シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ニューノーマル

近ごろソウルを震撼させてる女性ばかりを狙った連続殺人事件を背景としたオムニバス映画だっつってんのに近ごろソウルを震撼させてる女性ばかりを狙った連続殺人事件あんま関係ないんかい。


2023年。チョン・ボムシク監督。チェ・ジウ、イ・ユミ、ハ・ダイン。

近ごろソウルを震撼させてる女性ばかりを狙った連続殺人事件を描いた裏切りのオムニバス。


道に咲いた花にさりげなく~
笑いかける君が大好きで~
どんな宝石よりも輝く~
瞬間を~胸を刻もー!
だっ! うあっうあっ。始まってることに気づかずクリスタルケイの「恋におちたら」歌とてた。
でもこのあとサビやから、せっかくやし歌わしてもうてええかな。
心から 心から思う
君が大切なものは何ですか
その笑顔 その涙
ずっと守ってくと決めた
恋に落ちて アイラー
ビュウー


おっけおっけ。一定程度に満足した。
みんな今年最後の更新やでー、集まり~~。
今年1年を包括しますか。まあ今年1年、人並みに過ごしていたけれど、わざわざブログに書くことでもないので包括を終了する。
そもそも包括しすぎじゃない? 今年1年を。人は。なんで人って年末が近づいたからってその年をすぐ包括するんだろ。
すんなよ、包括。
小籠包か、人生は。すぐ包んで蒸すやん。今年を。
あと昔から変だなと思うのは「忘年会」ね。
今年をすぐ包括するくせに忘れようとしてるやん。
矛盾がすごいな。愛するがゆえに殺そうとしてるやん。ラオウかおまえ。「ユリア! おまえの命をくれい!!」やん。ほんで、なんやねん「くれい!」て。最後の「い」いらんやろ。なんで江戸っ子みたいになんねん。
そも忘年会とは、その年の苦労を忘れるための宴会を指す言葉だが、おれに言わせればその年の苦労を年末にぜんぶ忘れようとするからいつまで経っても人類は成長しないんじゃないのカナー? と思うわけ。
忘れるなよ。
なに都合の悪いことだけ忘れようとしているんだよ。
むしろ想えよ。今年1年の苦労を。思い返せよ。そして来年に活かせよ。
てなことを力説して10余年。おれが毎年の暮れに友人らと開く会は「忘年会」ではなく「想年会」と銘打ってんねん。その年の苦労を想い、振り返り、来年に活かしたらいいじゃああああああん。それこそが本当の“包括”じゃん、小籠包じゃん。

なんて言うとりますけども、さらに意味がわからんのは、人が新年に決心しがちな「抱負」ね。
「今年の抱負」ゆうて。
ちょちょ。抱負ってなに?
「抱」いた結果「負」けてるやん。
大体において、新年に決意した「今年の抱負」を年末までしっかり覚えてて心に刻んでて年間通して実行できてるピープルが果たしてこの日本に約何名おるのです。
約0名様だろ。
畢竟、「今年の抱負」なんちゅうのは「新年だけの抱負」であって、いわば結婚するときの「キミを絶対幸せにする」という誓いぐらいウソ。単なる、そのときだけの舞い上がった気持ち。
おれに言わせれば「抱負」なんてのは読んで字のごとく「抱いたら負け」の調子のいいウソに過ぎんから、おれは抱かない。
実際、今年の抱負に「健康!」と謳っていた親戚がその日の昼にカップラーメン食べてコタツで寝て、起きてビール飲みながらスナック菓子食べもってタバコ吸うて正月番組見ながら「ぱっぱっぱ!」て笑ろてる姿を尻目に「どこがやねん」と思ったことがあるもん。
抱負なんてもんは、捨てるが勝ち!

