シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?

映画ブログ界隈に咲く一輪の花…キュアシネマ!~ハートキャッチプリキュアにハートキャッチされた男によるハートキャッチプリキュア讃~


2010年。松本理恵監督。アニメーション作品。

プリキュアが一生けんめい戦う。


も~、前置きムズすぎるって~~。
毎回毎回よーッ!
こないだも、がんばって前置き書いたのよ。「眼鏡屋のビューティ黒縁」っていう前置き。ほいだら2400字にも膨らんで、もう前置きっていうか…ちょっとした1本の随筆やん、と思って、結局ボツよ。いや、もったいないから近日アップするけどな。『眼鏡屋のビューティ黒縁』っていう題で。
なんなのよ、も~~。
書いたら書いたで文字数膨らんでサクに怒られるし、書かなんだら書かなんだで「薄っす!」って言われるし。おれはどうしたら…アッ! そういえば今日、散髪しに行くねんけど、初めていくお店で、女性1人で営んでるらしいのよ。最近見つけたお店でな。家から徒歩25歩(約10秒)の所にあるから、行ってみよ、おもて。
でもな~。おれの散髪史上、過去、女性のカリスマに切られてええ感じになった試しがないのよね。女性カリスマは女性客の髪を切ることが多いからか、やたら前髪とか切り揃えられちゃうのよ。ほぼパッツン。あと重いし。ぜんぜん梳いてくれへんから「毛量いっしょやん。これアフター? ビフォーと変わらへんぐらいモヘアやん」ってくらい重い。
モヘア…もっさりヘアーの略。
過去に一度クレームをつけたこともあるけど、なぜか全然伝わらず、暖簾に腕押しや。

ふかづめ「前髪がまことちゃんみたいになってるので、もう少し…なんやっけ…シャギーっていうの? チャミーやっけ? チャミー入れてください」

カリスマ「まことちゃん?」

ふかづめ「楳図かずおの『まことちゃん』」

カリスマ「楳図かずおって誰ですか」

ふかづめ「ほら、『漂流教室』とか『洗礼』の…」

カリスマ「へえ。有名人ですか?」

ふかづめ「赤白ボーダーを着こなす漫画家ですよ。グワシのまことちゃんですやん」

カリスマ「グワシ」

ふかづめ「もうええわい」

カリスマ「で、シャギー入れればいいんですか?」

ふかづめ「あっ。シャギー入れてください」

5分後…

カリスマ「どうですか」

ふかづめ「まだまだ全然まことちゃんですね」

カリスマ「グワシでしたっけ?」

ふかづめ「学習すな。もっとチャギー入れてください」

カリスマ「シャギーね」

ふかづめ「あっ。シャギーね」

…と、このような恥ずかしいやり取りをした過去があるから不安なんです。どうか、シャギー多めで頼む。
おねがいおねがい。

そんなわけで本日は『映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』をお送りするわ。
プリキュアデビューです!!

 

◆『ハートキャッチプリキュア!』にハートキャッチされた男がプリキュア喋る

 2004年に始まったプリキュアも、今年で20周年らしいわ。
Z世代の子たちと話してても「見てましたよ。『Yes!プリキュア5GoGo!』世代です!」とか「東日本大震災で受けた心の傷を『スイートプリキュア♪』は癒してくれたんだ…」などと、めいめいのプリキュア愛をキュアバージンたるオレに向かって撃ち放ってくるのよ、あの子ら。
でも、オレ自身は『おジャ魔女どれみ』(99-03年)にどっぷりハマってた世代だから、プリキュアにはまったく触れてないのよねー。
あまつさえ4クール(1年間)かけて描かれるプリキュアシリーズも今年で20作目。今さらキュア門外漢が見始めたところでキリがない、追いつけない、見る気も起きん。
ほな、あえて見てみよっ。
自称キュア門外漢でありながらキュア天邪鬼でもあるオレは、無意識を意識してプリキュアを見たわけです。「今さら見ても遅い時期に“それでもあえて見た”人間にしか見えない景色があるんだろ?」とかワケわからんこと心で思いながら。

オレが見たのは2010年に放送されていたシリーズ7作目の『ハートキャッチプリキュア!』(全49話)。
通称ハトプリ。
企画やキャラクターデザインを手掛けたのが『おジャ魔女どれみ』シリーズと同じ関弘美馬越嘉彦だったからスッと入っていけたし、なにより馬越デザインが大好きなのよね~。

