こなすーがずっと頭痛がってる映画(超豪華キャスト)。
2015年。アリエル・ヴロメン監督。ケビン・コスナー、ゲイリー・オールドマン、トミー・リー・ジョーンズ。
米軍の核ミサイルをも遠隔操作可能なプログラムを開発した謎のハッカー「ダッチマン」の居場所を知る唯一の人物で、CIAのエージェントのビリーが任務中に死亡した。「ダッチマン」の脅威から世界の危機を救う最後の手段として、ビリーの記憶を他人の脳内への移植する手術が検討され、その移植相手として死刑囚ジェリコ・スチュアートが選ばれた。ジェリコは凶悪犯である自分自身と、脳内に移植されたCIAエージェントのビリーというまったく逆の2つの人格に引き裂かれながら、テロリストとの壮絶な闘いに巻き込まれていく。(映画.comより)
どうもおはよう。
急に話しかけて人を驚かせてしまうことがよくある。
昨日も、知人の背後から 「ねぇ、そういえば―…」 と話しかけた途端に、肩をビクッとさせて「はぅ!」と驚かれてしまった。ショックだったが、原因は分かっている。
(1)相手の死角から話しかける癖がある。
(2)足音を立てずに歩く癖がある。
(3)亡霊のような雰囲気がある。
以上3点を鑑みるに、亡霊のような雰囲気をまとった人間が足音も立てず背後に忍び寄って急に話しかけるわけだから、そりゃあ人が驚くのも無理からぬこと。
だとすれば、これと真逆のことをしながら話しかければ立ちどころに問題解決、互いにハピネスを手にしてストレスフリーな人生を謳歌できるというわけだ。
まず相手の死角から話しかけてしまう癖だが、「死角」の逆は「視界」である。視界に入ればいいのだ。がっつり相手の視界に入るためには正面がよかろう。正面から話しかければ驚かれることはまずない。
次に足音を立てずに歩く癖。これの逆は足音を響かせながら歩くことだ。楽勝である。コツコツと音の鳴る革靴を履くだけで解決するではないか。ほほん、勝った。
だが最も厄介なのは亡霊のような雰囲気である。これはどうしたものか。亡霊の逆はなんだろうと考えたところ、動物ではないかと結論しました。しかも、なるべく亡霊とは正反対の動物…。これはもう闘牛で決まりです。怒り、勢い、エネルギィ! すべてにおいて亡霊とは対照的だね。やった。完璧だ。楽勝だ。これでもう人に話しかけて驚かれることはない。この解決法に「人生楽勝メソッド」と名付けよう。
後日、同じ相手に話しかけようとした私は「人生楽勝メソッド」を思い出して実践することにした。
闘牛みたいに前のめりの姿勢で革靴をガツガツ鳴らしながら真正面から突進した。
なるべく闘牛みたいに血走った眼で、頭をぶるぶる振り、より足音が出るようにキョンシーみたいにピョンピョン跳びながら突進、真正面から突進。
第一声に「ねぇ、そういえば…」と言うつもりだったが、闘牛の役作りをし過ぎたせいで、思わず心にもないことを口走ってしまいました。
「ぶち殺す!」
相手は「ぎゃあ」と叫んで逃げ出し、二度と私の前に姿を見せなかった。ショックだったが、原因は分かっている。
そんなわけで本日は『クリミナル 2人の記憶を持つ男』でーす。
◆90年代風のアクション映画す◆
手抜きプロ―モーションとB級丸出しパッケージのお陰でひそやかに公開され、しめやかにビデオ屋の棚に直行してしまった不憫な作品である。日本配給はKADOKAWAですか(やっぱダメだな、ココ)。これほどのオールスター映画の1本も売れないとなるといよいよKADOKAWAは潰れた方がいい会社なのかもしれません。
この映画のキャストはたまげたで。
主演のケビン・こなすーを筆頭に、暖簾かき分けおじさんことゲイリー・オールドマン、出稼ぎ缶コーヒーおじさんことトミー・リー・ジョーンズなど、洋画劇場を見て育った人民を「おっほー」もしくは「ひやぁぁぁ」と鳴かせる豪華ロートル勢!