どうでもいいけどよー、最近おれはミカンばかりを食べてるわけ。
ミカンばかりを食べてばかりのことをしてビタミンCを摂ることばかりにかまけてばかりだから風邪耐性ムキムキで何度かひきかけた風邪を押し返して候、照れちゃって頻尿、つってハナ垂らして喜んでるんだけど、その反動として体温キュ~ッ低下してよけい寒い、冬のフルーツ食うてよけい寒なる、という本末転倒のファッキン沙汰を演じて候、照れちゃって頻尿。
なんでこんなどうでもいいことを今年最後の記事で書いているんだ果たして俺は。
ちゅこって、2024年最後の更新は『ニューノーマル』という韓国映画です。まあ、暇やったら読んだってったりーな。長文です。



◆過程はウィーけど結果つまんね◆

 なんか新感覚ホラーなんだってな!
公開時、どことなく只ならなそーな雰囲気を感じて、おれ、予告編見て「只ならなそー!」って叫んだけど、どないもならんかったわ。
しかしでありますよ。
チェ・ジウ!
映画出演は7年ぶり。韓流ブームの火付け役。『冬のソナタ』。昔、父さんの部屋にDVDあった。冬ソナ、おれは見たことないけど。父さんの部屋にDVDあった。
そんなわけで予備知識ゼ~ロ~で『ニューノーマル』を観た。只ならなそーな雰囲気だったし、冬ソナのチェ・ジウだし。父さんの部屋にDVDあったし。
観て驚きよ。

主演チェ・ジウやなかったんかい。

そう。本作は全6篇からなるオムニバス・スリラーだったんである!!
先言うといてくれんと。
こんなん、騙しですやんか~。第1章の主役がチェ・ジウだったから「うわっ、チェ・ジウやんかいさ~」と喜んだのも束の間、15分ほどでサラッと終わって第2章。別の主役に交代する。なんか知らん小僧が出てきてさ。
誰やソナタ。
ソナタは誰なんだよ。
チェ・ジウを返せよ。
オムニバスだったらオムニバスってポスターに書いとけよダボがよ~。そんなことどこにも書いてねえし、チェ・ジウの顔が一番でっかく載ってるからチェ主演作と思うじゃんかいさ~。
舌打ちとしての「チェ」を夜空に鳴らすぜ。


よろしい。オムニバスならオムニバスとして受け入れますよ。
日夜ソウルを震撼させている女性ばかりを狙った連続殺人に絡む6篇の登場人物たちが交差したりしなかったりする人間模様をスタイリッシュな感性で素描した本作。
感想を先に述べることとする。
観る前は「雰囲気あってすごく好さそう」と思っていたが、鑑賞中は「端的につまんねえ」と思い、観終えたあとに「あら? 鑑賞中はつまんねえと思っていたけど実はすごくいいものを観たのかも…」なんてラッキーな気持ちがしたものの、一夜明けて「やっぱつまんないもの観た!!」と結論するみたいな、気持ちの乱高下がすげえ、賛と否のバドミントンがすげえ、面白井吉造と妻等内駄目子の夫婦喧嘩がすげえ、つって、しばらく揺れてたけど、結果!!!
結果だけを言いますよ!!?
結果つまんねえよ。
結果的にはつまんねえ。
でも過程的には愛い。ウイですよ。ウィー。
ウィーよね、ってところもあったっちゃーあった。
なかったっちゃーなかった。

◆やれよ。そのおもしろいやつ◆

ここから先はネタバレを大いに含みます。ていうかストーリーをぜんぶ喋ります。

まず映画が始まると「1章 M 2日目」というキャプションが観る者を不意打ちする。
先述の通り、あたしゃあ予備知識ゼ~ロ~で鑑賞に臨んだわけですから「1章」というのを見た時点で「あっ、コンニャロ。よもやオムニバスじゃあるまいな? だとしたら一杯食わされた~。観るのやめるからU-NEXTポイント返してくんねえかな?」と腹立ったんだけど、まあその話はいいとして「M」というのは章題ですわね。プリプリかな? あの何回聴いてもサビがどこか分かんないでお馴染みの。アドレスのMを消すことに失敗する失恋ソングの金字塔ね。あと浜崎あゆみがマリアマリア騒いでる方の「M」もあるけど、まぁどちらの可能性もゼ~ロ~だろう。
そして「2日目」に関しては、この物語は何日間かに渡る時間軸の2日目からいきなり始まりますよ、時系列シャッフルですよ、『パルプ・フィクション』(94年) とかに憧れてるんですよ、ということである。


