ジョン・ボン・ジョヴィ主演作! ~だがファン・ジョヴィからすれば「こんな映画に出てないで曲作れ」としか言いようのない事態が巻き起こってる~
2002年。トミー・リー・ウォーレス監督。ジョン・ボン・ジョヴィ、ナターシャ・グレグソン・ワグナー、ディエゴ・ルナ。
仲間を次々とヴァンパイアの餌食にされた、ヴァンパイア・ハンターのデレク。凄惨な現場を幾度となく目撃した彼は、ヴァンパイア退治に執念を燃やし、新たな仲間を従えてヤツらを追いつめていく。しかし、ヤツらのリーダー格である女吸血鬼が“黒の十字架”を手に入れ、暗闇だけでなく白昼堂々と行動できる絶対能力を得てしまうのだった…。(映画.comより)
どうもおはよう。
ついぞハードロックを聴いたことのない人に向けて、私はよくボン・ジョヴィのCDを貸したりするのだけど、そこで人気があるのは「Wanted Dead Or Alive」と「If I Was Your Mother」なんだよね(どちらも代表曲ではないし、「If I Was~」に至ってはアルバム曲)。
数多あるヒット曲を差し置いての、この選曲。
私も好きな曲だけど、どちらかといえば何度も聴くうちに好きになっていった…というこの2曲を、一聴するだに「好き!」と思える、その感性…。だいじにして。
そんなわけで本日は『ヴァンパイア/黒の十字架』です。ボン・ジョヴィは好きですか?
◆タケノコ銃でヴァンパイアを狩るジョン。それがお前のイッツ・マイ・ライフだと言うのなら止めはしないがコンサートで客にサビ全部歌わせるのはやめて◆
ボン・ジョヴィにおけるボン・ジョヴィ…すなわち歌係のジョン・ボン・ジョヴィが主演を務めた低予算ヴァンパイアお粗末アクションホラーの金字塔。
本作でジョンが演じた役はヴァンパイアハンターです。
映画が始まると、売春婦が路地裏で兄ちゃんにカミソリを突きつけられ「やめて」と懇願するシーンに始まる。そこへ現れたジョンは、カミソリ兄ちゃんの後頭部に珍奇な形状の銃を突きつけ「痛い目に遭いたくなきゃ、やめな」って言います。「俺はヴァンパイアハンターなんだぜ」とも言います。ヴァンパイアハンターという概念を理解しているどうか分からない次元の相手に「俺はヴァンパイアハンターなんだぜ」と言っても50%の確率で伝わりませんが、ジョンは伝わる方に賭けたのでしょう。
しかも、しかもです! ジョンが手にしているのは銃口部分にタケノコを装着した珍奇形状の銃なんです。
このタケノコ銃で春を先取りしていくスタイルなのでしょうか!
カミソリ兄ちゃんにタケノコ銃を突きつけるジョン。
タケノコ銃のようす。
ところがです。刹那、ジョンは売春婦に銃口を向け、とびきりのタケノコを発射させました。
売春婦「ぎゃあー。見破られたー!」
そう! 売春婦の正体はヴァンパイアだったのです!! さしずめ売パイアといったところでしょうか。
立て続けにジョンは、聖なる杭を売パイアの首に打ちつけました。すると売パイアは「あかん燃える燃えるあかーん」と叫びながら灰と化しました。そしてジョンは「イッツ・マイ・ライフ」と呟き、その路地裏を後にしたのです!!!
売パイア「こらかなん」
観る者にのっけから視聴中断を検討させるB級噴出のアバンタイトル。
うなる雑編集! 荒ぶる三流撮影! やっつけ特殊メイクがフィルムに轟く! ついに物語はタケノコの香りを漂わせながら本編に突入! 今解かれしジョン・ボン・ジョヴィの大根芝居がスクリーンに嵐をよぶ!!