脇を支えるのは『デッドプール』(16年)のライアン・レイノルズと『ワンダーウーマン』(17年)のガル・ガドット。
さらに、ハリウッドメジャーには滅多に出てこないマイケル・ピットと、近年ぼちぼちの活躍を見せるアリス・イヴに加え、わたくしの好きなアンチュ・トラウェも顔を覗かせています。うれし。
新旧入り混じる豪華俳優陣。
高まるわー。何といってもここ10年端役が目立ち始めたケビン・こなすーの主演作にゲイリー・オールドマン(以下暖簾)とトミー・リー・ジョーンズ(以下BOSS)が「こなすーの映画なら出たるがな」と出演に応じてくれたことが嬉しいわー。これが90年代を共に駆け抜けたスターたちの絆だとでも言うのかぁー。
そういえば、こなすーは『ラストミッション』(14年)というマックG監督作でも主演を飾っていた。この映画は意図的に90年代アクション風に撮られた懐古趣味まるだし映画である。CIAエージェントのこなすーが娘を守ったりパリの街並みをしかめっ面でサイクリングする…といったどうしようもない内容なのだが、娘を自転車の前輪に立たせて二人乗りするシーンが『明日に向って撃て!』(69年)のポール・ニューマンとキャサリン・ロスへと重ねられていて。デジタル撮影でテッカテカに輝いた映像だが、内容的には映画史の記憶をどんどん遡っていく…という不思議な映画なのである。
そして今回の『クリミナル』でも、こなすー、暖簾、BOSSのジジイ3人がスクリーンに「懐古趣味」を塗りたくっております。つまりほぼ90年代アクションす。
物語はテロ組織を裏切ったハッカー(マイケル・ピット)から核ミサイルの遠隔操作システムを買い取ろうとしたCIAエージェントのライアン・レイノルズがテロ組織の追手に殺害されるシーンに始まる。ハッカーの居場所を知っているのは死んだレイノルズだけ。そして遠隔操作システムがテロ組織の手に渡ると合衆国にミサイルをぶっ込まれてどえらいことになる、というのだ。
パニックを起こしたCIA支局長の暖簾は記憶の移植実験をおこなっているBOSS博士の協力を仰ぎ、死んだレイノルズの記憶を死刑囚のこなすーに移植してハッカーの居場所を聞き出そうとした。だが手術後に目覚めたこなすーはとても反抗的な態度を取り、まるで手が付けられません。なんといっても見境なく人を殺めてきた死刑囚なのですからね。だが、やがてレイノルズの記憶がフラッシュバックするようになったこなすーは、彼の妻ガル・ガドットとの交流を通じて善人と化していく。
果たしてCIAと結託したこなすーはテロ組織に先んじてハッカーを見つけシステムを奪取することができるのだろうか、できないのだろうか、どうなんだろうか、できなかったらイヤだな…といった意味内容の映画である。わかった?
今度のこなすーは凶悪な死刑囚!
◆こなすーの人権、だいじ◆
この映画の見所、それは何といってもアカの他人(レイノルズ)の記憶を埋め込まれたこなすーが「頭が痛い、頭が痛い」と言いながら人格分裂に苦しむ芝居ザッツオールである。
『マン・オブ・スティール』(13年)では竜巻に飛ばされて死に、『ラストミッション』ではしかめっ面で自転車を漕ぎ、『ドリーム』(16年)ではバールで看板を叩き壊し、『モリーズ・ゲーム』(17年)では娘の胸の中でめそめそ泣いたこなすー。
そんなこなすーが遂に頭を痛がるのだ!