物語が始まる。
ある夜。報道番組「news zero」が、近ごろソウル市内で女性ばかりを狙った殺人事件が頻発していると報じていた。そのテレビを不安げに見ていたのが高級マンションで独り暮らしをしているチェ・ジウ。凜としてらあ。
するとそこへ火災報知器の点検をしにきたという胡乱な作業員が訪ねてきた。ごっついブスであった。そして無気味であった。



半ば強引に部屋に入った怪奇! 火災報知器しらべは、嘗めるような視線を這わせ、チェ・ジウの透き通る肌に「いい女だな」、「押しに弱いタイプかも」、「いい匂いさしとる」など、各種オールインワンの下心をすり込んだ。
「あんた美人だな。独りなん?」
警戒心と恐怖心に身をこわばらせたチェ・ジウは「は、早く済ませてください。もうじき友人が来ます」とブラフをかける。
「友人? 彼氏か?」
「…そうです」
「賭けてもいい。来ないな。誰も来ない」
「ドキーッ!」
チェ・ジウの緊張は極限状態に達した。
怪奇「点検おわったで」
チェ「そうですか…」
怪奇「ところでパンツ何色?」
なんやこいつ。


火災報知器とセクハラのWワークをこなす怪奇! 火災報知器しらべ。

怪奇! 火災報知器しらべはニヤニヤしながら、わざと緩慢な動作で火災報知器の点検作業を進め、「最後は風呂場だ」と言ってバスルームの中に消えると、今しかないと思ったチェ・ジウ、部屋中の電気を消し、包丁を構え、閉ざされたバスルームのドアの前で息を殺した。
途端、勢いよくドアが開き、中から怪奇! 火災報知器しらべが「ららおー」と意味をなさない語を発しながら襲い掛かってきたが、モミモミ、クチャクチャ、揉み合いの末、足を滑らせた怪奇! 火災報知器しらべは床に転倒、したたか頭を打ちつけ「あっ、鈍痛!」などと、本来「イタッ!」と言えばいいものを、よほど痛みのジャンルを仔細に伝えたかったのか「鈍痛!」つった。文系なのだろうか。
息を整えたチェ・ジウ。先ほどまでのこわばった表情から一変、なぜかスンと目が据わった状態で怪奇! 火災報知器しらべを見下ろし、逆にこんだ怪奇! 火災報知器しらべが顔をこわばらせ「すんません」だの「謝ります」だの泣き言を並べ始めたが、これを一顧だにせずチェ・ジウ、握った包丁を怪奇! 火災報知器しらべの喉笛に突き刺した。
「ぴゅー」
怪奇! 火災報知器しらべの喉からリコーダーのシの音が出た。
ドアが開け放たれたままのバスルームへとカメラが闖入する。果たして、バスタブの中にはげしゃげしゃになり果てた血まみれの女の死体が無念みたいな顔をしていた。
完。

R.I.P.

なるほどね。こういうのが続くのね。
独り暮らしのチェ・ジウの家に作業員を装った女性連続殺人事件の犯人がやってきたと見せかけて実はチェ・ジウが犯人でしたっていう、いま流行りのヒトコワ怪談ってやつ? 古くでいえば『週刊ストーリーランド』とかその源流である星新一のショートショートみたいな、どんでん返しってほどではないけど程よくツイストが利いてて寒気がして後味悪い、みたいなスリリンなやつをやってくっていうオムニバスなのね?
っていう理解で2章3章…と見続けて、エンドロール。
おもしろいのかつまんないのかさっぱりわかんないよ。


