ロッキー最新作。
2018年。ライアン・クーグラー監督。チャドウィック・ボーズマン、ブマイケル・B・ジョーダン、ルピタ・ニョンゴ。
絶大なパワーを秘めた鉱石「ヴィブラニウム」が産出するアフリカの国ワカンダは、その恩恵にあずかり目覚しい発展を遂げてきたが、ヴィブラニウムが悪用されることを防ぐため、代々の国王の下で、世界各国にスパイを放ち、秘密を守り通してきた。父のティ・チャカの死去に伴い、新たな王として即位したティ・チャラは、ワカンダの秘密を狙う元秘密工作員の男エリック・キルモンガーが、武器商人のユリシーズ・クロウと組んで暗躍していることを知り、国を守るために動き始めるが…。(映画.com より)
おはよう、みんな。膝の調子どう。
僕は左膝が痛いので、雑談する元気がありません。ていうか今回はレビューまるごと大いなる雑談みたいなもんなので、さっそく参りたいと思います。
◆坊ちゃん登場◆
『ブラックパンサー』である。『ブラックパンサー』であるが、退屈すぎて意識が飛びかけながら観ていたので、あまり正確には記憶していない。
したがって今回は僕ひとりでは到底語れそうにないので、元気100パーセント坊ちゃんをお招きして対談形式でお送りすることにいま決めた。
あ、来た来た。向こうから走ってきた。
元気100パーセント坊ちゃん
いつも包丁を持って町内を走り回っている元気な男の子。
映画好きで、近所に住んでいるふかづめを師と仰いでいるが、誤って包丁でふかづめを刺した過去がある。趣味はどぶさらい。
◆思いきり間口を広げたブラックスプロイテーション◆
坊ちゃん「おはようございます!」
ふかづめ「やぁやぁ。今日も元気100パーセントだねぇ。その名に恥じぬ元気っぷり」
坊ちゃん「ふかづめさん一人では『ブラックパンサー』評が書けないというので、呼ばれて来ました! 幸い僕も『ブラックパンサー』を観たばかりなので、対談するにはちょうどいいタイミングですね!」
ふかづめ「あぁ、坊ちゃんも『ブラックパンサー』観たの? まぁ、キミは僕のイマジナリーフレンドだから観ているのは当然なんだけどね」
坊ちゃん「え、僕って架空の存在なの? でも、そしたら『ブラックパンサー』に対するふかづめさんの乏しい知識量と僕の知識量はまったく同じってことになりますよね?」
ふかづめ「あ、ホントだ。僕ひとりでは実のある話ができないと思って坊ちゃんを助っ人に呼んだけど、その坊ちゃん自体が僕の脳内で生み出した空想上の友達だから、結局『ブラックパンサー』を語れない人間が2人いるというだけの話になってしまうね。ダメだこりゃ。坊ちゃんなんか召喚するんじゃなかった。やっぱり一人で書くから帰ってくれない?」
坊ちゃん「そんな寂しいこと言わないで。元気に語っていきましょうよ!」
ふかづめ「坊ちゃんはいつだって元気100パーセントだなぁ。時として嫌になるほど」
坊ちゃん「僕はこの映画、楽しみましたけどね。黒人の監督による黒人を主人公にしたアメコミ映画って初めてじゃないですか。ましてや『ドクター・ストレンジ』(16年)の配役がホワイトウォッシュだといって批判された矢先ですから。ワガンダフォーエバー!」
ふかづめ「ワガンダフォーエバーっていうかスパイク・リー!だよね」
坊ちゃん「まぁ、ある種ね。スパイク・リーは『マルコムX』(92年)を撮ってますから。もともとスタン・リーの原作コミック『ブラックパンサー』が発表されたのが1966年で、奇しくも同じ年にブラックパンサー党がオークランドで結成されたんですよ(1960~70年代にかけて黒人解放闘争を展開していた過激な政治組織のこと)」
ふかづめ「ンーフーン」
坊ちゃん「でもこの映画のおもしろいところは『ブラックパンサー』というタイトルなのに、マルコムXのような攻撃的な黒人解放指導者が主人公ではなく、それどころか人種差別のモチーフすら出てこなくて、純粋なアフリカ讃歌になってるところだと思うんです」
ふかづめ「ずいぶん語ってくれるじゃない。まぁ、早い話がブラックスプロイテーション(アフリカ系アメリカ人をターゲットに作られた黒人映画)の間口を思いきり広げました、って映画なんでしょ?」
坊ちゃん「ある種ね。そういう読みも可能です。もともとブラックスプロイテーションというのは黒人だけが観るような非常に狭いマーケットで、いわばアンダーグラウンドの文化だったけど、近年ではオバマ政権からトランプ政権を過渡期として黒人が主人公の映画が爆発的に増えてますからね」
ふかづめ「ただし『ブラックパンサー』にはトランプ政権に対するカウンターという政治的な意図はなく、あくまで商業ベースに乗せたアメコミ映画として割りきっている」
坊ちゃん「そこが気持ちいいんですよ。ワガンダフォーエバー!」
ふかづめ「うるせえぞ、それ」
ブラックパンサー党の創設者ヒューイ・P・ニュートン(画像右)と、ブラックパンサー(画像左)。くりそつ。
◆DCエクステンデッド・ユニバースかと思った◆
坊ちゃん「ふかづめさんはなぜ退屈したんですか?」
ふかづめ「映画としてパッとしないからだよ。これって早い話が『ライオン・キング』(94年)の世界観で『バーフバリ』(17年)しましたって内容で。筋としては単純なんだけど、どんどんサブストーリーが横に広がっていって、次から次にキャラクターが出てきて…っていう多要素の映画になってるじゃない」
