シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

母の旅路

テレビ屋さん特有の駄メロドラマ。TBSが出資しとんのか?

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1965年。デヴィッド・ローウェル・リッチ監督。ラナ・ターナー、ジョン・フォーサイス、リカルド・モンタルバン、ケア・デュリア。

 

ある未亡人のとっても悲しい半生を描いたコテコテのメロドラマだで。

 

おはようございます。

今日は特に書くことがないので、うろ覚えだけど「もののけ姫」を歌ってみます。

 

張り詰めた指の 震える舌よ

月の光によく似た おまえのはごろも

研ぎ澄まされた 刃の美しい

その切っ先によく似た おまえのはごろも

悲しみと怒りにひそむ まことの心を知るは森の精

もののけ姫だけ もののけ姫だけ

Uh... Uh... Uh...

 

懐かしいなぁ。これ歌ってたの誰だっけ。たしか名前の響きが吉良吉影(きら よしかげ)みたいな音だったと記憶しているのだけど。気になるので調べてみます。

あ、わかりました。米良美一(めら よしかず)ですね。ほぼ吉良吉影だったので安心しました。

ちなみに吉良吉影というのは『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部に出てくる敵キャラで、「キラー・クイーン」といって触れた物を爆弾に変える能力を使います。能力名の由来はクイーンの楽曲です。ついでなので「キラー・クイーン」を歌ってもいいんですが、まぁ遠慮しておきます。

そんなことより『母の旅路』をお送りしなければなりませんからね!

どうでもいいけど、うちのブログはご夫婦揃って読んでくれている方が結構いるみたいです。離婚調停の際はぜひお声掛けください。微力ながらお手伝いできればと思います。

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◆20世紀で最もスキャンダラスな小悪魔◆

TSUTAYA発掘良品で見つけてパッケージが格好よかったから観た。

本作はラナ・ターナーの引退作である(厳密には最後のメジャー映画)。

もはやラナ・ターナーと言っても「誰?」と返されるような悲しい時代になってしまいましたが、彼女はエヴァ・ガードナーやジーン・ティアニーと並んで40~50年代にファムファタール女優として一世風靡したセックスシンボルである。

まぁ、いくら私が必死こいて『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(46年)『悲しみは空の彼方に』(59年)といった代表作を挙げたところでピンとこない人はピンとこないだろう。そもそもラナ・ターナーを知らない人は当然彼女の代表作も知らないからだ。

そう考えると監督や俳優を紹介する際に「代表作」を挙げる行為なんてほとんど無意味なのかもしれない。

もともとその人物を知ってる人なら代表作などいちいち挙げなくても知っているし、知らない人はなにも知らないから代表作を教えたところで「ああ、アレか!」とはなかなかならない。

まぁ、そんな話はいい。

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20世紀最高の美女のひとり、ラナ・ターナー

 

映画の中では愛人をそそのかして夫を殺させるようなヴァンプ(妖婦)を演じたラナ・ターナーは私生活でも持ち前の小悪魔ぶりを遺憾なく発揮し、生涯で8回結婚、さらにはクラーク・ゲーブル、ハワード・ヒューズ、フランク・シナトラなど各界の超大物たちと浮名を流した激マブ女優である。

また、ラナ・ターナーを語る際にどうしても避けては通れないのが1958年にラナの娘シェリルが彼女の愛人を刺殺した事件である。

恋多きラナ・ターナーはジョニー・ ストンパナートという狂暴なDV男と付き合ってしまい、荒くれジョニーの荒くれは日々エスカレート、いよいよ「ママンが殺される!」と感じた14歳のシェリルはキッチンナイフでジョニーをメッタ刺しにした。やっちまっターナー。

この「やっちまっターナー事件」はたちまち大スキャンダルになり、ラナの奔放な男性遍歴まで槍玉に挙げられた。だがラナは逆転勝ちをおさめる。シェリルの裁判で1時間におよぶ証言をして陪審員を号泣させた結果、シェリルは無罪放免。この証言は「一世一代の名演技」と称され、当時落ち目だったラナのもとには映画のオファーが舞い込んだのだ。悪女イメージを刷新してさらに人気が出ターナー

ちなみに、このエピソードは『L.A.コンフィデンシャル』(97年)でも扱われてます。

 

そんなラナ・ターナーが「やっちまっターナー事件」を経て44歳のときに出演したのが本作だ。

原題は『Madame X』。うひゃあ、マダムXとか超かっこいいじゃん。なのに『母の旅路』なんて鈍臭い邦題をつけやがって。メチャ許せん。

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本作のラナ。

 

◆ご都合主義上等◆

未亡人のラナは良家の富豪ジョン・フォーサイスと結婚して息子をもうけるが、留守がちなジョンに不満と孤独を募らせたラナは人恋しさからジョンの友人、リカルド・モンタルバンと不倫してしまう。過ちに気付いた彼女はリカルドに別れ話を切り出すが、言い争ううちにリカルドが階段から足を踏み外して転落死してしまった(リカルドはおっちょこちょいだったのだ)。

この事件は以前からラナの不倫を怪しんで探偵をつけていた義母だけが知っており、ジョンのスキャンダルを恐れた義母はラナが事故死したことにして彼女を国外に追放してしまう。二度とジョンや息子に関わるな、偽名を使って生きろ、と言うのだ。

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義母から国外追放を受けるラナ。

 

そして数十年後…。アメリカを追われたラナはヨーロッパを転々としながら酒に身をやつしており、その一方で、未だに妻が事故死したと思っているジョンはNY市長にまで上り詰め、息子は弁護士になっていた。

そんな折、スラム街でラナと知り合った男がひょんなことから彼女の正体を知って金をゆすろうと企んだ。無一文のラナは、このままでは正体をバラされて夫と息子に迷惑をかける…と思い悩んだ末に男を殺害し逮捕された。

そしてクライマックス。素性不明のラナは「マダムX」として法廷に立たされるのだが、なんとラナの弁護を引き受けたのは息子だった!

