シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

映画 ふたりはプリキュア Max Heart 2 雪空のともだち

ぶっちゃけありえないほど面白い。女の子だって暴れたい! ~DATTEやってらんないじゃ~んを添えて~

2005年。志水淳児監督。アニメーション作品。

プリキュアが一生けんめい戦う。


はい、やろう。
今日もプリキュアだから誰も読まないわけなんだけど、読ます作戦をひとつ思いつきました。
たぶん今、おまえは「プリキュアだから読まなくていいや。前置きだけ楽しんですぐ閉じよっ♪」って思っているよねえ? もはや何の抵抗もなく「閉じる」のボタンを押す姿勢に入っているよね?
その思惑を阻止すればいいんじゃん!!
つまり前置きを書かない。書いたとしてもサッと済ますことで、あえて読者の「モット読ミタイヨォー」という欲求不満を促し、その捌け口を求めるかのように本文読んじゃう、みたいなことに、なりはしないかなあ!?っていう作戦ですよ。
どういうことか!!
酒に例えよう。ここは居酒屋。おれが店主で、おまえがお客。
お客は言いました。
「ビールをちょうだいよ!」
店主は言います。
「うちのビールはお猪口に入れてまんねん」
お客は叫びます。
「少なっ!」
店主は言います。
「はいビール。お猪口ね。36ml」
お客は叫びます。
「少なっ!」
なんと阿漕な殿様商売。ジョッキで飲んでなんぼのビールをお猪口に入れてのご提供。36mlなんて言っちゃあいるが、ビールには泡がある。ぽわぽわとした泡がある。しょせん泡など事実上の無。無の存在。蜃気楼。気のせい! つまり泡のぽわぽわを差っ引けば36ml以下! 事実上、お猪口以下!
店主の手口にぷりぷりしながらも、お猪口のビールを一口で飲み干したお客。ビールの感想を述べました。
「少なっ!」
こうも言うかもわかりません。
「おちょこ、ちょこっと!」
うるさいです。
店主は言いました。
「焼酎ならボトルで出せるけど」
お客は言いました。
「焼酎ならボトルで出せるん?」
お客は焼酎には興味がありません。でもこうも考えます。
「どうにも飲み足りないから、焼酎興味ないけど頼もっ♪」
意気投合した店主とお客は、森高千里が手をクイクイッて上げる「気分爽快」のサビの動きをして酒を酌み交わすのでした。
飲もう~。今日はとことん盛り上がろう~。


森高千里「気分爽快」

こうなる想定ね。
すーごいカラクリでしょ。
この心理を狙ってるのよ~~。読者がこうなることを期待して、わざと前置きを短くすればプリキュアだって読んでくれる…って、ああ、でもそっか。既に900字くらい書いてもうとんな。
ほなあかんわ。
ジョッキで出してもうてるわ。ビール。

そんなわけで本日は『映画 ふたりはプリキュア Max Heart 2 雪空のともだち』です。
3連続のプリキュア評も本日をもって最終回です。本当は『ふたりはプリキュア Splash Star』(06年) 『スイートプリキュア♪』(11年) の劇場版も取り上げたかったんだけど、さすがにそろそろウンザリした気配がそこはかとなくこのブログに漂い始めてるからな。ありがとうありがとう。
次回からは、ちゃんと映画やりまーす。



◆原点にして頂点。ふたりはフィジカル◆

 第3回プリキュア武者修行の巻。7作目の『ハートキャッチプリキュア!』(10年) に続き、9作目『スマイルプリキュア!』(12年) を楽しみ尽くしたおれは、そろそろここらで“伝説の始まり”に触れておこうと思った。
『ふたりはプリキュア』(04年)
『ふたりはプリキュア Max Heart』(05年)
見た。
2年続いた初代。全96話。2年も続きやがって。ありがとう。見た。頭ふらふらするぐらい長かった。全96話。2年続いた。見た。

当初1年で終わるはずだった『ふたりはプリキュア』が予想を超えて人気を博し、急遽続編の『ふたりはプリキュア Max Heart(以下MH)』にパワーアップして帰ってきたのよねぇ。すぐパワーアップして帰ってくるからな~、プリキュアって。
中学2年生の美墨なぎさ雪城ほのかが、ある日「光の園」の妖精・メップルとミップルに出会いプリキュアの力に目覚め、闇の勢力「ドツクゾーン」から光の園を守るべくマーシャルアーツで応戦するという意味内容の作品。


「DANZEN! ふたりはプリキュア (Ver.Max Heart)」

マーシャルアーツってとこがミソ。
6作品(4シリーズ)しか見てない分際で偉そうに批評するけど、そもそも『ふたりはプリキュア』が『美少女戦士セーラームーン』や『夢のクレヨン王国』や『おジャ魔女どれみ』よりも圧倒的に広いファン層を獲得せしめた理由は、“あくまで女児向け”を表向きに標榜しながらも、その実「子供向けとは思えない戦闘シーンの作画」や「刑事バディものを下地にした物語構成」が、ときにメインターゲット(女児)を無視してまで露出する“アニメ的欲望”に横溢してるからだと思うんだよねえ。
「プリキュアの父」として知られる東映プロデューサー・鷲尾天『ダーティハリー』(71年)『48時間』(82年) に着想を得て作った『ふたりはプリキュア』の技斗や演出は保護者からクレームが殺到したほどすさまじかった。まあ、演出家の西尾大介『ドラゴンボール』 (86年)『エアマスター』(03年)  といった格闘アニメを手掛けてきたアニメ監督だからね。
ゆえに初代プリキュアの2人は、魔法や飛び道具の類をいっさい持たない。

ど突いて、しばいて、蹴る。

『ふたりはフィジカル』やん。


そのうえふたり一緒じゃないと変身できず、フィニッシュ技も撃てないという厄介な制約もあるんよ。
枷がすごい。
だって、たまたま別行動してるときに敵に襲われたら終わりやで? なぎさとほのかは一人じゃ変身すらできないのよ。あと、戦闘中にどちらかが倒れてもフィニッシュ技が撃てず詰みという(最後はかならず2人で放つ必殺技で倒さねばならない、という暗黙のルールが存在!)。
かように、能力的にも作劇的にも“縛り”がキツいのよ。敵の方はなんでもアリなのに、なぎさとほのかは超アンフェアな条件下で敵と戦わねばなりません。そんな過酷な状況でさまざまな死線を越えてきたからこそ、「歴代のプリキュアで強いのは誰?」という話題になったとき、キュア人民たちは口を揃えてこう言う。
「初代最強」
ちなみにシリーズ15作目『HUGっと!プリキュア』(18年。未見) の第22話では、初代のふたりが客演し、ハグプリの面々でも歯が立たない強敵を殴る蹴るの暴力沙汰でぶちのめし格の違いを見せつけた。
この時節柄か、最近のプリキュアってあまり直接的にぶん殴ったり腹蹴ったりしないのよね。暴力表現を忌避するあまり、アクションシーンがどんどんマイルドになってるし、敵との戦闘でも「やっつける」という概念自体がなくなって、なんか「救う」とか「癒す」みたいな方向にいっちゃってんのよ。敵は淘汰の対象ではなく“受け入れるべき存在”みたいな描き方。多様性ってやつですか? 人を傷つけないプリキュアですかい?

キュアコンプライアンスやん。

それゆえに、なぎさとほのかの初代コンビの暴れっぷりが実に気持ちよくてね。これぐらいやってもいいだろ、別に。キュアコレグライアンスであれよ。
だって、当時喧伝された『ふたりはプリキュア』のコンセプト…これやで?
「女の子だって暴れたい」
これが背骨。


『HUGっと!プリキュア』に客演したキュアブラック(なぎさ)とキュアホワイト(ほのか)。空からドーン!と落ちてくるシーンのえらく頼もしいこと。


 1作目の『ふたりはプリキュア』は粗削りで手探りな印象を受けながらも、そのぎこちなさが徐々に連帯を高めていくなぎさとほのかの距離感と呼応しているようで、見る者はふたりの関係性と同時に“制作側の成長”をも見守ることになります。
ひとつ感心したのは、一話完結型ながらも“前話の記憶が引き継がれる”という点では厳密には一話完結型ではないというシリーズ構成。
基本的に一話完結型アニメのキャラって前週以前のできごとが記憶喪失みたいに毎回リセットされるけど、『ふたりはプリキュア』は前週の出来事や、半年前に誰それがあんなこと言ってた…といった“劇中キャラの記憶”が各話ごとにちゃんと蓄積されていくんだよね。すごいよな~。
だって、“その回を見てない視聴者を置いてけぼりにしないためのシステム(記憶リセット)”を無視してまで、1年通してキャラクターの成長を描こうとしたんだから(当初1年で終わると思ってたからこそ出来た芸当か)。


美墨なぎさ(キュアブラック)と雪城ほのか(キュアホワイト)。

そして2年目のMH。
続編『ふたりはプリキュア Max Heart』ね。
3年生に進級したふたりは、新たな仲間・九条ひかり(シャイニールミナス)と出会い、復活したドツクゾーンをもっぺんど突きまくるといった意味内容。
おもしろさが一気に加速した続編だった。
宙ぶらりんだった中学2年生から“憧れの対象“となる3年生に進級し、ドツクゾーンとの戦いでは自分たちのことで精一杯だったかつてのふたりも、今やシャイニールミナスや妖精たちを守る“歴戦のウォーリアー”として活躍。
とはいえ中学生なのでまだまだ未熟で、そんな甘さや弱さを3人で補い合うドラマパートは、前作で登場したクラスメイト、ふたりの家族、近隣住民との関係性をより深く描き込みながらエモーションを高めていくぞ!
なにより、作り手が“ノッてる”のが皮膚感覚に伝わるんだよな。「1年かけて勝手がわかった。じゃあ2年目は思う存分やらせてもらいます。おおきに」ってのがキャラクターのハリにも顕れてて。それこそ声優陣の息もピッタリ合ってるし、絵も作劇も活き活きしてる。作画もよく跳ねてる。
前作の緊張がとけて、ようやく「Max Heart」が打ち出せた全身全霊の傑作だろう。

それじゃ登場人物紹介…と言っても3人しかいねーから、ランキング形式で好きなキャラを紹介していくわ。
1話しか登場してないキャラとかもねじ込んでいくからな。

 

【お気に入りキャラクター十選】

 

10位  子ヤギ(CV.水田わさび)

MH第12話に登場した子ヤギのベルちゃん。
なんてかわいい子ヤギのベルちゃん!
なぎさ達が訪れたナデシコ牧場に棲息している子ヤギのベルちゃん。ひかりを一目見るや否や、つぶらな瞳で「めぇ~」と鳴いてみせた。「目」と言っているのだろうか。
ひかりによく懐き、どこまでもちょこちょこと付いていくことを是としている。
だがドツクゾーンの強敵・バルデスが牧場に現れた際、母ヤギに危機が迫っていることを知らせようと、ひかりをバルデスのもとに導くというプレミを犯す(却ってひかりまで危険な状況に)。
なぎさとほのかの救援によりバルデスを追い返したあと、またつぶらな瞳で「めぇ~」と鳴き、ひかりに感謝を伝えることに成功。まあ、感謝を伝えるべきは危機的状況に駆けつけてくれたなぎさとほのかなのだが。
CVの水田わさびは2代目ドラえもん。

 

9位  シークン(CV.永野愛)

シークンやあらへんがな。

なんじゃこいつ。可愛いのう!
キョトンとして。どこの子や?
ドツクゾーンの支配者・ジャアクキングとの戦いで12に分裂した光の園の統治者「クイーン」の意思が妖精として具現化した存在。何を言ってるかわからないだろうが、おれだってわからない。
そしてクイーンの「探究心」を司るのが、このシークン。
ほかにも「情熱」や「調和」や「純真」などを司る11人の妖精がいて、なぎさ達がそれぞれに対応した心を育むたびに「やった~」とかいって成仏していく(全員成仏するとクイーンが復活する!)のだが、シークンだけは探求心が強すぎるために成仏を拒否。
「プリキュアの活躍をもっと見たいです」とか「いわば私はプリキュアの視聴者です(意訳)」などとわけのわからないことを言い、小さい羽でなぎさ達の頭上を飛び回った。

妙に愛らしいというか、いつもすげえキョトンとした顔してんのよね。「誠意ってなんですか?」みたいな顔して。

なにをそんなキョトンとして!!!
なに…なにをそんなキョトンとするばかりのことをして…!
CVの永野愛は2年後の『Yes!プリキュア5』(07年) で秋元こまち(キュアミント)を演じた。


8位  高清水莉奈(CV.徳光由禾)

ラクロス3人娘のひとり。
同じラクロス部のなぎさと久保田志穂とは大親友だが、とりわけ志穂との凸凹コンビ(通称しほりな)は時としてなぎさ&ほのかに肉薄するほど好相性。
いわゆる“主人公と仲のいいクラスメイト枠”にしては存在感抜群で、出番も多く、チャームもすごいのよ、莉奈と志穂は。たしかにサブキャラだけど、サブの重要性は、それこそ3人のチームプレーが光るラクロス部の試合を通して描かれるからな。

痛恨のパスミスでチームの足を引っ張ってしまった志穂と、それを指摘した莉奈にコンビ解散の危機が迫る第33話『Vゲット!心でつなげ光のパスライン!!』は感動もんですよ。内容もさることながら“サブキャラだけで1話作った”のが感動もんなのよ。
そんな莉奈。普段は大人しく、決して自己主張しない性格だが、今回の劇場版ではほのかと仲違いしたなぎさを「ケンカしたくらいで嫌いになるなら、ハナからその程度の関係ってこと。偽物の友情ザッツオール」と達観した友情論で諭した。かつて志穂とすれ違ったからこそ発せられた言葉だと莉奈は言うのか!?
CVの徳光由禾は『夢のクレヨン王国』(97-99年) の主演・シルバー王女ほか『おジャ魔女どれみ』でも多くのキャラを担当。東映アニメの守り神。

 

7位  藤村省吾(CV.岸尾だいすけ)

やった~、藤P先輩!

なぎさ達の1年上の先輩で、学園内でも人気の高いサッカー部の主将。ほのかとは幼馴染みで、なぎさが恋心を寄せる文武両道の雄でもある。
めちゃくちゃイイ男。
よく気が回り、誰に対しても分け隔てなく接し、それでいて嫌味がなく爽やか。いわゆる「イケメン先輩キャラ」のアニメ的記号から漏れ出てしまう“爽やかゆえの嫌味”すらない。
なぎさとの恋愛パートがすごく好いんだよな~。
なぎさが人知れず藤P先輩を慕ってることをほのかだけが見通していて、気を利かせて2人だけにしたり、誕生日プレゼントを渡せずにいるなぎさを応援したりと、持ち前の思いやりと視野の広さで恋のキューピットに徹するほのか。耳まで真っ赤になるなぎさが可愛いし、性格まで男前の藤P先輩をおれは今夜あたり抱きたいと思ってるんだけど、マクロで見ると“二人の恋路を温かく見守るほのかという名の女神”がいちばん印象的でもあって。
なぎさが同じクラスの友人・森岡唯から「藤P先輩に告白するから協力して!」と頼まれ、まさか「自分も藤P先輩が好きだからムリ」とは言えず安請け合いしてしまう第43話『激揺れまくり!藤P先輩に届けこの想い』を見て、おれは思ったよ。

なぎさと唯で藤P先輩を取り合うぐらいならおれが藤P先輩と付き合う。

一撃で解決するやろ、こんなもん。
おれが藤P先輩と付き合えば、なぎさと唯の友情は保たれるし、修羅場にもならない。失恋してスッキリしたなぎさは後顧の憂いを絶ってラクロスやプリキュア活動に専念できますよねえ?
だからおれが藤P先輩と付き合う。はい解決。
うるさいうるさい。

 

6位  藤田アカネ(CV.藤田美歌子)

好きだなあ、アカネさん!

なぎさ達の通う中学のOG。
元ラクロス部なので、なぎさにとっては大先輩にあたる。大企業でのキャリアを経て、現在はたこ焼きキッチンカー「TAKO CAFE」を営む。
「TAKO CAFE」はなぎさやほのか達にとっての憩いの場であり、秘密基地であり、集合場所でもある“第二の家”。
アカネはふたりがプリキュアであることを知らないが、大人の目線からふたりの悩みを聞き、さまざまな相談に乗ってくれる、サバサバとした頼れる姐御だ。

かように、本筋には深く関わらず、とりわけ深く描き込まれることもない…、だけど物語の風景としていつもそこに居るキャラのことを便宜上“フレーバーキャラクター”と呼ぶけれど、そんなフレーバーキャラってひとたび店を営むと、往々にしてその店が“主人公たちにとっての拠点”になるのよね。たとえば『おそ松さん』でいうチビ太のおでん屋台とか、『シティーハンター』における喫茶キャッツアイとか。よく知らんけど。
「いつもの集合場所」であり「何かあったらとりあえずあっこ行こ」っていう心の拠り所、物語の拠り所ね。
そこを守ってるキャラクターって、子供のころは「脇役だなー」ぐらいにしか思わなかったけど…やっぱり素敵なんだよね。
いぶし銀というか、かつお節というか。
たこ焼きだけにね。
…あっ、それで言ったらなぎさ達はタコで、アカネが営む「TAKO CAFE」は文字通り蛸壺やんか。
そういうことやんか。
そういうことなんかな?