OP曲「Alright!ハートキャッチプリキュア!」。中身はプリキュアでもガワはおジャ魔女な作画(懐かしい)。

途方もなくすばらしい出来だった。
実際に鑑賞するまでは「徹頭徹尾『かわいい』でデコりまくって小さい子どもの嗜好と大きなお友達の性癖をピンポ刺ししたお子様向けアニメ」と決めつけていたが、やっぱり“見て、触れる”って大事よね。「しょせん子供向けアニメ」と思っていたのがとんでもない先入観だったことに気づいたわ。
子供向けどころか、様式と制約のなかで遊び、描かれ、紡がれる“大人のアニメ”じゃねーかよ。
深く反省しました。己を恥じもしようかな、とも思ったけど、それはやめといた。
『ハートキャッチプリキュア!』はおれの薄っすい生涯アニメランキングTOP20に食い込ませよ、って最近考えてる。
ちょっと歌お。

Change! Change! ハートキャッチ!

Chance! Chance! ハートキャッチ!

Dance! Dance!   ハートキャッチ!

ハートキャッチ☆プリキュア(はい)

ドンテテドテテ ドンテテテドテテ(間奏)♪

ED曲「ハートキャッチ☆パラダイス」。2人で展開するヘンテコダンスが呼び物。

プリキュアといえば3DCGによるダンスシーンで構成されたエンディング曲が革新的だったよね。これはキュア門外漢のオレでも知ってるわ。
この曲は「ハートキャッチ☆パラダイス」っていうハトプリの前期ED曲なんだけど、0分18秒のとこで披露する花咲つぼみ(右の赤髪娘)のモンキーダンスが呼び物なのよ~。普段(本編)なら絶対こんなことしない、照れ屋で引っ込み思案なキャラだけど、EDダンスではキャラクター性の制約から解放されるため、“あの花咲つぼみがモンキーダンスをする”みたいな変なギャップが生じるわけ。
そのギャップがチャームなわけ!
あ~、もう映画評とかどうでもいいから、今からハトプリについて語るターンだけが延々おれに回ってこないかなぁ、なんてことを書いた短冊をクリスマスツリーに括ってキュアフラワーに会いたいわ~。
キュアフラワーっていうのは、主人公である花咲つぼみの祖母・花咲薫子の正体ね。50年前からたった一人で戦ってきた伝説のプリキュアなんだけど…うーん! もうええか!

 さて本作。鬱陶しいぐらいタイトルが長い『映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』は、ハトプリの放送期間中に公開されたレギュラー単独作品である。
…と言っても、おれみたいなキュア門外漢にはワケわからんよな。劇場版プリキュアのシステムってスゲェややこしいのよ。
まず新シリーズのTV放送が2月に開始する。
そして3月には、放送開始したばかりの現行プリキュアが歴代プリキュア(先輩たち)とクロスオーバーする“オールスターズ映画”が公開される。
さらに10月には、現行プリキュアだけの“単独映画”が公開されるんだとよ。
つまりプリキュア映画は“オールスターズ作品”と“単独作品”で年2回公開されるわけだ(例外あり)。MCUで言うところの『アイアンマン』(08年)『マイティ・ソー』(11年)が単独作品だとすれば『アベンジャーズ』(12年)がオールスターズ作品に当たるって寸法だな。

そして今回オレが見たのがハトプリの単独作品。えりかの母がファッションショーを行うために皆で向かったフランス・パリで、つぼみ達は狼男の少年オリヴィエと出会う…。
…と言っても何のこっちゃのコン太郎だよな。「えりか」とか「つぼみ」とか、知らない固有名詞を連呼されるのって心がツラいよね。
それじゃ特別に説明しちゃお!


【プリキュアってな~に?】

オレかて知らんわ。
なんでもかんでもすぐ聞くな! 知るかッ!


