指示出し俳優ジーン・ハックマン。人は彼をキング・オブ・コマンダーと呼ぶ(チョイサーとも呼ぶ)。
2003年。ゲイリー・フレダー監督。ジョン・キューザック、レイチェル・ワイズ、ジーン・ハックマン、ダスティン・ホフマン。
ある朝、ニューオーリンズの証券会社で銃乱射事件が発生。犯人は16人を死傷させ、最後には自殺した。そして、この事件で夫を失った女性セレステが地元のベテラン弁護士ローアを雇って、犯人の使用した銃の製造メーカー、ヴィックスバーグ社を相手に民事訴訟を起こす。2年後、いよいよ裁判が始まろうとしていた。被告側は、会社の存亡に関わるこの裁判に伝説の陪審コンサルタント、フィッチを雇い入れる。彼は早速あらゆる手段を駆使し陪審員候補者の選別に取り掛かる。やがて陪審員団が決定するが、その中には謎に包まれた男ニックも含まれていた。(Yahoo!映画より)
おはよう、納税者のみんなたち~。
相変わらず編集画面がバグバグにバグるうえ、運営に問い合わせてもナシナシの梨の礫なので更新意欲がウセウセに失せきっている私がヒビの日々をウツウツの鬱々とスゴスゴに過ごしてるわけだわぁ。
まあ、でも今日はガンガンに頑張って更新します。この姿勢をあなたはどう見るか? 「誇り高い」と見るか、「気高き情熱」と見るか…。まあ、めいめい自由に見てください。なるべく良い目で見て。
そんなわけで本日は『ニューオーリンズ・トライアル』です。めいめい自由に読んで。
◆歓喜! ニューシネティスト垂涎キャスティング! そしてレイチェリング・ワイズリング!◆
法廷映画といえばポスター写真がやたら漆黒&似たり寄ったりの邦題なのでどれも同じに思えてならないが、それでも私は法廷劇が好きっ。
そんな私が「観たい観たいとは思いながらもなんとなく観てこなかった映画ランキング」において堂々の22947位に輝いた『ニューオーリンズ・トライアル』をついに鑑賞。
ニューオーリンズでの銃乱射事件で夫を失った未亡人が大手銃器メーカーに訴訟を起こして老巧の弁護士をつけるも、被告側に雇われた陪審コンサルタントは意のままに陪審員を操作。ところが一人の陪審員がコンサルタントの裏工作を妨害し、被告と原告に「陪審員、売ります」というメモを送りつけて残り11人の陪審員の票を競売にかける…というのが大筋である。
原作は法廷劇フアンの間ではお馴染みのジョン・グリシャム。90年代ハリウッドのリーガル・サスペンスをほとんど手掛けた人物…というのはさすがに過言だが、映画化された作品は『ペリカン文書』(93年)、『ザ・ファーム 法律事務所』(93年)、『依頼人』(94年)、『評決のとき』(96年)、『レインメーカー』(97年)など、まさに漆黒のラインナップ。
本作『ニューオーリンズ・トライアル』は、そんなグリシャム映画の集大成とも言える力作だったねー。
主演は陪審員役のジョン・キューザック。好きな俳優ですよ。ヒヨコみたいな口してるし。ただし70'sアメリカンムービーを観て育った映画好きとしては「事実上の主演はジーン・ハックマンとダスティン・ホフマンである」と声を荒げねばなりません!
