シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

女囚701号/さそり

ガルボハットとトレンチコートといえば私のことだよ! この怨み、晴らさでおくべきか ~面会室のプツプツ越しから緊急独占生レビューSP~

f:id:hukadume7272:20210628064008j:plain

1972年。伊藤俊也監督。梶芽衣子、扇ひろこ、横山リエ、夏八木勲。

女の憎しみと体臭がむせかえる女子刑務所を舞台に、恋人の裏切りに対し復讐の怨念を異常に燃やし続ける主人公を中心に、極限に追つめられた女囚たちの生態を描く。(映画.comより)


グッドモーニング、エミネム。
これは勿論、ロビン・ウィリアムズ主演の『グッドモーニング, ベトナム』(87年) をもじった秀逸なギャグなわけですが、より高度な用法として「エミネム」を更にもじって「ネムネム」と言ってみる、といった試みが存在するわけです。
わかりますか。
上の句では「グッドモーニング!」といって元気闊達に起床を告げたにも関わらず、直後「ネムネム…」などと二度寝を望むような下の句に繋げることで、聴く者をして「どないやねん」、すなわち「起きるんかい? 眠いんかい?」といった曖昧模糊のもこみち状態へといざなう…といったイリュージョン系のギャグが完成するという寸法なのですよ。
実際、「グッドモーニング、エミネム」というギャグは、その構造からして低級~中級の代物であります。なんとなれば、上の句(グッドモーニング)と下の句(エミネム)の間には何ら関連性がないためであります。これが許されるなら、語感さえ似ていれば「エミネム」である必要はありません。「日ハム」でも「ドリカム」でもいいわけです。
ですが「ネムネム」はどうでしょう。関連性ありまくりっ。
いわば「グッドモーニング」の対義語として、その「朝起きた。おはよー」という意味合いを真っ向から否定する形で眠気を訴えているではありませんか。ただのつまらないギャグなのに、そこには何らかの繋がり、何らかの関連性がある。
そう…。これが意味論です。
私が目指すギャグとは、ただの言葉遊びを意味論に昇華すること。それが、この世界を平和にすることだと、しんじています。
東京パラリンピック、開幕です!

そんなわけで本日は『女囚701号/さそり』です。前回、前々回と続いた不良映画3部作の完結編なので安心してね。
※普段のレビューは3章仕立てだけど、なんと今回は史上初となる5章構成となっているんだ。安心しないでね。読むのがダルいよ!

f:id:hukadume7272:20210628064118j:plain

◆さそりは不滅!の巻◆

 ああ! ついに『女囚さそり』を語れるターンが私に回ってきたと言うのですね!?
正味、『女番長 野良猫ロック』(70年) 『ずべ公番長 夢は夜ひらく』(70年) を扱ったのはこの為の布石といっても過言ではない。もっとも、この辺の東映映画は大同小異。好みで言えば『ずべ公番長』派なのだけど、70's日本映画史を概観する上でどうしても特別視せねばならないのは、そう、『女囚さそり』であろう。
 1972年から73年までに4作品公開された『女囚さそり』は、恋人に裏切られて女子刑務所に収監された女囚701号こと「松島ナミ」の復讐譚を描いた人気シリーズである。
主演は『女番長 野良猫ロック』『修羅雪姫』(73年) などで海外にも熱狂的なファン(タランティーノとか)を持つ梶芽衣子
彼女が演じた主人公は、看守や女囚による壮絶な暴力/凌辱を耐えながらも虎視眈々と復讐のチャンスを狙う執念深き女で、シリーズを重ねるごとに怪物性を増していくのです(しまいには包丁で切断した刑事の腕を墓場でうまうま食べもする)。