【ハートキャッチプリキュア!のお話】
 希望ヶ花市に引っ越してきた花屋の娘・14歳の花咲つぼみは、ある日、この世の希望の象徴である「こころの大樹」を守っていたプリキュア・キュアムーンライトが、悪の組織「砂漠の使徒」の手先・ダークプリキュアに敗北する夢を見る。
「不思議な夢だったナ!」
うるせえ。
翌日、転校先の中学で知り合った来海えりかを砂漠の使徒から守るべく、つぼみは天から降ってきた妖精シプレの力を借りてプリキュアとなり、キュアブロッサムへと変身。
その後、無二の親友となった来海えりかキュアマリン)、生徒会長の明堂院いつきキュアサンシャイン)も仲間に加わり、しつこく襲来する砂漠の使徒を撃退しながらも楽しい学園生活を送っていた。
そんなとき、同じ学校の高等部に在籍する月影ゆりの正体が、以前つぼみが夢のなかで見たプリキュアキュアムーンライトだったことが判明。だが、かつてゆりはダークプリキュアに敗れたことでプリキュアに変身できない身体になっていた。
砂漠の使徒は、世界中を砂漠に変えようとする悪の中小企業。変身できないゆりを早くどうにかしないと世界中が砂漠になって、みんなの喉がカラカラになってしまう。喉がカラカラになるだけならまだしも、身体中がパサパサになってしまう!
どうする、つぼみ、えりか、いつき!?
はよ変身せえよ、ゆり!!!
みたいな中身だ。


【登場人物紹介】

花咲つぼみ(CV.水樹奈々)

キュアブロッサムの中身。
当シリーズの主人公。ぶちぎれ口上は「私、堪忍袋の緒が切れました!」
どうやらプリキュアシリーズにおいて、主人公の「ピンク」を担当するのは元気印のちゃきちゃき娘と決まってるらしいが、当シリーズの花咲つぼみは異例のようで、心優しく品行方正でありながらも、臆病、人見知り、引っ込み思案…とリーダーシップの欠片もなく、おまけに“史上最弱のプリキュア”とも称されている。
じつに絶妙な女だ。
絶妙なキャラクター造形だと思いますよ。
たまにいるじゃんね。戦闘では役に立たないけど、べつの才能で主人公の矜持を見せつけるような主人公キャラが。誰よりも心が優しいだとか、圧倒的な人間力で敵も仲間も虜にする…みたいな「弱いけど〇〇」が担保された主人公像ね。
翻って、花咲つぼみのキャラ造形の妙は、“べつに史上最弱と謗られるほど弱くもなければ、とりわけ「弱いけど〇〇」が担保されるほど人間力に秀でてるわけでもない”って点だと思う。
本当に平均的な子やからね。
ごくフツーに心優しめの女の子ってだけ。

堪忍袋の緒が切れたときだけ強くなる。

この、主人公なのに普通“風”(でもなんやかんやで特別な才能がある)ではなく、本当の本当にただの普通を貫いたところが、かえって斬新に映ったのよ。
おまえ「ってことは地味ってこと?」
それは違うんだな!
“純普通の主人公”を目立たせるにはまわりのキャラクターを個性的にすればいい。
つぼみの仲間が尖れば尖るほど、半ば自動的につぼみの“普通さ”が際立つ(異化する)という逆説。これは当シリーズに通底するモチーフの“花”にも符号する。華道やん。Aを輝かせたいなら、執拗にAを彩るのではなく、その横に生けたBのバランスを変えたらええんですやん。
…なんて、口では簡単に言えちまうが、制作側からすりゃあ、これは大博打だったろう。もしこの目論見が外れたら大惨事やからな。主人公が不人気…なんてことになればシリーズ終了まであったかもしれないし。
だからこそ、つぼみ役には水樹奈々という絶対安牌の防波堤が築かれたのだろう。
そんなつぼみ、幼少期を祖母に育てられた影響か、「堪忍袋の緒が切れました」などとイマドキの中学生にしては古風な物言いが特徴。敵の攻撃を無効化した際「その手は桑名の焼き蛤です!」とも言っている。
テレビの前のキッズをなんら鑑みない言語感覚の持ち主。
よっしゃ、ええ根性しとる。


スーパーデカポニーテールが活発に跳ねるさま。

 

来海えりか(CV.水沢史絵)

キュアマリンの中身。
つぼみのパートナー。ぶちぎれ口上は「海より広いあたしの心も、ここらが我慢の限界よ!」
つぼみに続いて異例のキャラ造形らしい。
まず、えりかのイメージカラーは青。歴代の「青キュア」は知性を司るクールビューティと相場が決まってるらしく、現にさまざまなアニメ・マンガ・ゲームでも、青のイメージカラーを持ったキャラはクール担当…というのは万国共通の認識であろうが、その常識をぶち壊したのが来海えりか。
天真爛漫、自由奔放、豪放磊落を絵に描いたような自由人、否…珍獣の子でした。

マリンの自由っぷりを物語る有名なエピソードが『映画 プリキュアオールスターズNewStage2 こころのともだち』(13年) のポスタービジュアルだ。
歴代のプリキュアが凛々しく横顔をキメる中、ただひとりマリンだけがカメラ目線でニッコリしとる。

こっち見ないよ?

