シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

白熱

バカが4日で書いたようなプロット。だがこれが70'sB級映画の醍醐味!

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1973年。ジョセフ・サージェント監督。バート・レイノルズ、ジェニファー・ビリングスリー、ネッド・ビーティ。

 

密造酒運びの罪で入獄していたゲイターは、弟ドニーがボーガン郡で殺されたと知らされる。ボーガン郡では保安官のコナーズが密造酒業者からワイロを受け取り、郡を牛耳っていた。財務省からコナーズの悪事を突き止めるよう要請されたゲイターは、弟の仇を討つために仕事を引き受けて出所、観察処分中のデュードを介してロイの助手として密造酒運びを始める…。(Amazonより)

 

おはよう。

全身がめしゃんこになっているので今日こそ前書きナシです。いいか、前書きなど絶対に書かんからな!

それはそうと、昨日はもやしが歯に挟まったが、今日はネギが歯に挟まった。汚い話をして申し訳ないが、私の歯にはよく物が挟まる。べつに隙っ歯というわけじゃあない。治療放棄した歯に数ミリの隙間が出来ているだけなのだ。だから、どうか隙っ歯と思わないでほしい。そんな目で見られるのは耐えられない。

歯に物が挟まるといらいらするものだが、考え方を少し変えるだけでとても前向きな気持ちになれることをキミたちは知っているだろうか。

「挟まった」と思うのではなく「挟んでやった」と思えばいいのだ。

俺はネギを歯と歯の間に挟んでやった。どうだ、挟み撃ちだ。きっとネギの野郎は「参った。挟まれた」と思っているはずだ。手も足も出まい。俺の勝ちだ。

そんなことより、とっとと歯の治療を再開せねばならんのだが…まことに億劫である。

だいたい歯の治療ってなんであんなに長くかかるん。「次回はどーのこーの」とか「次はいつ来れますか」とか。一体いつ終わるんだ。果てしない旅かよ。どうも俺には歯科医が回数稼ぎをしているように思えてならない。息子から貰った肩叩き券10枚組をチマチマ使う親のように。息子は「まとめて一気に使ってほしい」と思っているのだ。その都度対応するのが面倒臭いから。

そんなわけで本日は『白熱』です。白熱していこー!

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◆清々しいほどつまらない。だからイイんじゃないか!◆

タランティーノ好き集まれー。

この掛声を発さずして何の掛声を発しろというのか。くどいぞ、何度も!

まず最初にタランティーノ好き=だいたい70's米映画マニアと決めつけておく。「極端すぎる」と思う人もいるだろうが、そうとも、極端な話をしているんだ。

そしてそんな連中の心を大いにくすぐる『白熱』を十数年ぶりに「白熱ー」と騒ぎながら観返し、アドレナリンが少しばかりピュッと出たので此処にて悦びを綴る次第。

『白熱』はクエンティン・タランティーノのフェイバリットムービーとして知られている。巷で有名な「タランティーノが選んだオールタイムベスト」などでは『ヒズ・ガール・フライデー』(40年)『ジョーズ』(75年)といった立派な映画が挙げられているがあんなもんは半分タテマエで、タランティーノが本当に好きなのは『ブラック・サバス / 恐怖!三つの顔』(63年)とか『戦争プロフェッショナル』(68年)とか『殴り込みライダー部隊』(70年)『女ガンマン 皆殺しのメロディ』(71年)『片腕カンフー対空とぶギロチン』(75年)『バトルガンM-16』(87年)などなど…タイトルを見てるだけで頭が悪くなりそうな低級映画群である(めちゃめちゃ褒めてるよ今)

 

その中でもタランティーノに一際強い影響を与えたのが『白熱』

主演は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19年)に出演予定だったバート・レイノルズ(2018年9月6日没)。レオナルド・ディカプリオ扮する主人公のモデルになった70'sマネーメイキングスターで、当ファッキンブログで過去に扱った『脱出』(72年)『ロンゲスト・ヤード』(74年)『キャノンボール』(81年)を見れば一目瞭然だが「典型的なアメリカン・タフガイ」で通った筋肉スターである。

