実はデトロイト・コップ! 郷に入っては郷に逆らえ!
1984年。マーティン・ブレスト監督。エディ・マーフィ、ジャッジ・ラインホルド、ジョン・アシュトン。
幼なじみを殺害された黒人刑事アクセル。彼は上司の反対を押し切って真相を暴くためロスへやって来る。そして現地の二人組の白人刑事を味方につけ、悪の組織を叩きつぶす…。(Yahoo!映画より)
おはようございます。俺です。
今宵は拙宅で餃子パーティーが開かれるので、明日、もしかすると明後日も更新をお休みします。無期限活動休止です。
ていうか餃子って気分じゃないんだけどね。
できれば一人で映画を観てレビューを書きたいのだけど、お友達から半強制的に餃子を焼かせられます。夜通し。
なんてお友達なんだ。持つべきではなかった。というわけで本日は『ビバリーヒルズ・コップ』をお見舞いするぜ。
◆時代精神が生んだデタラメなモンスター◆
20年ぶりに観返したが、びっくりするぐらい内容を覚えていなかった。事実上の初見である。したがって私が懐かしさを感じたのは映画そのものではなくハロルド・フォルターメイヤーが手掛けたあのスコアである。
当時の私はこの曲の中毒だった!
いま聴くとなんてマヌケな曲なんだ!
されど気分は最高! どういうメカニズムだ!?
さて、本作は「お喋り黒人」というポジションを確立したエディ・マーフィの出世作だ。
私はエディ・マーフィ世代だが、おそらく私より下の世代の人たちはあまり知らないのではないか。
なぜならエディ・マーフィとはバカが勲章だった80年代と勢いだけでどうにでもなった90年代の時代精神が生んだデタラメなモンスターであり、ゼロ年代の夜明けとともに灰と化していったドラキュラのような俳優だからである。
アメリカ同時多発テロとイラク戦争。ここら辺を端境期として、ポップカルチャー全般から「野放図な陽気さ」が失われたように思う。
アクション映画に出てくる敵は悪徳企業からテロリストに変わり、筋肉映画は軒並み淘汰された。スタローンは筋肉を封印してレース映画とかサイコスリラーに出始めたし、シュワちゃんは知事に転身してカリフォルニアにトンズラこいた。コメディ映画に目を向けても、ジム・キャリーはハートフルコメディ路線でヒューマニズムを高らかに謳いあげ、ロビン・ウィリアムズはサスペンス映画に活路を見出した。
当然、エディ・マーフィだけが取り残されることになる。彼に出来るのは「べらべら喋ること」と「べらべら喋りながらアクションすること」だけなのだから。
個人的にはエディ・マーフィの映画にあまり思い入れはないが、この人自身は好きだ。
私は特定の時代の中でしか輝けず次代に適応できない不器用な人間特有のペーソスフェチなので、マイケル・キートンとかヴァル・キルマーとかも大好きなのである。女優でいえばブリジット・フォンダとかね(一瞬で消えたなー)。
『ビバリーヒルズ・コップ』は、そんなエディ・マーフィを一躍トップスターにしたメガヒット映画である。
◆郷に入っては郷に逆らえ!◆
ビバリーヒルズが舞台なので、てっきりエディ・マーフィはロサンゼルス市警だとばかり思っていたがデトロイト市警だった。びっくりした。うらぎられた。
本作はデトロイト市警察本部で問題ばかり起こすマーフィ刑事が、何者かに殺された親友のためにビバリーヒルズにやってきて真相を突き止めるという筋なのだ。
だから厳密には『デトロイト・コップ』なのである。
ロボコップはデトロイト市警であり、しかもロボコップの中の人の役名はアレックス・マーフィ。
マーフィばっかりやないか、デトロイトの警察。
エディの方のマーフィとロボの方のマーフィに守られているのだから、さぞかしデトロイトは安泰に思えるが、ご存知の通りデトロイトは全米屈指の犯罪都市。自動車産業の衰退と人口減少から2013年に財政破綻してゴーストタウンと化した(いくらでもゾンビ映画が撮れるほど市全体が廃墟)。
まさか30年後のデトロイトがこんなことになるとは夢にも思わないマーフィ刑事は、休暇を使ってビバリーヒルズに赴く。
ゴーストタウンと化した近年のデトロイト。完全に『北斗の拳』の世界。
本作のおもしろさは、デトロイトから来たよそ者のマーフィ刑事がビバリーヒルズ警察を巻き込みながら麻薬密輸に関わっている大物を追い詰めていく過程で、徐々にビバリーヒルズ警察から「デトロイト市警もなかなかやるじゃん」と認められて仲良くなっていく…という「個」と「組織」のバディ感にほかならねえ!