なんやこいつ。なんてメタな子。おまえ…第四の壁見えとんのか?
ウインクしながら「映画ヨロシクね~」やないのよ。みんなが毅然とした態度で同じ方向見てんのに「前売り券買ってくれてありがと~」やないのよ。ここはみんなでポーズ揃えてポスタービジュアル決めるわよ!って話し合ったのに「あたしも頑張っちゃうから、ちゃんと見てよね~」やないのよ。
そんなにもニッコリとして!!!

まさにこういう人間なのよ、マリンって。
いみじくもポスタービジュアルの構図のとおり“右へ倣え”ができない子。

えりかは思ったことをすぐ口にするから、無意識に友だちを傷つけたり、人を振り回したりもするけれど、そのつど反省しては素直に謝る。思ったことをすぐ口にする性分だからこそ、謝るときは謝れる。
えりかには同調も強調も必要ない。
“自分の世界”を持ってる人間は最高だ。

圧倒的オンリーワン。

そんなキュアマリン、「全プリキュア大投票」の人気プリキュアランキングでは初代『ふたりはプリキュア』(04年) のキュアブラックとキュアホワイトに続いて3位の座を射止めてもいる。この手のランキングって初代至上主義みたいなとこあるから実質1位よね。はい。
趣味は服飾で、半ば強引につぼみを誘って設立した「ファッション部」の部長として活動。将来の夢はファッションデザイナー。
母親が元カリスマモデルで、姉のももかも現役高校生モデルであり、自身だけがモデルになれなかったことに長らく劣等感を抱いていたが、つぼみと出会ったことでファッションデザインの道に進むことを決意。
型を作りながらも型に嵌ってはいけない服飾系の道は、“型破り”なえりかにはピッタシの夢だとおもう!!!


片頭痛みたいにこめかみをクリクリする仕草と、頬を押さえて喜ぶ仕草。

 

明堂院いつき(CV.桑島法子)

キュアサンシャインの中身。
3人目のプリキュア。決め台詞は「その心の闇、わたしの光で照らしてみせる!」
おれの推しキュアや。
初の変身…つまり仲間加入は第23話(全49話)とけっこう遅く、それまではブロッサムとマリンだけで敵と戦っていたので、焦らしに焦らされた3人目の加入は多幸感ひとしお。いつきが変身したとき、深夜に深酒しながら部屋のなかで「だっ!!!」つって絶叫したからね。大人やのに。

明堂院いつきは文武両道の生徒会長。
一人称が「ボク」だから、てっきり男の子と勘違いしたつぼみが初恋を捧げてしまうほどボーイッシュな見た目で、学園内にも女子ファンが多い。いわゆるイケメン女子。実家は「明堂院流古武道」の道場で、病弱な兄に代わって明堂院流の跡継ぎになるべく日々鍛錬をこなしている。
そんないつきだが、実はかわいい服やぬいぐるみが大好きで、心は誰よりも女の子。
本当の自分を押し殺したまま、「生徒会長」として、なにより「明堂院流の跡継ぎ」として、質実剛健な優等生であらねばならない…と自らを抑圧してきた。
そんな折、砂漠の使徒から愛する兄を守るため、キュアサンシャインへと変身する。大輪のヒマワリを背景とした変身バンクがすばらしいのよ~。
変身アイテムの“ココロパフューム”を振りかけると、茶髪のショートカットだったいつきの髪が金髪に染まり、ガールズヘアのシンボルとも言えるツインテールになる。
ほんでこの表情。

ワタシだって可愛くなれる!!

“ボク”から“ワタシ”への変身。
ボクだって年頃の女の子だ。かわいいものが好き。本当はオシャレだってしたい! そんなルサンチマンを解放するかのような変身シーン…否、自己実現に「いつきィイイイイイイ!!!」なのよ。
「おめでとぉおおおお~! かわいいよぉおおおお~!」なのよ。
「サンシャインだよぉ~!」なのよ。