下積時代のルームメイトにしてアメリカン・ニューシネマを背負った二大スター、ジーン・ハックマンとダスティン・ホフマンが還暦をとうに過ぎての初共演。この心躍る惹句に興奮しないニューシネティストなんているんですか。もしいるとして、そんな人ってどんな人なんですか。
えらいもんで、この二人の出演作だけでニューシネマの代表作が3分の1埋まってしまい、その燦然たるラインナップは『俺たちに明日はない』(67年)、『卒業』(67年)、『真夜中のカーボーイ』(69年)、『ジョンとメリー』(69年)、『小さな巨人』(70年)、『わらの犬』(71年)、『フレンチ・コネクション』(71年)、『スケアクロウ』(73年)など、まさに宝の鉱脈状態。
ニューシネマ終焉後、ジーン・ハックマンは『ポセイドン・アドベンチャー』(72年)、『スーパーマン』(78年)、『許されざる者』(92年)などで数々の許されざる男を体現し、ダスティン・ホフマンは『クレイマー、クレイマー』(79年)、『レインマン』(88年)、『徹子の部屋』(2013年放送分)といった代表作を生み出し続けている。
ハリウッドの大巨人、ジーン・ハックマン(左)。ハリウッドの小さな巨人、ダスティン・ホフマン(右)。
ハックマンは裁判を裏で操る陪審員コンサルタントの役で、ホフマンは銃規制を訴える老弁護士を演じていた。
その他、被告側の弁護士役を『いちご白書』(70年)のブルース・デイヴィソンが演じているのが嬉しい。さんざん体制に盾突いてきた男たちが法のもとで正義を戦わせる…という構図がなんとも可笑しいものだ。どのツラ下げて…っていう。だって銃規制派のホフマンに至っては『わらの犬』で猟銃ドッカンドッカン撃ってたからね。
また、ほかの陪審員役には『フラッシュダンス』(83年)のジェニファー・ビールスをはじめ、クリフ・カーティス、ルイス・ガスマン、ビル・ナンなど当時のアメリカ映画に欠かせない名脇役が大集合。
そして何といってもジョンキューちゃんに協力する恋人役がレイチェル・ワイズ!
レイチェリングからのワイズリングを見せつけることに成功している。
ヒヨコ俳優ジョン・キューザック(左)とレイチェリング・ワイズリング(右)。
◆ジーン・ハックマンは指示を出す ~キング・オブ・コマンダーの歩み~◆
法廷映画はポスターや題名だけでなくプロットも似たり寄ったりのモノが多いが、この映画の特徴は設定にある。陪審コンサルタントのハックマンが外側から裁判を操作し、陪審員のキューちゃんが内側からそれを妨害する…という図式が目新しいと思ったよ。
大手銃器メーカーに雇われたハックマンの狙いは、陪審員の選任手続きにおいて、自分たち…つまり銃器メーカー側にとって都合のいい陪審員を揃えること。たとえば憲法修正第二条に肯定的な陪審員や、裁判に無関心な意識低い系ピープル、あるいは人の意見に染まりやすい意志薄弱ピープルだけで12人を固め、逆に被害者に同情するような人情派ピープルを排除することで無罪評決の確度を上げていく…という戦略を駆使するわけだ。
ハックマンは人を見極める天才であり、ふとした仕草や服装、口調、癖、目線、身につけている物などから対象の人物像を読むというメンタリストDaiGoみたいなおっさんで、被告側弁護士のブルース・デイヴィソンと共謀してバッグに隠しカメラを装着させ、裁判所の様子をTBSのスタジオからモニタリング。小型マイクで「実はその陪審員は気ままな性格で~。最終弁論で寝返る可能性があることが統計によって分かってるんですよね。だから拒否しましょう!」とデイヴィソンに命じたり、大勢の部下に向かって「実は陪審員の中に銃犯罪の被害者、遺族、関係者がいるかもしれなくて~。研究データから言ってもまず身辺調査すべきなんですよねぇ」と喋り散らかして予備尋問からすでに爆アドを取っていく。
メンタリスト・ハックマン「実は陪審制って意味なくて~」
こうして集められたのが被告側に有利な12人の陪審員なのだが、その中に潜り込んでいたのがキューちゃん。彼は巧妙な立ち回りで陪審フレンドを増やし、少しずつ連帯感を高めて原告側に肩入れさせていくわけだ。
おもしろかったのは、昼食の出前をわざと遅らせたキューちゃんが裁判所前のレストランでランチ決めてた裁判長に事情を説明したあと「空腹だとみんな集中できないからここで食事させてやってほしい」と相談してレストランに11人を招待し、おいしい料理をうまうま食った11人が「裁判長ありがとう!」と感謝。裁判長もまんざらではなく「う、うむ!」なんつって奇妙な友情が育まれるあたり。
裁判長と陪審員を情で繋ぐ…という戦略で環境操作の下地を作っていくキューちゃん。抜け目ないやん(まぁ、実際だと陪審員は評議室を出られないんだけど、そこはまあ映画ですから)。
ただしキューちゃんの目的や正体は依然として謎。一見するとハックマンの妨害工作をしていることから原告側の味方に思えるが、キューちゃんの工作はハックマンが生じさせたバイアスを元に戻すための均一化と力の誇示というふうにも見える。現にそのあとは恋人のレイチェリングと連携を取り合い、原告側のホフマンと被告側のハックマンの双方に対して陪審オークションを仕掛けるのだ。
主人公なのに素性不明で、動機もまったく分からないまま進行する『ニューオーリンズ・トライアル』。おもろいやん。この宙吊りの感覚こそサスペンスやん。これは情婦が出てこない『情婦』(57年)やん!