5位  九条ひかり(CV.田中理恵)

シャイニールミナスの中身。
ひかりについては謎が多い。
まず「この娘はプリキュアなのか?」という根本的な疑問。
放送当時から長年ファンの間で議論になってるらしいが、いまだに公式からの明確な回答はない。
変身後の名前が「キュア〇〇」ではない点や、劇中でも「九条ひかりはプリキュアではない、なんか…なんかわかんないけど別の存在」と言及されてる一方、劇場版オールスターズではプリキュアの1人としてカウントされてるし、グッズ等の「プリキュア一覧」にもちゃっかり含まれてるんだよな。

どないやねん。

要は捉え方次第…って言っちまうと身も蓋もないけど、プリキュアの定義や基準をどこに設定するかによって解釈が分かれる、厄介な存在なんだ。
そんなひかりは『MH』で突然登場し、自分が何者かわからないまま、なぎさ達と同じ中学の1年生(後輩)として学園生活を送る。また、藤田アカネの従妹であり、アカネが営む「TAKO CAFE」を手伝ってるのだが、ここもちょっと怪しくて…。どうも「アカネの従妹」であることの信憑性が薄いのよね。
いずれにせよ、ひかりのバックボーンについては制作側が多くを語ろうとしたがらないのよ。
だから、性格面ではすごくいい娘だけど…なんとなく何かがフワッとしてます。なんとなく何かがフワッとしたまま18年経ってしまったキャラクター。
九条ひかりは未解決。

 

4位  雪城さなえ(CV. 野沢雅子、幼少期:松岡由貴)

雪城ほのかの祖母。
いつも仏のように微笑んでいる、孫思いの心優しいお婆ちゃんであり、ほのかを凌駕する“察する力”で、時に含蓄のある助言でなぎさたちの背中を押したり、また時には自分たちの力で問題を解決させるべくあえて助言を控えるなど、老成円熟の深みをまざまざと見せつけた。

ただのバアさんのはずなのに、ドツクゾーンの敵軍を一喝して黙らせたり、飼い犬に向かって「とっととお家に帰りなさい!」というキュアブラックの決めゼリフを呟いて独りクスクス笑うなど、まるでなぎさとほのかがプリキュアであることに気づいているかのような意味深な言動が散見されるのよねー。
第28話『レギーネ登場!ってもう来ないで!』では、そんなさなえ婆ちゃんの過去が少しだけ語られる。終戦後、焼け野原となった故郷に絶望していた幼少期のさなえの耳に、ほのかの相棒である妖精・ミップル(語尾に「ミポ」をつけることを是とする妖精)の声が聴こえた。
「希望を忘れちゃ駄目ミポ」
「ミポって語尾なんだろう?」と思いながらも、その声に励まされたさなえは、爾来その声をスローガンに戦後復興期を逞しく生き抜いていくのであった…。


戦後・少女期のさなえ婆ちゃん(モノクロ処理も乙)。

この不思議なエピソードから読み解けるのは、さなえ婆ちゃんが“戦後日本で活躍していた先代プリキュアだった”か、あるいは“プリキュアにはならなかったが適性は持っていた”か―ということ。
おれは後者だと思うんだけど、いずれにせよ、こういうのって…なんかイイよね。大好きなのよ。「なぎさとほのかがプリキュアであることをさなえ婆ちゃんだけが知ってるかも」みたいな図式ってゾクゾクするのよ。
短編でもOVAでもいいから作ってほしかったよねえ。『ふたりはプリキュア Max Heart』ならぬ『さなえはプリキュア Max老婆心』みたいな、さなえ婆ちゃんにフォーカスした外伝をさぁ。
CVの野沢雅子は「オッス、オラ極右!」あ間違えた「オッス、オラ悟空!」で知られるレジェンド声優。なお、同役の幼少期を演じた松岡由貴は『おジャ魔女どれみ』(99-03年) の妹尾あいこ役。

 

3位  雪城ほのか(CV.ゆかな)

キュアホワイトの中身。
成績優秀/眉目端正にして、科学部に所属する、強さと優しさを兼ね備えた雲中白鶴ガール。
アートディーラーの両親が世界中を飛び回ってるので、普段はバカみたいに広い日本家屋で祖母のさなえと飼い犬・忠太郎とともに暮らしている。

ほのかの魅力は婆ちゃん譲りの“察する力”
なぎさに対するさりげない気配りや、視聴者でさえ見落としがちな妖精やサブキャラの細かい感情を拾う能力は、そのまま当シリーズの作劇のクオリティに裨益している。メタ発言が許されるなら、ある意味では“ほのかが『ふたりはプリキュア』の脚本家”というか…、ちょっと専門的な話になるけれど、インサイティング・インシデントの発見者でありセントラル・クエスチョンに対する回答者でもあるわけね。
要は、このシリーズって、ほのかの気遣いや察する力がなければ物語として成立しない回の連続なわけ。それくらいドラマパートの心臓部を担った、なぎさ以上に重要な主人公だと僕は思いますネ。