ほいで敵との戦闘では、めちゃくそ強ぇの。プリキュアに変身すれば超人になれるけど、そもそも変身前から明堂院流古武道で鍛えられた素地があるから、生身の時点で強いわけ。ずる。生身でも十分強いいつきがプリキュアになったんだから攻撃力100倍よ。
でも、いつきは100倍になった力を、攻撃ではなく防御に振っちゃうの。
“敵を倒す”ことよりも“仲間を守る”ことに特化したプリキュアなのよ。
この意味、わかるけ。
その後のストーリーでも、戦闘場面のサンシャインは、ヒマワリを模した盾「サンフラワー・イージス」で仲間を守る鉄壁のキーパー、完封のディフェンダーとしての守備役を確立していく。
守る。
そうだ。それがいつきの生き方だった。
秩序を守る生徒会長でありながら、本当はかわいいものが好きなのに、生徒会長のイメージを守るために自らを律してきた意思の強さ。明堂院流の看板を守ろうとしたのも、病弱な兄を守るため。ひいては家を守るため。

ユアーマイサンシャイン、マイオンリーサンシャイン。

幼少期…。病弱な兄は、毎朝いつきを庭にさそい、お日様に向かって「う~ん」と笑顔で伸びをするのが日課だった。いつも暗い部屋で病床に伏せていた兄を照らし、見守り、元気を与えていたのがお日様の光だったのだ。それに気づいたいつきは、兄の笑顔を守り続ける光でありたいと願った。そんな太陽でありたいと思った。
だから明堂院流の看板を守ろうと誓った。
だからプリキュアの力を“仲間を守る力”に使おうと決めた。
だから、いつきのイメージフラワーはヒマワリ
花言葉は「光輝」
すべてを照らし、守る、サンシャイン。
キュアサンシャイン!!!


変身道具の香水をフレアバーテンディングする演出はトム・クルーズ主演の『カクテル』(88年) から。

 

月影ゆり(CV.久川綾)

キュアムーンライトの中身。
4人目のプリキュア。決め台詞は「全ての心が満ちるまで、わたしは戦い続ける!」
第1話から“つぼみが見た夢の中のよくわかんねぇ人物”として登場しながら、第33話でようやく正式加入した4人目のプリキュアである。
口数少なく、感情を表に出さない冷淡な性格。だが、その“静けさ”の裏には彼女が背負った深き業があった。
かつて、愛する父親が謎の失踪を遂げ、その失意の直後にプリキュアとなったゆりは、キュアムーンライトとしてたったひとりで砂漠の使徒と戦っていた。しかし、砂漠の使徒を束ねるサバーク博士が差し向けた人造人間・ダークプリキュアの前に敗れ、一命を取りとめる代償として最愛の相棒だった妖精コロンを死なせてしまう。
爾来、プリキュアに変身できない状態のまま高校生となった月影ゆりは、父の失踪とコロンを死なせてしまった過去に引きずられながら、えりかの姉・ももかを唯一の友人に持ち、孤独な高校生活を送っていた。つぼみ、えりか、いつきと出会ってからは、徐々に苛烈化する戦闘の悩みを彼女たちから相談されても「自分で考えなさい」などと塩対応していたが、襲いくるダークプリキュアから3人を守るためキュアムーンライトに自力で変身する。
シリーズ初の高校生プリキュアとして、当時プリキュア界隈に大きな衝撃をもたらしたというキュアムーンライト。そんなムーンライトは当シリーズのキーパーソンでもあるんだよな。
一言でいえば『魔法少女まどか☆マギカ』のほむほむ。
主人公たちがストーリー終盤ではじめて知るような“物語の核心(ネタバレ)”を最初から知っていて、それゆえに遥か以前から主人公たちの知らないところでひとり孤独に戦い続けてきた“先を行く者”ね。
物語の先を行く存在。悲しい女なのよ…。

気丈に振舞いながらも、誰よりも暗い過去を背負い、何よりも深い悲しみをムーンライトは知っている。

いやぁ…。ムーンライトまわりの話は重い…というか大人すぎるよねぇ。
だって、よく考えてみ。妖精を死なせてしまうって設定も、フツーありえへんで? 企画書もってっても一撃でボツやろ。プリキュアシリーズに登場する妖精というのは子供人気が高く、グッズ化もしやすいマスコットキャラ。その妖精を殺すって…陰性やん(妖精=陽性の逆ね。ハイ)
打倒ムーンライトに固執する人造生命体・ダークプリキュアとの因縁も実に深かったし、おれはダークプリキュアの最期にも涙をこぼしちゃったな。“人造人間の悲しみ”というテーマを通して実存主義を描きあげた、子供向けとは思えないディープなドラマが展開されるの。
…というか物語後半は、ほぼほぼサバーク博士&ダークプリキュアとの関係性に焦点が当てられ、そんなムーンライトの物語にブロッサムらが添えられる形となるので、いわばムーンライトが裏主人公なのよね。

