シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

クリード 過去の逆襲

どこがナルトとサスケやねん。


2023年。マイケル・B・ジョーダン監督。マイケル・B・ジョーダン、テッサ・トンプソン、ジョナサン・メジャース。

くりくり頭のクリード。そんなクリードの幼馴染みが過去の逆襲を仕掛けてくるんだって。


おぇー、やろか。
新紙幣についてサクと話をしたよ。
ソーメニー悪口、言っちゃった。

ふか「新紙幣のデザインがびみょい、ちゅて、せんどSNSで肴にされたネタをいま改めて俎上に載せようと思う」

サク「思ったらいいんじゃない」

ふか「やっぱ何回見てもチャチーよな。人生ゲームで使うオモチャの紙幣みたいな。盗まれても別にええかと思えるような。一万円の紙幣なのに千円ぐらいしか価値を感じないっていうか。ぬるっとした秋風が頬を撫でるというか」

サク「既にいろいろ言われてるね。千円と一万円で1のフォントが違うとか。一応、あれは目の不自由な人でも触ってわかるように識別性を重視した配慮らしいけど」

ふか「そんなピクトグラムな。福沢、樋口、野口の紙幣にも触ってわかる識別マークはあるけどね。右下と左下に」

サク「よりわかりやすくしたんじゃない?」

ふか「今までと勝手が違ったら逆にわかりにくくなると思うけどな。だって当面は新紙幣と旧紙幣が入り混じる、ジョジョ4部みたいな季節が続くわけやん」

サク「世代交代しても2部のジョセフと3部の承太郎が出てくるジョジョ4部みたいな」

ふか「あと人選ね。新紙幣三羽烏」

サク「一万円が渋沢栄一で、千円が北里柴三郎で、…五千円が誰だっけ?」

ふか「知るかぁ!」

サク「いま調べたけど津田梅子さんだって」

ふか「ぜんぜんわからない。なんかグレード下がってへん? 福沢と野口がSSR過ぎたんだわ」

サク「ソシャゲみたいに言うなよ」

ふか「偉人ガチャ界のSSRやろあんなもん」

サク「まあ、それで言ったら昔の五千円札も違和感あったけどね。聖徳太子から新渡戸稲造て。何モンのどこ中なん」

ふか「わかるわかる。新渡戸稲造な。なんかボヤッとしてるんよ、功績が。いろいろ大変なご苦労もされて、多岐に渡って大車輪のご活躍、結果的にすばらしい功績を残された方なんだろうけどさ、『…で結局なにしたん、この子?』って一生言われ続けるタイプの偉人っていうか。なんかボヤッとしてるから…」

サク「これと呼べるものがないんだよなぁ、新渡戸には

ふか「そう。ブレブレなんだよね、人生」

サク「ヤフーで調べたら国際結婚の先駆者って出てきたよ。アメリカ人女性のメリーと結婚したんだって」

ふか「なんやそれ。国際結婚の先駆者て。それ功績なん? むちゃむちゃプライベートやん。知らんがな。好きにせえよ。でもおめでとうな、新渡戸とメリー。すてきやで」

サク「しかも二人の間には遠益(とおます)が生まれてもいる」

ふか「遠益が生まれてもいるん!!?」

サク「まあ当時は国際結婚する日本人がそれだけ珍しかったってことでしょ」

ふか「いや、新渡戸がせんでも誰ぞするやろ。川崎麻世とカイヤとか。ほっといても開墾されるぞ、その荒地」

サク「ほいで聖徳太子に関しては一万円札にもなってるし、古くには百円札や千円札など計7回も肖像になってるからね」

ふか「もう、やってること紅白最多出場の五木ひろしやん。駆け巡っとるなぁ、紙幣ユニバースを」

サク「さっきふかづめは福沢と野口がSSRと言ったけど、おれは野口を認めてないけどね」

ふか「なんで。野口ええやん。夏目漱石の後釜という重圧を見事跳ねのけて浸透したやん」

サク「なんか顔が一般人なんよ

ふか「誰が誰に言うとんねん」

サク「風格というのか、これまでの肖像画にあった強キャラ感がしないのよ。表情もさ、嘘ついてるときの顔やん。食べてませんけど僕、みたいな」

サクいわく嘘ついてるときの顔。

ふか「確かにしらこい面構えやけど、野口も野口で頑張ってて、ウェービーな髪型で一生けんめい異才感放ってるのよ、あの子。ベートーヴェンライクなウェービーヘアね。そこを評価したらんと」