そんなB・レイノルズのキャリアはTVドラマに始まり、その後『さすらいのガンマン』(66年)=マカロニ・ウエスタンに出演。『ワンス・アポン~』のデカプーとまったく同じ。

ちなみにブラッド・ピットが演じたキャラクターのモデルは数々のカーアクション映画で知られるスタントマン、ハル・ニーダム(だから運転手の設定)。興味のある方はニーダム監督作『グレートスタントマン』(78年)をチェックしてみればいいと思った(主演はB・レイノルズ)。

また、チャールズ・バーンスタインが手掛けた『白熱』の主題歌「White Lightning」『キル・ビル』(03年)『イングロリアス・バスターズ』(09年)でも使われているほか、チェイスシーンでB・レイノルズのスタントを務めたバディ・ジョー・フッカーは『デス・プルーフ in グラインドハウス』(07年)でカート・ラッセルのスタントマンも務めている。果てしなく繋がっていくゥー。

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70年代筋肉スター、バート・レイノルズ。豪放磊落を絵に描いたような人物。

 

さて『白熱』の内容だが…これが清々しいほどつまんねぇんだ。

どれだけ情状酌量しても「つまらない」以外の判決しか出てこない。ギルティ!

だが、言うまでもないが70'sB級映画に対する「つまらない」はある種の賛辞である。『ワンス・アポン~』のあの死に時間の多さも当時のB級映画の倦怠感を再現したものだし。

筋を紹介する値打ちもないが一応紹介しておこう。密造酒の製造で刑に服していたゲイター(演レイノルズ)が弟を殺したボーガン郡の保安官に復讐するべく連邦政府の密偵になることを条件に出所、密売人に取り入って悪徳保安官をとっちめる!(クライマックスは迫力ゼロのカーチェイス)

まぁ、バカが4日で書いたようなプロットである。

だが、レイノルズが71年型フォード・カスタムを乗り回す『白熱』は予想外にウケて『ゲイター』(76年)という続編が作られたほか、後にレイノルズは『トランザム7000』(77年)『キャノンボール』といったカーアクションの代名詞的作品に多く起用された。

監督は『地球爆破作戦』(70年)『サブウェイ・パニック』(74年)で知られるジョセフ・サージェント。たとえば、そうだな…『組織』(73年)のジョン・フリン、『狼よさらば』(74年)のマイケル・ウィナー、『破壊!』(74年)のピーター・ハイアムズなど、ビッグネームでこそないが70年代アクションを支えた名匠たちの系譜に連ねられるべき作家と言えるかもしれない(言えないかもしれない)。

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◆なんやのん、これ◆

官憲と密造酒組織の癒着を暴くために組織内部に潜り込んだレイノルズだが、映画の大半は仕事などそっちのけで道楽に耽る様子が描かれる。

レイノルズは密売者に紹介されたボー・ホプキンスとその情婦ジェニファー・ビリングスリーとつるむようになり、道でアイスクリームを買い求めてうまうま舐めたり、教会が運営する「未婚の母の家」を見学したり、バーで知り合った大学生たちのアカデミックな議論に全くついていけずに恥ずかしい思いをするなどして夏の思い出作りに鋭意取り組む。ホプキンスからジェニファーを寝取ったレイノルズが怒り狂ったホプキンスと空き地で決闘したりもしちゃいます。

さすがはバカが4日で書いたようなプロット。

一切の妥協を許さない孤高のB級精神。この一体おまえたちは何をやっているのかイズム『ワンス・アポン~』を始めタランティーノ作品全般へと受け継がれている。

 

