ベイじゃないって、いいなあ!!
2020年。アディル・エル・アルビ&ビラル・ファラー監督。ウィル・スミス、マーティン・ローレンス、パオラ・ヌニェス。
ブランド物のスーツをスタイリッシュに着こなし、得意のドライビングテクニックでポルシェを飛ばすマイクに対し、マーカスは家族こそが守るべき大切なものと考え、そろそろ引退を考えている。若いエリートたちと組むことになった2人は、自分たちが年寄り扱いされることに我慢できない。そんな中、マイクが何者かに命を狙われ、バッドボーイズ最大にして最後の危機が訪れる。(映画.comより)
どうもみんなおはようございます。略して「ドミオ」。略さなければ「どうもみんなおはようございます」になってゆきます。略す・略さないは各自の判断でよろしくお願いします。
連日に及ぶ飲酒が祟って絶賛☆腹ぶっ壊しモードでお送りしている 『シネマ一刀両断』の影の運営者ふかづめが、みなさんに向かって朝の挨拶をしていますよ。そういった現状がわれわれを取り巻いています。この国は大丈夫なのでしょうか。
そんなわけで本日は『バッドボーイズ フォー・ライフ』の評を皆さんに読んでもらいたいと考えています。とはいえ、読む・読まないは各自の判断にかかっています。そういった現状にわれわれは立ち合っているわけですよ。取り巻いてもいるわけです。そういった現状が。
僕のメッセージをご理解いただけた方は挙手をお願いします。ありがとうございます。人数をカウントしたので、僕はこの数を、政府に申告します。この度は本当におはようございました。
◆吉報、マイケル・ベイ監督降板◆
『シネマ一刀両断』を始めたての頃に『バッドボーイズ』(95年)と『バッドボーイズ2バッド』(03年)を取り上げてマイケル・ベイがどれくらいバカなのかについて熱弁したわけだが、そのあとGさんからリクエストされて『13時間 ベンガジの秘密の兵士』(16年)というバカ映画すら超えた幻覚映画まで観るはめになり、評の中では「マイケル・ベイ現象」をはじめ「ベイイズム」、「ベイ疲れ」、「ベイ擁護運動」、「ベイ狂騒曲」、「ベイは小津」、「ベイ・バスターの車窓から」、「事実はベイ映画より奇なり」などさまざまな精神錯乱ワードが噴出した。
マイケル・ベイ…画面に映ったもの全てを爆破粉砕しないと気が済まない米アクション界を統べし破壊神。ベイ・バスターと呼ばれる戦車みたいな特殊撮影車両で爆炎だらけのロケ地を嬉々として駆け回ったり、被写体に向かってカメラをぶん投げるといった独特の撮影法(というより奇行)で無茶苦茶な映画をよく作る。撮影現場で使用される火薬量の多さから何度もキャストを殺しかけている。代表作に『バッドボーイズ』(95年)、『アルマゲドン』(98年)、『トランスフォーマー』(07年)シリーズなど。
そしてこのたびマイケル・ベイの出世作『バッドボーイズ』の2人が帰ってきたのだが…
マイケル・ベイが監督降板しました。
やったああああああああ!
これでようやくマイケル・ベイ現象に首をかしげることもなぁぁぁぁけれヴぁぁぁぁ、 140分も160分もダラダラ続くベイ狂騒曲に付き合わされることもないィ――――ッ!
しかも製作やプロデュースにも名を連ねてないときたッ。
やりいいいいいいいい!
でもなぜか脇役でチョロッと出演しているッ!