ある事情からムーンライトを目の敵にする最強の刺客・ダークプリキュア(CVは『名探偵コナン』における名探偵コナン役で知られる高山みなみ)。

そんなムーンライト。大きなお友達が勝手に予想してる「全プリキュア最強ランキング」では、初代の主人公・キュアブラックに続いて2位(1位という説も)によく挙がる。
たしかにムーンライトってバカみたいに強いけど、この手のランキングって不毛だよなーってつくづく思うわ。
AとBが戦ったらどっちが勝つかなんて、その時々の状況や環境によって変わるし、特定の条件が揃えば精神論で強くなったり弱くなったりもするし、もっと言うなら勝負事の結末は“実力”よりも“物語論”によって予め決定されてるから「AはBに勝ったがCに負けた。ゆえにBではCに勝てない」みたいなバロメーターにはならんのよ。
何が言いたいかというと、ムーンライトは“絶対的”に強い。
他のプリキュアと相対化されるべき強さではないし、それはきっと他のプリキュアたちにも言えることだと思う。

唯一「妖精をもたない」ゆりの変身は、妖精の力を借りて各パーツごとに華やかに変身していく3人とは異なり、寂しいまでにスタイリッシュ。ゆえに美しい。それが「侘び寂び」なのかと言われれば「侘び寂び」なのかもしれませんよ。

◆プリキュア・ハートキャッチ・オーケストラという名の槍ヶ岳◆

 さて、ようやく映画の話ができるターンが巡ってきたが、もうオレはヘロヘロだ。
でも、がんばろ。

はい。本作の舞台はパリ。
ハトプリは「花」をモチーフにしたシリーズなので「花の都」たるパリが劇場版の舞台に選ばれたのは必然といえます。
そんなパリでつぼみと出会ったのが狼男の少年オリヴィエ。育ての親である「砂漠の使徒」の幹部・サラマンダー男爵から力の源であるクリスタルを奪って逃亡していたところをつぼみ達に保護される…。
映画オリジナルキャラクターを演じたゲスト声優の裨益もすさまじく。オリヴィエ役の大谷育江(『ポケッツモンスツー』のピカチュウや『ONE PIECE』のチョッパー役)と、サラマンダー男爵を演じた藤原啓治(『クレヨンしんちゃん』の野原ひろしや『鋼の錬金術師』のマース・ヒューズ役)が作品に格を与えとったわ。しらんけど。

 普通にめちゃくちゃ高水準の作品なんだけどさ、おれは思うのよ。
もはや敵とか出てこなくていいんじゃないかなって。
ただただつぼみ達がパリ観光する日常風景を見ていたいから、サラマンダー男爵とか出てくんな。
敵との戦闘はTVシリーズで毎話描かれている。Aパートで何気ない日常を描いて、CM跨いだあとのBパートでは敵と戦闘するっていうのがお決まりのフォーマットなんだけど、Aパートがとてもドラマチックだったりすると「でもこのあと敵出てくんのか~。出てこんでええから、そのぶん日常パートを掘り下げてぇや~」って思っちゃうのよ。これはおれが『おジャ魔女』のビッグファンだからでしょうか。
『おジャ魔女どれみ』には“敵”とか“戦う”という概念がない。どれみたちは魔法の力で身近な人々の悩みを解決してるので、そのぶんドラマを深く描き込めたんだけど、『プリキュア』は派手で可憐なバトルシーンに重きを置いてるから、毎話、変身バンクや必殺技バンクだけで3~5分使ったり、戦闘シーンの技斗や作画がすさまじかったりと、なにかと視覚優位なのよね。
まあ、もともと『おジャ魔女』が魔法少女ものに対して『プリキュア』は変身ヒーローものだから比べるべくもないんだけど。

だからさ、『プリキュア』の劇場版ではあえて敵を出さずに日常パートだけを掘り下げて、逆に『おジャ魔女』の劇場版では敵を出して派手に戦わせたらよかったのとちがいますか。
だめでしょうか。ギャップ戦略というか、劇場版でしか見れない新たな一面みたいな。それでこその劇場版でしょ。
…で、なんの話だった?