こんな映画に出てないで曲作れとしか言いようのない事態が巻き起こってるわ。
ではここでボン・ジョヴィ・ヒストリーの一端を紐解いていこう。
隙あらば俳優業に手を出そうとするボンちゃんは『U-571』(00年)や『ニューイヤーズ・イヴ』(11年)など数々のハリウッド映画に出演してきたロックスターである。
その恵まれた容姿から80年代のセックスシンボルとしても知られるジョン・ボン・ジョヴィは、3rdアルバム『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』(86年)で全世界2800万枚のセールスを記録したロックシンガー。女性ファンを取り込みながら一躍世界的バンドになったが、それだけにポップでキャッチーな音楽性を嫌悪するロックファンも多く、シーン界隈にはボン・ジョヴィをハードロックと認めないアンチ勢…通称アン・チョビたちが日夜さまざまな町に跋扈しているという。
そんなボン・ジョヴィであるが、6th『ジーズ・デイズ』(95年)ではオルタナ/グランジブームに乗っかり脱ハードロックの道へ。また、長年声帯を酷使してきた影響から、ついにジョンの喉が大爆発してしまう。これを機に、7th『クラッシュ』(00年)以降はハードポップ&カントリー路線に転向。そんな自分たちを自己肯定するようにして生み出した「It's My Life」は世界的にヒットし、全盛期の甘美さを「渋さ」に変えたボン・ジョヴィは“大人のロックを鳴らすベテランバンド”として第二黄金期を迎える。ベテランだからか、コンサートにおいて往年の高音ナンバーを演るときはサビをぜんぶ客に歌ってもらうという介護システムをいち早く導入してもいる。
ちなみに私、この“客に歌わせるシステム”には甚だ懐疑的です。ある種の人たちにとって、コンサートとは「生演奏を聴くもの」ではなく「共に歌って一体感を楽しむもの」という感覚なのだろうが、不肖ふかづめはこれを“逃げの一手”と理解するね。「金払って生演奏を聴きに来てるのに、何が悲しくてワシが歌わなあかんねん。歌うのはそっちの仕事やろがいヴォケ」と思ってしまうのだ。
私がこんなことを言うと、決まって「会場の一体感がどうのこーの」と吐かす奴が現れるのが世の常だが、これに関しては「発想がパリピだから、おまえをしばく。一体感など幻想。ファンなら音楽と“対峙”せんかい。いいか、小僧。まず聴け。すぐ一体感とか言うな。音楽と向き合って、それを対象化しろ。ロクに聴きもせん内から“一体感”とか、大それたこと言うな。おまえは壮大なスケールで描かれた一大叙事詩か?」と思うし、「とはいえ高音パートをフォローするのもファンの務めじゃん。それがコンサートの醍醐味でもあるじゃん」などとぬかす輩に対しては「ファンの務め? 発想がアニオタだから、すぐアニメイト行け、おまえは。しょせん受け手に過ぎない我らは客風情。さらぬだに『務め』などとのたまい、あたかも表現活動の一翼を担っているかのような言い回し。そんなものは消費者のエゴだ。思い上がりも甚だしい。われわれに付け入る隙などない。…小僧よ。『務め』などとやたらな事を口にするのは、そのバンドのサポートメンバーとしてツアーに同行できる腕を磨いてからにするんだな」なんてことを思っちゃうんだよね~。
あー…で、何の話だったか?
ボン・ジョヴィか。そうか。
じゃあここらで一発、これさえ聴けばキミもファン・ジョヴィ! ボン・ジョヴィ入門定番ソングTOP3 ~ノド爆発後の「イッツ・マイ・ライフ」以降は無視~の発表です。
「Runaway」
伝説はここから始まった。のちに世界を獲ったボン・ジョヴィの記念すべきファースト・シングル。邦題は「夜明けのランナウェイ」。
この3年後に「You Give Love a Bad Name」と「Livin' On a Prayer」で世界を股にかけちゃうモンスターバンドに急成長するわけだが、結局のところ金のニオイがしない「Runaway」が一番格好よかったりする。スリリングなキーボードに始まり、あまりにクサいドラムの入り方。だが今となっては一周してクール。
「Livin' On a Prayer」より断然好きだな、俺は。「ウ~~~~シズリルラナウェイ♪ 」と口ずさみながらパジャマに着替えるのが日課だった頃もある。最後のファルセットとか、いかにも喉に悪そう。でもそれがハードロック。
(YouTubeより無断転載)
「You Give Love a Bad Name」
ボン・ジョヴィ初の大ヒット曲。邦題は「禁じられた愛」。
「シャツが破!」のクロスチョップ一発で決まり。このサビのフレーズが全てだが、それ以上に耳に残るのはリフ。
それにしても「シャツが破!」という不思議な歌詞…。キミへの愛がすごすぎてシャツがビリビリに破ける…といった意味なのだろうか? 現在調査中。
(YouTubeより無断転載)
「Livin' On a Prayer」
向かうところ敵なし状態で発表されたボン・ジョヴィ最大のロック・アンセム。
歌詞に出てくるトミーとジーナは、14年後にリリースされた「It's My Life」にも登場する。
それはそうと、きみはロンドン市内に出没するリヴィン・オン・ア・おじさんを知っているだろうか? サビの「ウォ~オ~~♪」をオーディエンスに委ねることでお馴染みの他力本願ソング「Livin' On A Prayer」をロンドンの地下鉄でひねもす歌い狂う、謎の一般男性である。当初、彼の奇行は乗客に笑われていたが、徐々に合唱仲間を増やし、やがては公園中の人間を味方につけて大合唱するまでに至った。これぞ無血革命。これぞハードロックの力や!!!