サク「いや~、顔の薄さを髪型でごまかすあたりが最近のJ-ROCKバンドっぽくて、なんか鼻につくんよなぁ」

ふか「それを言われると俺もそっち寄りやで。ブスを隠すために前髪で目を覆ったりしてる若手バンドとか。最近ではもう完全顔出しNGみたいなミュージシャンも多いしさ。ネットで火がついた的な連中ね。ニコニコ動画とか。悪いけど、ああいうのは『一般人』と思ってる。こっちからは見たいけど、そっちから見られるのはちょっと…って、その程度の心構え。それって一般人の心理なのよ。匿名だと強気で発言できるけど特定されるのはちょっと…と同じ」

サク「ああ、ふかづめみたいなね

ふか「そう、俺みたいな感じ

サク「それに比べたらYouTuberは顔出してる分えらいよね。一端の有名人よ」

ふか「YouTuberは有名人じゃなくて“知名度のある一般人”ですよ。厳密には“たまたま知名度が上がって図に乗ってる騒ぐことだけが取り柄の一般人”ね」

サク「でもそれを支持する若者が多いのも事実」

ふか「それを支持する若者が多いから石丸が2位になったりトー横でガキが立ちんぼするのもまた事実」

サク「勢いがすごいね」

ふか「勢(いきお)ってるよね~」

サク「なんせ新紙幣三羽烏はつまらん、と」

ふか「新紙幣三羽烏つまんねえ。だって冷静になって考えてみ。一万円札の渋沢さんと千円札の北里さん…逆ちゃう?

サク「逆?」

ふか「渋沢さんは一万円札なのに千円札みたいな顔してる一方、北里さんは千円札とは思えないほど一万円札みたいな顔してない?」

サク「そうかなぁ? 別に…」

ふか「ちょ待て待て。いや、色でゴマかされてる。元来、一万円札は黄ばんでて、千円札は青っぽい。この印刷色バイアスによって、渋沢はより重厚に、北里はなんだかへなちょこに見えるけど、これ、逆でイマジンしてみ。イマジンしてるか? 本来千円である北里選手の、恰幅のよさ、しかめっ面…しかめっ面っていうか、もう怒ってるよね。見てみ、これ。怒ってるやん。社長の怒り方やん。威厳がすごいよ。サンシャインやろ、こんなもん。キン肉マンの。それに比して、黄ばみブーストでなんとなく万札顔におさまってもいる渋沢選手だが、よく見てみ、これ。顔ほら。怒られてるやん。『発注したのは私じゃないんですけどね』って、心の中で言い訳しながら説教聞いてる中間管理職の顔っていうか、もう拗ねてるやん。露骨に。もうちょっとしたら泣くやん。だから北里に怒られてるときの顔よ、これ。黄ばみでドーピングして威厳出してるけど、髪型とかもよく見てみ? 中間管理職のハゲ方やん。絶対一万円の器ちゃうやん。よう見たら撫で肩っぽいし」