さて、観ない理由がどこにあるのでしょう。名優ケビン・こなすーが頭を痛がる芝居など誰だって見たいに決まってる。俺だって見たいし、もし俺に子供ができたらその子も見たがるに決まってる。きっと孫もな。
本作のこなすーは「頭痛がり映画の歴史」を塗り替えうるほど、ひねもす頭を痛がっています。もともと凶悪な死刑囚のうえに頭痛によるストレスも相まってこなすー史上最高の荒れた芝居を堪能できますぞ。もっとも、いくら悪人役とはいえ護送車のなかでCIA職員を惨たらしく殺害して脱走する場面には若干引いてしまったが(しかも一般人の車とも事故を起こして死なせている)。
頭痛に苦しむこなすーの荒んだ生活が始まる。スタバでは列の割り込みに抗議してきた客を殴りつけ、路上では「車をもらうから降りろ」といって抗議してきた若者3人を殴りつけた。どうやら抗議する者は皆殴るスタイルでやっているらしい。
そして遂に人とは思えない残酷非道の振舞いに出る…。
タコス屋で隣の客からタコスを巻き上げてうまうま食べたのだ!
コーラも勝手に飲んだ!
血も涙もないワルの身振りに戦慄(ただし頭痛薬をくれるBOSSにはよく懐く)。
暖簾を襲うこなすー。あたま痛すぎて短気起こすー。
だがレイノルズの記憶が蘇るにしたがって優しみや思いやりの感情に目覚め始めたこなすーは、当初警戒されていたレイノルズの妻子とも打ち解け、テロ組織の核ミサイル攻撃を阻止するべく立ち上がった。
ここで思い出されるのは『パーフェクト・ワールド』(93年)である。脱獄囚のこなすーが人質に取った少年との逃避行を通じて人間らしさを取り戻していくクリント・イーストウッド監督/出演作(いささか感傷的なのであまり好きな映画ではないのだけど)。
翻って本作のこなすーは「記憶の移植」というめちゃめちゃな手術によって無理やり人間性を獲得させられてしまい、本来の「凶悪犯としての自我」と「埋め込まれたレイノルズの記憶」との狭間で肉体的にも精神的にも苦悩を強いられるキャラクターだ。ガル・ガドットとその娘に対する愛情もレイノルズの記憶から発せられたものなので、いわばこなすーはレイノルズの記憶に基づいて行動し、やがてその記憶に自我を侵食されるただの人形に過ぎないのである。
この悲しき男をケビン・こなすーが哀愁全開で演じている。度重なるフラッシュバックによって少しずつ人格が上書きされていくさまを段階的に表現していて素敵だと思った。ムスッとした顔でハゲ散らかした頭を晒しただけの『ウォーターワールド』(95年)の頃に比べて格段に深みを増した芝居に注目!
また、移植手術中に問題が発生して「今すぐ中止しないとこなすーが死んじゃう」と言ったBOSSに、暖簾は「もともと死ぬべき人間なんだ。気にせず続けろ!」と非情な命令を下す。こなすーの人権が踏みにじられました。実際、暖簾にとってはハッカーの居場所を聞き出すための捨て駒に過ぎないのだ。
突き詰めて考えていくと本作は死刑囚の人権問題まで辿り着きそうだし、強制的に患者の人格を変える記憶移植は『カッコーの巣の上で』(75年)でも扱われたロボトミー手術を彷彿させる。
果たして『Criminal(犯罪者)』という原題はこすなーだけを指したものなのだろうか?
ちゃんと「人殺し」に見えるこなすー。見事な芝居こなすー!
◆ケビン・こなすーは過去にいる◆
物語後半ではハッカーの身柄をめぐってCIAとテロ組織が熾烈な争いを繰り広げ、渦中のこなすーはガル親子がテロリストに誘拐されたと知って「死なすー」と怒り心頭。
そんなこなすーに襲い掛かるのが敵の大将の右腕アンチュ・トラウェ!
