すべて「製作側の都合」だけで出来たポンコツ・スリラー。
2013年。スコット・ウォーカー監督。ニコラス・ケイジ、ジョン・キューザック、バネッサ・ハジェンズ。
1983年、米アラスカ州アンカレッジ。娼婦のシンディは、ボブ・ハンセンという男性客にモーテルの部屋で殺されそうになったところを逃げ出し、警察に駆け込む。しかしハンセンは模範的な市民で、地元警察は娼婦と客の単なるトラブルとして問題を解決しようとする。同じ頃、身元不明の少女が無残な遺体となって発見される事件が起こる。アラスカ州警察巡査部長ジャック・ハルコムは、最近連続して見つかっている変死体と同一犯ではないかと疑い、調査を始めるが…。(映画.com より)
ニコラス・ケイジの「あと3~4年で引退」発言を記念して、最近は『コン・エアー』(97年)や『フェイス/オフ』(98年)などを観返している。
ニコラス・ケイジといえば、ハリウッドを代表する元名優だ。
若かりし頃は『バーディ』(85年)や『リービング・ラスベガス』(96年)など優れた映画に多数出演して人気を不動のものにしたが、ここ10年ほどは浪費癖が祟って借金地獄。ほとんどゴミ同然のVシネやB級映画に見境なく出演しては省エネ演技でやり過ごし、自身が発掘した後輩ジョニー・デップから金まで借りる始末の凋落俳優。
本日はたいへんお日柄も良いので、そんな心身ともにボロボロのニコラス・ケイジが主演を務めた2013年のポンコツ・スリラー『フローズン・グラウンド』を取り上げます。
先に褒めておきましょう。この映画の良い所はニコラス・ケイジとジョン・キューザックの共演。
以上。
本当にそれだけ。完全なる以上だよ。
あの『コン・エアー』の名コンビが再び共演するので、洋画劇場で死ぬほど放送していた『コン・エアー』を観てすくすくと育った私みたいな人間にとっては堪えられない。
ちなみにジョンキューちゃんの方も、今となっては低予算映画で細々と活躍するB級俳優に…。
さて、本作は1980年代に全米を震撼させたアンカレッジ娼婦連続殺人事件が基になっている。
事件の関係者や被害者に綿密な取材を行ったり、二十数名にも及ぶ当時の犠牲者の写真をエンドロールで使用したりとリアリティを狙った本作は、しかしリアリティと最もかけ離れたニコラス・ケイジの起用や、保護された被害者をめぐる刑事と犯人のあまりに劇画的な攻防、そしてクロスカッティングによる終盤の畳みかけはまさにハリウッド流サスペンスの定石であり、いわば事実を創作であるかのような手法で見せているので、極めてチグハグな印象を受ける。
いつもの省エネ演技で役に臨むニコラス・ケイジ。
昔はそんなことなかったのに、ここ10年ぐらいの映画では常にこの顔。どんな映画でも「険しい顔」だけで推し通すという、ハリソン・フォードの命脈を継ぐ省エネ俳優に…。
根本的にサスペンスを破綻させているシナリオも隙だらけ。
ジョン・キューザック演じる連続犯人鬼は冒頭から顔を出して登場するため、物語は犯人探しではなくニコラス刑事がいかにして犯人を捕らえるかという奮闘のプロセスに照準を合わせている。
あまつさえ、ニコラス刑事は最初からジョンキューちゃんが犯人だろうと目星をつけていて、実際その推理は当たっているわけだし、取調室で「お前が犯人だろ、ジョン・キューザック!」、「犯人じゃないザック!」、「お前がやったんだろ?」、「やってないザック!」、「本当のことを言え!」、「キュ~~」の堂々巡りも演じているため、あとは犯人のキューちゃんがいかにして証拠を抹消し、捜査を攪乱し、警察の無能ぶりを嘲笑うのか…、そしてニコラス刑事は容疑者逮捕の決め手となる証拠を見つけだして霧の中の犯人を白日の下にさらすのか…といったストーリーテリングによって警察と犯人の駆け引きを描写していかねばならないはずだ。
しかしその駆け引きがあまりに低次元というか、何のロジックもない。
娼婦だけを狙う殺人鬼、ジョン・キューザック。悪役は珍しい。
ニコラス刑事が間違いなくキューちゃんが犯人だと確信してるけど逮捕できない理由は以下の3つ。
(1)逮捕令状が出ない
(2)被害者が証言してくれない
(3)そもそも証拠がない
(1)と(2)に関しては、映画の尺を引っ張るためにわざとニコラス刑事の動きを鈍らせているだけに過ぎない。製作側の都合である。
逮捕令状はおろか捜索差押許可状さえ出ない理由は「あぁ、キューちゃんね。彼は模範的な市民だからシロだろ多分」とヤケにふんわりしたことを上司に言われたからであり、隙を突いて犯人の魔の手から逃れた唯一の生き証人である非行少女が証言しない理由は「大人は信用しないから、刑事さんのことも信用しないの」という謎のこだわりを貫いて捜査に非協力的だから。
なんだそれ。
要するに犯人逮捕の鍵を握る重要キャラが全員やる気なしだから、いつまで経っても犯人を逮捕できないという…。
やる気の問題かよ!!
ニコラス刑事が「そんなつまらんことを言うてる場合かっ」と一喝して少女や上司の顔をブッ叩いてやればすぐ捜査に協力的になるだろうが、それをすると一瞬で犯人を逮捕できて映画が終わってしまうので、上司必殺の謎の理屈と少女必殺の謎のこだわりでダラダラと時間稼ぎをしようという算段なのである。
もうね…、映画越しに製作側の都合が透けて見えちゃってるの。
逮捕できない理由その三「そもそも証拠がない」というのもひどい。
実際にニコラス刑事が「そんなつまらんことを言うてる場合かっ」と一喝したのが功を奏して遂に捜索差押許可状をゲットし、証拠を探すためにキューちゃん邸の家宅捜索を行うが、どれだけ探しても証拠らしきものは一向に出てこない。
ここでようやく少しおもしろくなってきたか…と思いきや、「証拠は見つかりませんでした」と言われたニコラス刑事が、部下たちに「あいつが犯人に違いないんだ。絶対に何かあるはずだから、もう一度調べ直してくれ!」と喝を入れて再び家中を探しまくると「アッ。屋根裏に猟銃ありましたわ!」。
あるんかーい。
もっぺん探したら普通に見つかったんかーい。
では、なぜ一度目の家宅捜索では猟銃を発見できなかったのか?
監督「すぐ見つかるとすぐ映画が終わっちゃうからです」
すぐ死ね!