ヴァルたん映画の決定版。
1991年。オリバー・ストーン監督。ヴァル・キルマー、メグ・ライアン、カイル・マクラクラン。
伝説的なロックバンド、ドアーズ。そのボーカリストであるジム・モリソンの半生を綴った伝記映画。映画科の学生だったモリソンが、その後天才的な作詞能力を発揮してゆきドアーズを結成。『ハートに火をつけて』を引き下げ一気にスターダムにのし上がる。ステージ上でワイセツな言葉をはき捨て、派手なパフォーマンスを繰り返す彼は、熱狂する若者たちのカリスマへと祭り上げられてゆく。(Yahoo!映画より)
60年代のサイケデリック・ロックに貢献した伝説のバンド、ドアーズ。ヒッピーのマストアイテムだった『ハートに火をつけて』はロック史にとっても非常に重要なアルバムである。
本作は、そんなドアーズのボーカリストであるジム・モリソンが27歳で夭折するまでの半生を描いたロック映画だ。
主演はヴァル・キルマー。
否が応でも思い出されるのが以前に取り上げた『レッドプラネット』(00年)の評。「底抜けヴァルたん映画」という新たな地平を切り拓いたヴァルたん主演作である。
ヴァル・キルマーの顔が驚くほどジム・モリソンに似ているという点を除けば、わりと普通の音楽伝記映画である。
ジム・モリソン(左)、ヴァル・キルマー(右)。
この頃のヴァルたんは色気があった。
ところが2000年ごろから太り始めて…
見事にダンゴ化。
フォルムがスティーヴン・セガールやないか。
そして現在…
癌で激痩せ。
無事に治療を終えてカムバックしたらしいが、『トップガン』(86年)の続編には出演するのだろうか?
この映画ねぇ、コンサートシーンがやけに多くて長いのがネックなんだよ。
ドアーズって、ジム・モリソンの悲鳴のようなシャウトとは裏腹に、楽曲自体はけっこう眠たかったりする。炸裂するような疾走感はなく、サイケデリックな不安定さで前頭葉がマッサージされるようなロックなのだ(酩酊状態で聴くと気持ちいい)。
したがって、本作の見せ場であるコンサートシーンで私が居眠りしてしまったのも必然の帰結。
↓ちなみにドアーズってこんな音楽です。
代表曲「Light My Fire(ハートに火をつけて)」。
私は毎日レインボーやらヴァン・ヘイレンのような爆発力の高いハードロックをイヤホンで聴きながら眠りにつくというハードロック睡眠学の実践者なので、ドアーズなんて一発で眠っちまうわけだ(ハードロック睡眠学…ハードロックを聴きながら眠ることで快適な睡眠を実現するという学問。体系化とかはされていない)。
別にこれはドアーズが生っちょろいバンドだと言っているのではない。
むしろ逆だ。
ディストーションの利いた雷鳴の如きエレキギターと雨雲のようにどんよりしたベース、そこに豪雨さながらに乱れ打つドラムと竜巻のようなボーカルが調和したハードロックという暴風雨の中でも熟睡できるほど、私はロックの演奏にリラックスしてしまえる身体なので、コンサートシーンで居眠りしてしまうというのは本作に対する私なりのリスペクトなのである。
胡散臭い?
胡散臭いよな。ごめん。僕も途中で「詭弁だな」って気づいた。
そして、亡きジム・モリソンの化身を完璧に演じた本作の91年という年は、今やすっかり凋落俳優となったヴァルたんにとっての最初の全盛期である(ちなみに『バットマン フォーエヴァー』の主役を射止め、『ヒート』での存在感が光ったのは95年。ここらあたりがピークでした)。
本作でのヴァルたんは、吹き替え無しでドアーズの楽曲を恐るべきクオリティで歌い上げ、コンサートでの狂気的なパフォーマンスに至るまで、まるで本物のドアーズのコンサート映像を見ているかのような錯覚を与えてくれる。
これに比べると『ロック・オブ・エイジズ』でデフ・レパードとかボン・ジョヴィを歌ってたトム・クルーズのなりきりロック歌手演技が児戯に等しく思えてくる。
ロックを扱った映画に限らず、個人的に栄枯盛衰のドラマが大好きなので、さほど退屈せず140分鑑賞できたが(と言いつつ途中寝ちゃったけどね)、どうしても指摘しておきたい欠点が2つある。
ひとつはロック伝記映画に欠かせない恋人とのすったもんだ。この恋人役を、まだラブコメの女王になる前のメグ・ライアンが演じていて実に初々しいのだが、とにかく描写がテキトー!
思えばオリバー・ストーン*1の映画で女性がロクな描かれたためしがない。父親との確執と戦争のトラウマだけで出来ているような人だから、女性の入り込む余地がないのだ。
なので本作のメグも、途中で忘れ去られたように画面に出てこなくなったり、急に思い出したように出てきたかと思えばさっきまでと性格が変わってたりとムチャクチャ。
大体からしてロック伝記映画にメグを起用するという発想自体が何も考えてないあかし!
余談だが、そういえば『トップガン』にもメグ・ライアンが出ていたなぁ。
『トップガン』で脇を固めていたヴァルたんとメグたん。
第二の欠点は(これもストーンが監督の時点で指摘するだけ野暮なのだが)、余計なストーン印が映画を膨張させていること。
まず、薬物トリップによる妄想シーンが延々続くという冗漫さ。
そして戦争(いよっ、出ましたストーン印!)。
ストーン自身がベトナム帰還兵であり、薬物所持で何度も逮捕されていて、いわば60年代のアメリカを生き写しにしたようなシーラカンス監督だ。
本作はドアーズが活動していた65年~71年までを描いているので、マルコムXの暗殺やソンミ村虐殺事件やニクソンの就任演説といった当時の記録映像が至る所に挿入されている。ドアーズの伝記映画なのに政治への目配せがヤケに強いのだ。ストーンにとって政治への言及はもはや趣味の域ですらある。
そしてそんな生々しい記録映像と、メグ・ライアンというキュートな女優の食い合わせの悪さたるや。不気味ですらあるよ。
異議申し立て映画の急先鋒、オリバー・ストーン。
近年ではスノーデン事件を映画化した『スノーデン』(16年)や、プーチン大統領にインタビューしたドキュメンタリー番組『オリバー・ストーン オン プーチン』を手掛けるなど、その社会派熱はとどまる所を知らない。
どうやらこの映画、「実際のジムはこんなにイカれてない!」という批判の声がドアーズの元メンバーたちから上がったようだ。
確かに劇中でヴァルたんが演じたジム・モリソンは、常時ヤクと酒を摂取して意識朦朧、メンバーにテレビを投げつけるわ、客を罵倒するわ、女と手首を切り合って生き血を吸うわ、黒魔術をやるわと、明らかにロックの不健康で破天荒なイメージを大袈裟に拡大解釈しているようにも思える。
しかしバスタブでの死に顔は神々しいまでに美しかった。この頃のヴァルたんは最高にセクシーだったのだ。
※当ブログはヴァルたんの復帰を応援しています。