さらばバート・レイノルズ。キャノンボールとはアンタの生き様そのものだ!
1981年。ハル・ニーダム監督。バート・レイノルズ、ジャッキー・チェン、ロジャー・ムーア。
アメリカ大陸を右から左に、只ただ一番早く走り抜けた者が優勝というハチャメチャ公道レースを豪華スター出演で描いたブッ飛びコメディ。
昨日『ロンゲスト・ヤード』評をアップしたあと、ブックマークコメントでとんぬらさんが「なんというタイミング。」と呟いてらっしゃってて「どういう意味。ついにとんぬらさんが妄言を吐くように…?」なんて失礼なことを思っていたのだけど、やなぎやさんのコメントを読んで、『ロンゲスト・ヤード』の主演俳優 バート・レイノルズが亡くなったことを知った。
70年代にはクリント・イーストウッドと並ぶドル箱スターで、共演作の『シティヒート』(84年)では丁々発止の掛け合いを楽しそうに演じていた。
デミ・ムーアのポンコツおっぱい映画『素顔のままで』(96年)では全身ワセリンまみれでデミの下着を嗅ぐようなド直球のヘンタイを喜々として演じ、「これぞ天使の香り。フォ――、力が漲る!」という名台詞でわれわれの涙を誘った。
また、タランティーノの新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド( 原題)』(19年)に出演予定だったが、82歳で死んでしまった。
というわけで本日は、今年3月に書いたきり出来が悪すぎてお蔵入りしていたB・レイノルズの主演作『キャノンボール』の評を急遽加筆修正してアップします。
◆70年代カーチェイスの血脈を受け継いだ爆走映画◆
原理的にカーチェイスというのは映画にとって無意味な要素だが、その無意味な要素だけで一本の映画を作り上げるという力任せな歴史が70年代には存在する。
『激突!』(71年)、『バニシング・ポイント』(71年)、『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』(74年)、『激走!5000キロ』(76年)、そしてバート・レイノルズの『トランザム7000』(77年)といった70年代カーチェイス映画だ。
もともとはアクション映画の一要素に過ぎなかったカーチェイスが、スティーブ・マックイーン主演の『ブリット』(68年)で人気を博し、たちまち一人歩きしてジャンル映画として確立したのだ。
そんな70年代カーチェイス映画の血脈を受け継いだ『キャノンボール』は、良くも悪くも能天気な80年代にふさわしいオールスター映画として生まれ変わった。
それまでの自動車こそが主人公という硬派なスタンスから一転、「華のある俳優で魅せる」というゴリ押しのスターシステムに振りきったことで、アクション映画やカーチェイスに興味のない客層を呼び込むことに成功し、シリーズは3作まで続いた。
◆監督も参加した大陸横断レース◆
監督は『トランザム7000』や『ストローカーエース』(83年)など、バート・レイノルズを撮るために生まれてきたといっても過言ではない男、ハル・ニーダム。
『キャノンボール』がどういう映画かと訊かれたら「火の玉みたいな映画」としか言いようがないのだが、まぁこれは嘘だ。他にもっと言いようはある。
この映画は、二人一組で車に乗ったスピード狂たちが、交通ルールや制限速度をすべて無視しながら、アメリカ東海岸コネチカットから西海岸カリフィルニアまでの5000キロを爆走する大陸横断レースを描いた作品だ。
ちなみにハル・ニーダムはリアリティを追求するために自ら大陸横断レースに参加したらしいが、本作を撮影するにあたってその経験が何かの役に立ったとは思えない。
リアリティもヘッタクレもない映画だからだ。
まぁ、リサーチという名の趣味だったのでしょう。まったく、ハル・ニーダムという奴は。ちょっと目を離すとすぐ遊びに行きやがって。
◆オールスターなのにいまいちピンとこない◆
ヤングな読者には全然ピンとこないだろうが、おっさん世代のノスタルジアを大いに刺激するオールスター映画である。
ちなみに私はノットおっさん世代で、ごく一部の俳優を除いてほとんど思い入れがないため、この豪華キャストの有難さがいまいち実感できていない。面目ねぇ。
大勢のキャラクターが群像劇のように慌ただしく出入りするが、事実上の主演はバート・レイノルズだ。
『ロンゲスト・ヤード』と同じくこちらでも飲酒運転の名人で、レース開始前には女性を片っ端からナンパしたり、セスナ機を飛ばしている最中にビールが切れたといって街中に着陸してビールを購入してうまうま飲むなどやりたい放題。まさにバート・レイノルズのイメージそのままの豪快なキャラクターである。
キャノンボールとはバート・レイノルズの生き様そのものなのだ!
