鹿で、もっとまっすぐな“欲”を描いた作品ではないかしらん。
たまたまベースをゲットしたからバンドでもやってみっか、である。
ビバ! 三日坊主。
その代わり、いつ鎮火するともしれない研二たちの情熱は古美術リーダー森田へと灯された。
森田は、研二たちが通う高校のフォークソング部で古美術というフォークグループのフロントマンを務めてる男だ。始めこそ研二たちに怯えていた長髪&眼鏡のオタク少年だったが、古武術のデタラメ演奏に衝撃を受け覚醒。のちに金髪となり、エレキギターを誰よりも早く弾く男となった。
そんな森田が古武術の演奏に衝撃を受けるシーンでは、レッド・ツェッペリンの『レッド・ツェッペリン I』(69年) 、ピンク・フロイドの『原子心母』(70年) 、ザ・フーは『フーズ・ネクスト』(71年) かな? あとジョン・レノンの『マインド・ゲームス』(73年) のジャケットパロディが施される。
実際、森田は3万枚のCDを保有する音楽ジャンキーというキャラクターであり、仲よくなった古武術の太田にキング・クリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』(69年) の貸し付け未遂を起こしてもいる。
何が言いたいかっちゅーと、“音楽の初期衝動”なる主題が当てはまる唯一のキャラクターがいるとすればそれは森田ザッツオールということなのだ。

ロックネタ満載。

◆おまけのプログレ◆

 中身があるのかないのかよく分からん作品だが、いずれにせよ濃密な71分を私は過ごすことができたわけね?
とりわけ研二の場合、人から質問されたことに対して30秒くらい考えてから答えるようなタチなので(エレカシ宮本かよ)、本当に無為としか言いようのない死に時間が流れてゆくし、たぶんこの物語自体、すごい握力でギュッてしたら30分で終わるような代物なのだが、この“間”を楽しめるかどうかが評価の分水嶺なのだろう。
で、この焦らされるような感覚こそが、古武術が自ずから体現していたプログレの本質でもあるのよね。
プログレというのはプログレッシヴ・ロックの略で、60年代後期~70年代前期にかけて世界的に流行した先進的なロック体系です。
主な特徴は…

(1)壮大な組曲になっており、1曲が10~30分ある。
(2)バカテク。
(3)演奏主体で、ほぼ歌わない。
(4)チャクラ開く。

要は面倒臭え。
面倒臭えロックだ。
ノッて楽しくなるようなロックではなく、己が内へと釣瓶を落とす思索的かつ哲学的なロックといえば分かりよいか。代表的なバンドはピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、エマーソン・レイク&パーマー、ジェネシスなど。
わて、学生時代は取り憑かれたように聴いててん。未だどこにも行けず、何者でもない自分を発奮せしむるカンフル剤として、まさにプログレは誂え向きなのだ。精神世界がハマグリみたいに開きよるからな。
でも気分がノらないときに聴くとスゲー焦れったいのよね。少女Aくらい焦れったい。
ピンク・フロイドとかすごいよ。ドクンドクン…みたいな心音がずっと鳴ってて、しばらくするとレスポールのポヤァ~~って神秘な音が聴こえてきて、それがちょっとずつ大きくなって…みたいな。それだけで5分経ってんの。
「いつ演奏始まるんじゃああああ」ゆうて。
二十歳過ぎてるのに。iPodほって。
ゼッタイ誰も最後まで聴かないだろうけど一応貼っとくわ。ピンク・フロイドの「エコーズ」。名盤『おせっかい』(71年) の目玉チューン。冒頭の「ピィーン!」は偶然の産物で、有史以来初めて鳴った音として有名。


ピンク・フロイド「エコーズ」。

(C)大橋裕之・太田出版/ロックンロール・マウンテン