 また『女囚さそり』と聞いて人の脳裏によぎるイメージといえば脱獄後の梶芽衣子がガルボハットに黒のトレンチコートを身にまとった姿だろう。
当シリーズの梶芽衣子は、『女囚さそり』だけでなく「女優・梶芽衣子」の印象すら決定付けた文化的イコンとなり、たとえば近年でも『愛のむきだし』(09年) の西島隆弘や、TVドラマ『監獄のお姫さま』(17年) の満島ひかりなどが劇中でさそりファッションをオマージュ。その他、マンガやアニメでも頻繁に真似されるほどインモータルなファッションアイコンとしてサブカルチャーの暗部に屹立している。

f:id:hukadume7272:20210703233748j:plain
ガルボハット×トレンチコートといえば『女囚さそり』の梶芽衣子。

それゆえ、当シリーズはリメイクの傍流が今なお受け継がれており、ファッションモデルやAV女優を起用した低予算リメイクの粗製乱造が盛んにおこなわれてるようです。岡本夏生のVシネ版とかもあったな(観てねえけど)。
まぁ、さもありなんだよなー。撮影はチープな独房のセットだけで事足りるうえ、服をビリビリに破かれた女優が乳ほっぽり出して拷問・凌辱・私刑を受けながら苦痛に喘ぐエロティックな表情を収めるだけでいいのだから、ビデオ業界にとっては金のなる木…。
さそりのこと馬鹿にしないでよ!

f:id:hukadume7272:20210703234406j:plain
リメイク版さそりのかずかず。

 映画は、女囚の梶芽衣子と渡辺やよいが脱獄に失敗してふん捕まるシーンに始まる。
件の連帯責任として減食を言い渡された全女囚の怒りは梶へと向けられたが、彼女が他の女囚達からリンチを受けることはなかった。暗い独房に閉じ込められた梶は、ニタニタ笑いの看守たちから更なるリンチを受けていた為である!
その凌辱描写はなかなかに凄惨だ。看守に警棒で股間をグリグリされるわ、配膳係のオバハンからはアツアツの味噌汁を顔に浴びせられるわ(アツアツのワカメも浴びる)、床に撒いたおかゆを犬のような恰好で食わされるわ…と踏んだりfeat.蹴ったりなのである。
その屈辱に耐えながら梶、物言わず看守を睥睨するが、彼女が真に“見ている”ものは看守の顔ではなく、かかる状況へと自分を陥れた男の顔であった。
その男は夏八木勲。麻薬取締官だ。梶は3年前に夏八木に惚れ込み、この男に頼まれて麻薬捜査の囮となった。だが夏八木と裏取引をしていた伊達三郎なる邪悪の社長は、梶が潜り込んだナイトクラブにヤクザを遣わせ梶を輪姦させた。その現場に夏八木が踏み込み、麻薬所持と強姦罪でヤクザたちを逮捕。いっさいは夏八木が出世街道に躍り出るための自作自演であり、そのために梶はスケープゴートとして利用されたのである。
なんて酷いペテンだというんだ!?
後日、復讐心に駆られた梶は「なんて酷いペテンだというんだ!?」とかなんとか言いながら包丁片手に夏八木に襲い掛かるも暗殺未遂により逮捕され、あなや、女子刑務所で辛酸をなめる日々を過ごしているのだ!(床にこぼれた味噌汁をなめもする)

f:id:hukadume7272:20210628080419j:plainこの怨み、晴らさでおくべきか!

