シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ポルトガル、夏の終わり

ぼくトガル、猿の終わり ~本気で映画撮るならイェール大学なんか中退せえバカタレ~

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2019年。アイラ・サックス監督。イザベル・ユペール、ブレンダン・グリーソン、マリサ・トメイ、ジェレミー・レニエ。

ヨーロッパを代表する女優フランキーは自らの死期を悟り、「夏の終わりのバケーション」と称して一族と親友をシントラに呼び寄せる。彼女は自分の亡き後も愛する者たちが問題なく暮らしていけるよう、すべての段取りを整えようとしていた。しかし、それぞれ問題を抱える彼らの選択は、フランキーの思い描いていた筋書きを大きく外れていく。(映画.comより)


よっしゃ。やるでー。集まり~。
昔からイルカの「なごり雪」の歌詞がうろ覚えのままだったので、最近はシャワーを浴びながら探り探りで毎日歌ってます。
最初のフレーズからして難しいんだよねぇ。汽車を待つキミの横でボクもドータラ♪…みたいなトコあんじゃん。汽車を待つボクの横でキミがドータラだっけ? って混乱するのよね。皆しない?  するでしょ。尚もしないとお前は言う? 汽車待ってるのはどっちなんだよ、って。
そうこうするうちに訳が分からなくなってきて、「汽車を待つキミが汽車の横でボクを待ってるー」とか「汽車を待つボクとキミの横を汽車が走るー」とか…メチャメチャんなっちゃった。大人なのにパニックなって。
結果「オレのなごり雪」が無事完成したのだけど、メチャクチャ汽車が来るなごり雪になってしまった。
オレが一生懸命おもいだして完成に漕ぎつけた「なごり雪」がこちら。お納めください。

汽車を待つキミの横で
ぼくも汽車を待ってる
季節外れの汽車が走ってる
「東京で見る汽車はこれが最後ね」と
さみしそうに 汽車を見送る
なごり雪も  降るときを知り
ふざけすぎた 季節のあとで
今 汽車が来て キミはきれいになったん
去年よりずっと きれいになっ……たん♪

わかんねー名詞をぜんぶ「汽車」にしたら自ずとこうなった。
でも割に上手くまとまったと思う。もはや「なごり雪」っていうか「汽車」だけどね、こうなってくると。イルカの「汽車」だよ。汽車に次ぐ汽車。
あと「なったん」ってとこは、私が加えたとっておきのアレンジです。「たん」の部分は、ピアノみたいに軽くはじく感じで「たん♪」って楽しく歌いましょう。二回目の「なっ……たん♪」ってとこは、しっかり溜めましょうね。愛嬌が出っから。

こんな風に、私は毎日のようにシャワーを浴びながら名曲を汚してます。
歌詞がホントに覚えられないの。あいみょんの「マリーゴールド」も、最近までずっと「麦わらの帽子のキミが水溜まりゴールドに似てる」って歌ってたわ。水溜まりゴールドってなんやねん、思いながら。間違ってる自覚はあるんだけど、正しい歌詞が出てこないので「もうコレでいいや」って間違ったままインプッツしちゃってんだろうな。人間って恐ろしいな。
ちなみに、いま思い出そうとしてるのは、中森明菜の「飾りじゃないのよ涙は」と細川たかしの「北酒場」です。がんばってる。
完成したらまた報告するわ。ほなね。

そんなわけで本日は『ポルトガル、夏の終わり』です。ボロカス言ってます。

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◆ポルトガル版 水滸伝 ~大学やめろ~◆

 フランス・ポルトガル合作の本作はヨーロッパの空気に触れたい人が思わず手に取りそうなパッケージデザインにも関わらず、そこにはヨーロッパの空気などビタイチ漂ってないばかりか、仄かに充満する忌々しいアメリカの臭いにある種のいかがわしさを覚えずにはいられないアイラ・サックスの最新作である。
 アイラ・サックスはコテコテのアメリカ人監督だ。21歳のときに3ヶ月で197本もの映画を一気見したことで映画監督になることを決意し、その後イェール大学を卒業したあとに『あぁ、結婚生活』(07年) で大赤字を叩き出した。
あぁ、監督生活。
言いたかァないがな、3ヶ月で197本の映画を見て監督業を志すような男が豊かな才能を持ち合わせてるわけがないし、律儀にイェール大学を卒業してるあたりも凡人丸出しというか「つまらない人なんだろうな」という感じがしてしまう。ちなみにエリア・カザンやオリバー・ストーンはイェールを中退してる。
だいたい映画を撮ろうという輩が名門大学など通ってる場合か。