なんで。
友情出演する破壊神。
ベイに代わってメガホンを握ったのは新人のアディル・エル・アルビとビラル・ファラーのコンビ。
ベイが監督しないことに一抹の寂しさを覚えてるベイリストもいるようだが、旧知の悪友ジェリー・ブラッカイマーが製作を担っているのでベイイムズのいい所だけを残して上手く現代版にアップデートしているぞ。ひとつ問題があるとすればベイイズムにいい所などない、ということぐらいだ。
『バッドボーイズ』シリーズの概要を一行でおさらいすると、脳筋のマイアミ市警2人組が街を爆破炎上させながら街を救うという清々しいまでの矛盾に満ちたファッキン・ブラック・ブロマンスである。たまに捜査を忘れて夫婦喧嘩をしたりカーペットの掃除に明け暮れるといったホームドラマ的な魅力もある。
そして前作から17年ぶりとなるシリーズ3作目『フォー・ライフ』。
マイアミの治安を守ったり荒らしたりしてきたウィル・スミスとマーティン・ローレンスもすっかりアラフィフだが、相変わらず道路交通法を無視してポルシェをかっ飛ばす日々。ところが、生涯バッドボーイズ宣言をしたウィルと、孫が生まれたことを機に引退を決意したマーティンが激しくぶつかりバッドボーイズは惜しまれながらも解散してしまう。
その頃、かつて「魔女」と恐れられた暗殺者の女囚ケイト・デル・カスティーリョが息子のジェイコブ・スキピオの力を借りて刑務所を脱獄。何らかの恨みからウィルを銃撃したあと司法関係者ばかりを狙った連続殺人事件を引き起こす。生死の境をさまようウィルを心配したマーティンはクリスチャンになり、教会で「もう二度と暴力は振るいませんから、どうか相棒を助けてください」と子供じみた祈りを捧げたところ都合よく天に祈りが通じてウィルが復活。とはいえマーティンが隠居生活に入ってしまったので、ウィルはかつての恋人(パオラ・ヌニェス)が指揮するハイテク捜査班“AMMO”と新チームを結成することになるが…というのが主な物語。
マーティン・ローレンス(右)が岡村隆史に似てきた。
もしこれが従来のベイ作品なら「まあ、物語もヘチマもない内容だが~」と続けていただろうが、これが…ある。
物語がちゃんとあって、ちゃんと流れているのだ。しかも誰がどこにいて何をしてるのかさっぱり分からないマイケル・ベイ現象も起きていない。無駄なスローモーションもないので上映時間も124分とベイに比べて相当コンパクト。なぜなら監督がベイじゃないから。
人は『バッドボーイズ』最新作の監督がベイじゃないことを心から喜ばねばならない。ベイじゃないというだけで映像も編集も飛躍的にグレードアップした『フォー・ライフ』は興収/批評ともに申し分のないスコアを叩き出し、早くも続編が決定したという。
ベイじゃないって、いいなあ!!
本家の火薬芸はしっかり踏襲。
◆新たな仲間、AMMO◆
久しぶりにアクション映画で満足したわぁ。
まずもってマイアミの海岸沿いをポルシェで舞いまくる開幕から好調。信号を無視してあわや大惨事を起こしかけた二人が駆けつけたのは病院。このシリーズではお決まりのスピンアラウンド(被写体を中心にカメラがぐるーっと旋回する撮影技法)でポルシェを捉え、キメ顔で颯爽と車から降りたウィルに対してマーティンはドアを消火栓にぶつけて降りられない…というオチがつく。
ギャグをいちいち解説するのは野暮だが、これはベイが得意とする“カッコ付け演出”であるスピンアラウンドを冷やかしたパロディね。
2人が道路交通法をドン無視したのは犯人を追っていたからではなくマーティンの娘の出産に立ち会うためだった。しかもどっちが先に分娩室に着くか競争と称して病院内で駆けっこする。なんてすばらしい掴みの演出だろうか。開幕5分足らずでこの映画の知能指数を告白してみせたのだ。
その後、ナイトクラブに同僚の警官たちを連れて“バッドボーイズを称える会”を開催したウィルとマーティンは、カウンターでテキーラを飲みながら「もう歳なのか、近ごろ若い娘を見ても勃起しない」とか「ふうん。俺はまだ勃つよ」などと未来を見据えた熱き議論を交わし、その帰り道でどっちが先にあのヤシの木に着くか競争と称してまた駆けっこをする。中学生なのか…?