にも関わらず、ステレオタイプな“お嬢様キャラ”と一線を画すのは、その意思の強さ。
ズボラで能天気ななぎさの方が意外と繊細で、一見繊細そうなほのかの方が意思堅固で思いきりがいいってあたりがキャラ造形のリアリティ。
相手のためを思ってこその発言に躊躇がないので、ときに口やかましく真実を穿つほのかのお母さんっぷりは、その度を越した優しさや気遣いが、相手にとっては自らを卑屈たらしめ、よりミジメな気持ちにさせる“大上段からの正論”のように聴こえもする…ってあたりよね。

人質の立場を忘れて強盗に説教するほのか。

おれが好きなのは戦闘時でのダメージボイス。お嬢様だからといって、可愛らしく声作って「キャ~」とか「イヤ~」とかじゃなくて「ぎやああああ!」なのよ。
断末魔がすごい。
必殺技を叫ぶシーンも気色わるい萌え声じゃなくて、ちゃんと絶叫(チェストボイス)だし、得意の空中連続蹴りも「う゛ら゛ああああ~ッ!」なのよ。初見時はちょっと引いたけど、ほのかの人物像がわかってくると、むしろしっくり来るよ。逆に「キャ~とか言うわけねえだろ。ほのかだぞ?」って。
太い眉毛は、意思の太さと直結しています!

 

2位  久保田志穂(CV.仙台エリ)

ラクロス3人娘のひとり。
なぎさとは大親友だが、サブキャラ凸凹コンビ「しほりな」の高清水莉奈とはもっと大親友。
「最高最高最高!」とか「だってだってだって!」など、同じフレーズを3回繰り返す奇癖の持ち主。でもラクロス部での背番号は55。ほな5回言えよ。
当初おれは、見た目も性格も大人っぽい莉奈の方が好みだったんだけど、回を追うごとに志穂のキャラが際立ってきて、いつしかキャラクターランキング2位にぶち込むほど(ほのか&ひかりを下すほど)大好きなキャラクターになってしまいました。


まず第一に、元気満点でちょこまかしている点を挙げねばなりません。
ムードメーカーっぷりでいえば陽性主人公のなぎさを凌駕するレベルで本作随一。しかも同じフレーズを3回繰り返すので、もはや「うるさい」と評することもできるだろう。
だけどラクロスに懸ける思いは人一倍。
志穂がパスを繋いでなぎさが得点するという必勝パターンがまたいいじゃないですか。先に紹介した莉奈とのケンカ回、第33話『Vゲット!心でつなげ光のパスライン!!』では、パスが得意な志穂が痛恨のパスミスでチームを敗北に導いてしまった自責の念から「私なんていない方が…」と退部を考えるが、これって裏を返せばチーム全体のことを考えられるほどの大局観と責任感を持ってる、とおれは見たよね。


ラクロス3人娘の志穂(左)、なぎさ(中央)、莉奈(右)。

そんな志穂の将来の夢は、なんと映画監督。
「ラクロス関係ねー!」と思ったあなたは甘いですよ。ほのかの項目で「このあたりがキャラ造形のリアリティ」って言ったばかりでしょうがぁー!
現実なんてこんなもんだろ。なんで中学時代にラクロス部だからってだけで将来もラクロス選手をめざすって思い込むんですか!? おれなんて保育園の卒園文集に寄せた将来の夢…「スーパーマリオ」やで? なったらええんか? 亀やキノコにぶつかって奈落の底に落ちていけばいいってか!?
貴様、なんてことを言う!!!

MH第37話『なぎさ飛ぶ!ほのか舞う!志穂全力の大舞台!』
はぜひご覧あれ。映画監督をめざす志穂は、秋の文化祭で「牛若丸と弁慶」の監督/演出を手がけた。
この演劇ではワイヤーアクションを使ったド派手な剣戟を予定していたが、牛若丸役のなぎさが慣れないワイヤーアクションに苦戦するうち、刻一刻と本番が迫る。ここでなぎさが「私のせいで志穂の舞台が…」と自責の念に駆られるシーンが、先ほど紹介した無印第33話と対の構図になってるのよね。
それでも劇をまとめあげ、なぎさを拍手喝采へと導いた志穂の器量は、まさに“チーム全体のことを考えられるほどの大局観と責任感”に裏打ちされた演出力の発露。
最高最高最高!

 

1位  美墨なぎさ(CV.本名陽子)

キュアブラックの中身。
1位はそりゃこうなるわねえ。
ラクロス部のエース。MHではキャプテンに就任。典型的な体育会系だがスポーツ万能というわけではなく、なぜかウィンタースポーツはからきしダメ。
性格は勝気でそそっかしく、自称「根性てんこ盛り」の向こう見ず。
学園内では同級生や下級生の女子からラブレターをもらうほど人気があり、男子人気の高いほのかとは性格面でも対をなす学園きっての人気コンビ。男子はほのか、女子はなぎさに憧れるって寸法よ。だが本人は不満で「男の子にモテた~い」とのこと。わがまま言うな。
他方、見た目に反して人付き合いには奥手で臆病。相手を傷つけることや本心を伝えることを恐れており、他者との距離感を測っては遠慮がちになってしまう。藤P先輩の前ではもにょもにょして口も利けない有り様。
藤P先輩を前にすると“いつものなぎさ”が封印される。でも“いつものなぎさ”が本当のなぎさとは限らない。こんななぎさも含めてなぎさ。
人の性格なんて多面的。イェイ。