◆怪奇前衛演出!の巻◆

 当シリーズの特色は、何といっても前衛演出にある。
ナイトクラブでの回想パートでは「ガラス張りの床下」から犯される梶を捉え、画面前景に倒れ込んだ彼女の後ろで、夏八木が会社にいるはずの伊達三郎に向かって語りかけると、ぐるり、回転セットにより伊達が登場。梶だけがその場に残存したまま、舞台のナイトクラブは音もなく会社の事務所へと早変わりしてしまうのだ。
つまり視覚的にはナイトクラブで犯された梶が、夏八木ともども伊達の事務所にワープした…という風にも見える巧妙な場面転換。
 梶はそこで姦計の成功を喜ぶ二人の会話を耳にしたことで自分はハメられたと知るわけだが、無論、この場は“時空を越境したイメージの世界”であり、梶が実際に夏八木と伊達の癒着を知ることになるのは後日何らかの契機で…ということになるのだろうが、あくまでこのシーケンスは“3年前の回想”なので細かい順序をすっ飛ばしても何ら問題はない。むしろ時系列に沿って馬鹿丁寧に撮る方がどうかしている。
異なる場所にいる悪役2人が顔を寄せ合って密謀にほくそ笑むさまを同一空間化し、またそこに主人公を立ち会わせることで真相究明までのまだるっこしい過程を省略する手つき。
あまりに強引だが、強引であるがゆえにキレのいい演出にもなっており、加えて映像的にはシュールきわまりない…という不思議な魅力すら湛えた伊藤俊也畢生の怪奇演出。他の追随をあんまり許さない!

f:id:hukadume7272:20210628065405j:plain
ナイトクラブ(1枚目)が、回転セット(2枚目)によって事務所(3枚目)に早変わり。

私のお気に入りは、その直後に梶が警視庁の前で夏八木を奇襲するシーンだ。「なんて酷いペテンだというんだ!?」の場面である。
なぜかマントを羽織って登場した梶は、表に出てきた夏八木を認めるや否やマントを宙に放り投げて臨戦態勢。
なぜか片乳を出してた。
観る者が「片乳出てますやん」と思う暇もなく、包丁片手に攻撃をしかける梶をダッチアングルのスローモーションが捉え、その切りつけ攻撃をひらり避けたる夏八木の身のこなしを同撮影法が鋭く捉える。さながら死のワルツ!
なかなか格好いいシーンだが、そんなことよりマント取ったら片乳出てたという衝撃が観る者を怯ませる、梶芽衣子渾身の怪奇芝居といえよう。
他の追随は、やはり許さない。

f:id:hukadume7272:20210816235610j:plain
騙した男に復讐するとき専用のファッション。

 そして、先の怪奇演出と怪奇芝居が夢のコラボレーションを果たしたのが第二幕開始時の三原葉子横山リエである。
この2人は一般女囚のリーダー的存在。丁半でペテンを見破った一匹狼の扇ひろこを目の敵にしており、入浴時にひろこの着替えにヤスリを忍ばせた。看守に発見させてしこたま折檻させようという卑劣のプランである。だが一部始終を見ていた梶は、ひろこの着替えから葉子の着替えにヤスリを戻したことで、これを発見した看守は葉子をど突き回した。はは。ザマァねえぜ。
逆上した葉子は「梶っ、おまえのせいで卑劣のプランが失敗したじゃないかよー」とかなんとか言いながら梶に襲いかかったが、ダチョウのようにピャピャーッと逃げたる梶。脱衣所のドアをバタムと閉めると、猪のように追いかけてきた葉子はドア窓に頭をしたたか打ち付けガラスを粉砕。額から血が噴き出るのも意に介さず、ガラスの破片を握りしめて梶を追い詰めた。
刹那、シンセサイザーを使った不気味の効果音が鳴り響く!
ピュイーン。ヒュ~ドロドロ。ドロ。極彩色のアシッド照明に染まりだす浴場! するとどうだろう! ショック。
鬼ババアと化す葉子!
文字通り、怒髪天を衝くがごとく毛は逆立ち、なぜか隈取りしたような歌舞伎フェイスで観る者を混沌のちゃんこ鍋へと引きずり込んだ!

f:id:hukadume7272:20210628071008j:plain

ママーッ、俺これ何の映画観てんのォー!?

なんたる怪奇演出と怪奇芝居の結婚。葉子による一人妖怪大戦争の火蓋が切って落とされてるやん。
きわめつけに、葉子が放ったガラスの一突きはヒョイと梶にかわされ、たまたま梶の真後ろに立っていた刑務所長・渡辺文雄の右目に思っくそ突き刺さる!!

所長「うっぎゃあ―――!」

えらい騒がしい。
ちなみに渡辺文雄は『女番長 野良猫ロック』にも出演しており、そちらでも右目を斬りつけられている。どんな星の下に生まれたら目ぇばっかりイかれんねん。
ともあれ、今日も女子刑務所は大賑わいです。

f:id:hukadume7272:20210825002017j:plain
とばっちりで目をイかれた所長さん。災難でした。

◆女囚VS看守。その最中に光る邪悪の銃口!の巻◆

 その後、所長の怒りを買った葉子は警棒でしばき殺され、件の連帯責任として梶たちは重労働を強いられる。全員が運動場に連れ出され、ひたすらスコップで穴を掘っては土をかけて埋める…という何の生産性もない拷問である。
そこへ、死んだ葉子とともに一般女囚のリーダーを担っていたリエの前に夏八木が現れ、梶の暗殺と引き換えにそなたを出所させてやるという裏取引を持ち掛けた。
ちなみにこの横山リエ。大島渚の『新宿泥棒日記』(69年) では非常に可愛らしく、また本作でも刑務所モノという設定上スッピンで野暮ったい恰好してるからアレだけど本来けっこう美人だよねこの人と思えるほどには目を惹く容貌で、とりわけ眉毛の薄さやヘアースタイルなど諸々を加味した結果2000年代によくいたギャルという印象におさまってもいます(以降、2000年代と呼ぶ)。

f:id:hukadume7272:20210628072834j:plain『新宿泥棒日記』の横山リエ(左) 、本作の横山リエ=2000年代(右) 。

穴掘り重労働は続く。
怪奇・浴場事件以来、日ごろの反抗的な態度もあって看守たちに目を付けられていた梶は「死ぬまで穴掘り」を命じられ、翌朝女囚たちが運動場に集まっても梶だけがまだ穴を掘り続けている…という状態。
穴掘りすぎてコロッセオみたいな闘技場空間が出来あがってた。

f:id:hukadume7272:20210628073321j:plain
ひとりでコロッセオを作った梶。

 休もうとして看守にしばかれる梶を見かねたのは渡辺やよい。冒頭で梶とともに脱獄を図った女囚であり、梶の唯一の友達である。キロロのどっちか、みたいな顔をしています。
執拗に痛めつけられる梶を見かねたやよいは、咄嗟に看守の後頭部にスコップを叩き込んで殺害してしまうが、次の瞬間には別の看守によって肩を撃ち抜かれた。これを機を女囚たちが一斉蜂起! 看守と女囚が入り乱れる大合戦へと発展したが、この混乱に乗じてライフルを奪った2000年代は梶を仕留めようとしてやよいを誤射してしまう。

00年代「パキューン。あ、間違って知らんやつに当たった」
 梶 「やよいー! しっかりして。やよいー!」
やよい「もうむり」

やよい死す! もうむりだった!
一方その頃、劣勢の女囚たちは看守数名を人質にとって倉庫に立てこもり豚汁を要求!!

パパーッ! これやっぱり何の映画なん!?
パパ…。あれ?パ……パパ――ッ!?

 
ここでおもしろいのは、倉庫に立てこもった女囚達が食事といっしょに要求したのが梶の身柄であること。先の合戦のさなか、やよいの遺体を葬った梶はその直後に看守に取り押さえられていたが、女囚たちにしてみれば事の発端は梶。梶の態度が反抗的だったせいで重労働(連帯責任)を強いられ、その梶を守ろうとしたひろこが看守を殺害したために合戦・籠城へと発展したのだ。
もちろん所長は喜んで梶を引き渡す。女囚どもの矛先を梶に向けられるため、願ったり叶ったりなのである。またしても梶はスケープゴートにされた。倉庫に向かわされた彼女は女囚達から壮絶なリンチに遭う。鎖に吊るされ、謎の棒でつつかれ、白熱灯で急所を焼かれる…!
はじめこそ看守に向けられていた女囚達の怒りが、あれよあれよという間に梶に対する私怨へとすり替わっていく。集団心理の摩訶不思議がよく描かれたシーンだな。