そこに現れたバイクの男がマシンガンでウィルを撃つのだ。悲劇といえば悲劇だが、アホみたいに駆けっこしてる最中に撃たれてるので滑稽なことこの上ない。
ちなみにシリーズ皆勤賞のジョー・パントリアーノ演じる警部も謎のバイク男に襲われ死亡します。
ウィルが撃たれたことに驚く岡村のようす。
一命を取り留めたウィルは3ヶ月に復帰し、若手エリート捜査官から成る新ユニット“AMMO”の相談役として警官殺し事件に介入するのだが、このAMMOメンバーが今作のメインキャラクターだ。
AMMOの頭脳であるアレクサンダー・ルドウィグはガチムチボディを誇りながらも過去のトラウマから人を殴れなくなったサイバー捜査官。ドローンによる偵察やハッキングを得意とするが、映画終盤では暴力を解禁してハルクばりに大暴れする。太い石柱を叩き折ることもする。筋骨隆々なのに童顔というギャップに悶えている私がここに居もする。
AMMOの突撃隊であるヴァネッサ・ハジェンズはマシンガン・ガールだ。周囲に煙たがられているウィルを唯一尊敬しているミラ・クニス似のムードメーカーで、ウィルが命令を無視して麻薬の取引現場に踏み込んだ際は得意の援護射撃でウィルの命を救った。
AMMOのおちゃらけ担当であるチャールズ・メルトンは人をイラつかせるプロ。ムチャな捜査ばかりするウィルをナメた態度で見下しており、クラブに潜入捜査した際はDJに扮してパリピ属性を存分に発揮した。死んでも一番悲しくない奴ランキングでは堂々の1位。
そんなAMMOを率いるのがウィルの元恋人、パオラ・ヌニェス。上司としての威厳と友人としての情の狭間でウィルへの態度を決めあぐねているが、捜査現場では的確にチームを指揮する頼れるリーダーだ。
というか私にとって今作はパオラ姐さんの一人勝ち。
『マトリックス』(99年)のトリニティで知られるキャリー=アン・モスや現在のジェニファー・コネリーを彷彿させるエキゾチックな黒髪美人で、私の美のキャッチャーミットにバスンと来たことを報告しておく。
尤も、アレクサンダーくんの萌えマッチョぶりやパオラ姐さんの艶のある格好よさを度外視してもAMMOメンバーの親しげな雰囲気はとてもよく、また彼らから仲間と認められていくウィルの“転校生感”も含めて、このシリーズの基底にある「家族」というテーマが形成されてゆくあたりは脚本としても見事と言わざるを得ない。
右から二番目がアレクサンダーくん、三番目がパオラ姐さん。
もちろんウィルがAMMOのメンバーたちと犯人を追っている頃、カメラは家庭人になったマーティンの日常も撮り逃さない。
リクライニングチェアに横たわってアロマ焚きながらヤバい自己啓発CDを聞く!
このシーンは別々の場所で別々のことをしているウィルとマーティンのクロスカッティングが冴えている。ウィルがスーツを羽織るとマーティンがガウンを羽織り、ウィルが金庫から拳銃を取り出すとマーティンが電子レンジからホットドッグを取り出し、ウィルが車に乗り込むとマーティンが椅子に座り、ウィルがサングラスをかけるとマーティンが老眼鏡をかけ、ウィルが車のギアを入れるとマーティンがリクライニングチェアのギアを入れる…といった塩梅だ。まさにヒップホップばりに映像で韻を踏んでくる、この感じ。いい感じ。
ベイには真似できないシャレた芸当とはこの感じ。
新たなライフスタイルを確立する岡村のようす(いい感じ)。
その後、マーティンと和解してバッドボーイズを再結成したウィルはAMMOの協力を得ながら犯人の足取りを追う。ナイトクラブで要人を取り逃して都市部→郊外→高速道路と地の果てまで追いまくるチェイスシーンが滅法すばらしく、銃弾が飛び交う公道でトラック→バイク→サイドカーと乗り物を変えつつ、それでいて息の合ったバッドボーイズ漫才を繰り広げながらのアクションシーンは見応えたっぷり。なんなら思い出にすら残るレヴェル。
何度も言うようだが映像処理が丁寧なのだ。ちゃんと観客の生理に合うリズムで画が繋がっていくことの喜びをオレは噛みしめている。監督のアディル&ビラルは紛うことなきグッド・ボーイズだ。
バッドボーイズ再結成!