たまたま息子だったのだ!

しかも息子は幼少期にラナと生き別れたので、まさか自分が受け持った被告が母親だとは夢にも思ってない!

おまけに傍聴席にはジョンと義母がいた!(息子の弁護士デビューを参観するため)

なんだこれ都合よすぎないか。

ラナの弁護を受け持ったのがたまたま息子で、傍聴席には夫と義母がたまたまいて、奇しくも数十年前に家族だった4人がたまたま集合って。

 

そう。都合がいいのである。このご都合主義こそがハリウッド映画。

本作が作られたのは1965年。どこぞのレビュアーも指摘していたが、60年代後期には『俺たちに明日はない』(67年)『イージー・ライダー』(69年)といったアメリカン・ニューシネマが台頭し始めてハリウッド神話が崩れ去った。いわば本作は最後のハリウッド映画なのだ。

米芸能史のスキャンダルにまみれたラナ・ターナーがトウの立った中年女性としてのやや弛んだ顔を刻みつけ、あまつさえ「家族のために殺人を犯す」という実娘シェリルの辿った数奇な運命を演じたところにハリウッドの終焉を見た。

60年代…。それはハリウッド黄金期を支えたスターたちが中年に差しかかり、時代の趨勢やミステリアスな陰謀とともに次々と消えていった時代である。

スペンサー・トレイシーもゲイリー・クーパーもモンゴメリー・クリフトも皆死んでしまった。チャップリンは国外追放を受けて完全引退。20世紀最大の美女だったエリザベス・テイラーは『バージニア・ウルフなんかこわくない』(66年)でブクブクに太って醜悪なババアを演じ、マリリン・モンローは『荒馬と女』(61年)で脱アイドルを試みた(翌62年死亡)。そしてラナ・ターナーも『母の旅路』を最後に一線を退く…。

夢の崩落、その渦中に作られたのが本作なのである。

ご都合主義? 結構じゃないか。

個人的にはアメリカン・ニューシネマの「そう都合よく事は運ばない」という無慈悲な映画の方が好きなのだが、その一方でコテコテのハリウッド映画を愛する自分もいたりなんかしちゃったりして。

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リカルドと浮気するラナ。

 

◆まるっきりTBS映画◆

さて、映画の話に戻ろう。

クライマックスに当たる裁判シーケンスは、ラナの方も自分の弁護士が息子だと気付かぬまま裁判が進んでいく。

ラナはまず傍聴席でジョンと目が合い、続けて検察側の「弁護人はNY市長ジョンのガチ息子」発言を受け、ようやく自分の隣にいる青年が息子だと知る。このシーンはラナとジョンの視線劇が素晴らしいのだが、そのあとの検察側の無粋な説明台詞のせいでサスペンスが台無しになってしまったのが残念。愁嘆場のたびにラナがぼろぼろ泣いて過剰な劇伴が鳴りしきるのもウンザリだ。

TBSの映画じゃないんだから。

1960年代のユニバーサル作品でこの演出力の低さ。なぜこんなことに…と思ってよくよく調べてみたら、監督がテレビ映画やテレビドラマ専門のデヴィッド・ローウェル・リッチだと知って腹落ちした。こいつは『ルート66』(60-64年)『エアポート'80』(79年)でリッチになったテレビ畑の人間で、言っちゃなんだがテレビ規格の映像表現しか持たないザコである。

もちろん「テレビマンには映画が撮れない」などとやたらな事を言うつもりはないし、現にテレビやCM出身でもリドリー・スコットやデヴィッド・フィンチャーのように大成した作家も大勢いるわけだが、そういう奴らは「映画の筋肉」とでも言うべき資質を後天的に鍛えていったのだ。映画とテレビはまったく異なるメディアであるということを理解したテレビマンだけが映画業界で成功する。

翻って、なんたらかんたらリッチとかいう名前を覚える気にすらならない監督は、テレビの方法論をただスクリーンに移植して小金を稼ぐだけの大馬鹿垂れであった。

説明台詞、役者のドカ泣き、音楽ドガシャーン。

やってることが『恋空』(07年)『ROOKIES -卒業-』(09年)の次元である。

『母の旅路』はTBS映画!

TBSが出資・製作してます! 「母の旅路製作委員会」とかなんとか言って。そんな委員会ってどんな委員会なんだ。ぶっ潰してやるぜ!

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スチールは素晴らしいのになぁ。

 

腹立つからネタバレしてやります。

息子はこれが弁護士デビューとは思えない弁舌で「それは違うと思います」とか「なにをいってるかぜんぜんわからない」など高度な弁論術を用いてラナを有利に導くが、あとちょっとで勝てるというところでラナが裁判中に息を引き取ってしまう。

そもそもの発端はラナの不倫なので悪因悪果ザッツオール。幼い息子を家に残して愛人のもとに走った若き日の過ち。今回の一件はそのツケを支払っただけで、それで涙せよとか言われても…カッピカピですわ、お目め。

もっとも、ラナ・ターナーのハリウッド終焉期の作品…というところに値打ちという値打ちが集約されているので、出来はともかく観れたことを嬉しく思います。

ちなみに青年期の息子を演じたのはケア・デュリア『2001年宇宙の旅』(68年)のボーマン船長です。

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本作の3年後に宇宙に行ってHAL9000をどうこうします。