シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

ラプチャー 破裂

世界中で不満がラプチャー(破裂)した映画。

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2016年。スティーブン・シャインバーグ監督。ノオミ・ラパスピーター・ストーメアレスリー・マンビル。

 

シングルマザーのレネーが見知らぬ男たちに拉致された。謎の隔離施設に監禁された彼女に待っていたのは、被験者に「一番嫌いな物」を与え続ける人体実験だった。クモが嫌いなレネーは、拘束され身動きがとれない状態で、執拗なまでのクモ攻めに遭う。誰が何の目的でおこなっているのか一切不明なこの異様な実験の果てに、レネーの体は驚くべき変化を見せ始める。(映画.comより)

 

おはようございます。

過日、家でDVDを観ていてラスト5分前で画面が止まって真顔になりました。映像不良によるフリーズです。

もしも開幕5分で止まっていたら諦めもつくだろうけど、ラスト5分て…。頑張れよ。あとちょっとやないか…。

そういえば、デンゼル・ワシントンを私淑してやまない友人がイコライザー(14年)の鑑賞中にやっぱりDVDがフリーズして大変がっかりした、何らかの意欲を削がれた、という話をこないだ居酒屋で聞いたことを思い出しました。

DVDの映像不良って、激昂とか落胆とかではなくて、なんかこう…、冷めるよね。

もうすげぇ真顔になったよ。このときの私を名作アニメ『日常』風に描いたら、ちょうどこんな感じだよ。

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替えがない状態で夜に部屋の蛍光灯が急に切れたときとか、友達と将棋を指してて一番いいところでトイレに立った弾みに盤をひっくり返したときとか、片道40分かけて行ったビデオ屋のレジでカードを家に置き忘れたことに気づいたときとか、セーブする前にゲームボーイの電池が切れたときとか。

ぜんぶ実体験ですけど、そういうときって絶望すら通り越してただただ真顔になります。

というわけで本日は2日連続ノオミ・ラパス映画、ラプチャー 破裂』。はっきり言ってかなりやる気のない中身となっております。

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ノオミ・ラパスの〇〇が破裂する映画◆

クモ嫌いのノオミ・ラパスが突然拉致されて薄暗い施設の実験室で目覚める。そこには白衣を着た研究員やスーツを着たおばさんがいて、診察台の上で拘束されたノオミは不思議な注射をしこたま打たれ「素晴らしい被験者だ。彼女ならきっと破裂するだろう。期待ができるぞ」などと高い評価を受ける。

一度は拘束具を解いて部屋から逃げ出したが、出口を求めて施設内をチョロチョロしているうちにあたら捕まってしまう。

そしてトレーラーやパッケージにも使われたクモ攻め。

イカした透明ヘルメットを頭に装着されたノオミは、その中に大量のクモを流し込まれて絶叫、発狂、もう結構。

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こんな目にばっかり遭うノオミ・ラパス


「ついに破裂するぞ!」と叫ぶ研究員。

するとノオミの顔がグニャ~と変形して、かなりの変顔になります。

「わーい。破裂した、破裂した!」

大喜びする施設局員たち。

「ばんざーい、ばんざーい!」、「やっと実験に成功した」、「やったじゃん」、「よかったじゃん」。

肩を叩き合いながら喜びをシェアーする施設局員たち。かわいい。

するとこの施設のトップらしき男(ピーター・ストーメア)が現れて、そこで初めてノオミに真相を打ち明ける。

ストーメア 「実はオレたちは新人類っていうか、人間より一個上のステージにいる存在で、キミたち人間を仲間にする実験をしてたんだ。極限の恐怖を与えて人間の遺伝子が破裂すれば新人類に進化できるってわけ。そして今宵、キミの遺伝子は破裂して新人類となりました。おめでとうございます」

ノオミ「ありがとうございます」

おわり。

 

えっ…。

 

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ピーター・ストーメア…90年代には『ファーゴ』(96年)アルマゲドン』(98年)などで重宝されたバイプレーヤーだが近年はB級映画に活躍の場を移している。


「…破裂だよ」ってなんだよ

正直な感想を言うと作り手の頭を破裂させたいと思っています。

圧倒的にわけがわからない。遺伝子が破裂すると新人類に? なんで? 恐怖が破裂のトリガーに? なんで?