何かを企んでいるキューとレイチェリング。
ホフマン演じる弁護士は、その正義感の強さからキューちゃんの買収の取引に応じなかったが、ハックマンの汚い裏工作によって追い込まれ、ついに事務所の緊急準備金に手を出そうとする。この辺の職業倫理の葛藤を深く表現したダスティン・ホフマンが途方もなく素晴らしいのだが、やはり役の都合上、今回はハックマンの独壇場であった。
ハックマンは、マイクやモニター越しにあーせーこーせーと指示を出し、キューちゃんに出し抜かれるたびに「実はぜんぜん不利じゃなくてー」と怒鳴ってゴミ箱を蹴るなどしていた。不利やんけ。焦っとるやんけ。
その仕事ぶりがコンサルタントとは思えないほど過激で、敵対するキューちゃんの自宅に部下を侵入させてパソコンは盗ませるわ、再度侵入させてiPodは盗ませるわ、挙句の果てに部屋を爆破して脅しをかけるなどマフィアさながらの指示を出すんである。
すでにご存じだろうが、ジーン・ハックマンという役者はだいたいどの映画でも部下や仲間に指示を出している。
米業界内でも「彼ほど指示を出すことに長けた役者はいない」、「ハックマンが指示を出したがっているのではない。指示の方がハックマンに出されたがっているのだ」など意味不明な賛辞があとを絶たず、40年間のキャリアの中でその指示出し顔を遺憾なく発揮してきたキング・オブ・コマンダーなのである。
それじゃあ、ここいらでジーン・ハックマンの指示の歴史を振り返ってみよう。存分に指示出し顔を堪能するがよい。ジーン・ハックマンが指示を出すとき、何かが起こる…!
『俺たちに明日はない』(67年)でウォーレン・ベイティに指示を出すジーン・ハックマン。
ハックマン「部屋とワイシャツと、最後なんでしょう!?」
ウォーレン「ヒント」
ハックマン「ヒントは金子みすゞ方式です」
『フレンチ・コネクション』(71年)で捕まえたホシに指示を出すジーン・ハックマン。
「おまえが言ってるのは高橋克実の方だろ。ワシは高橋克典の話をしてるのっ」
『ポセイドン・アドベンチャー』(72年)で生存者たちに指示を出すジーン・ハックマン。
「辛味チキン辛くないように作っといてぇぇええ」
『スケアクロウ』(73年)でアル・パチーノに指示を出すジーン・ハックマン。
「そりゃ銀の盾までは遠い道のりだろうさ。『パチーノちゃんねる』たってなあ」
『スーパーマンIV/最強の敵』(87年)でスーパーマンとニュークリアマンに指示を出すジーン・ハックマン。
「恨むがよい。今日は待ちに待ったコミケ初日だというのに入場券を買い忘れたこのワシをな」
『追いつめられて』(87年)でケビン・こなすーに指示を出すジーン・ハックマン。
「なんでコロッケ買ってくんのよ。びっくりメンチカツって言ったやん!」
『ミシシッピー・バーニング』(88年)でウィレム・デフォーに指示を出すジーン・ハックマン。
「なあ。みちょぱとゆきぽよの見分け方しってる?」
『許されざる者』(92年)でモーガン・フリーマンに指示を出すジーン・ハックマン。
「横から丸見えになるタイプの小便器ちゅうのがあるわなあ。あれ何なん?」
『クリムゾン・タイド』(95年)でデンゼル・ワシントンを見つめながら司令部に指示を出すジーン・ハックマン。
ハックマン「えー、山かけ丼ひとつと…」
ワシントン「贅沢寿司セットで」
ハックマン「贅沢寿司セットひとつ。たくみ、きわみ、みやびの中から選べるん?」
ワシントン「たくみ」
ハックマン「たくみで」
『ゲット・ショーティ』(95年)でジョン・トラボルタに指示を出すジーン・ハックマン。