上から順に、渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎。

サク「そう言われればそう見えなくもない…のかな…。もう一発ない? 手裏剣」

ふか「あ、手裏剣? まだあるよ。たぶん千円札の北里さんは、前任の夏目漱石とパーツが被ってるから千円バイアスを掛けられたんだろうなって疑惑ね。だって漱石との共通点が沢山あるもの。なんといっても眼鏡と口髭ね、あと髪型も近い。ニアリー漱石やん。違いといったら、ふっくらしてるかしてないかだけ。それ以外はほぼ漱石。ほな北里も千円でええか、っていうテキトーなジャッジが下されたはずなんだよなああああ。現に五千円札は樋口一葉から津田梅子、と共通して女性でしょ。共通性が一貫してるのよ。それこそ紙幣の視認性を重視してるのとちがうか。だって紙幣が代わるたびに肖像画の人物の見た目がコロコロ変わるよりも、ある程度共通性があった方が今まで通り視認して、今まで通り使えるだろうしな、国民は!」

サク「はあ」

ふか「飽きたんか? 何が言いたいかっちゅーと、俺はこれから千円の北里さんを一万円のつもりで使っていく、ちゅこった」

サク「じゃあ四千円の買い物をするたびに北里さんを四枚出すわけだから四万円分のドキドキを無駄に味わうってことね」

ふか「そういうときは五千円の津田を出して、北里を一枚、お釣りでもらう」

サク「一万円、得するわけだ?」

ふか「そうそう。得するわけよ!」

サク「しねえよ」

そんなわけで本日は『クリード 過去の逆襲』です。



◆本作に逆転のKOチャンスはあるか!? ない◆

 もう本当はどうでもいいんだけどね、『クリード』なんてさ。でも、おれ優しいから観ちゃったよ。シリーズ3作目『クリード 過去の逆襲』をね。うふふ。
『ロッキー』シリーズのスピンオフ作品として公開された『クリード チャンプを継ぐ男』(15年) は、ロッキーの盟友アポロ・クリードには隠し子がいた! というムチャポコな後づけ設定によって誕生した世代交代版『ロッキー』外伝である。
1作目の『クリード チャンプを継ぐ男』はなかなか見応えのある良作だった。否。良作どころか、癌に侵され、ロッキーというより老ッキーと化したロッキー・バルボア(シルヴェスター・スタローン)が亡き親友アポロの息子たるアドニスのトレーナーとなり王座へと導く伝承神話としては、むしろムネアツで骨太でマジ卍な大河ドラマだった。映像面でも『ロッキー』(76年) の発明といえるステディカムもそこかしこで使われていたしね。
ところが、続く2作目『クリード 炎の宿敵』(18年) は頂けない。シリーズ正史の『ロッキー4/炎の友情』(85年) でアポロを殴り殺したロシアの王者・ドラゴには息子がいた! というハチャメチャな後づけ設定によって「アポロの息子VSドラゴの息子」という因縁の二世対決を実現したものの……まあ、詳しくは評をお読みなすってくだせえ。イッヒッヒ。


そして本作。
性懲りもなく作られた3作目『クリード 過去の逆襲』がトリロジー完結編であらんことを願いながら鑑賞したおれは、鑑賞後、その願いをより強くした。
そもそも前作『炎の宿敵』の時点でロッキーシリーズの血は途絶し、もはやロッキーどころかグロッキーなそこらのフツーのボクシング映画になっちまったので、そんな“そこらのフツーのボクシング映画”の血を引いた本作に逆転のKOチャンスなど望むべくもないのです。
だって…
とうとうロッキーさえ出てこないしね。
※創作性の相違を理由にスタローンが出演拒否した(もうロッキーていうかキョッヒーやん、こうなってくると)。

 はて物語。さて物語。
チャンピオンベルトを取り返したあと引退して3年が経つアドニス・クリードのもとに、かつて幼馴染で兄貴分でもあったディミアン(ジョナサン・メジャース)が訪ねてくる。
かつてのディミアンはプロを目指していた若き少年ボクサーだったが、過去のある事件によって20年近く刑務所に服役。ようやく出所するや否や、知己のアドニスを頼り「もう一度ボクシングがしたい。したいのです。頼んまっさかい、ジム貸してえやー」と懇願。昔のよしみから、どうにも断りきれずディミアンをサポートするアドニスの心には、過去の“ある事件”に関与したことへの後ろめたさがあった―…。


