アラフィフ2人が戯れるさまに我々はただ涙を流していればよい。
2018年。ゲイリー・ロス監督。サンドラ・ブロック、ケイト・ブランシェット、アン・ハサウェイ。
史上最強の犯罪ドリームチーム「オーシャンズ」を率いたカリスマ的リーダー、ダニー・オーシャンの妹デビーが仮釈放された。出所したデビーは犯罪プロフェッショナルである7人の女性に声をかけ、ニューヨークで開催される世界的ファッションイベント「メットガラ」の会場で1億5000万ドルの宝石を盗み出すという前代未聞の計画を実行に移す。(映画.comより)
サンドラ・ブロックとケイト・ブランシェットの共演に「盗む女は素晴らしいー」と戯言をほざきながらの祝福。
評の前半では理性をキープしてましたが、後半ではちょっとボロが出ちゃったというか、若干キモい感じになっちゃいました。何ゆえに? 愛ユエニー。
というわけで本日は誰がどう考えたって『オーシャンズ8』になるわけです。
ていうかむしろこんな前置きしておいて『オーシャンズ8』にならない方がおかしいだろ。
参りますっ。
◆同化マニフェスト◆
『現代女優十選』の5位と4位に輝くケイト&サンドラがついに共演したのだから、監督がションベン垂れのゲイリー・ロスだろうが、あの退屈な『オーシャンズ』シリーズを手掛けたスティーブン・ソダーバーグが製作に携わっていようが、もう何でもよろしい。好きにすればいいじゃないか。
今回に限っては「映画」を観るつもりなどほとんどなく、もっぱら私の視線は「キャスト」へと注がれているからだ。
ただ、私自身がそういう見方…、つまり「ある部分さえよければ総体としての映画の完成度は問わない」とする鑑賞法に嫌悪感を抱くからこそ、たとえば昨今のアメコミ映画ブームなんかをねちっこく腐しているわけだが、どうもすみませんでしたアメコミ好きの皆さん、『オーシャンズ8』に向けられた私の瞳はアメコミ好きがアメコミ映画に向ける視線と完全に同化してします。今回の私は完全にどうかしています。
『オーシャンズ8』が大した映画じゃないことなど、スタッフ名を一瞥した時点で百も承知なのだ。
私は『オーシャンズ11』(01年)の評の中で「次の新作はポンコツ監督のゲイリー・ロスだからしょせんタカが知れている」と言いました。
だが、人にはタカが知れていると分かっていながらもその映画を観ねばならないときがある。
それってどんなとき?
言うまでもなく、ケイト&サンドラがついに共演を果たしたときザッツライトである。
◆マネキン的な美の功罪◆
女性オンリーの強盗集団がファッションイベントに潜り込んで宝石をパクる…というプロットで、イベントの舞台となるメトロポリタン美術館にはさまざまな宝石・美術品・高級ブランドが所せましと並べられている。
もしも私が二十歳そこらの女子大生なら「宝石きれーい。服もかわいー。憧れちゃうゥ。もうだめ、失禁しちゃう」とかなんとか言って恍惚の表情で満艦飾の画面に見惚れていただろうが、悲しいかな、私はキャスト目当ての邪心溢るる映画好き。
宝石やファッションなどどうでもよろしい。
というか、サンドラ姐さんとケイト様こそが宝石なのであり、彼女たちが共演した本作自体がある意味ではファッションイベントなのだ。
そうだろう?
実際、撮影監督のニコラス・ブリテルという素性の知れないおっさんは、女優陣を格好よく撮ることだけに全生命力をぶっ込んでいる。妥協のない照明と構図。創意を凝らした衣装と髪型…。見上げたおっさんである。
54歳サンドラ・ブロックと49歳ケイト・ブランシェットが、ここでは年齢も人種も記名性さえも掻き消され、ただ撮られるがままに美の象徴(あるいはマネキン)として後光を発するのみ!
きゃりーぱみゅみゃむ風に言えば最&高ということになってしまうよね、どうしても。
きゃりーみゃむぱみゅ…、きゃりーぱぴゅまみゅ…、言えねえわクソが。
サンドラ姐さんとケイト様がとにかくクール!
ただし、徹底的に美しく撮ることのツケは必ず回ってくる。
なんというか、「撮影」は良くても「芝居」をまったくしていないのでキャラクターとしての面白味がないんです。その俳優特有のクセや身振りを封じて美しく撮ることだけに注力しているから、それこそ女優陣がマネキンみたいに無機的なのである。
たとえばサンドラ姐さんのサンドラ感が出ているのは、ケイト様がピュッと投げた紙飛行機が顔をかすった際、さほど驚いた様子もなく「おぅ」とばかりに片手をひらひらさせる…ぐらいのもので、そのほかはサンドラ感ゼロ! おもんな。
もっといつものようにサンドラ姐さんが顔を歪めたり、ケイト様がクールに煙草を吸ったりさ…、
自由に芝居させろよ!
たぶんションベン垂れのゲイリー・ロスは、「今回はクールな女泥棒の映画だから、あまり感情を出した芝居はしないで下さいね。特にサンドラ姐さん。なるべく淡々と演じてください」と女優陣に要求したのだろう。
歯、叩き折ったろか!
ある意味、それで『オーシャンズ11』は失敗したんだよ。スタイリッシュなケイパー映画だからといってキャラクター性を圧殺した結果、台本上のギャグをギャグとすら認識できないほどクソ真面目に演出しちゃって、すべてが単調になってしまうという。
なのでこの映画、せっかく多彩な女優を揃えたのに、とても窮屈そうに演じていて…。まるで普段おもしろい友達が校長先生の前でガチガチに緊張して石のように固まっている姿を見せられたような。「個性、死んでもうとるやないか」っていう。
唯一、伸び伸びやってたのはアン・ハサウェイぐらいです。
◆嫌われアンちゃん◆
今回のアンちゃんは、身につけた宝石をオーシャンズたちに狙われる映画女優を演じている。美人であることを鼻にかけている嫌われ者で、名誉心が強く計算高いキャラクターだ。
おもしろいのは「彼女が演じた役」と「実際の彼女」が重なっているあたり。
日本ではけっこう人気だが、アン・ハサウェイといえばアメリカではすこぶる評判が悪いハリウッドいちの嫌われ女優だ(主な理由は「腹黒いから」らしい)。
そんな彼女にヒールを演じさせるのだから、これはもう『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』(14年)におけるメル・ギブソン※だよ!
心なしか語感も似てるしね。
※暴行事件や差別発言で全米から嫌われていたメルギブが『エクスペンダブルズ3』では卑怯な悪役をノリノリで好演したことで却って若干イメージアップした。
にも関わらず、なぜアンちゃんはこんなに活き活きと芝居をしていたのか。
普通、マジで嫌われてる女優が「嫌われ者の役をしてください」なんてオファーされたら「やるわけないでしょ、ふざけんな!」と不機嫌になりそうなものだが、本作のアンちゃんはそんな要求にもノリノリで応えている。
そしてその理由は作劇上のトリックに繋がっているので、「アンちゃんがやたらノリノリな理由」を語ってしまうとネタバレになってしまうというわけ!
だから…これ以上はなんにも言えねえ。
◆なんというか、NY映画◆
ヘレナ・ボナム=カーターは相変わらずいつもと同じ型で、風変りな格好をした珍奇女を演じている。
イツモ・オナジ=カーター。
いつも同じ型のヘレナ・ボナム=カーター。13年間に渡ってティム・バートンと事実婚していた。バートンの『チャーリーとチョコレート工場』(05年)や『アリス・イン・ワンダーランド』(10年)にも出演。
また、『キャロル』(15年)ではケイト様の親友を演じたサラ・ポールソンや、歌手のリアーナも出演している。
まぁ「だから何なんだ」っていうぐらいサンドラ姐さん&ケイト様のインパクトが強いわけですが。
サラ・ポールソン(左)、リアーナ(右)。二人の間をブロックしているのはもちろんサンドラ。
また、『オーシャンズ11』の過去キャラや、わけのわからないファッションモデルが多数カメオ出演しているが、私が驚いたのはダコタ・ファニング。「売れっ子若手女優」としてワンシーンだけ登場するのだが…
ただの嫌がらせだろ、これ!
現実では売れっ子若手女優なのは妹エルたんの方で、姉のダコたんはメジャー街道からグングン外れていっとるがな。
アン・ハサウェイは「役に実人生を投影させる」というダーレン・アロノフスキーみたいなことをしてるのに、ダコたんの時だけ役と実人生がビビるほど乖離していて「残酷だな」って思った。
元天才子役ダコタ・ファニング。『アイ・アム・サム』(01年)や『宇宙戦争』(05年)などで大活躍していたが、近年では妹のエル・ファニングにギュンギュン追い抜かれる。ちなみに『となりのトトロ』(88年)の英語版では姉妹揃ってサツキとメイの声を当てています。
映画としては山場も緊張感もなく、ソダーバーグ版の淡泊さを踏襲(踏襲すんな)。
ユーモアゼロという点もソダーバーグ版に倣っている(倣うな)。
キャラの描き込みも浅っさい浅い。サンドラ姐さんと調子クルーニーの兄妹関係もよくわからなければ、息子がいるのに後先考えず強盗計画に乗っちゃうサラ・ポールソンの精神構造も謎のままである。
とにかく、ゲイリー・ロスだけに色んなものがロス状態で、だけど舞台はロスでもベガスでもなくNYで…って、N(なんだか)Y(よくわかんない)映画に仕上がっておりました。
◆アラフィフ同士のお口アーン◆
こんなN(なんだか)Y(よくわかんない)映画だが、ほとんど唯一といっていい見所がある。
それはこの映画の本質にも関わる部分なのだが、女性…それも熟年女性同士のホモソーシャルという新たなる「萌え」の形を提唱したことだ!