この女優は、こなすーが竜巻に巻き込まれて死亡する爆笑映画『マン・オブ・スティール』でゾッド将軍の忠実な副官としてスーパーマンを苦しめた女優である。何かと黒幕の右腕ばかり演じることでお馴染みのドイツが生んだクールビューティなんだ。
トラウェ姐さんはCIA職員アリス・イヴをハイウェイでの銃撃戦で射殺し、こなすーにミサイル遠隔操作システムを託したハッカーまで射殺、遂にはこなすーの心臓を撃ち抜くことにも成功した射殺の女神である。
強いぞトラウェー。美しいぞトラウェー。
でもこなすーは何故かピンピンしてました。
心臓撃たれたっつーのに。
サボテンの鉢をトラウェ姐さんの後頭部に叩きつけたこなすーは、彼女が死んでもなお頭蓋骨がグチャグチャのドロドロになるまで執拗に殴り続けて「ヤァァァァ!」と叫びます。僕は悲しい気持ちがしました。好きな俳優…それも女優が頭蓋グチャドロにされたときの悲しみがわかるかい。そのうえサボテンの棘までついちゃってるしさぁ…、いっぱい。
残忍な手口で殺されたアンチュ・トラウェ。
心臓を撃たれてもメチャ元気なこなすーは、ガル親子を人質に取って高飛びしようとする黒幕を追ってトラックを飛ばし「やめなさい、やめなさい」と言ってくるパトカー2~3台を(味方であるにも関わらず)爆破炎上させて空港へと急ぐ。
ガル親子を救うためにナンボほどモブキャラを殺すのか。
空港に着いたこなすーは尖ったハンマー1本でマシンガンを所持したテロリストたちを皆殺しにしていくが、油断したところに黒幕の銃弾を胸に2発受けて「イタッ」と言った。
もちろん生きてる。
こなすーほどの男にもなれば何発撃たれても「イタッ」で済むのだ。
だが黒幕はミサイル遠隔システムを奪ってまんまと飛行機で逃げおおせ、機内で悠々とミサイルのスイッチを押してしまった。目標はこなすーたちがいる空港。こりゃもうダメだ。一巻の終わりだ。
遅れて現場に駆け付けた暖簾は「何てことしてくれたんだ、貴ッ様ァー!」とこなすーの胸倉を掴んだが、こなすーはまるで『フィールド・オブ・ドリームス』(89年)のポスターみたいな笑顔を浮かべてこう呟いた。
「心配するなよ。あの遠隔システムはハッカーに細工させてある。撃った奴に向かって発射するようにな」
上空で花火が打ちあがった。ミサイルという名の花火が。
いい仕事こなすぅぅぅぅ。
あーおもしろかった。アホみたいな映画だったが大満足だ(この記事、楽しんでるの俺だけだろうな)。
記憶移植手術やミサイル遠隔システムなどさまざまなテクノロジーが登場する一方で、シナリオはあまりに古臭くてご都合主義に満ちている。そして脇にはBOSSと暖簾の顔。
だが目新しさと古めかしさのハイブリッド映画でこそケビン・こなすーは輝くのだ。
時代に適応した(ことでつまらなくなった)リーアム・ニーソンの昨今の主演作とは対照的に、こなすーは80~90年代の雰囲気を未だに引きずっている役者だ。
例えば『RED』(10年)や『エクスペンダブルズ』(10年)のように「遺物であること」を自己批評するシニカルさを設けることで往年のスターの賞味期限を先延ばしにする方法がハリウッド神話を辛うじて保っているが、その中にあってケビン・こなすーは自らが遺物であることをあっさり認め、無精髭の中肉中背で平然とカメラの前に立ってみせる。「現代映画」のカメラの前に。
『パーフェクト・ワールド』のように善と悪を越境し、『ターミネーター』(84年)さながら不死身の男を演じるケビン・こなすーは、今もまだ過去にいる。
大いにハゲ散らかした『ウォーターワールド』のこなすー(大赤字を叩き出した)。