f:id:hukadume7272:20210628073756j:plain
壮絶なリンチを受ける梶。

◆燃える女の恨み節  椅子くるくると「ぽっぽー」の謎!の巻◆

 その後、故意に火事を起こした2000年代は女囚達から報復を受け焼死。梶はひろこの助力によって脱獄に成功する。かつて梶が浴場でのヤスリ混入事件から救ったことの恩返しか。物言わぬ女同士の友情がいい。
扇ひろこの存在は意外と大きく、さり気なくも艶やかに作劇を盛り上げていた。
梶はひろこに一目置いており、またひろこも梶を高く買っているという間柄で、二人は似た者同士の一匹狼。唯一の違いといえば、理不尽な獄中生活における処世術を熟知していたひろこに対して、梶はあまりにも不器用で、矜持にこだわるあまり周囲から反感を買ってしまう点である。そんな梶を遠目に見守っていたのがひろこなのだ。
両者のあいだに湿った交流はなく、会話でさえ火事の場面でひろこが発した「フケるんなら今の内だよ」に対して梶が無言で頷くという、もはや会話ですらない一回こっきりの意思疎通のみ。
どことなく本作をオマージュした『キル・ビル Vol.1』(03年) のルーシー・リューの相貌を思わせる扇ひろこ。本職は演歌歌手で、かの名曲「新宿ブルース」の歌い手であります。

f:id:hukadume7272:20210628073820j:plain梶の脱獄に協力する扇ひろこ(右) 。

 
さて、クライマックス。ようやくシャバに出た復讐の梶!
ガルボハットに黒のトレンチコートで身を隠し、夜の都会を音もなく闊歩する。そこで流れるは梶芽衣子の「怨み節」『キル・ビル Vol.1』でも使われた名“怨歌”だ。

真っ赤なバラにゃ トゲがある
刺したかないが 刺さずにゃおかぬ
燃える もえる
燃える女の恨み~~節~~

死んで花実が 咲くじゃなし
恨み一筋 生きていく
おんな おんな
女いのちの恨み~~節~~

 この曲が流れてる間にかつてナイトクラブで自分を犯したヤクザたちを片っ端から刺し殺していくのだが、なんだか歌詞と映像が妙にマッチしていて「刺したかないが 刺さずにゃおかぬ♪」のところで本当にヤクザを刺し殺す…という手の込みようが火をふくのです。
歌詞、実行してるやん。
なにこの歌詞通りの動きをするっていうマイム。考え方が『おかあさんといっしょ』やん。
また、このシーケンスの梶はスラッシャー映画における殺人鬼と化しており、「神出鬼没」から「一撃必殺」まで、すべてのスキルを習得した最強キャラとして扱われている。
※スラッシャー映画における殺人鬼には、時空を越えてどこにでも現れ、かつ最終ラウンド以外では絶対に負けないという固有スキルがある。

f:id:hukadume7272:20210628075011j:plainヤクザを次々と誅していく梶芽衣子(かっくいい)。

 ヤクザ怪死の報せを受けた夏八木はちょっぴり戦慄し、公衆電話から伊達三郎に「あの女が帰ってきた! きっと次は我々の番です。気を引き締めて下さいよ」と危険を伝えたが、社長室で回転椅子をくるんくるんしながら伊達、「ビビりすぎだよ、夏八木くん!」と笑い飛ばした。
刹那、ちょうど伊達が後ろを向いていたタイミングで社長室の扉が静かに開き、そこに佇む黒き女! 伊達が気配に気づいたころには時すでに遅し。
伊達「アアッ!」

アアッじゃないよ。
回転椅子のくるんくるんが仇となり、伊達は討たれた。
そんなんするからやん。
いたずらに回転椅子をくるんくるんとさせず、ちゃんと正面を向いて電話をしていれば梶の闖入にも気付けただろうし、デスクの引出しに拳銃でもあれば迎撃できたかもしれないのだ。それなのに、いちびってくるんくるんさすから…。