2章と3章は割と見れたの。
駆け足でいくけど、2章は「ドゥ・ザ・ライト・シング 3日目」。Do the right thingちゅうのは「正しいことをする」って意味やと。
これまで奉仕や善行の心なんてまったくなかったガリ勉の中学生が「困ってる人がいたら助けてやる。それが真のヒーローというものだよ」という友人の言葉を思いだし、路傍で身動きできずに難儀している老婆に「家までお送りしますよ」なんつって車椅子を押して老婆の家まで送り届けたはいいが、実はその老婆の正体が…っていう。



3章は「殺しのドレス 1日目」。
マッチングアプリで理想の男とデートに漕ぎ着けた女Aだったが、レストランでの食事中にふたりは喧嘩する。喧嘩の原因はデート中に男のスマホに「ピロリン♪ マッチング成立! 理想の女性Bが近くにいるよ!」の知らせが鳴ったから。男は複数のアカウントを使い分け、手当たり次第に女漁りをしていた真性ガチ弩クズだった。
一方、真性ガチ弩クズのスマホを鳴らせた“理想の女性B”ことイ・ユミは、同じレストランに赴き「黄色のバッグが目印よ。早く私を見つけてね」といったLINEを送って真性クズの到着を待ったが、真性は(同じ店内で)女性Aとの口論に夢中。しびれを切らしたユミが「初デートなのに約束をすっぽかすなんて最低。弩クズ!」とLINEを送ったため、真性はAとBを同時に宥めねばならなくなり混乱、逆上した挙句「殺すぞクソ女!」とひどいLINEをユミに送ってしまう。
その直後、ユミが店外の人だかりを掻きわけると女Aの刺殺体。顔が青ざめた。その脇に黄色のバッグが転がっていたからだ。
以下、ユミのきもちを代弁す。
「あ怖っ。そういや最近、女性ばかりを狙った連続殺人事件が起きてる! するってぇと、アレけ、あのマッチング相手…! 弩クズが犯人かっ。あっぶー。マジあぶねぇ。殺意に駆られた弩クズがアタシと間違えて、偶然同じ色のバッグを持ってたあの女性を衝動的に殺めてしまったんだわ。それガーチャー? 其処なる死体の方、どなたが存じ上げませんが、お悔やみ申し上げます。それにしてもラッキーだったわ、アタシ。本来アタシが標的だったんだものね。同じ色のバッグを持っててくれてありがと、そこの死体の人。ほんまごめんやで。あなたの分まで、私は生きます。ららら」
そんなこって九死に一生のユミ、どきどきしながら自宅の高級マンションへと帰り、エレベーターに乗ると「あ、乗りまーす」つって駆け込んできた人のために「開ける」を押して迎え入れたはチェ・ジウ、その人であった。
お疲れした。
ユミのスマホが鳴る。
ピロリン♪ マッチング成立!
当然、チェ・ジウのスマホも鳴る。
ピロリン♪ マッチング成立!
ユミ「え?」
この状況をユミが呑み込むよりも早く、チェ・ジウの包丁は彼女の腹部を深く抉っていた。無念。



これが「1日目」。チェ・ジウが怪奇! 火災報知器しらべを殺した1章は「2日目」。つまり怪奇! 火災報知器しらべがバスルームで目撃したのはユミの死体だったという事実に繋がるわけだ。
ここだけ聞くと、点と点が繋がって「あー、なるほどね」って膝を打つおもしろさがあるでしょ?
でも2章や4章はなんにも繋がらないの。
2章や4章は完全に独立したお話。なんなら物語の背景に連続殺人事件の文脈すらないから、結果的に何がしたいのかよくわからないのよね。
先述した通り、2章の「ドゥ・ザ・ライト・シング」は車椅子の老婆を家まで送り届けた少年が…ってやつね。
ほいで、4章は「星座占い 3日目」という章題で、ある夜、運命の女性を探していたロマンチストの男が自販機の取出口の中に手紙を発見、「私を見つけて。東へ300歩」と書かれた通りに歩けば、またぞろ自販機に辿り着き、2通目の手紙の指示通りに歩き続け、これを何度か繰り返して辿り着いたはタワーマンションの前。地面にはハートマーク型に囲った花が敷かれ、最後の指示は「ハートの中で待ってて」。
もうお気づきとは思うが、かかる手紙を書いた女はマンションの屋上でスタンバってて、飛び降り自殺の道連れをおびき寄せてたわけ。



近ごろソウルを震撼させてる女性ばかりを狙った連続殺人事件関係ねえ!!!!