「見ろ。あれがアトムじゃ」
『エネミー・ライン』(01年)で現場のオーウェン・ウィルソンに指示を出すジーン・ハックマン。
「帰りにビッグカメラで普通の蛍光灯買ってきて。そう、青くないやつ」
『エネミー・オブ・アメリカ』(98年)でウィル・スミスに指示を出すジーン・ハックマン。
「今からコックリさんするけど、怖かったら『怖い』って言いよ?」
どれもナイスな指示出しといえる。
普通なら指示を出したか出してないかなんてことは画像の上では判別不能だが、さすがは的確な命令をチョイスしていくチョイサー、ジーン・ハックマン。誰の目にも「あ、今このおじさんは指示を出してるんだな」ということが静止画でもありありと伝わるではないか。これがキング・オブ・コマンダーの真骨頂。さすがコマンダー。
キューちゃんに一杯喰わされてこりゃ困ンダーと化す終盤の弱気なハックマンもいい♡
◆角材と前蹴りと爆破と私◆
法廷映画としてはやや変わり種であることは否定できない。
結局はハックマンとキューちゃんが自由自在に陪審員を操作できてしまえるので法廷劇の醍醐味である弁論合戦には大して意味がなく、ハナから盤外戦術ありきの工作合戦と化しているのである。
しかも超然として違法。
本作の主題である“銃社会への批判”を熱心に訴えているのはホフマンただ一人で、やがてその声も工作合戦という名のゲームの騒々しさに掻き消されていく。キューちゃんに取引きを誘われた際の「ふざけきってる。こんなのはもう裁判じゃない。競売だ!」というホフマンのセリフがすべてを物語っていて、つまるところ本作は、銃規制の未来をめぐる「裁判」というゲームが陪審員を売り買いする「競売」という別のゲームへと変容する過程それ自体を描いたコンゲームなのだ。
あと、困ったらハードアクションに頼るコンサルタント会社の怪しみね。
殺し屋みたいな部下がバーベキュー感覚でキューちゃんの家を焼けば、怒ったキューちゃんは逃げようとした相手の車を鉄パイプで叩き散らす。フィジカルがすごい。映画後半に至っては、拉致監禁されたレイチェリングが角材で反撃を試み、最終的には前蹴りで勝利をおさめていく。
角材と前蹴りと鉄パイプと家丸焼きかー。
もはやしっちゃかとめっちゃかの結婚。
ホフマンとレイチェリング。
このようにシナリオ自体は荒唐無稽だが、それを見せきる演出ゆえに本作はおもしろい。
最終弁論と並行してキュー&レイチェリングの身辺調査がおこなわれるタイムリミット・サスペンスと、土壇場で取引きを断ったホフマンとそれに応じたハックマンの明暗が一気に描き出される腰の入ったクライマックス。ニューオーリンズのエスニックな街並みは豪華キャストの背景に堕すことなく色鮮やかな光彩を放ち、ラストシーンではキューちゃんとホフマンの視線劇の場としてその役割を全うする。
わけてもホフマンとハックマンが便所で口喧嘩する唯一のツーショット・シーンは映画ファン垂涎。まあ、便所で罵り合うというシチュエーションが何ともセコいが、それで感動が減じるでもなし。下積時代にルームシェアしていた親友同士が、時代を牽引するスターとなり、40年越しに初共演したのだから!
便所で。
『十二人の怒れる男』(57年)や『アラバマ物語』(62年)のような古典的な法廷劇の傑作群に対する捻くれた眼差しがギラリと光る畸形的快作。嫌いじゃない。嫌いじゃないよ。
便所で初共演するレジェンドたち。
ホフマン 「陪審員を操作するのはよくないこと!」
ハックマン「でも実は陪審制って意味なくてぇー」