翌朝。伊達のビルディングを訪れた夏八木は、屋上から吊るされた伊達の遺体を発見して「アアッ!」と驚嘆した。なんたる見せしめ!
ていうか昨夜、社長室で伊達を殺したあとにこんな細工までしてたのか、梶ちゃん。いよいよジェイソンやプレデター然としてきたゾ。

f:id:hukadume7272:20210628075316j:plain
伊達、痛恨のプレミ。椅子でくるんくるん遊んだのが運の尽き。

 ここまで観る者は、梶が秘めていた戦闘能力の高さに“スラッシャー映画の法則”を幻視していたが、ついに警視庁に潜り込んだ彼女が夏八木に襲い掛かるラストシーンに至って、いよいよ本作が紛うことなきスラッシャー映画だったことを思い知る。

あれだけ強かった梶が“最後の生き残り”を前にした途端にへちょへちょに弱体化するのである。

これまでヤクザたちを一方的に屠ってきた梶だったが、なぜか夏八木にだけは苦戦を強いられ、キレのある動きを封じられてしまう。これはスラッシャー映画において、数々のキャラクターを一撃必殺してきた殺人鬼が最終ラウンドでのヒロイン戦だけは何故か手こずる…という珍現象と軌を一にする法則である。

つまり本作の夏八木勲はファイナルガール。
ファイナルガール…ホラー映画で最後に生き残る女性(ピュアな処女である傾向が強い)。

f:id:hukadume7272:20210817010427j:plain
ファイナルガールとしての夏八木勲(ピュアな処女ではない)。

だが梶も強かった。エレベーターの中で梶に拳銃を突きつけた夏八木は、無理やりキスを迫ったが、表情ひとつ変えぬ梶に舌を噛みちぎられて「アアッ!」と叫びます。誰も彼もが「アアッ」って叫ぶやん。
舌が痛い痛いしてる間にドスで足を刺された夏八木、びっこを引きながら屋上へ逃亡。そこで梶に腹や胸をメッタ刺しにされるも、70's日本映画にありがちなすでに致死ダメージを受けてるのに生への妄執だけで「るるおー」とか言ってフラフラしながら生きたがる時間を過ごした。

いつも思うけど…何なんこの一人でフラフラしながら生きたがる時間。

70年代における日本の映像コンテンツ専用の「死に際のしぶとさ」とでも言うのだろうか。『太陽を盗んだ男』(79年) の菅原文太や『太陽にほえろ!』(72年ー86年) の萩原健一&勝野洋など、とかくこの時代の男たちはすでに致死ダメージを受けてるのに何度でも立ち上がってはフラフラしながら生きたがりがち。弁慶憧れ?

f:id:hukadume7272:20210628075624j:plainいつまで経っても死なずに「るるおー」つってフラフラしながら生きたがる謎の執着タイム。

ようやく“生きたがる時間”を終えた夏八木は、イナバウアーみたいに背を反らせ、「ぽっぽー!」みたいなことを叫びながら刺されたドスを天高く放り投げ、ついにブッ倒れて事切れた。
何が「ぽっぽー」やねん。
わざわざドスを真上に放り投げた意味を教えてくれ。この期に及んで無意味な自己表現すな。「ぽっぽー」やあるか。死に際に爪痕残そうとすな。

映画は、復讐を成し遂げた梶が再び女子刑務所に入れられるシーンで終わる。画面手前に向かってくる梶のストップモーションに「女囚701号 さそり 完」のスーパーインポーズ。完璧だ。復讐のために脱獄した主人公が目的を果たして再び刑務所に入れられるというウロボロス構造、およびタイトルとの関連性。さらには続編へと向けた状況のリセットまで兼ねた見事な着地であった!

f:id:hukadume7272:20210628075902j:plain
ジャジャーン!完!