この『オーシャンズ8』、ケイパー映画*1の皮を被ってはいるが、実際はサンドラ姐さんとケイト様がずっとイチャイチャしてる映画です。
メンバーは他にもいるのに、いつも二人で顔を寄せ合ってクスクス笑っていたり、冗談を言い合ったりしているのだ。「まぁ、そのぐらいなら他の映画でも普通にしてることでしょ」などと思ってはならない。二人が作戦を練りながらレストランで食事するシーンで、サンドラ姐さんがケイト様の口元にスプーンを運んでアーンして食べさせるのだ!
で、出たぁ~、アラフィフ同士のお口アーン!
これを「熟年女性同士のホモソーシャル」と言わずしてなんとする。
奇跡の瞬間。
この映画の狙いは完全にココですよ。宝石を盗むとか、タテマエだよタテマエ。どうでもいいんだよ、そんなこと。しょうもない。
まるでタイプの異なるアラフィフ・トップ女優2人のイチャイチャ萌え…という尊い目的に向かって突き進んでいる映画なのだ。イスカンダルを目指す宇宙戦艦ヤマトのように…。
私の願いはただひとつ…。
「夢よ、覚めるな」
キーポンドリームということである。
アラフィフ2人が戯れるさまに我々はただ涙を流していればよい。
と言って、決して萌えアニメのような気持ち悪さはまったくないので安心されたい。もちろんレズ映画でもない。あくまでホモソーシャル(同性同士の友情)なのだ。
酸いも甘いも噛み分けたアラフィフ同士、そこには言外のサバサバとした友情が紡がれています。
おもしろいのは、どの出演作でも女王様キャラでツンツンしているケイト様が、サンドラ姐さんに対してだけは飼い猫のように懐いているあたり。まさにツンデレ。よく見ると猫顔だし。
そして犬顔のサンドラ姐さんは、そんなケイト様を「よしよし」と巧みに手懐ける。具体的には、ケイト様が強盗計画に異論を唱えて仲違いしかけるシーンで「お願い、協力して…」とうるうるした目で懇願するサンドラ姐さんにコロッとやられて「べ、別にアンタの為に協力するわけじゃないんだからね!」と言って折れちゃうところとか。
「深夜アニメ見てるのかな?」って。
それにしても、あれほど女王の風格をまとったケイト様がデレるとは珍しい。
そしてそれ以上にサンドラ姐さんの天下無双の人たらしっぷり!
さすがは好感度No.1の「ガール・ネクスト・ドア(隣の家のお姉さん)」。どんなに気難しい猫ともたちまち仲良くなれるゴールデンレトリバーのごとき親密さ。
事程左様に、二人の掛け合いを眺めているだけで満足、幸せ、お腹いっぱい…って感じなので、どうせ楽しむならこういう目線を持って観るのも一興やもしれぬよ?
仲良いんだからぁ。
◆俺が考えたオーシャンズ9◆
『オーシャンズ8』の関係者は確実に私のブログを読んでいると思うので、最後に「俺が考えたオーシャンズ9」を発表します。
続編では私の要求通りにキャスティングすること。わかった? マジでちゃんとワーナー・ブラザーズの上層部に伝えてくださいね。
~あらすじ~
メトロポリタン美術館から大量の宝石を強奪することに成功したオーシャンズたちだが、サンドラ姐さんとケイト様を除く残りのメンバーが運悪く交通事故に巻き込まれて全員死亡。失意に暮れる二人は新たな仲間を集めて、腹いせに京都市美術館に飾られている名画「氷の微笑」を盗み出す作戦を決行する…。
シャロン・ストーン(悪役=ターゲット枠)
サンドラ・ブロック(司令塔枠)
ケイト・ブランシェット(右腕枠)
スカーレット・ヨハンソン(潜入&変装枠)
オドレイ・トトゥ(スリ枠)
ジェシカ・チャステイン(爆破要員枠)
エイミー・アダムス(ドライバー兼雑用枠)
片桐はいり(アジア枠)
予算がいくらあっても足りねえだろうな。
まぁ最悪、僕が女装して出演してもいいですけど。