(YouTubeより無断転載)
他にも「In These Arms」とか「Dry County」とか色々あるけど、ひとまず打ち止めだな。キリがねえ。
ちなみに私の一番好きなアルバムは、日本の歌曲「さくらさくら」がイントロに使われた「Tokyo Road」が収録されていること以外に取り立てて語るべき点のない2ndアルバム『7800°ファーレンハイト』(85年)です。凡盤マニアとしては、このアルバムの凡庸さは論ずるに値する。
なうジョヴィ。デビュー時からボンジョヴィ・サウンドを司ってきたリッチー(Gt)が脱退してしまい魅力半ジョヴィになってしまった。
◆出会った端から仲間になっていく登場人物たち。そしてヴァンパイアの倒し方が雑◆
さて、映画の話に戻ろう。
メキシコでヴァンパイアが悪さをしてるという報せを受けたジョンは、自慢のタケノコ銃を引っ提げメキシコに向かう。薄汚いジープで。
されど、ジョンも人の子。銃はタケノコだが、ジョンは人の子。時間経過に伴い腹が空くのは蓋し道理である。ちゅこって、道中ダイナーに立ち寄ると隣の席には謎めいた女。「謎めいているなぁ~」とボヤいたジョンは、トイレに行くふりをしてガラス越しに女を観察した。体温計つきの双眼鏡で。するとその女には体温がなかったので「ありゃヴァンパイアだ」と結論したわけだが、おまえ…ヴァンパイアハンターなのにそんな道具に頼らないとヴァンパイアとヒューマンビーンの見分けもつけないわけえ? って、俺おもったな~。
ていうか、タケノコ銃といい、聖なる杭といい、体温計つき双眼鏡といい…道具好きよな、こいつ。
ところが、その謎めいた女…ナターシャ・グレグソン・ワグナーはヴァンパイアではなく、ヴァンパイアとヒューマンビーンのハイブリッド…いわば半パイアだって言うのよ。
ジョン「へえー」
ナターシャ「おもしろいでしょう?」
別におもろないわ。
ほいで、なんかよく分かんねぇけどナターシャが仲間に加わったというんだわ。
余談だけど、ナターシャ・グレグソン・ワグナーといえば『理由なき反抗』(55年)や『ウエストサイド物語』(61年)で知られるナタリー・ウッドの娘だね。クリストファー・ウォーケン主演の『ブレインストーム』(83年)の撮影中に43歳で亡くなったナタリーのことを僕は忘れませんよ。忘れてなるものか…。
半パイアのナターシャ。
ヴァンパイアの頭目は、高速運動を得意とするアーリー・ジョバーであった。やたら俊敏な動きで、ヒューマンビーンたちの喉を切り裂き、血を吸うというのだ!
何やらこの女が「黒の十字架」を教会から奪ったらしく、その十字架とヴァンパイアハンターの血を使って特別な儀式をおこなえば白昼堂々とお天道様の下を歩けるようになるんだって。太陽という弱点を克服するべく、ジョバーは次なる目的をジョンの血に定める!
余談だけどこのアーリー・ジョバーさん、やたらファイナルファンタジー顔をしていたわ。
格好よろしわ。
さて。教会に着いたジョンとナターシャは、ハンター志望の小僧ディエゴ・ルナ(幼い!)と出会い、成り行きで仲間に加えます。
まあ、成り行きといえばぜんぶ成り行きなんだけどね。今のとこ。この映画。
ビタ一文たりとも面白くないし。
そんな3人の前に現れたのが教会の神父、クリスチャン・デ・ラ・フェンテ。当然成り行きで仲間に加わります。逆に成り行きで仲間に加わらないことがあるの?ってくらい成り行きでポンポン仲間に加わっていくよね。
程なくして、ジョンと同じハンターのダリウス・マクラリーがメキシコの地に降り立った(バスから)。
成り行きで仲間に加わってゆくゥゥゥウッ!
そこへ村長のホノラト・マガロニが現れ「ワシも手を貸してやろう」とか何とかいt…加わってゆくゥゥゥゥゥゥゥゥッ!
この仲間加わり速度たるや、想像を絶するものがあったよ。観る者が「きっとこいつも仲間に加わるんだろうな~」って思い始めたころには既に仲間に加わってるからね。我々の思いに先んじて仲間が増えていく。
それではここでパーティ紹介です。
【ジョン】
職業:ハンター
武器:タケノコ銃、すごいロープ
特技:仲間集め、駄作出演
【ナターシャ】
職業:半パイア
武器:なし
特技:予知能力、駄作出演
【ルナ坊】
職業:ハンター見習い
武器:おもちゃの槍
特技:若気の至り、駄作出演
【クリスチャン】
職業:神父
武器:なし
特技:ハンサム、駄作出演
【ダリウス】
職業:傭兵
武器:銀のおもちゃのショットガン
特技:アヘ顔、駄作出演
【ホノラト村長】
職業:大ジジイ
武器:おもちゃの弓
特技:含蓄のある発言、駄作出演
そんな折、教会から不意にヴァンパイアが現れ、戦闘が始まった!