中退せえ。

すぐやめろ、そんなもん。
表現活動の教義は大学になど存在しないと言えーる。


 さて。本作の舞台は、リスボンから列車で西へ40分ほどの場所に位置するポルトガルの避暑地シントラ
英国の詩人バイロンが「この世のエデンやで」と讃えたこの地は、風光明媚な山間から一望できる謎の海に囲まれており、ポルトガル内戦→共和政革命という地獄のコンボによって鮮やかに消滅したポルトガル王国の城跡・離宮の数々は世界遺産として旅行者の「ほえー」なる感動詞を引き出してやまない。
主演のイザベル・ユペールは余命幾許もない大物映画女優の役で、夏季休暇を利用して家族や友人をペニーニャの山頂に呼び寄せた。愛する夫、ひょうろく玉の息子、義理の娘の家族、メイク係の親友、元夫、ついでに元夫のガイドも。
映画は、ユペールによってシントラに召喚された親族・友人を一組ずつカットバックしながらゆったりと進行してゆき、全員がペニーニャの山頂に集結するところでエンドロールが流れる。
言ってみりゃあ、ポルトガルを舞台にした私小説版の『水滸伝』みてえなもんだ。ペニーニャという名の梁山泊に集う人々の群像劇だよ。

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 では登場人物紹介と洒落込もう。「細かい話はうんざりだ!!」って奴は、次章までワープしてもいいぞ。読み方はおまえ次第だ。
夫役のブレンダン・グリーソンは妻ユペールの病状を知りながらも平静を装っていたが、パン屋の店員にすぐさま見抜かれてしまった。そしてそのことを心の奥ですこし恥じた。

NY在住の息子ジェレミー・レニエはいつも何かを渇望している奴だった。だが何を渇望しているのか、本人にも分からない。まぁ典型的な放蕩息子、早い話がシャバ僧だ。NYでの事業展開を心配したユペールから「売れば4万ユーロにはなるわ」と光のブレスレットを譲り受けたが、そのあとユペールとの口論の最中に勢いあまって草むらに放り投げてしまう。
光のブレスレット投げんなよ。
まったく、未熟な奴だ。

義理の娘ヴィネット・ロビンソンは着々と離婚準備を進めていた。夫に愛想を尽かしたらしいが、年頃の娘セニア・ナニュアは父の肩を持つ。
ついに母と決裂したセニアは、ナップサックを背負って“リンゴの浜”をめざす。不思議な行動だ。なんで母と決裂してリンゴの浜めざすねん。

さて。ユペールのよき友人であるメイクアップアーティストのマリサ・トメイがシントラに到着した。ユペールとは親子ほど年の離れた二人だが、ともに気遣いのいらぬソウルメイトだ。
そんなマリサに同伴したのは、監督業に乗り気な映画カメラマンのグレッグ・キニア。目下『スター・ウォーズ』の撮影に取り組んでるらしい。彼は機を窺ってマリサにプロポーズしようと発奮しているが、マリサは心の惑いを振り払えずにいる。本当にこいつでいいのだろうか? と。
まあ、いいワケはないわな。言っちゃあ悪いが『スター・ウォーズ』を撮ってるような男にまともな奴がいるはずないだろ。

最後の客人はユペールの元夫パスカル・グレゴリー。観光ガイドのカルロト・コッタに案内されながらのシントラ入りだ。ユペールとの離婚後に自身がゲイだと悟ったグレゴリーは、途中で合流した現夫グリーソンに謎めいた金言を残す。
「彼女のあとは物事が変わる。人生が変わるんだ」
なに言ってんだおまえは。
抽象表現やめえ。現にグリーソンも「どういう意味だ…?」と聞き返したが、グレゴリーはそれ以上説明しなかった。しろって。補足説明は要るだろ、その発言に。
「彼女のあとは物事が変わる。人生が変わるんだ」
…なんやねんそれ。

ふん。なかなか面白いキャスティングだ。
豪華…というよりは「おぇー。この人とこの人が共演するん?」とか「おぇー。この手の映画にこの人が出てるん?」と思うようなビザールな取り合わせ。その組み合わせ。裏を返せば“不自然”とも言えるキャスティングだがね。
まずは『ハリー・ポッター』シリーズのマッドアイ役で知られるブレンダン・グリーソン。近年は息子ドーナル・グリーソンの目覚ましい活躍に鼻高々のご様子。
息子役のジェレミー・レニエは、ダルデンヌ兄弟の作品で我が子を捨てるクズばかり演じてる子捨て俳優の草分け的おとこ。
そしてロバート・ダウニー・Jrとの共演・交際で知られるハリウッド女優マリサ・トメイ。近年、MCU作品で数十年ぶりにロバートJrと共演したけれど。そんな彼女に言い寄るグレッグ・キニアもまさかの起用。『恋愛小説家』(97年) でのゲイの画家役と『リトル・ミス・サンシャイン』(06年) のパパン役だね。
極めつけはパスカル・グレゴリー。エリック・ロメールの『海辺のポーリーヌ』(83年) な。ついでに観光ガイド役のカルロト・コッタは、ベルリン国際映画祭で注目を浴びた『熱波』(12年) でヨーロッパ映画界を熱波でつつんだ若手イケメン俳優である。

