シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ゆれる人魚

「頑張ってる感」が透けて見えるものの、この監督は伸びしろ抜群です。

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2015年。アグニェシュカ・スモチンスカ監督。キンガ・プレイス、マルタ・マズレク、ミハリナ・オルシャンスカ。

 

海から陸上へとあがってきた人魚の姉妹がたどりついた先はワルシャワの80年代風ナイトクラブだった。野性的な魅力を放つ美少女の2人は一夜にしてスターとなるが、姉妹の1人がハンサムなミュージシャンに恋をしたことから、姉妹の関係がおかしくなっていく。やがて2人は限界に達し、残虐な行為へと駆り立てられていく。(映画.comより)

 

おはす。どもす。

本日は昨日の『10億ドルの頭脳』のように、軽い感じのレビューでサクッといきたいと思っています。

と言っても、軽い=手抜きってわけじゃないからね。だいたい、軽さを出すために機械製品を開発してる人とかボブヘアを追求してる美容師たちが日々どれだけ努力と研究を積んでいることか!

そういうことをおまえたちは考えねばなりませんよ。

だから軽いレビュー=手抜きレビューなんておぞましい発想をしてはなりませんよ。この悪魔の子!

わかりましたね。よし、ゆるす。

それでは『ゆるす人魚お』です。違う間違えました、ゆれる人魚です。いま焼酎を4杯飲んでちょっと酩酊してるので誤字は許してください。

ゆるす? アリス。

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◆人食い人魚の悲しい話(ネタバレ全開)◆

ポーランド映画から奇妙な作品が誕生した。

そうそう。ポーランドの首都・ワルシャワのシンボルが人魚だって知ってた? あ、知ってた? じゃあいいや。

本作はそんな人魚の姉妹を描いた珍妙怪奇な作品である。

物語こそアンデルセン『人魚姫』をベースにしているものの、決定的な違いはこの姉妹が人食い人魚ということだ。おっかねえなぁ。人を襲っては内臓各種をうまうま食べるという、実に不埒な姉妹なのである。あかんではないか。

 

そんな本作は、人食い人魚の姉シルバー(マルタ・マズレク)と妹ゴールデン(ミハリナ・オルシャンスカ)がナイトクラブで雇われてショーを披露するという、アンデルセンのアの字もないような俗っぽい物語が展開される。

二人は、熟年歌手キンガ・プレイスのコーラス隊として舞台に立つが、人魚だと知れた途端に大ブレイク。まさにt.A.T.u.。まさにザ・ヴェロニカズ。日本でいえばWinkとかPUFFYみたいな人気を獲得するってわけ。

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シルバー(左)とゴールデン(右)。どちらかといえば…逆じゃない?

なんで金髪の方がシルバーで、黒髪の方がゴールデンやねん。名前と髪色の乖離がすげえわ。

 

ところが、シルバーがベーシストの美青年に恋をして「人間になりたーい」などとベムめいた願望を抱き始めたことで、ゴールデンとの姉妹関係に軋轢が生じてゆく…。

ゴールデンはゴールデンで人魚としての矜持を大事にしていて、シルバーが男と乳繰り合っている最中も人を襲っては人肉をもりもり食べていた。人食い人魚の鑑である。

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人間の男に恋するシルバー。髪色はどう見てもゴールデンだが(まだ言う)。

 

シルバーが恋した相手ヤーコブ・ジェルシャルはなかなかの色男なのに、ギタリストではなくベーシストというあたりがいい。きっと謙虚な男なのだろう。とにかく顔がいいので寄ってくる女性は大勢いるだろうに、よりによって人魚を選ぶというあたりも好感が持てるよね。ジェルシャル最高。名前が覚えにくくて「もうジャルジャルで覚えたろか」って捨て鉢な気分にもなるが、それを差し引いてもジェルシャル最高。

だが、彼と生きるためにシルバーが尻尾を切断して人間の下半身をゲットするという大手術に踏み切ったことにドン引きしたジャルジャルは、まぁ案の定というか人間の女と浮気してしまう。

さすがバンドマン、この帰結。

たとえジャルジャルのようなイイ男でも、バンドマンである以上は浮気するわけです。「浮気」と書いて「バンド」と読む。それぐらいバンドマンにとって欠かせない行事が浮気なのです。わかった?

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ジャルジャルことヤーコブ・ジェルシャル

 

ジャルジャルの浮気を知ってショックを受けたシルバー、「飾りじゃないのよ涙はハッハー」とか「好きだと言ってるじゃないのホッホー」などと明菜めいた悲恋に暮れていると、人肉ばっかりむしゃむしゃ食ってた妹のゴールデンがこんな警告をする。

「夜明けまでに彼をぶっ殺さないと泡になってまうで」

なんか無理くりアンデルセンを出そうとしている気もするが、まぁいいでしょう。

「うーん、でもなー。一度は愛した男だからなー」なんつってウダウダやってる間に夜明けが近づいて、結局愛するジャルジャルを殺せなかったシルバーは、彼と最後の抱擁をしている途中で泡になってしまう。

とても悲しくて美しいシーンなのだけど、抱き合ってる最中に泡になって消えたわけだから、画的にはジャルジャルバブルランで泡まみれになってるパリピに映ってしまうのね、どうしても。そこがちょっと残念でした。

姉を失って慟哭したゴールデンは、半ば八つ当たりでジャルジャルを食い殺し、一人さめざめと海に帰っていったのでありました。おわり。

…あ、ストーリー全部言うてもうたわ。


◆良くも悪くも世界観ありき◆

事程左様に、人肉グチョグチョのゴア描写に彩られてはいるが、基本線は「少女たちの成長譚」という真っ当な物語である。近作だと『RAW 少女のめざめ』(16年)に近いでしょう。

ただ、私はこの作品をあまり快くは思っていない。

ダークファンタジーホラーロマンスミュージカルをぶち込んだ闇鍋的な世界観は唯一無二と言えなくもないが、それしか引き出しがないので途中で完全に飽きてしまうのだ。「それは分かったから、ほかに何かないの?」という。

奇妙な電子音楽で踊って、夢とも現実ともつかない幻想シーンがあって、また電子音楽で踊って幻想シーンがあって…の繰り返し。その先が見てみたかったのだけど。

ビジュアルはたしかに独特の味があって、好きな人はどっぷり浸れるだろうが、変なところでカットを割ったり、切り返しショットがメチャクチャだったりして、映像の生理としてちょっと気持ち悪いというか、まぁ端的に言えばヘタです。勘だけで撮ってる感じ。

だけど、そうした「技術的な気持ち悪さ」を「世界観の気持ち悪さ」と履き違えることのできた幸福な観客を「気持ち悪さゆえに心地いい」と錯覚させるには十分なだけの世界観が強固に確立しているので、まぁ良くも悪くも世界観ありきというか、ヘタウマなんでしょうね。

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もうどっちがシルバーでどっちがゴールデンでもええわ。しょうもない。

 

先刻から世界観、世界観と繰り返しているが、そんなにアクは強くないので割と誰でも観れる作品だと思う。

おそらくマジモンの狂人監督とかキチガイ映画を観てきた人にとっては「常識人がわざと一風変わった映画を作った」という印象を持ったのではないでしょうか。

本作を手掛けたアグニェシュカ・スモチンスカという(これまたクソややこしい名前の)女性監督のインタビューにも目を通してみたけれど、やっぱりモノの分別をわきまえた人で、それゆえにゴールデンとシルバーの乳首が映り込む角度/頻度とか、悪魔が出てくるシーンのデヴィッド・リンチのような雰囲気に頑張ってる感が出てしまっていて、「よしよし、よくやったね」なんて保育士さんのようなスタンス…まぁ、はっきり言って上から目線で観てしまっている自分もいて。そこは申し訳ないけど。

ただ、私は「基礎もなってないのにセンスだけで突っ切ろうとする感性一発勝負の映画」が大嫌いなので、そういう思い上がりを感じなかっただけゆれる人魚のことは憎からず思っています。

 

引き出しは一個しかないが、その引き出しには伸びしろ抜群の悪夢的感性が詰まっているので、おそらくアグネスチャン・ジンギスカンだかアグニェシュカ・スモチンスカは映画理論の基礎をもっと身につければ今後の作品で大化けするかもしれない…という、だいぶ上から目線のアドバイスを送らせて頂きます。

次は男性キャストをメインに据えてケンタウロスの映画を撮ったらいいと思う。人魚の映画が撮れたんだからケンタウロスの映画だって撮れるはずだ。りろん的に言って。

俺は観るぞ!

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ゴールデンとシルバーへ

すごい好きですよ、この写真。かっこええやないけ。名前のことでいっぱい突っ込んでごめんね。食べないでね。僕より。

 

さて最後に…、人魚ソングといえばTHE YELLOW MONKEY「追憶のマーメイド」

一番だけですが、暇だったらどうぞ。