拷問・監禁を謳っているので『ホステル』(05年)マーターズ(08年)のようなトーチャー映画かと思いきや地球侵略系SFだったという、もはや物語の着地がどうこうというより海に着水したみたいな落下地点の見失いっぷり。

「実はSFだった」という飛躍そのものが悪いわけではなく、その飛躍で楽しませるような説得力だったり強引さがあればまた違った印象になってくるのでしょうけど、いかんせんこの映画の「突拍子のなさ」はただ突拍子がないだけでつまらない。

たとえば、突拍子のなさにかけては他の追随を許さないM・ナイト・シャマランという半笑い映画の濫造者がいて、彼の『ヴィレッジ』(04年)レディ・イン・ザ・ウォーター(06年)は「トンデモ映画」という所にうまく着地しているからこそ楽しめるのだ。

いわばシャマランはスベり芸のプロ。

翻って本作はただスベってるだけ。

「トンデモ映画」に着地するはずが風に流されて海に着水。そして破裂。

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ダクトを通って施設内を逃げ回るシーケンス(上の画像)や、カッターを使って手首の拘束具を外すシーンなどのサスペンスは良好。セットの安っぽさをごまかすための赤を基調とした照明も初志貫徹されていて潔い。

決して観るべきところのない映画ではないのだが、個人的にストレスだったのは「何の実験なのよ、これ! アンタたち誰よ!」とノオミに訊かれるたびに「…破裂だよ」などと歯切れの悪い言葉をモゴモゴ言い続ける研究員たち。

言葉足らずにも程があるだろ。

「…破裂だよ」ってなんだよ。そんな言い方があるか!

もっとも、ノオミの質問に対して研究員が正直に答えるとラストシーンの種明かしになってしまうのでわざと口ごもらせているわけだが、それにしても下手すぎるし、ただの時間稼ぎでしかない。「教えない」とか「嘘の答えを言う」などいくらでもやりようはあっただろうに、よりにもよってモゴモゴ言うって。要領を得ねぇわ。


きわめつけは即物的な描写すらない

ダメなホラー映画というのは即物的な暴力描写や恐怖シーンだけで押し切ろうとするが、本作にはそれすらない。

本作の目玉ともいえるクモ攻めなんて10分足らずで終わってしまうし、血も流れなければ拷問描写の痛々しさもない。

それどころか即物的なホラー表現というものをどこか下に見ているきらいすら感じてしまう。

監督のティーブン・シャインバーグ『セクレタリー』(03年)『毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト』(07年)で知られているように官能・文芸・アートというタイプの人なので、本作にしても「ホラー映画と思わせて実は人間存在論に切り込んだ哲学的な映画なんだよねぇ」という姿勢で臨んだのだろう。

それが失敗の原因だっつーの。

郷に入っては郷に従えと教わらなかったのだろうか。ホラーをやるからにはホラーに敬意を払え。おまえがどれだけ官能・文芸・アートの人なのか知らんが、ラプチャー 破裂』は設定からしてモロに拷問ホラーなんだから、ウソでもいいからそれっぽいことをやってくれ。

おまえはバラエティ番組に出てるのに「番宣で来ただけですから」みたいな気取った態度でぜんぜん喋らない俳優か?

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◆いっぱい破裂してた◆

とはいえノオミ・ラパス主演という時点で観る前からこれがただのホラーではないことは薄々わかっていたのだけど(いわゆる「普通の映画」にはあまり出演しないこじらせ女優だし、ノオミほどのスターがありふれた低予算ホラーになど出るわけがない)、まさか映画自体がここまでこじらせた内容だとは…。

映画を観たあと鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、ぽかんっ、あぜんっ、としてしまった。ようやく我に返ってパソコンを起動、民の下馬評をチェックしてみようと思った。

私は映画に対する自分の評価と世間の評価がしばしば乖離するので、私がすげえ駄作と思っても浮世の人民はすごく褒めていて狂ってるのは俺か?お前らか?現象に苛まれるのである。


ためしにFilmarksを開いてみた。不満が破裂していた。

Yahoo!映画を開いてみた。不満が破裂していた。

みんなのシネマレビューを開いてみた。不満が破裂していた。

映画.comでもAmazonでも不満が破裂していた。

不満分子がめちゃめちゃいた。

とはいえ、日本人とアメリカ人とでは映画に対する感覚がずいぶん違うので、かしこい私は海外にも目を向けてみた。

ロッテントマトを開いてみた。不満が破裂していた。

IMDbを開いてみた。不満が破裂していた。

海外にも不満分子がめちゃめちゃいた。


ノオミ・ラパスのインタビューを聞いてみた。

「この映画は世界中の人々の心を掴むでしょう!」と自信たっぷりに激推ししていた。

われわれの心は掴まれてなどいない。破裂したのだ。


製作のアンドリュー・ラザーのインタビューを聞いてみた。

「観る人が死にそうになるほどの恐ろしいホラーです!」と自信たっぷりに激推ししていた。

たしかに不満が破裂して死にそうになった。


というわけで、久しぶりにゴリクソの駄作を観て激怒メーターが破裂しました。

ノオミ・ラパスのキャリアが破裂しないことを願います。

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