ブラックとホワイトはルーズソックス文化の生き証人だろうね。
90年代にあれだけ流行ったルーズソックスがファッション史から完全消滅したのが、ちょうど『ふたりはプリキュア』放送時期の2004年。
プリキュアシリーズは作品ごとに当時の流行や風俗を取り入れていて、殊になぎさなんて、ゼロ年代前半に学生時代を過ごしたおれにとっては「懐かしい」の結晶体なのよ。
茶髪とウルフカットと細眉ブームね。
これを体現してるのがなぎさ。口癖の「ありえな~い」も放送当時に流行っていたギャル語だ。
一番グッときたのはウルフカットだな~。
だって昨今の男の髪型ってさ、シイタケや舞茸みたいな頭ばっかり流行る中、おれは未だにウルフカットだし、舐めた年下の奴から「今どきウルフなんて。時代遅れですよ」と言われて「おれは時代に遅れてるんじゃねえ。おれはおれの意思で一昔前の時代に“残ってる”んだよ。なめんなZ野郎」なんて言うと、大抵のキノピオ野郎はピャーッて逃げていくんだよね。おととい来い。炒めたろか。
だから変身前の美墨なぎさのペチャンと潰れたウルフヘアーは抜群にかわいくて好きだし、変身後のセットされた横流しウルフヘアーはもっと好きだ。

なにをそんなキョトンとして!!! それはそうと、ウルフカットのアニメキャラってほとんどいないんだよなー。同じウルフ派として余計に肩入れしちゃうわ。なぎさが一等賞!


そんな美墨なぎさ(キュアブラック)が残した好きなセリフがあんねん。
ひとつは、ドツクゾーンの幹部・ポイズニーとの戦いの中で発した啖呵。

ポイズニー「後先も考えず口ばっかりじゃ勝てないってことすら分かってないみたいだね!」

ブラックだから後も先も関係ない! いつも、今この瞬間の一回勝負!!
根性だけはてんこ盛りよ!!!

根性だけはてんこ盛りなん!!?
プリキュアシリーズって女児向けアニメだから、子どもでも理解できる「諦めなければ夢は叶う」みたいな耳障りのいい美辞麗句(悪くいえば手垢のついた綺麗事)ばっかり吐くんだけど、たまにハッとするキュアワードが飛び出すのよ。
このブラックのセリフは「後も先も関係ないから後先考えない」っていうロジックね。後でも先でもなく“今”に懸けた渾身の一撃がポイズニーを粉砕しました。でも一番好きなのは「根性だけはてんこ盛り」。食いしん坊ななぎさの性格と掛かってる。
よく考えたら「てんこ盛り」って言葉かわいいよなぁ。今度から使お。

あと、もう一個ね。

「なるべく戦うぞー!
自分で、なるべく頑張るぞ~!」

これは無印第42話『二人はひとつ!なぎさとほのか最強の絆』のラストシーンで発したなぎさの叫び。
この回は無印で最も感動的な回といえよう。強敵との戦いで常闇に呑まれ、徐々に死にゆくホワイトをブラックが救い出す…という、はじめて死の危機が描かれた重苦しい内容で。恐怖に打ち震え、諦めかけながらもホワイトを救ったブラックは、改めて「これまでホワイトがいたから自分は戦ってこれた」と滂沱の涙を落とし、ほのかの存在の大きさと、自らの無力さを痛感する。
だが翌朝の登校中、一晩考えて吹っ切れたなぎさは、ほのかに向かって「やっぱり自分が大事かな」と結論した。

「大切な人を大事に思う。そんな自分の気持ちを大事にしていこう。それが一番大事かなって…。自分がしっかりしてなきゃ、なにも出来ないもんネ!」



意味わかりますか。
初めてほのかを失いかけたことで、ほのかがいかに大切な相棒かを知りながらも、そんなほのかがピンチの時に救えるのは自分だけなんだから、そういう意味では一番大事にすべきはほのかよりも“ほのかを救いうる自分”っていう、なかなか奥の深い逆説なのよ。
そのあと、やおら発奮したなぎさは、なにも知らない登校中の志穂と莉奈に「自分大事にしてる!?」と言って抱きつく。急にそんなこと言われても文脈を知らない二人にとってはワケワカメなのだが、ここで志穂が「ウン! してるしてるしてる!」と即返事するのが味わい深いのよ。
自分大事にしてるん!!?
さすが志穂。自分を大事にすることにかけては一日の長があるな~~。
一方、莉奈は「な~に朝から張りきってんの?」と。まあ、これがフツーの反応よね。
しかし破顔一笑のなぎさ、「まあ、いいからいいから~。とにかく頑張ろ! これからは一日一日が戦いよっ!」と言ってエイエイオーをしたあと、「なるべく戦うぞー! 自分で、なるべく頑張るぞ~!」と叫ぶのよ。

こんなに深い「なるべく」ある?

ちなみに今年公開された『映画プリキュアオールスターズF』(23年) でブラックが登場した際「よく分かんないけど、なるべく頑張るぞー!」って叫ぶのよ。圧倒的に強いボスを前に、後輩プリキュア約70名が「絶対許さない!」とか「絶対守ってみせる!」などと裂帛の気合いで死なばもろともの神風特攻をかける中「なるべく頑張るぞ~」やで?
軽っ。
これが美墨なぎさの哲学。「絶対」じゃなくて「なるべく」なのよ。力尽きるまで戦っちゃったら、守りたい人も守れないから“なるべく”頑張るのよ。
余力は取っとけ。
いざって時の貯金だ。
私はどうなってもいいから云々…みたいな美しい自己犠牲の精神とは真逆のベクトルを持った美墨なぎさは、まさにギャル特有の軽さであまねく難事をさらりと躱し、十万馬力でピンチにパンチ!

絵がピンチ!

◆「プリキュア同士を戦せてはいけない」というタブーを作った禁断の一作◆

 信じられないだろうが、ここまでが1章だ。
ようやく映画の話ができます。
まったく、誰のせいで…。
プリキュアシリーズ初の劇場版はMH放送年の4月公開作品『映画 ふたりはプリキュア Max Heart』(05年) なんだけど、今回取り上げるのは、同じくMHから劇場版2作目『映画 ふたりはプリキュア Max Heart 2 雪空のともだち』(05年)
こちらは12月公開。単独作品を年2回も公開するって正気のサタデーナイトだよね。
せっかくなら記念すべき劇場版1作目を取り上げたかったんだけどさぁ、“劇場版プリキュア”としては退屈なほど綺麗(無難)にまとまっていて、逆におもしろくなかったというか…語り代がなかったのよね。なんならゲスト声優の工藤静香の棒読みが一番おもしろかったぐらい。
対して『雪空のともだち』は、よく見るとちょっぴりイビツで、よく考えるとちょっぴり問題作っていう…。おれが好きなのはDANZENこっちなのよね。

チャリで来た。

時系列はMHの12月。スキー場へやって来たなぎさ達は、アカネさんの出張タコカフェを手伝いながらスノーボードを楽しむが、ウィンタースポーツを苦手とするなぎさは七転八倒。しかもほのかと藤P先輩が仲よく滑ってるところを目の当たりにし、二人の関係を誤解して嫉妬。

一方ほのかは、そんななぎさを藤P先輩とくっつける為にもスノボのコツを教唆しようとしたが、絶賛誤解中のなぎさにとっては、ほのかの優しさが逆にイヤミに映ってしまい友情決裂…。
なぎさにしてみれば「ゲッダン。揺ーれる、まーわる、振ーれる、切なーい気持ち~~」なのよ。わかる? 「絶好調、真冬の恋、スピードに乗りたかったのにー…」なのよね? 「急上昇、熱いハート、とけるほど恋したかったのにさ~」なのよ!
わかるな?

その頃、スキー場の近くに落ちてきた謎の卵から雛が孵り、それを保護したひかりは雛に「ひなた」と命名してたいへんに可愛がる。ゆくゆくは伝説の鳥「鳳凰」となって世界中に陽光を注ぐ使命をもった、希望の象徴たるひなた。

ひかりとひなた(左は莉奈)。

そんなひなたの命を奪って世界を氷で閉ざそうと企む全身氷の強敵フリーズンフローズンが現れた! くっそ~~。絶対現れるんだよね、何がしかの敵が。
フリーズンとフローズンは雪とか氷をこよなく愛する奴らだった。頭の先から鼻水の先まで冬が大好きな奴らだった。しまいには世界中を氷漬けにして喜ぼうとさえしていた。

もうフリーズンとフローズンっていうか…広瀬香美やけどな。こうなってくると。

どっちかがフリーズンとしての広瀬で、どっちかがフローズンとしての香美。

1作目の数ヶ月後に公開されたにも関わらず観客動員が2/3倍に落ち込んだ本作。とにかくメインターゲットであるキッズ層からの評判が悪かったらしい。
そりゃそうだろう。
敵に操られたブラックとホワイトが互いに潰し合う過激描写が延々描かれるのだ。

かなり怖いから、このシーン。操られた側は無表情で相棒の体を破壊しにかかるのよ。
最初はホワイトが操られ、「目を覚まして!」と説得するブラックを徹底的に痛めつける。
ブラック「痛いいいいい!」
ホワイトがブラックの顔面を殴りまくる残酷さといったらない。と言ってもプリキュアシリーズには「顔面への打撃はNG」というプリキュアタブーがあるから、もちろん直接描写はないよ。直接描写はないけど、なまじ“カメラが二人の足元に寄ったカット”で「ああ、今ホワイトがブラックの顔面を殴りまくってる…」ってことが表現されてるだけに残酷なのよ。『サイコ』(60年) なのよ。『サイコ』の有名なシャワーシーンなのよ。
そのあとブラックも操られたが、次第にホワイトの催眠が解けだして「やめてブラック! 私たち友達でしょ!」と説得するも、催眠下のブラックは先ほど述べた嫉妬もあってか、無抵抗なホワイトをメチャクチャに虐待する。
ホワイト「ぎゃああああ!」

子供泣くやろ。

見てられへんよ、こんなん。
でも作り手は嬉々として描いてるのよ。プリキュアVSプリキュア…いわばヒーロー同士の戦いって子供にとっては悪夢でも大人にとっては夢なのよね。ロマン。それを正夢にしようと「嬉々~」とか言いながら凄まじい作画でふたりの潰し合いを描いてしまった。



事程左様に、清廉なるキュアキッズにとっては「こんなプリキュア見たくない!」てなもんだろうが、おれみたいなキュア汚れし心の大人からすれば「こんなプリキュアもアリ!」なんだよな。
たしか『映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』(10年) 評でも似たようなこと言ったと思うんだけど、せっかく劇場版にするからにはTVシリーズの延長ではなく劇場版でしか見れないサムスィーングが不可欠だと思うのよ。
実際、「普段は見られないような過激なバトルを」といったファンサービスの精神で作られた本作だが結果的には空回り。反面教師として後のシリーズの人気を安定させるためのプリキュアタブーに「プリキュア同士を戦せてはいけない」という新たな項目を刻むことになった。

余談だが、プリキュアシリーズには様々なタブーが存在する。「親を悪者にするようなプロットはNG」とか「食べ物の好き嫌いは極力描かない(描く場合も最終的には必ず克服する)」など。
いわば「何を描くか」よりも「何を描かずにおくか」という徹底した制約のもとに作られた伝統芸能なのである。
だからスゲェ理論的なのよ。
法に則ったうえでオリジナリティを打ち出したり、あるいは法の網を搔い潜って際どい表現に挑んだり…。
なんて勇敢なんだ。「視聴者を萌えさせられるなら何でもOK」な深夜アニメの軽薄で即物的でド低俗なオタク文化に比定して、なんと理路整然! なんと自縄自縛! なんと公序良俗に沿ったアニメだろうかねえ!!
これも『映画ハトプリ』評で少し触れたけど、結局“子供向けアニメ”ほど大人の鑑賞に耐えるクオリティで、“大人向けアニメ”ほど中身は幼稚なのよ。世の大人はキッズコンテンツのことを「子供騙し」と言うけれど、そんな大人が普段見てるドラマや映画の多くは“大人騙し”で作られてるからね。

 

◆広瀬と香美、ついにゲッダン◆

その後、広瀬と香美に命を狙われたひなたを守るべくシャイニールミナスに変身したひかりだったが、シャイニールミナスってほぼ攻撃手段を持たへんのよ。得意技は「バリア」。
ただのバリアやで?
得意技なのに技名すらないっていう。ほんで必殺技は「ルミナス・ハーティエル・アンクション」。敵の動きを一定時間封じ込めて、ブラックとホワイトのパワーを大幅に強化するっていう補助技なのよね。
完全にバッファーなのよ。
だからルミナスでは広瀬と香美に立ち向かえない。戦ってもこっちがゲッダンしちゃう。ルミナスが弱いから…とか以前に攻撃技のコマンドがないからな。そもそも。敵を倒そうにも倒すための選択肢が無え。
だから、ようやく正気に戻ったブラックとホワイトがルミナスのもとに急行するんだけど、その手段がスノボ。
巨大な氷柱をスノボ代わりにして一気に雪山を駆け下りるのだ。序盤の布石がここで利いてくる。ウィンタースポーツを蛇蝎のごとく忌み嫌うなぎさが、ほのかに教わったコツを思い出しながら、ルミナスを助けたい一心で苦手なスノボを克服する美しき描写! 
誤解も氷解。氷だけにね。

ほのか落ちそうになってるけどな。

すっかり本調子を取り戻し、広瀬と香美を撃破したふたり。必殺技の「プリキュア・マーブルスクリュー・マックス」を撃ったら「Eternal Love~」とか言いながら消滅した。うるさいわ。
広瀬と香美の敗因はただひとつ。不仲だ。
「最強コンビ」と謳いながらも、相手を思いやることなく、利己的な身振りばかり。「性格変えた方がいいかもよ?」とか「“ちょっと太った?”なんて聞かないで」ゆうて。個々の強さではブラックとホワイトを遥かに凌駕してたのに、功を争うあまり息の合わない戦いばっか繰り広げたせいで広瀬と香美は負けちゃったんだ!
ヤツらの姿は冷戦中のなぎさとほのかそのものだろう。心まで凍りついていた広瀬&香美と、全身氷漬けにされながらもひなたの“炎の加護”を受けたことで(物理的にも比喩的にも)氷を溶かしたブラックとホワイトは対の存在なのだ。
「喧嘩しても和解して仲を深めよう~」という本作のメッセージを裏から表から縫い上げた二段構えの名人芸。


喧嘩しても仲直り。

少しく惜しいのは、ひなた周りのドラマね。
ひかりに拾われ、ひかりに命名され、ひかりに懐く描写が映画冒頭にはあるけれど、中盤以降はもっぱら広瀬&香美とブラック&ホワイトが奪い合うためのマクガフィンとしてしか機能してなかった。サッカーボール化してたんだよね。
そしてラスト。対広瀬香美戦の巻き添えになったひなたをルミナスが母性パワーで蘇生させると鳳凰に進化。「皆さん、ありがと~」とかなんとか言いながら大空へ飛び立っていく“親離れ”を描いた感動的なシーンなんだけど、ひなたとの別れを惜しんで涙ながらに追いかけるのが…ポルンっていうひかりのお付きの妖精なんだよね。
なんでですの~~~~ん。
ここはひかりが涙ながらに駆け駆け「ありがと~!」ですや~~ん。
ポルンなんて「いっしょに遊ぶポポ~」言うて、ちょっと雪遊びしただけやんか。なんやねん「いっしょに遊ぶポポ」て。 「みんながこっちを見てるクル」に敵うかあ!!
いっや~~、ひかりとひなたの種を超えた疑似親子の物語だったらもっと感動してたな~~Max Heartだったな~~と惜しまれもするんだけど、まあいいや。

なんでもええけど鳳凰デカすぎへん?
画面に収まりきらへんから変な姿勢なってるやん。

そんなわけで、初代の洗礼を浴びて、おれ。
こないだの評で「全プリキュア大投票」の1位がブラックだったことに対して「この手のランキングって初代至上主義みたいなとこあるから」とか言ってすんませんでしたよ、ほんと。原点なめたらアカン。

最後はED曲の「ゲッチュウ!らぶらぶぅ?!」でも聴いていかない?
DATTEやってらんないじゃん!
OP曲より好きかもな。「チョコ食べまくる、くる、くる」という言い回しや「パパヤパヤ」のコーラスに宿るチャームがよく光る。
プリキュアソングっておもしろくて、OPでは“プリキュアに変身して戦うときの意気込み”が歌われてる一方、ED曲では“等身大の中学2年生の思い”を歌ってることが多いのよね(特にハトプリまで)。
だからこの曲でも、EDアニメのなぎさとほのかはブラックとホワイトに変身しないし、「できれば戦いたくねーなー」なんて愚痴も吐く。よう考えられたあるわ。
あと一番最後の「ぎゃああああ」って断末魔怖すぎへん?
なんなんあれ。敵の声? やとしたら要る?
「ぎゃああああ」で「あ怖っ」ってなんのよ、いつも。


ED曲「ゲッチュウ!らぶらぶぅ?!」(YouTubeより)。

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