その後ようやく仕事に取り掛かりはしたが、レイノルズは密造酒組織の情報を引き出すために区役所の保管官秘書のババアを口説く…というえらくナンパな作戦に出た。言葉巧みに食事に誘って「キミはすてきなババアだよ」などと甘言を弄し、彼女の枯れ果てた女心に潤いをもたらしたのだ。

だが結局、丸一日デートした挙句「邪悪な下心は隠せやしないよ、ばか!」と見透かされて作戦失敗。レイノルズはポリポリ頭を掻きながら「あかんかった」とホプキンスに報告した。

ほな何やってん、このシーン。

その後、潜入していた密造酒組織のR・G・アームストロングに正体を知られて監禁されたレイノルズだが、猟銃を撃ちまくって全員殺害。わずか3分で組織壊滅!

ていうかゴリ押しでイケちゃったら潜入した意味がないんだけど…。

さぁ、残すは黒幕の保安官ネッド・ビーティだけだ。

フォード・カスタムとパトカーに乗った二人の一騎打ちだが、先に申し上げた通りチェイスシーンがダルダルに弛緩していて迫力がないことおびただしい。そのさまは花畑でじゃれ合う二匹のポメラニアンのよう。

本作のカーチェイスシーン(イメージです)。

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「噛まんといて」

「追い抜かさんといて」

「やめて」

「こっち来やんといて」

「ふふふ」

「あぁー」

そうしてじゃれ合っているうちに保安官のパトカーが川に突っ込んで自滅。溺死。終了。

沈みゆくパトカーを、レイノルズはただ「えぇー…」って顔で眺めておりました。

なんやのん、これ。

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勝手に川に突っ込んで自滅なさる敵。

 

◆「汗」こそ70'sB級フレイバー◆

何といってもこの映画の見所は、そうね……ですから……特にないかも。

強いて言うなら70'sマニアにはほんのり嬉しいキャスティングだろうか。

紅一点のジェニファー・ビリングスリーは『C・C・ライダー』(71年)『ソルジャー・ボーイ』(72年)などタランティーノ好みのB級映画に出ていた猿みたいな顔した女優である。ほんのり嬉しいね。

悪徳保安官のネッド・ビーティは『脱出』(72年)でケツ掘られてたデブ。あの気弱なデブがふてこい保安官を演じるとはなぁ。また『トイ・ストーリー3』(10年)ではピンク色のダメな熊・ロッツォの声を担当したデブでもある。

レイノルズの相棒を演じたボー・ホプキンスは『キラー・エリート』(75年)やっさんですよ。かなり端役だが『ワイルドバンチ』69年)『ゲッタウェイ』(72年)にも出演していることからよほどサム・ペキンパーから気に入られていたのだろう。

密造酒組織のR・G・アームストロングもまた『昼下りの決斗』(62年)『ダンディー少佐』(65年)などペキンパー初期作を支えたバイプレーヤー。ほんのり嬉しい。

あ、そうそう。あとから知ったがダイアン・ラッドローラ・ダーン(当時6歳)の実親子が親子役で共演している点も見逃せない!(私は見逃したが)

 

また本作は1973年の米国南部の空気が皮膚感覚に伝わる作品でもある。

大学生の輪に入っていけなかったレイノルズにはレッドネックとしての気後れが見え隠れし、「未婚の母の家」で女性たちが釘付けになっていたテレビ伝道師はいかにもインチキ臭い。

そして真夏の焼き付けるような陽射しを浴び、全キャラクターが尋常じゃないほど汗をかいている。映画の「高級感」と「発汗量」は比例するので、汗も70'sB級フレイバーの大事な要素である(汗をかけばかくほど通俗映画に接近するわけだ)。そういえばタランティーノも『ワンス・アポン~』で初めてちゃんと汗を撮っていたな。

もっとも、バート・レイノルズは大体どの映画でも汗だくなのだが。一回落ち着けばいいのに。

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汗かきレイノルズ。彼の魂は『ワンス・アポン~』『デッドプール2』(18年)へと受け継がれる。