坊ちゃん「たしかに、最初から最後まで世界観が広がっていくのでボリューム満点でしたね」
ふかづめ「個人的な話になるけど、『ドクター・ストレンジ』あたりからアメコミ疲れを起こしてて、もはや惰性で観てしまっているんだ。僕の中でマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)は『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16年)で飽和化してるんですよ」
坊ちゃん「乗りかかった船だから最後まで付き合おう…っていう謎の義務感ですね。僕の場合は『ハリーポッター』(01年)がそれでした」
ふかづめ「映像的には視覚効果の洪水で、特に背景合成と質感・重力表現に難ありだと思った。アクションシーンになると途端に画が軽くなっちゃう。たとえば『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14年)や『マイティ・ソー バトルロイヤル』(17年)では『軽さ』を『鮮やかさ』にうまく変換してたから見る楽しみがあったし、細やかな質感や重力表現もアクションの快楽原則に沿っていたけど、こっちはまるでビデオゲームのムービーシーン」
坊ちゃん「主演のチャドウィック・ボーズマンをはじめ主要キャストのほとんどが動けない役者ですから、そこはどうしても視覚効果に頼らざるを得なかったんでしょうね」
ふかづめ「DCエクステンデッド・ユニバースかと思ったよ。ザック・スナイダー、一枚噛んでる?みたいな。ただ、韓国カジノでの長回しはよかったけどね。役者の技斗はさておき」
坊ちゃん「あれ『キル・ビル』(02年)ですよね」
ふかづめ「『キル・ビル』の青葉屋のシーンだよ。違いがあるとすれば、舞台が韓国で栗山千明が棘つき鉄球を振り回さないこと」
『キル・ビル』の青葉屋シーン。ルーシー・リューの「ヤッチマイナ!」は当時映画ボンクラの間ではちょっとした流行語に。
◆そして話は『ロッキー』へ◆
坊ちゃん「キャストについてはどうでした?」
ふかづめ「主人公のブラパンを演じたチャドウィック・ボーズマンは、ボーズマンって名前がイヤだなって思った」
坊ちゃん「ブラックパンサーをブラパンって略さないでくださいよ」
ふかづめ「あと、『クリード チャンプを継ぐ男』(15年)のマイケル・B・ジョーダンが悪役を演じてるけど、ブラパン国王に試合を申し込んでKOするのが気持ちよかったね! アポロの息子だからそりゃあ強いわけですけど」
坊ちゃん「『ロッキー』(76年)の世界観とクロスオーバーしてません?」
ふかづめ「え、もともとMCUってクロスオーバー企画でしょ? あの決闘シーンでシルベスター・スタローンをセコンド役に出していれば完璧だったよね!」
ブラパンと王位争奪戦をするのは某チャンプを継ぐ男。なんぼほど王座を継ぎたいのか。
坊ちゃん「スタローンの代わりにフォレスト・ウィテカーがレフェリーでしたね」
ふかづめ「ウィテカーって最近こんな役ばっかりだよな。肩揺らしながら粋がって喋ってたらいつの間にか死んでた…みたいな長老的ポジション」
坊ちゃん「肩揺らしますよね、ウィテカーって。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16年)でも、肩揺らしながら長老ムード出して喋ってたらいつの間にか死んでましたもん」
ふかづめ「イキる、喋る、そして死ぬ。みたいな」
最近死亡率が高いウィテカー先生。
坊ちゃん「MUCはこのあと『アントマン&ワスプ』(18年)と『キャプテン・マーベル』(19年)が控えてますよ!」
ふかづめ「前作が好きだから『アントマン&ワスプ』は楽しみだけど、『キャプテン・マーベル』にブリー・ラーソンだけは起用しないでぇー!」
坊ちゃん「『フリー・ファイヤー』(16年)、『キングコング: 髑髏島の巨神』(17年)と、近年ヤケに商業ベースに乗ってきましたね」
ふかづめ「今いちばん伸び代のある怪物的ポテンシャルを秘めた女優だから、正直なところ、あまりこういう映画に寄り道しないでほしいんだ…。ブリー・ラーソンを巻き込むな、マーベル!」
続々公開!
坊ちゃん「『ブラックパンサー』からだいぶ脱線しましたね」
ふかづめ「だいぶ脱線した。気がついたら『キル・ビル』とか『ロッキー』の話してた」
坊ちゃん「まぁ、アメコミ疲れを起こしてる人にはノレない作品かもしれませんね」
ふかづめ「それは本当に申し訳ないと思ってるんです。まじめにレビュー書く気がないから坊ちゃん呼んで雑談回をしてみたけど、いま思えば苦し紛れにもほどがあった。読んでくれた人に申し訳ないよ」
坊ちゃん「しかも僕、イマジナリーフレンドですからね」
ふかづめ「そのうえ案の定、実のある話もできなかったしね」
坊ちゃん「まぁ、ワガンダフォーエバー!って言っときゃ、みんな納得してくれますよ」
ふかづめ「え、そうなの? ワガンダフォーエバー!」
坊ちゃん「やっぱりダメでしょうね」