ディミアン(左)にチャンスを与えるアドニス(右)。

◆バーベキュー奉行、謀反す ~カボチャ焦げとるぞ~◆

 『ロッキー』シリーズはボクシング映画である前に人間ドラマであり、きわめて滋味深くも普遍的な人生観や人間描写をこそ持ち味とした、まるで香り豊かな長編小説をじっくり読み進めていくような趣き溢るるるる大河ドラマなればこそ、大味なハリウッド映画とは一線を画した“丁寧なプロット”を骨子とする緻密な一大絵巻であり、したがって、そのスピンオフ作品たる『クリード』シリーズもまた丁寧なプロットを継受せねばシリーズとして破綻するわけだが、前作『炎の宿敵』にましてプロットが雑な本作は、だから、まあ………破綻している。
本作を見た誰しもが「え?」もしくは「は?」と困惑したのは、アドニスが目をかけていた現チャンピオンのフェリックスと敵方のドラゴjr.のカードが、ドラゴjr.の大怪我によって急遽ディミアンに挑戦権が回ってくるという、もはや懐かしささえ覚えるハリウッド式ご都合主義炸裂のあじゃぱー展開であろう。
なんつったって、いかな素質の持ち主とてディミアンは出所したてのド素人。おまけに素行不良の元ゴロツキで、齢すでに三十半ば。にも関わらず「アドニスやぁ。おれ、ほんまにチャンピオンなりたいねん。頼むわー。ドラゴjr.が欠場するなら、代わりにおれが出られるよう、頼むさかい、あんじょうやってえなぁ」、対してアドニス、「しゃーないなぁ。ほいだらフェリックス側に掛け合ってみるさかい、ちょお待っとき」などのカジュアルなやり取りののち、アドニスの口利きでそれが実現。
いやいや…。
いやいやいやいや…。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや
いやいやいやいやいやいやいやいやいや。
いやいやいや、い……、いやーっ!
い~~~~~~~~やいやいやいやいや。
いやああああああああっ!

なんの資格も実績も持たない、前科持ちの三十過ぎのおっさんが、いきなりプロデビュー戦で、しかもそれが世界タイトルマッチ戦というアリ得ナイズムを是とする本作を「やっぱこのシリーズって丁寧なプロットに基づいているよね~」などという鷹揚な気持ちで見れる奴がいるとしたら、たぶんその子はずいぶんと頭のファンシーな残念ちゃんだよね。ルルル。
どこが香り豊かな長編小説やねん。
荒唐無稽な錯乱ツイートにも劣る支離滅裂、空理空論、序破急の複雑骨折ぶりっ。
だが映画は、飛び級…どころか大気圏ぶち上げ級でいきなり世界タイトルマッチのチャンピオン戦に出場できたディミアンの超特例厚遇の不自然さを、「でもさ? 考えてみ? かつて1作目の『ロッキー』だって、チャンピオンだったアポロは無名のロッキーにチャンスあげたじゃん。それと同じ理屈じゃん」のエクスキューズ一本鎗で正面突破しようとする。
なんともはや、ふてぶてしいというか、虎の威を借るクリードシリーズというか…。