そんなレイノルズと組むのは、公私ともに仲のいいドム・デルイーズというコメディアン俳優なのだが、すまん知らんわ。
ドム・デルイーズ(右)。あとで調べておきます。
また、三代目ジェームズ・ボンドとしてお馴染みのロジャー・ムーアが出演しているので、『007』ファンには嬉しいサプライズでしょう。
たぶん近頃のふざけた奴らは、三代目といえばすぐにJ Soul Brothersを連想するだろうが、本来は誰がどう考えてもロジャー・ムーアなのだ。なめやがって。
とは言ってみたものの、私は『007』が苦手であまり観ていない。
三代目といえば徳川家光で決まりでしょう。
まだまだ出るぞ。
西部劇の名脇役ジャック・イーラムは、持ち前の奇怪な風貌を活かして笑いを取る(出演作はいくつか観てるけどまったく記憶にございません。ごめんなイーラム)。
歌手や司会者としても活躍した米芸能界の大御所ディーン・マーティンも出ているんだ(ディーン・フジオカなら知ってるけどディーン・マーティンは…。『リオ・ブラボー』でしか観たことありません。ごめんなさい)。
ジャック・イーラム(左)をスターと呼んでいいのだろうか。
…というわけで、これだけのオールスターなのにビビるぐらいテンションが上がらない。
あっれ~、おかしいなぁ。それなりに色々な映画を観てきたはずだし、中でも70年代アメリカ映画には一際強い思い入れがあることを自負して憚らないことには定評があることでお馴染みの私なのに、本作の出演者の大半は通ってないなぁ…。
なに、このピンポイントで私の死角ばっかり突いたキャスティング。
狙い撃ちはやめろ!
だけど、そんな私が「わぁ!」とばかりに反応した俳優が約数名いる。
一人目がジャッキー・チェン!
本作はジャッキーにとって、忌わしき失敗作『バトルクリーク・ブロー』(80年)に続くハリウッド進出作だが、劇中ではなぜか日本人の設定。なのに広東語を話す。
気ィ狂っとんのか。
欧米人から見れば日本人も香港人も同じようなもの…という十把一絡げ精神に、きっと「アイヤー、さすがアメリカ。この大雑把さ」と呆れながらも、ハリウッド進出のために甘んじて仕事を引き受けたのでしょう。えらい、ジャッキー。
そんなジャッキーと一緒に三菱・スタリオンをぶっ飛ばす相棒が『Mr.BOO!』でお馴染みのマイケル・ホイ。広川太一郎のダジャレ尽くしの吹替えが最高である。
鼻がもう少し小さければ相当ハンサムな若き日のジャッキー。
そしてバート・レイノルズの救急車に無理やり乗せられたヒロインにファラ・フォーセット!
ファ――――! もしくはフォ――――! と叫ばざるを得まい。
テレビドラマ『チャーリーズ・エンジェル』で名を馳せた時代のアイコン。乱れたタテガミのような髪型は「ファラ・カット」と呼ばれ世の女性がこぞって真似したり、写真集を出せば世の男性がこぞって買い求めるなど、映画のみならずファッションやポップ・カルチャーにも多大な影響を与えた女優だ。
この健康美!
極めつけは、バイカー軍団のリーダーとしてカメオ出演したピーター・フォンダ(役名がイージーライダーというセルフパロディ)。
車やバイク関連の映画ではだいたいこの男が出てくる法則を地で行っているが、今回は悪役で、ジャッキーと対峙して一礼した直後、カンフーの餌食に…。
フォンダ災難である。
◆アメリカの活力◆
バート・レイノルズが自身の出演作を腐す自虐ネタや、ロジャー・ムーアが本人役を演じてナンパした美女にショーン・コネリーと間違われるなど、全編に散りばめられたメタ的なギャグが楽しい。
だが内容は無に等しい。
てんやわんやの公道レースが無反省に垂れ流されるだけの95分だし、撮り直しがなかなか利かない題材なのでショットもグチャグチャなのだが、フィルムを焦がすような80年代初頭のアメリカの活力だけは漲っていて、それを体現しているのがバート・レイノルズやファラ・フォーセットやロジャー・ムーアという当時全盛の大スターたち…というところに不思議な情緒を感じる。
カーチェイスという一要素だけでひとつの映画が成立し、一色のエネルギーだけでどうとでもなった時代。『キャノンボール』には、利権だ忖度だ不謹慎だと色々なものが絡み合って窒息死寸前の現代では考えられない、大陸のように大らかな精神が広がっている。
レースを終えた参加者たちが互いを讃え合うラストシーンなんて、映画がクランクアップして本当に打ち上げしているようにしか見えないのだ。
キャラも演技も忘れて素の笑顔でふざけ合う共演者たち。
バート・レイノルズの訃報と同時に、元モーニング娘。の吉澤ひとみが酒気帯び運転で轢き逃げしたというロクでもないニュースも目にしたが、映画の中のバート・レイノルズは飲酒運転の権化とはいえ轢き逃げまではしなかった。それをするのは『デス・レース2000年』(75年)だ。
吉澤ひとみは多分『デス・レース2000年』の観過ぎだと思う。何回観たんだ。
謹慎もしくは引退したら『キャノンボール』をたくさん観るといい。LOVEマシーンに乗ってバート・レイノルズの救急車を追い抜くんだ!
ファラちゃんと。
さらばバート・レイノルズ! たくましい映画ばっかりありがとう!