ジョンはルナ坊に「おもちゃの槍」を装備させ、自身は「タケノコ銃」と「すごいロープ」を装備した。この野郎、自分だけ装備を充実させやがって。
それはそうと、ロープ? そう、ロープである。ヴァンパイア退治に欠くべからざる道具とはロープなのだ、とジョンは説く!
それではここでボンジョヴィ流のヴァンパイア退治法を紹介しよう!
~ヴァンパイアの倒し方講座~
①ヴァンパイアの足にロープを括りつけます。
②MAXパワーで引っ張ります。
③陽のあたる場所まで引きずっていって滅殺します。
④任務完了です。軽い打ち上げを楽しみましょう。
雑。
原理が綱引き。
ダサいことこの上ねぇわ。対ヴァンパイア用の聖なる武具でクールに倒すとかではなく、ロープでふん縛って日光ポイントまで引きずってく…という古き良きカウボーイ・スタイルを良しとしていくスタイル。
見栄えが悪い。
しかも、実際やってることはカウボーイ・スタイルどころか市中引き回しである。
世知辛い。
輪をかけてダサいのはジョンのハードアクションだ。ジョン・ボン・ジョヴィは決して身体能力の高いミュージシャンではないので、当然ながら剣を振ったり格闘したりといった技斗はできない(ことによると訓練すれば出来るようになるかもしれないが、撮影日程や制作意欲の都合上、訓練はしない)。
すなわち「タケノコ銃を撃つ」や「綱を引っ張る」といった身体能力を必要としない単純動作しか出来ないわけだが、そんな描写では到底歴戦のハンターに見えるはずもなく…。そこで制作陣は考えた。
元々まあまあ弱い設定にしよう、と。
そう。曲がりなりにも主人公だというのに、ジョンが演じたヴァンパイアハンターはまあまあ弱い。何度も虚を突かれ、武器を落っことし、敵に殴られると誰よりも遠く吹き飛ぶ男なのだ。得意な事といえばヴァンパイアの足にロープを括りつけることだけ。これに関しては一日の長があったが、いかんせんその他の戦闘技能が低すぎる。
なんなら全ての仲間にそれぞれ1回ずつ命を救われてもいる。
そしてパーティ最弱かと思われたルナ坊が八面六臂の活躍を見せもする(実はこいつがアクション要員だった)。
まったく情けない。何がボン・ジョヴィだ。何が「It's My Life」だ。ポン・ジュノが聞いて呆れるわ。
しかも映画はジョンの身体能力の低さをカバーしようと、無暗にカットをバキバキに割るうえ、早回しやVFXをゴテゴテに盛る始末。
あと言い忘れていたが、本作の映像は90年代ミュージックビデオ並みです。中途半端にデジタルをかじった者特有の“世紀末の悲劇”というか。ショットの野暮さといい、カットの呼吸の悪さといい、すべてがMVやテレビ映画のレベルなんだよね。そして一番の問題は作り手自身がこの程度の映像に充足してること。まったくの無反省というか、そもそも気付いてないんだろうね。監督のトミー・リー・ウォーレスは『IT』(90年)の人ですか。あーん、はんはん。道理でね。
映画後半は、ヴァンパイアの頭目アーリー・ジョバーの根城に辿り着いたジョンたちがロープでふん縛るやつを実行するも途中でロープが千切れて失敗に終わる…というアホみたいなバトルが描かれ、一度村に戻ったジョンが「人間の匂い」を消すべく自らヴァンパイアの血液を体内に取り込み半パイア…もといジョンパイアになる…といった「何か意味あんのか、それ」とムカつかずにはいられないヘボ展開を経て、もっかい根城にゴー。馬鹿の一つ覚えみたいにロープでふん縛るやつを再度実行してアーリー姐さんを撃破します。
アーリー姐さん「焼けるむりむり」
で、おわり。
結局ヴァンパイアの血液を体内に取り込んだ意味は? という絶叫が自部屋にこだましながらの鑑賞終了となりました。おもんね。
フルパワーでロープを引っ張るジョンたちと、柱に掴まり「放したくないー!」と抵抗するアーリー姐さんの息を呑む攻防。
…やれやれだ。アホ満開の映画を観てしまった。
口直しに私的ベスト・ボン・ジョヴィ・ソングの「These Days」のMVを見てみる。これはボン・ジョヴィ中期渾身の曲でしょう。忘れえぬ過去への郷愁をいまに重ねた哀愁炸裂の涙ちょちょ切れソング。泣きのメロディが琴線に触れるわー。
それにしても、なぜセーラームーンが一瞬映ってるんだ、このMV。