とぼけるディミアン。

まあいい。話を進めよう。
とにかくムショ帰りのディミアンは、最強格である現チャンピオンのフェリックスと戦うことになるわけです。
アドニスはと言うと、「どっちもがんばれー。双方が同程度にファイトを出してがんばりを見せていけー」という中立的なスタンスを取りながらも、内心では圧倒的に同じジムの後輩、いわば愛弟子のフェリックスに肩入れしていたし、ディミアンが負ければこれに懲りてようやく奴も目を覚ますだろう、プロの厳しさをわかってもらえるだろう、そののちに自動車工場とかステーキ屋さんとかで真面目に働いて堅気の人間になってくれることをおれは願います、アーメン、みたいに思っていた。
だが、ゴングが鳴ったら、どうなったか?
獰猛なディミアンになす術もなく、「ちょ…タンマタンマタンマ」などと情けないことを言いながら、しこたまド突き回されたフェリックスの肉体は、王のプライドもろとも千々に破砕した。あまりのワンサイドゲームに、世界中がドン引きした。
「つっよー…」
それ以上に引いていたのはアドニスだった。
「ええ…。ディミアンってこんなにも強かったの? そんなにもか。…まじで? え~。…どんなにもだ?」
だが本当の意味でいちばん引いていたのは、おれ、並びにおれに準ずる観客だった。
まあ、話の流れ上、ディミアンが勝つとは思っていたっていうか、むしろ勝たないと話が終わってしまうから勝つしかない展開ゆえに勝つと確信していたが、それにしても勝つロジックがないよねという点で、プロットが雑。
たとえばさ、服役中のディミアンが何年間も牢屋のなかで狂ったように筋トレ、シャドー、研究分析などに取り組んでいた…というフラッシュバックなりカットバックなりが効果的にモンタージュされていれば話は別だが、そうした“ディミアン側のがんばり”にいっさい触れることなく、いわば実力未知数のまま世界最強王者をシバき上げました、実はこんなに強い奴だったんです! とか言われても、「なんで?」、ローマ字にすれば「NANDE?」としか思えず『もののけ姫』のコダマばりにポキポキポキっと首をかしげるポキポキ沙汰を演じては図に乗ってポキポキしすぎた挙句に首をいわす、みたいなにオチに帰結さるるわけであるる。

しかもディミアン。フェリックスをいてこましてチャンピオンベルトを獲るや否や、それまで「ほんまおおきに」、「持つべきものは幼馴染みや」、「一生忘れへんで」、「サンキュー・フォー・ザ・カインドネス」、「サンキュー・フォー・ザ・テンダネス」などとアドニスに対して恩義を口にしていた態度を一変させ、謎のビーチで子分や美女をはべらせ、バーベキューして食材を焼き焼き「はっはー! 天下取ったど! ベルト巻いたど! おれが極秘裏に計画していた作戦通り、アドニスのあほに取り入って、世界タイトルマッチでチャンピオンを張っ倒す下剋上ストーリーの完成じゃい、校了じゃい、上梓じゃ~い! 幼馴染み? 昔のよしみ? そんな往年の日活映画みたいなメロドラマでおれのハートを揺さぶろうとしても無駄だよ。利用できるものは利用させてもらうのさ。アドニスなんざ、ただの踏み台よ。シンデレラボーイたるおれがチャンピオンの座に駆けあがるために踏みつけられる階段でしかないってわけ。そんなおれの邪悪な作戦も看破できずに『しゃーないなぁ。ほいだらフェリックス側に掛け合ってみるさかい、ちょお待っとき』とか。ぷぷ。ウケる~。草生える~。草生えすぎて繁茂して国土全域が森林地帯と化して絶滅危惧種の生態系が持ち直して逆に環境問題とか改善される~。これぞまことのSDGs~なんてゆうとりますけども。ははは。愚かなアドニスだ。あほと違うかな。アドニスっていうかアホニスやな、こうなってくると。おもろ。あっ、カボチャ焦げてるやん。カボチャ食うひとー」などと、さんざアドニスを嘲笑しながら焦げたカボチャを仲間に取り分ける、みたいなバーベキュー奉行を演じていた。

ディミアン役のジョナサン・メジャース。
伝説のカボチャ取り分け。

おのれ、ディミアン!
焦げろ、ディミアン!
カボチャみたいな顔しやがって!
てなこって、ディミアンを信じて世界戦に推挙したのにその幼馴染みに裏切られたアドニスは怒り心頭、憤懣やるかたなし、激おこぷんぷん丸、からのムカ着火ファイヤー。
引退して3年経った今、新チャンピオンのディミアンに挑戦状を叩きつけ「るるおー」などと意味をなさない雄叫びをあげながら過酷な肉体改造に励み、再びリングに上がるのであった!

なんやこの話。

わっけのわからん…。
「おれが極秘裏に計画していた作戦通り」?
どこが作戦やねん。アドニスが世界タイトルマッチを組んでくれる保証なんてなかったのに、結果論だけで「タイトルマッチが組まれることは最初から読んでた」みたいな顔してカボチャ取り分けやがって。

◆アニヲタ・B・ジョーダンが手掛ける『おれのNARUTO』◆

 アドニス役の主演マイケル・B・ジョーダン自らがメガホンを取った初監督作ということで、いやがうえにもスタローンとダブってしまう本作(アクションスターの印象が強いスタローンだが『ロッキー』全作の脚本ほか、2、3、4、6作目の監督を手掛けるなど立派な映画人でもあーる)。
編集はやや走り気味だが、映像はよく撮れてます。蛍光色を活かした、リッチでスモーキーな風合いって最近流行ってるよね。『ジョン・ウィック』シリーズとか。本作を手掛けたクレイマー・モーゲンソーとかいう体の部位のどこかがもげそうな名前をした男は『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』(14年) 『ターミネーター:新起動 ジェニシス』(15年) を撮った男で、キメの細かいビビッドな色彩設計を重んじる奴なんだ。
とりわけ本作、特筆すべきはスポーツ映画史上初のIMAXデジタルカメラを使用しており、そこにハイスピードカメラの演出が乗る。
もうアニメやん。
そう、アニメなのだ。監督/主演のマイケル・B・ジョーダンは日本のアニメをこよなく愛しており、最近は『ブルーロック』とかも見たらしい。…ボクシング映画に携わってる子がサッカーのアニメ見てるやん。別にええけどやな。
とにかくボクシングシーンを中心にアニメ的表現が目立つ本作だが、たとえば意気揚々とデビュー戦に臨むディミアンと「本当にこれでよかったのだろうか…?」と逡巡するアドニスが控室の入り口と出口で別れるショットをご覧頂ければ一目瞭然だろうが、まあ、やり過ぎなわけです。
出所したてのゴロツキにも関わらず親友アドニスの計らいでシンデレラストーリーの切符を手にし、今まさに夢の階段を駆け登らんとするディミアンが明るい光に包まれるのとは対照的に、複雑な思いを抱えたままディミアンを大舞台に上げてしまったアドニスは青い照明に陰る…。
京アニでもやらんぐらいベタなメタファー!
曰くマイケル・B・ジョーダンによれば、アドニスとディミアンのライバル関係は『NARUTO』におけるナルトとサスケの関係性に符合するかもです、とのこと。
どこがナルトとサスケやねん。
冗談はマイケル・Bだけにしろ。

これをやっちゃうマイケル・B・ジョーダン、新人監督としてはちょっぴり可愛くもあります。

以下、ネタバレではあるが「ネタ」と呼べるほどの種でもないので「バレ」でもないでしょう、という理屈から結末部に触れる。
まず、アドニスのお母ちゃんが死にますね。思いっきり死ぬ。ミッキー然りアポロ然りエイドリアン然り…『ロッキー』って人がバタバタ死んでいくシリーズだし、現時点でロッキーも癌に罹ってるからいずれ死ぬとは思うけど、今回はアドニスの母ちゃんが死にます。ボクシング映画でなにをそんな死ぬことがあるんよってぐらい、片っ端から死んでいくよね。早晩、アドニスも死んでまうのと違うかな。その伏線はすでに張られてますよ。なんとなればラストシーンで、アドニスの幼い一人娘・アマーラがボクシングに目覚めるんですもの。「人を叩くのっておもろい」とかゆうて。
ことによると『クリード』シリーズが終わったら『アマーラ』という新シリーズが始まるかもしれないわけよ。
まじでまじで。ロッキーはすでに死んでおり、『ミリオンダラー・ベイビー』(04年) みたいに女ボクサーのアマーラが主役で、老いた父アドニスがセコンド。その幼馴染みであるディミアンは、さながらモーガン・フリーマンの役どころ。
…まあ、そしたらアマーラが死ぬけどね。
ミリオンダラー・メソッドに鑑みると。