ビバリーヒルズ警察のロニー・コックス警部補は、「郷に入っては郷に従え!」と言ってマーフィのデトロイト流のムチャな捜査を快く思わず、ジャッジ・ラインホルド刑事とジョン・アシュトン巡査部長にマーフィを尾行させる。刑事が刑事を尾行するというさまが実にアホらしく、いかにも能天気な80年代という感じだ。
有能デカのマーフィにとって、ラインホルドとアシュトンの尾行をまくことなど朝飯前。そのたびに二人はコックス警部補からバチバチに怒られてマーフィを逆恨みするが、徐々に三者のあいだに州を越えた刑事同士の友情が芽生えていく。
ちなみに警部補を演じたロニー・コックスは『ロボコップ』(87年)にも出ており、そちらでは悪役を演じている。クソややこしいわ。
少し感動的なのは「形式主義で礼儀を重んじる」といういささか堅苦しいビバリーヒルズ警察の組織風土によそ者のマーフィが変革をもたらすことだ。
郷に入っては郷に逆らうのがマーフィのやり方さ!
「もっと肩の力を抜けてカジュアルにいこうよ!」というマーフィに感化されて、石頭のコックス警部補やアシュトン巡査部長のモノの考え方が少しずつ柔軟になり、本来はカジュアルな人間だが上司が怖いので形式主義に迎合していたラインホルド刑事はありのままの姿でレリゴーする。
一人のよそ者の圧倒的なカリスマ性が組織風土を変えていく…という本作は、まさに日本人好みの映画と言えるだろう。新任教師が学級崩壊を立て直すドラマや、不可能と思われていた事業を大成功へと導く朝ドラが掃いて捨てるほどあるのだから。
これは『ジャパニーズ・コップ』としてリメイクすべき日本向きのハリウッド映画だ!
仕事のできない刑事ジャッジ・ラインホルド(左)と、いつもツンツンしてる巡査部長ジョン・アシュトン(右)。
◆書くことなくなったのでついで話◆
「個」と「組織」のバディムービーとして観てもおもしろいが、やはり本作の醍醐味はエディ・マーフィのマシンガントーク。
ビバリーヒルズの高級ホテルにやってきたマーフィは予約なしで宿泊できた。それもスイートルームをシングル料金で。なぜか? 口が立つからだ。
「ローリングストーン誌のエディ・マーフィーだ。なに、予約が取れてないだと? ふざけんな! 今日はマイケル・ジャクソンの独占取材をしに来たっていうのに。記事はアメリカのメジャーな雑誌で紹介される。見出しは『世界のキング、マイケル・ジャクソン』にするつもりだったが、やっぱり違うのにしよう。『世界のキング、マイケル・ジャクソンもビバリーヒルズのホテルには泊まれない』ってな。黒人はお断りだから!」
このように強気なハッタリをかまして予約なしで高級ホテルに泊まったり、会員制のレストランに入ったり、保税倉庫に堂々と入って積み荷を開けさせたりするのだ。筋肉映画の主人公は力任せに無理を通すが、エディ・マーフィーは弁舌を振るって無理を通す。
将来詐欺師になりたい人はエディ・マーフィの映画を観るといいだろう。話術の宝庫だ!