なんなんだこりゃ一体よお。
“近ごろソウルを震撼させてる女性ばかりを狙った連続殺人事件”を背景としたオムニバス映画だっつってんのに、2章と4章…、近ごろソウルを震撼させてる女性ばかりを狙った連続殺人事件…関係ねえ!
約束がちがう!!
関係なかった!!!
たとえばさぁ、直接的な関連性はなくても、たとえばよ? 2章で少年が老婆を発見する駅のベンチに、このあと4章で登場するロマンチスト男がフレームインしてきて少年の隣りに座る、だとか、よく見ると通行人の中にチェ・ジウが紛れてるだとか、いくらでもできたと思うんだよね、点と点が繋がって「なるほどね」って膝を打つ、おもしろいやつ。
やれよ。そのおもしろいやつ。
なんでやらへんねん。
埋めろ埋めろ、ミッシングリンク。

あと4章の「星座占い」に関してはべらぼうにシンプルつまんねえよ。
自販機から自販機へと「東へ300歩あるけ」って書かれた手紙の指示通りにモッタラモッタラ移動を繰り返すだけの、あまりに冗長な死に時間。
ロマンチストが歩いてるだけ。
なんですのん、これ。展開性がなさすぎるのよ。歩く→歩く→歩く…って、同じことの繰り返しでハナシが一個も前に進まん。
あと「300歩あるけ」とかいうけど、そんなアバウトな指示で次の自販機に辿り着く保証なんてないけどな。歩幅次第やろ。
さらに言うなら、飛び降り自殺を企てた女。これがチェ・ジウでもよかったよね。一応繋がるじゃん。

ロマンチスト役のチェ・ミンホは目の保養。妻夫木系。

◆“観ない理由”を取り上げていく◆

 さあ、そして5章と6章。
5章は「血を吸うカメラ 2日目」。
マンション暮らしのピョ・ジフンは隣室の美女に恋い焦がれるあまり、毎朝家を出る美女を盗撮しては、その写真を用いて日がな一日オナニーをしています。たまに「ピョ」とも言う。
いよよ辛抱たまらんくなったピョは、外出時を見計らってベランダをつたい美女の部屋に侵入。記念にパンティを一枚失敬し、ベッドにダイブして布団を匂ぎ、美女の歯ブラシで自らの歯を磨き散らすなどオールインワンのキモ行動に出る。そこへ美女が帰宅。
「ピョ!?」
ピョ!? やあるか。

歯ブラシをくわえたまま慌ててベッドの下に潜り込んだピョだったが、決死の潜伏もむなしく美女に見つかった挙句、知らない男まで部屋に入ってきた。恋人だろうか? 違う。男は鉄球を取り出し、それを随意に振り回すための専用の網に入れ、遠心力を活用してブンブンブンブン! あたかも簡易型のモーニングスターのように鉄球を振り回した。
戦慄したピョ、小便をちびりながら後ずさりした拍子にワードローブが開くと、中から袋詰めにされた死体が、どさっ、床に倒れた。
結末部には触れずにおく。



第6章「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ 1日目」。意味合いとしては「ろくでもない人生」といったところか。
この終章では、バンドマンの夢破れ、夜勤のコンビニバイトで口に糊するハ・ダインの鬱屈たる数日間が描かれる。
真夜中のコンビニ客にまともな奴などいない。今宵も常連の酔っ払いが店員のハに絡み、店内でわめき、ゲボを吐く。

怪奇! 火災報知器しらべやないか!