◆次作ではバッドボーイズfeat.AMMO withジェイコブが見れるかも◆
さぁ、映画も大詰め。犯人が使った弾丸の出処を調べるうち、ウィルは自分の命を狙ったのが元恋人の暗殺者ケイトから指示された息子ジェイコブだと知る。
おまえ、元恋人が何人いるんだよ。
ケイトやパオラ姐さんだけでなく『バッドボーイズ2バッド』ではマーティンの妹とも付き合ってただろ!
ウィルはてっきりケイトとメキシコ麻薬王の間にできた子供がジェイコブだと思っていたが、じつは若き日のウィルがメキシコ麻薬カルテルに潜入していた時に麻薬王の目を盗んで浮気していたケイトとの間にできた実の息子だという笑撃の事実が発覚する。その後、ウィルは愛より仕事を取ってケイトを刑務所に送り込んだことが今回の仕返しに繋がった…というわけだ。
そんなわけでウィルを恨んだ母子はマイアミ市警のジョー警部をはじめ、当時の裁判長や判事を片っ端から殺していくが、すべての原因はウィルの下半身の奔放さでした。
潜入先の麻薬王の嫁はんを寝取ったウィルがそもそも悪い、という因果応報に帰結していく『バッドボーイズ フォー・ライフ』。
ちょうどいい感じのバカ脚本。
ウィルを恨むケイト、因縁のご対面。
自分の命を狙ったジェイコブが実の息子だと知ってショックを受けたウィルは単身メキシコに赴いて決着をつけようとするが、そこへマーティンとAMMOメンバーが「一人で行くなんて水臭いじゃないのさ!」とかなんとか言いながら現れてバッドボーイズfeat.AMMOが爆誕。
そこからは「あー」とか「るるおー」とか喚きながら一生ハードアクションしてるだけのクライマックスがスクリーンを爆炎と鮮血まみれに仕立てるわけだが、やはり空間設計がすばらしいのね。勘だけで作られてないことがよく分かる。
地上のパオラ姐さんがライフルを真上に構えて二階の敵をがんがん撃ちながら歩き続けるショットではカメラも45°傾くが、えてして上手ぶっただけの「イキり演出」になるところをパシッと決めてくるセンスにも脱帽だ。
AMMOのリーダー、パオラ姐さん。強いぞ。美しいぞ。
死闘の末にウィルへの恨みを捨てた息子ジェイコブが次作では味方になるかもよ!?…と匂わせるクリフハンガーは昨今のアメコミと同じ手口だが、ここでも“家族”という主題が利いてるので「ジェイコブ、仲間になるのん!?」とこちらも素直にアツくなれる。
しかも、死んだジョー警部に代わってパオラ姐さんが新警部に就任するので、早くも続編が決定した4作目ではバッドボーイズfeat.AMMO withジェイコブというワケのわからない集合体の活躍が見れるだろう。『エクスペンダブルズ』(10年)のバッタモンみたいな様相を呈すこと請け合いだし、マーティン・ローレンスは輪をかけて岡村隆史に近付くはずだ。
ちなみに前作との話の繋がりはないので『フォー・ライフ』からご覧頂いても一向に差し支えない。ていうかAMMOのスピンオフ作品を作ってほしい。
僕の心にはAMMOが残りました。
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