◆髪型評論家、かく語りき!の巻◆

本作は“風”“日の丸”の映画でございます。
学生運動が下火になると労働組合による次なる闘争が隆盛を極め、東映労組の幹部として先陣を切っていた伊藤俊也は、のちに自身の経験を基に『女囚701号/さそり』を監督した。
女子刑務所の中庭にはじまるオープニングシーンでは、天高く掲げられた日の丸のもとに所長を讃える表彰式が行われ、その最中に警報が鳴ったことで所長の表彰状が風に飛ばされ、部下の足の間を縫うように駆け抜けていき、脱獄した梶を追う看守たちによって悲しくも踏みつけられる。

f:id:hukadume7272:20210825011343j:plain

 また、ラストシーンでは警視庁の屋上に掲げられた日の丸が一瞬映り込むが、これをフレーミングしたものこそが、瀕死の夏八木によって「ぽっぽー」なる奇声とともに天高く放り投げられたドスなのである。すなわち、前章での「わざわざドスを真上に放り投げた意味を教えてくれ」という私の質問は「日の丸のイメージを反復するため」というきわめて真っ当な映画論によって回答されていたわけだ。いわば反体制思想を纏ったアンチテーゼとしての日の丸。ファーストシーンの日の丸は刑務所という名の体制側の頭上に掲げられ、ラストシーンの日の丸は体制の敗北を見下ろしている。

本作にはもうひとつ日の丸の登場シーンがある。回想シーンの中で純潔の梶が夏八木に処女を捧げたラブシーンだ。
悦びに身悶える梶にオーバーラップする、白のタオルケットに赤く浮かび上がった血はまさに日の丸。ゆえにラストシーンの日の丸は反体制の表象だけでなく、愛の決裂をも同時に表象したイメージの転用として観る者の歎美を煽るのである。

f:id:hukadume7272:20210628064713j:plain

そんな日の丸を映画装置として機能させたものが“風”
大半がスタジオ撮影となるセット主体の刑務所というシチュエーションにおいて本作はよく風を吹かせている…という事くらいは、開幕1分15秒で風に飛ばされる表彰状の信じがたい優美な舞いを見れば一目瞭然だが、仮にここを見落とした者は、その後の梶芽衣子の髪に注目しながらの85分を過ごされたい!
風に踊り狂い、顔に張りつく黒髪の躍動は、抵抗したくてもできない獄中の主人公の激情をスクリーンに代弁し、やがて来るべき復讐の大立回りを予期させるに十分な怨嗟を蓄えながら乱れ、汚れ、靡く。
『日本残侠伝』(69年) や『夜の牝 花と蝶』(69年) のように髪をまとめてしまうとこのような生々しさは出ないし、またこのような生々しさを出さないために多くの映画女優は髪をまとめているわけだが、その間隙を突くようにセンター分けにした事こそが女優・梶芽衣子の英断。
ストレートヘアーの大勝利!
だが、梶のようなサラサラ髪は“奇跡のショット”に恵まれているぶん、自ずと撮り直しも多くなる。だから80年代まではヘアクリームやスプレーなどで髪をガチガチに固める女優が多かったのだろうが、その中でもジェーン・バーキンやモニカ・ヴィッティといったフランス/イタリアの女優と同じく、梶芽衣子もまた“風に靡くナチュラルな髪”を志向ゥ!
その産物としての『女囚さそり』シリーズは、ガルボハットに黒のトレンチコート、そして何より梶芽衣子のストレートヘアによって完成された日本映画史の大いなるイメージなのである。
女優ありきのファッションか、はたまたファッションありきの女優かという問題は度々われわれの頭を悩ませるが、本作に関しては単純明快。
さそりありきの梶芽衣子なのだ!
例えるなら、そう。ローマありきの休日なのか、休日ありきのローマなのか。 否っ。オードリーありきのローマなのだ! という論調と同じイズムを有しているわけだよねぇ~~。
わかった?

f:id:hukadume7272:20210628071153j:plain乱れ、汚れ、靡く髪!