マーフィ「何も問題ねえさ。グー!」
グーやあるか。屈託のないスマイルしやがって。
・ちなみに本作は当初シルベスター・スタローンが主演する予定だったが、スタローンが「コメディ要素を排すること」と「主人公の名前をコブラにすること」という厳しい条件を突きつけたために降板させられ、代わりにエディ・マーフィが抜擢された。
その後、本作に突きつけた条件をスタローンが自らの手で実現した作品こそが『コブラ』(86年)である!
・ちなみのちなみに、次作『ビバリーヒルズ・コップ2』(87年)ではラインホルド刑事の部屋に『コブラ』のポスターが貼られているが、これはリスペクトに見せかけたディスリスペクトだろう。「結果的にエディ・マーフィを主演にしたことで大ヒットしたよ。ゴネてくれてありがとう、コブラ!」てな具合に。
だが『コブラ』もヒットしたし、『北斗の拳』におけるケンシロウのキャラクター造形にもかなりの影響を与えた重要作である。
・ちなみのちなみのちなみに、『コブラ』は『ターミネーター』(84年)のポスターデザインを意図的に模倣している。スタローンとシュワちゃんはライバルだからだ。
・ちなみのちなみのちなみのちなみに、『コブラ』と同年に公開されたシュワちゃんの主演作は、日本の配給会社の計らいで『ゴリラ』(86年)と題された。「そっちがコブラなら、こっちはゴリラだ!」とばかりにスタローンとシュワちゃんのライバル関係を強調するための策だが何ともアホらしい。発想がヘビとマングース。
◆書くことなくなったので役者紹介◆
エディ・マーフィとロニー・コックス以外に紹介すべき役者がいるとすれば、悪の親玉を演じたスティーヴン・バーコフだろう。
ルトガー・ハウアーとかアクセプトのボーカル(ヘビメタバンド)に似ている強面俳優として、『007 オクトパシー』(83年)や『ランボー/怒りの脱出』(85年)で冷酷な悪役を演じた名悪役俳優。
キャリア初期には『時計じかけのオレンジ』(71年)に出演していたり、近年では『ドラゴン・タトゥーの女』(11年)に出ていたりと、何気に息の長い俳優である。
しょうがないのでジャッジ・ラインホルドも紹介してやろう。
大ヒット青春映画『初体験/リッジモント・ハイ』(82年)でフィービー・ケイツやショーン・ペンらと売り出されたがそれ以降は鳴かず飛ばず。ジェームズ・スペイダーやジョン・キューザックに取って代わられた感が否めない不憫な役者である。
『ビバリーヒルズ・コップ』全3作のレギュラーなのでこのシリーズだけがラインホルドの代表作と言えるだろう!
超有名な『グレムリン』(84年)にも出演しているが、『グレムリン』の主役はグレムリンだし、それでなくとも爆発的人気を誇っていたフィービー・ケイツがヒロインを演じているので、誰もラインホルドの存在には気づかないはずだ。せつない話である。
そしてエディ・マーフィへと一巡する。
この映画でメガヒットを飛ばしたあとシリーズは3作まで続き、ほかにも『星の王子 ニューヨークへ行く』(88年)、『ドクター・ドリトル』(98年)、『ホーンテッドマンション』(03年)などで大ヒットを飛ばしマネーメイキングスターになるが、それ以降はすっかり飽きられて出演作は軒並み赤字。
「もうええで」とばかりに2016年にはハリウッド功労賞を授与されてお払い箱にされた感が否めないが、エディ・マーフィのお喋リズムはマーティン・ローレンスやクリス・タッカーへと受け継がれている。
マーフィの血は絶えぬ!
この論理の欠点はマーティン・ローレンスやクリス・タッカーも落ち目なこと。