おれの大好きな怪奇・火災報知器しらべえ!
ワレ、生きとったんか!!?
否。時系列としては、この6章(1日目)→  1章(2日目)なので、この翌日にチェ・ジウのマンションに行って殺されるのだ。
夜勤明け。家に帰ったハはパイナップルの缶詰を食べ、人生の虚しさを埋めるようにオンラインゲーム上で見知らぬ他人と会話をする。

「好きな女性がいるけど、声をかける勇気がないんだよなー」
「アタックしなよ」
「やっぱアタック抗菌exか~。うん、頑張るぴょ!」

ここで「頑張るぴょ!」つって頑張りのベクトルを間違えたのが前章「血を吸うカメラ」のピョだった。


鬱々たる毎日を送るハ・ダイン。

人生ヒマすぎて病みすぎたハは、ある日、闇の掲示板にアクセスして「人を殺したんだけど、死体処理の詳細キボンヌ」とのカキコに対して即レスした。死体は肉と骨に分け、肉は少しずつ燃えるゴミに紛れさせて、骨は燃えないゴミに入れたり細かく砕いてトイレに流すのが吉。コンビニバイトで培った知識を応用した。
数日後。コメ主と彼女の割とリアルな死体隠滅のやり取りが続いたことで、そもそも主が本当に人を殺したかを疑う人々が声を上げ始め、かかる議論の行く末をROM専が楽しむみたいな、まさに2ちゃんねる全盛期、『電車男』みたいな現象が起きた。
気を悪くしたコメ主は、あるいは時の人となって気をよくしたのか、嘘じゃないことを証明すべく、場所と日時を指定して「死体見に来い」と書き込んだ。
「釣り乙www」
誰も相手にしなかった。ハを除いて。
指定された日時は真夜中だった。河川敷の高架下。そこにちょこんと置かれたボストンバッグの中を覘いたハが「ハッ!」と驚いた、その背後には謎の男。
手には鉄球。
ブンブンブン!しながらハを追いかけた。



鉄球かい。
チェじゃねえんだ!?
鉄球男なんだ?
じゃあつまんねえ!
俺ぁてっきりチェ・ジウだと思ってたわ。
あー。てことは5章でワードローブから出てきた袋詰めの死体がハだったってことね。
ていうか鉄球男てなんやねん。
誰やねん。なんで5章で頭角現して6章で活躍してんねん。
そもそもなんでシリアルキラーが2人おんねん、この映画。
女性ばかりを狙った連続殺人事件の犯人であるチェ・ジウを中心に絡み合う人々のオムニバス群像、で良かったのに、なんでもう一人シリアルキラー投入すんねん。
ほんで「女性ばかりを狙った殺人事件」って設定もブレブレなのよ。チェ・ジウは怪奇! 火災報知器しらべ(男)を殺してるし、鉄球男の方も別の男を殺すのよ。本来は男を殺す予定じゃなかったが止むに止まれず…って事情はわかるけど、だとしたらそんな事情(作劇)はいらねえ、って話になるんでね。


 事程左様に、個々のエピソードの関連性や文脈の有無に法則性や統一性がない。コンセプトがブレ散らかしてる。
個々のエピソードが繋がってるときもあるし、まったく関係ないときもある、それも含めて都市全域に普遍的に瀰漫した“日常の恐怖”をアトランダムに描いたのです、なんてそれっぽい創意を誇らしげに言いそうなチョン・ボムシクではあるけれど、だとしたらうるせえ。
だとしたら“テマティックに傾斜するあまり作品自体がべらぼうにシンプルつまんねえ”に滑り落ちたってことザッツオールだよ。テーマとかメッセージを全面に出しすぎて作品そのもののおもしろさが御座なりになっちゃってるパターンね。
あと章題がいちいち映画のタイトルを引用してるのが小賢しい。
フリッツ・ラングの『M』(31年) とかマイケル・パウエルの『血を吸うカメラ』(60年) とか。デ・パルマの『殺しのドレス』(80年) にハルストレムの『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』(85年) ね。『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89年) はスパイク・リーでしょ。
「星座占い」だけわかんない。
なんなん「星座占い」て。そのまんま過ぎて。元ネタあんの? ヒッチコックの『山羊座のもとに』(49年) とかでよかったんちゃうん。


