なまじ自分を客観視する理性を持っている人ほど幸せ=バカになれない。
2015年。ジャド・アパトー監督。エイミー・シューマー、ビル・ヘイダー、ブリー・ラーソン。
母親を捨て離婚した父親に「一夫一婦は悪だ」と幼い頃から教えられたエイミー。父の影響から恋愛ができず、男性とは一夜限りと割りきって奔放な日々を送っていたエイミーは、仕事で知り合ったスポーツ外科医のアーロンとの出会いから、自らの恋愛観や人生を見つめ直す決心をするが、これまでの自分が邪魔をして、アーロンとの関係にも亀裂ができてしまう…。(映画.com より)
ここでの前置きは、いつも記事をアップする10分ぐらい前にパッと思いついたことを即興で書き足しているのだけど、今日は特に何も思いつかないのでこのまま評論に移りたいと思います。
あ、でも一個思いついたわ!
ほとんど切れかかっているトイレットペーパーの芯を交換しない人って、どういう精神構造をしてるんでしょうね。自分がトイレットペーパーを使うときに、あざとく調整して完全に紙が切れる一歩手前でトイレを出る人。
あと一個抜いたら絶対倒れるジェンガ状態みたいな。
「トイレットペーパーごときで駆け引きするなよ~」って思ってしまいます。
なんなんでしょうね、一部の人に見られる意地でもトイレットペーパーを替えたくない心理というのは。替えたら負けなのか?
つうこって本日は『ペーパー、ペーパー、ペーパー!』です。
あ、違った。『エイミー、エイミー、エイミー!』です。くそみたいなボケをしてすみませんでした。
黙って読め!
アル中、尻軽、おまけに小デブのヒロイン・エイミーが酒を飲んでは行きずりのセックスを繰り返す映画前半で、私は「ムカつこうかな」と思った。バカなティーンエイジャー向けの品性下劣なコメディだと思ったからだ。
ところがどっこい、エイミーのクズっぷりが露呈し始める中盤以降、次第に「あれ…、単なるバカ向け奔放コンテンツではなさそうだぞ」と思い始め、ムカつくことを留保しました。
エイミーが誰とでも寝る女だということを知ってショックを受けた彼氏が「結婚まで考えていたのに…」と呟くと、軽く驚いた様子のエイミー、「マジで? そんなに好きだっけ?」。
彼氏がどれだけエイミーを愛してるかについて真剣に語っているのに、マリファナでハイになってるエイミーは彼の話を遮って「ごめんなさい、今ちょっとラリってるから早めに会話を切り上げたいの」と言って完全に愛想を尽かされる。エイミーに告げられた別れの言葉は「ファックユー!」だった。
エイミーにとって恋愛とは肉体関係に過ぎない。多くの男とはそれでうまくいっているからこそ、たまにエイミーのことを真面目に愛してくれる男が現れると、その人の心をズタズタに傷つけてしまう。
これってセックスの話に置き換えてるだけで、広い意味では「人と真剣に向き合えない」という現代人の病理を穿っている。
たとえば私なんかは、一時期は仲がよくてもやがては疎遠になってしまう通り過ぎていく人々とその都度いちいち関係を築くのが煩わしいと思っていて、「僕はたぶんこの人の人生にとって一場面だけ登場する脇役で、そのうち縁が切れるだろうな」と思った人とはそれ以上深く関わらないようにしているので、本作で描かれていることが他人事とは思えないのだ。
俺の中にもエイミーが…、ほら、こんなにも!ってことですよ。
ラブコメとしてもちょっと凄い。
エイミーのヒロイン像が凡百のラブコメ映画のそれを凌駕しているのは、このヒロインが幸せを手にしたいという浅ましい願望を持っていないからだ。
「ファックユー!」と言われて振られたあとのエイミーは、スポーツドクターのビル・ヘイダーと両想いになるが、「私なんかのどこがいいの?」という自己不信からなかなか深い関係になれない。触れるもの皆傷つける性格は彼女自身がいちばんよく分かっているのだ。
だからエイミーは自分が幸せになれるなんて毫も思っていないし、なんだったら幸せになってはいけないという十字架さえ背負っているのである。
およそ恋に恋して感情の奴隷になっているラブコメ・ヒロインに比べて、エイミーには理性と諦念がある(ある種の呪いといっていい)。
恋の副作用はバカになることであり、バカになることこそが幸せへの近道なのだろうが、この映画のヒロインはバカ(幸せ)になれない…という業を背負ってしまっていて。
なまじ自分を客観視する理性を持っている人間ほど幸せ=バカになれない、という因果をわりと深いところで描いたサイコロジカルな秀作です。
監督は『40歳の童貞男』(05年)で知られるジャド・アパトー。
セス・ローゲンやジョナ・ヒルなどアパトー一派と呼ばれる俳優・監督を大勢率いているアメリカン・コメディの支配者だ。
だが本作のもうひとつの魅力は、非アパトー組が集結した無駄に豪勢なキャストである。
エイミーを演じる主演はアメリカで大人気のコメディエンヌ、エイミー・シューマー。
そんなエイミーの相手役は、声優としての評価も高いビル・ヘイダー(この人だけアパトー組です)。
そしてエイミーの妹役にブリー・ラーソン! 『ショート・ターム』(13年)や『ルーム』(15年)で近年頭角を現したオスカー女優だ。
エイミーが働く出版社の仕事仲間にティルダ・スウィントンとエズラ・ミラー。『少年は残酷な弓を射る』(11年)の親子ですよ!
ほかにも、劇中映画ではダニエル・ラドクリフとマリサ・トメイが出ているし、映画終盤ではマシュー・ブロデリックが本人役で登場する。
本作のティルティルはニューヨークにある出版社の編集長なので超ケバい!
何気ない会話の中にもさまざまな映画・俳優を引用した小ネタが盛り沢山、おまけにほとんどのキャラクターが毒舌なので会話劇としても非常に楽しめます。
ここで、藪から棒に「エイミーの一言余計な名ゼリフTOP3」をご紹介。
ビル・ヘイダーにスポーツ嫌いをアピールしていて一言…
「大体、いい大人がジャージって。しかも選手の名前入り。囚人なの?」
妹の旦那(トム)の服装を見て一言…
「トムのセーター好きよ。性犯罪者みたい」
自分を介抱してくれるビル・ヘイダーに訴えかけた一言…
「お腹空いた。なにも食べてないの…。朝から食べたのはポテトチップスくらい。あとはスタバでケーキを食べた。あと小さいスコーン2個。タコスも食べたけどすぐ消化した」
性格最悪、アル中、尻軽、ハッパ吸い、毒舌、食い意地の権化などなど…、とにかくどうしようもないヒロインだけど、なぜか憎めなくて笑ってしまうんだよ。個人的には「皮肉屋」とか「スポーツ嫌い」とか「理性と諦念の呪いにかかってる」という共通点もあって。
何より、お世辞にも綺麗とは言えない小デブのエイミーが、喧嘩別れしたビル・ヘイダーに愛を伝えるためにチアリーディングを披露するクライマックスだけ妙にかわいく見えるという。
周囲のチアガールたちの動きについて行けず、ヒィヒィいいながら死に物狂いで踊ってるんだけど、汗だくで愛嬌を振りまく、その必死な姿が妙にキュート!
トランポリンダンクのオチに至るまで完璧。