ハトプリの4人をじっくり見つめる時間を設けよ♪

本作の見所は大体この3つですよ。

(1)オリヴィエとの交流
(2)ムーンライトVSサラマンダー男爵
(3)火竜となったサラマンダーとの対決

おれはオリヴィエとの交流パートをいちばん楽しんだよな~。
つぼみ、えりか、いつき、ゆりとの1対1の交流を通じてオリヴィエの過去や心情が少しずつ明かされていく…という実に能率のいいテリングなのだが、キュアサンシャインを推しキュアに挙げることに躊躇のないオレなんかは、いつきの見せ場が多くて嬉しかったのよね。
TVシリーズでは徐々に3人の陰に隠れちゃうのよ、いつきって。
もともと縁の下の力持ちってタイプだけど…にしても縁の下すぎるやろって。まあ競合相手がキュア強豪だから仕方ないんだけどさ。だって、ほかの3人は史上最弱という衝撃を売りにした主人公ブロッサム青キュアの概念を覆し絶大な支持を得たマリン初の高校生プリキュアとして物語のキーパーソンを担ったムーンライトと、唯一無二の肩書きを持ってるもん。
サンシャインだけただただタンクって。
くそぉおおおぉおおおおぉお!!!!
だから、この劇場版では多少なりともサンシャインに光を当ててくれたのかもしれねェー!(照らす側が照らされちゃあ世話ねえが)

いつきとオリヴィエ(なごむ)。

次の見所は、ムーンライトVSサラマンダー男爵。
家路に向かうオリヴィエとゆりの前に突如現れたサラマンダー男爵からオリヴィエを守るべくムーンライトに変身するゆり!
サラマンダーは本作のボスキャラだから、プリキュアの4人…否、仮にオリヴィエを含めた5人がかりでも勝てないぐらい強いんだろうな~~って思ってたら、
ムーンライトが辛勝を収めた。
なんぼほど強いねん。
いやいや、ムーンライトよ…。
ボスと一騎打ちして辛勝を収めないよ?
たとえ収められるとしても、収めてはいけないのよ、そこは。あなたが勝っちゃうと話終わっちゃうのよ。ほんと、ムーンライトの強さって罪つくりだわね。「ほな他の3人いらんやん」ってぐらい強くあってはいけないよ? こういう時は、ほどほどにセーブして、たまにわざと負けんねや。やらしい話、負ければ負けるほど人気でんねん。視聴者が感情移入しやすいのは辛勝したキャラより惜敗したキャラやねん。
いちいち勝つなよ。
でも、だからこそムーンライトだよな。ゆりには“二度と負けられない理由”があることを、TVシリーズを見たオレは知ってます。だから強いんだよな。ゆりって奴は。
「勝つなよ」とか言ってごめんな。
法則を超え、お約束を破り、物語理論を超えてまで勝ってしまうのがムーンライトなんだよなぁ!!!

サラマンダー男爵からオリヴィエを守るムーンライト。

さて、ムーンライトとの直接対決に敗れたもののオリヴィエの狂暴化には成功したサラマンダー男爵は、火竜の姿に変身して超パワーアップする。おまけに理性を失ったオリヴィエも敵となり、ブロッサム達は絶対絶命。
ヒヤヒヤする戦闘シーンが続きます。
オリヴィエは狼男。得意技はするどい爪による引っ掻き攻撃なんだけど、原則としてプリキュアシリーズって女児向けのニチアサアニメだから流血シーンが描けないという制約があり、ゆえに戦闘描写の多くは打撃や爆発である。斬撃の表現にはセンシティブにならざるをえない。
殴られたり吹き飛ばされるのはOKでも“裂傷”するのはNGっていうね。
だからブロッサム達は、オリヴィエの引っ掻き攻撃を寸でのところで回避する。これはもうプリキュアシリーズを存続させるためにも、是が非でも回避する。「うおお、こんなもん喰ろたら絶対血ィ出るやんけ。テレビの前のお子たちが怖がって泣いてまうし、横にいるお母さんが『なんて暴力的なアニメだというのか!』ゆうてクレームの電話かけてきよる。だから絶対避けよっ♪」なのよ。

一方、火竜化したサラマンダーは「ぎゃー」なんつって、クソデカ火の玉をぼんぼん吐き散らかす。
「ぎゃー」はこっちの台詞やけどな。
サンシャインはサンフラワー・イージスで味方を火の玉から守ってたけど、サラマンダーは四方八方アトランダムに吐きよるから、たまに「ブロッサムとマリン同時に当たりそう!」ってなるのよ。「無理やん。間に合わん!」ってなるのよ。
言ってる意味わかる?
難易度あがってボール2個になったブロック崩しみたいな感じよ。たまに2個いっぺんに落ちそうになって「どないせえゆうね」ってなる瞬間あるやん。それよ。

画面奥の巨大な竜がサラマンダー。絶体絶命。

追い詰められたブロッサム達は、起死回生の「プリキュア・ハートキャッチ・オーケストラ」を繰り出した。
めちゃくちゃな技なのよ、これ。
まず4人が「スーパーシルエット」に変身します。ブロッサム達の強化形態ね。
その状態で4人が「花よ咲き誇れ!プリキュア・ハートキャッチ・オーケストラ!」と唱えることで、なぜかドデカ女神が召喚されるんだけど…
これがとびっきりデカいのよ。

アオリ構図すぎて女神さんの顔も見えへん。

デカすぎへん?