て、そんな話はどうでもいーんだよ。
ウィーンだよ。
肝心のアドニスVSディミアンのクライマックスは、途中、音も背景も消え去って、二人だけの精神世界で拳を交えるという『新世紀エヴァンゲリオン』みたいな観念的なアニメ演出のおもしろ味を除けば、これといった見得も外連も山場もなく、いとも淡泊に終わってしまう。まあ、あれこれ触りたくなるであろうクライマックスを逆にサラッと撫でる脱臼法は嫌いじゃないけどね。



だが、そのあとがまずい。
試合を終えたアドニスがロッカールームでディミアンと鉢合わせして互いに気まずそうに言葉を交わすうち、あれほど傍若無人/大欲非道に振舞ったり、爆笑しながら焦げたカボチャを取り分けていたディミアンが、まるで「すいませーん、監督のマイケル・B・ジョーダンでーす。ラストシーンになって今頃こんなことを言うのも申し訳ないですが、キャラ設定変更します。ディミアンはぜんぜん悪い奴じゃないって感じに変更するんで、ここまでご覧いただいた皆さんには本当に迷惑かけちゃうんだけど、みんな、記憶を改竄して。できる限りでいいから。ディミアンは大して悪い奴じゃなかった、なんならええ奴だったっていう風に記憶を書き換えて。おねがいおねがーい」とばかりに、それまでの悪行不埒なディミアンの振舞いがまるで無かったかのようにリセットされ、ロッカールームでもじもじしながらアドニスに向かって「ほんま、ええ試合やったわ。たははっ…。憑きもんが落ちた感じやわ。ありがとうな…」と言ってはにかむなどし、結果、まあまあええ奴…みたいな印象操作でゴリ押ししたまま、やたら爽やかに映画は終わっていくのである。
そ~~んなことでオマエ…
チャラになるかあ!!!

なんやねん、この脚本。
せんどディミアンをヒールに仕立てたあとに「ミスった。やり過ぎた。これだとディミアンがマジモンの最低野郎、ただの憎まれ役のマザーファッカーになり下がる。少しは好感度を集めてディミアンのファン、通称ディミファンを獲得せねば。今のうちに。だってディミアンは続編に出すかもしれないから」などと皮算用、大急ぎで「実はディミアンって言うほど悪い奴じゃないんです。なんなら根はええ奴なんすよ。知ってた?」などと躍起になって挽回/修正を計った結果、かえってディミアンのキャラクター性がブレブレのグチャグチャの訳ワカメになり果てるという最悪のワカメうどん一人前490円と相成って候。
…まあ、どうあっても挽回/修正なんて出来っこないけどね、もとより。
だって「これぞまことのSDGs」とか言うて、せんど悪態ついてましたやん。「アドニスっていうかアホニスやな。おもろ」とか言いながら焦げたカボチャ、取り分けてましたやんか。
無理よ、それは。もう。



そんな顔してもだめぇ!!!

ま、そんなわけで『クリード 過去の逆襲』。
もうロッキーもポッキーもラッキーもない凡百以下のボクシング映画。ぜひとも作り手には僕死んぐ映画として認識/反省していただきたいレヴェルの、駄作というよりは失敗作に近い、いずれにせよ「程よくつまんねえ映画」には違いない作品を観さしてもらいました。
唯一の眼福ポイントは主演マイケル・B・ジョーダンが男前すぎたこと。

論。
男前と美人は、あまねく愚作的要因に先制してその映画の魅力を担保する。
もしもあなたが極度の面食いなのだとすれば、映画を上手に観る素養を備えているといえるから、自信に替えなさい。

ディミアン役のジョナサン・メジャース。
伝説のカボチャ焦がし。

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