ただねぇ、先にも申しましたように、観る前は「雰囲気あってすごく好さそう」と思ったし、まあ鑑賞中こそ「つまんねえ」と思ってましたけど、観終えたあとは「実はすごくいいものを観たのかも…」とラッキーな気持ちがしたのも事実なので、そこはしっかり評価すべきだとは思ってますよ。
なんといっても異化炸裂の突拍子もない音楽使いと、ひとまず瞳を逸らす理由をうやむやにする映像の肌理(キメ)と理知的な画面構成。一言でいえばスクリーンから目が離せない。そんな映画。
より厳密にはスクリーンから目を離させない術を心得た映画、というか。
どのレベルで読者諸兄に伝わってるだろうか。言い方次第か。おっけ。
“観る理由”に横溢した映画ではなく、映画の側が“観ない理由”をひとつずつ取り上げていった結果、まあ、観ない理由がないなら必然的に観客の視線はスクリーンへと注がれるよね、って感じの映画なんだよな。
編集に関しては、“間”の使い方がちょうど映画とドラマの中間だったり、役者の“貌”も同様に、スクリーンにも映えるけどテレビサイズでも別にいいやという塩梅。
キャストについては言うまでもなくチェ・ジウが一頭地を抜いている。もはや別格。この映画が犯した最大のミスはチェ・ジウを“主役”にしなかったことだ。万死に値しよう。
なんですか、あの透き通るまでに漂白された存在感なき存在は。自然的な美しさとも人工的な美しさとも呼び難い、総じて「これ」と形容できない、いかなる言葉をも簒奪していくような、知覚の方位磁石を狂わせる玄妙な佇まいは。



その背を負うのが6章を受け持った新星ハ・ダイン。
本作でデビューした遅咲き女優だが、この貌を今の今までほったらかしてた韓国芸能プロダクション大丈夫ですか、ってぐらい勿体ないことしてるわ。
ドラマ出演してるのをテレビで見ても仕方なく、アイドルグループに入ってYouTubeでMVを見ても仕方なく、この上なくスクリーンでこそ映える映画女優の貌をしてるんだけど、あとはそのことに“あっちの映画業界とか芸能事務所の人たちとか”が気付いてくれるかどうかだけです。
頼む。頼むな。



余談。
本作の監督は『コンジアム』(18年) をヒットさせたチョン・ボムシク。ほかにも4本ぐらい撮っているようだが、映画.com、MOVIE WALKER、映画ナタリーのような大掴みの映画サイトでは他4本の情報は一切出てきません。なんにせよ新進気鋭の若手監督ということです。
それなのに本国では 「Kホラーの巨匠」と呼ばれてるんだって。
…早すぎひん? 呼ぶの。
巨匠認定はえー。すぐ呼ぶやん。
あと「Kホラー・マスター」の異名も欲しいままにしてるらしいし、なんなら「韓国ホラー映画の誇り」という別名まであるらしい。
早すぎひん? すべてが。
『コンジアム』を当てたってだけで、巨匠だマスターだ…、韓国ホラー映画の誇り?
韓国メディアの持ち上げ方っていうか…、持ち上げるどころかジェットパック背負わせて上空の彼方にブフォオオゆうて飛ばしてますやん。煙がすごい。なにが「誇り」やのん。「けむり」やん。韓国映画メディアの煙やん。星のカナタやん。飛ぶのソナタやん。
まあ、ボムシク本人に悪気はないだろうけどね。ブーブー言いながらも次作があったら観てしまうんだろうなぁ。

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