調べたら全長3000メートルらしいで。進撃の巨人の何十人分やねん。3000メートルって…槍ヶ岳とか御嶽山ぐらいあるで?
ほんで、このドデカ女神がサラマンダーをやっつけるんだけど、CGや特撮感に満ちたリッチな大技を繰り出すのかと思いきや…



まっすぐグーパン。
通称「女神パンチ」。
剛腕まかせの右ストレートっていうね。
ただの乱暴っていう。ハートキャッチ要素もオーケストラ要素もあらへん。原始からの、まっすぐな鉄拳。
しかもこの大技、TVシリーズに先駆けてこの劇場版で初披露されたので、リアルタイムで本作を観た人たちはさぞ度肝を抜かれただろうな。「どついてるやん」ゆうて。
そして完全敗北したサラマンダーは考えを改め、再びオリヴィエと二人だけで生きていくことを誓う…。


後日譚では、(おれも忘れてたけど)当初の目的だったファッションショーの様子がエンドロールで描かれます。とてもすばらしいエンドロールなんだけど、ただ一点…クレジットに隠れて見えねーのよ。当初の目的だった、一番大事なファッションショーが。
しょうがないねんけどな。
これなんか、とりわけ残念よ。左側に立ったばかりにえりかももかが姉妹揃って犠牲になっとる。



あんまりやないの。
見てられへんでな。せっかくの集合カットやのに全被りやん。かわいそうに、えりかとももか…。頭のてっぺんから足の爪先まで、余すとこなくイかれてるやん。
エンドロールが赤信号の車道だとしたら、文字という名の車に全身轢かれてんのよ。

ほんで、ゆりだけが器用に助かってる!


すごいなあ、ゆりって。
多少の被害を被りながらも、中央分離帯みたいなセーフゾーンにスポッとおさまることでダメージを最小限に抑えようとしてる。「ここなら甘んじてスポッとおさまれる」ゆうて、綺麗にスポッとおさまってるやん。
ダメージ分散してるやん!
ていうかなんやねんこの攻防。

そんなわけで、TVシリーズ/劇場版ともに初めて『プリキュア』に触れたよ。


オリヴィエとブロッサムの淡い恋心とも取れる絆。

初キュアがハトプリでよかった!!
…なんて言説をおれは忌み嫌うんだよねー!
初キュアがハトプリでよかったかどうかなんて、他のシリーズを見たうえで相対的に判断しうることだから、おれに言わせりゃあ「初キュアがハトプリでよかった!!」なんて言説は、たまたま見つけて初めて入ったケーキ屋ちゃんで食べたモンブランが美味しかったってだけで「あのケーキ屋ちゃん、超おすすめ! モンブランを食べるなら絶対あの店!」とか無根拠なことを無責任に言ってるインスタ狂いの女子バカ大生と同じ地平なのよ。
一回しか行ったことないのに?
この店が推してるのはモンブランよりチーズケーキかもしれないのに!?
って。
だから、ハトプリを「よかった」と心から結論するためには、別のケーキ屋…つまり別プリを見ないといけない、という連環の罠にハマっちまったんだよなぁ。ははは!
てなこって、近ごろは『スマイルプリキュア!』(12年) を見てます。

ありがとう、ハートキャッチプリキュアの面々。
ようやく4人そろった後期ED曲の「Tomorrow Song ~あしたのうた~」も、最初こそ「ピンとこないな」と思ってたけど、今となっては大好きだ。プリキュアソングに欠かせない“コーラスワーク”が最も活かせる音楽ジャンル、とはいえゴスペルをチョイスするという尖ったセンスは、ニチアサどころか深夜アニメでもなかなかお目にかかれない。
普段なら絶対踊らないであろうムーンライトのダンスもなかなかお目にかかれないし、女の子全開で楽しそうに踊るサンシャインは、やっぱり素敵であった。

「Tomorrow Song ~あしたのうた~」(YouTubeより)

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