事程左様に、フランス、ベルギー、イギリス、アイルランドを中心としたヨーロッパ陣形の中に何食わぬ顔でハリウッド勢を紛れ込ませた違和感まる出しターゲット不明キャスティングが火をふく。
このへんがアイラ・サックスの心の弱さだろうな。さすがイェール大卒。中退する度胸のない奴にハリウッド勢に頼らぬ度胸などあるはずもねえ。

f:id:hukadume7272:20211022054516j:plainイザベル・ユペール(右)とマリサ・トメイ(左)。

◆ぼくトガル、猿の終わり ~大学やめろ~◆

 さてこの映画。アホの子みたいに、ぼ~~っと見る分にはそこそこ見栄えのする映画ではある。
シントラの世界遺産や観光名所の美景がバシバシ映し出されるので、この手のミニシアター系の欧州映画に旅行気分や癒し効果を期待してるような洒落た中年の映画ファン、たとえば訳のわからないデザイナーズマンションに住み、冷蔵庫の中には無駄にオレンジとかアボカドがあって、朝はバカみたいに高いスーパーで買ってきたドリップコーヒーでも飲みながら霧吹きで観葉植物に水をあげ(少ししかあげない)、夜になったらワイングラスで生ビール(大体プレミアムモルツ)を飲みながらたまにチーズ齧るみたいな奴らにとっては心の養分たりうる作品だろう。
だが、こちとらデザイナーズマンションになんて住んでないし、冷蔵庫の中身はカイワレ大根とトマトの嵐。残り物のカレーのヘドロ。廃屋のような豆腐。やたら邪気が渦まく部屋でヘッドホンをかぶって睥睨するように映画を観ているのだ。
心の養分だァ? むしろ映画を観るたびにこっちの養分が盗られていくわっ。


 まずもってダイアローグが味気ない。
ご大層にも世界遺産をバックにした会話劇だというのに、そこで交わされるのは機知も示唆もなく、どこにもピントが合ってない、雲をつかむようなマヌケな言葉のみ。凡庸な語りかけと凡庸な返しのきわめて微温的なラリーがメトロノームみたいに性懲りもなく打ち続く。
アメリカ人がこじらせがちな“ヨーロッパ映画アコガレ”のひとつが掴みどころのないダイアローグまさにそれ。論旨も話題も核心もない、フワフワした雑談が全編をやさしく包みこむのだ!
脚本にまで首を突っ込んだイェール卒のアイラ・サックスは、果たしてジム・ジャームッシュやホン・サンスを観たことがあるのだろうか。さすがにあるだろうが、多分こいつの事だから経験論として“見た”ぐらいなのだろう。

f:id:hukadume7272:20211022061316j:plainグレッグ・キニアとマリサ・トメイ。

 物語に関しては、余白の残し方がへたっぴだった。
ヴィネットが一方的に離婚を突きつけた原因が終始不明で、娘セニアが父の肩を持つ理由も一切不明。たしかに原因や経緯を明示しない作劇もあるが、にしてはそこに固執しすぎである。明かすつもりのない謎をずっと目の前にぶら下げて。それが尖った作劇とでも思っているのか。許さないぞ!
一方セニアは、バスの中で知り合った同年代のビーチボーイに案内されてリンゴの浜へ。彼に向かって家庭環境の不満を吐露するのかと思いきや…ビーチボーイが一人でぺらぺら喋った(おまえが喋んのかい)。

とにかくキャラクターたちの関係性が一向に見えてこない。繋がってるようで繋がってないからだ。
ビーチボーイにしても、セニアをリンゴの浜に案内するため(ひいては海を映すため)だけに拵えた“作劇上の口実”に過ぎない。だから前触れもなくセニアに口づけとかさせちゃう。海見せ要員としての役割を終えた以上、ロマンス要員にすり替えることでしか処理できなかったのよね。イェール卒なのに。

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リンゴの浜で物思いに耽るセニア。

 また、親族友人のために計画したユペールの生前整理とその破綻…というプロットも、言われなきゃ気付かないくらい薄ぼんやりとしていて。
実際、私もポスターの宣伝文句を読んで「あ、これってそういうお話だったの?」って、そこで初めてあの時あいつ等がやってたことを知るっていう、もはや映画観た意味なし子になっちゃったわ。
撮影に関しても色々言いたいことはあるが、とりあえず一つだけ言わせてくれ。
馬鹿の一つ覚えみたいにフィックスの長回しを用いることは馬鹿の猿回しである、と!
馬鹿の長回しは、もはや猿回しである。長回し=尖った映画、という映像学部生みたいな発想が、まさかイェールにも…?

そんなわけで、イェール卒なのにキャストパワーと美景効果に凭れ掛かったアイラ・サックス入魂の新作『ぼくトガル、猿の終わり』は絶賛レンタル中であります。
ウディ・アレンあたりが撮ってたら割とおもしろい映画になってたのとちがうか。
まったく…。けったくその悪い。2021年も終わりだってのに、なんてものを見せやがる。
※本稿は2021年10月に書かれたものです(それっきり放置してました)。

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(C)2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions