書く気も起きないほど心が動かない。
2018年。ピーター・ファレリー監督。ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ。
1962年、ニューヨークの高級クラブで用心棒として働くトニー・リップは、粗野で無教養だが口が達者で、何かと周囲から頼りにされていた。クラブが改装のため閉鎖になり、しばらくの間、無職になってしまったトニーは、南部でコンサートツアーを計画する黒人ジャズピアニストのドクター・シャーリーに運転手として雇われる。黒人差別が色濃い南部へ、あえてツアーにでかけようとするドクター・シャーリーと、黒人用旅行ガイド「グリーンブック」を頼りに、その旅に同行することになったトニー。出自も性格も全く異なる2人は、当初は衝突を繰り返すものの、次第に友情を築いていく。(映画.comより)
おはようございます、民のみなさん。
顔馴染みの中古レコード店のご主人に「ふかちゃん、メイデンは聴かないの?」と言われたので「興味ナイデン」と即答。メイデンとは80年代メタルブームを先導した由緒正しきメタルバンド「アイアン・メイデン」の略称で、一応わたくし、何枚かアルバムを持ってはいるが、嵌ったことはないので「ナイデン」と即答した次第。
したところ主人、「興味ナイデンでも『魔力の刻印』は聴かねばなりませんよ」と妖しいことを言うので「なんぼすん」と訊いたら「今なら出血の880円」と答えたので「ほな買うわ」言うて『魔力の刻印』を買い求めた。商売上手やでえ。
主人「メイデンは僕が一番好きなバンドでね。店内BGMでもよく流しているんだよ」
小生「でも、いま流れてる曲って…」
主人「いま流れてるのはコーンだね」
小生「メイデンちゃうんかい」
主人「でも普段はメイデンを中心に流しているよ。今はたまたまコーンなだけ」
小生「そうなん。たまたまコーンなん?」
主人「メイデンばかりだと若いメタル好きが寄り付かないからね。たまにはコーンも流さないと」
小生「たまにはコーンなん?」
主人「もちろんコーンもコーンで良いんだけどね」
小生「コーンもコーンで素敵なん!?」
こんな調子で、ご主人のメタルトークをただ相槌打ちながら復唱して聞いてるだけのナンセンスタイムを過ごした休日。有意義な時間とは言い難かったけど、不思議と心がまったりしました。
そんなわけで本日は『グリーンブック』ですが、あいすみません、評を見送ろうと思ったぐらい1ミクロンたりとも心が動かなかった作品なので過去最短の評におさまっております。居合斬りみたいに一撃で終わらせてしまった。明日も更新するからギブミーご了承。
◆アカデミー作品賞受賞も納得◆
驚くほど手堅く小綺麗にまとまっているため私には極めてどうでもいい映画である。
ドン・シャーリーは白人好みの黒人というキャラクターに矮小化され、差別主義者だったトニー・リップはいつの間にか黒人への偏見をなくしてゆく。類型的でいて、まろやかな人種差別の描き方。毒抜きされたピーター・ファレリーがこれほどつまらないことに愕然としております。
YMCAのプールで明かされたドンの性的指向はその後のトニーとの連帯がホモソーシャルなのかホモセクシュアルなのかと戸惑わせる。この瞬間、本作の主題は散逸した。
何かよからぬことが起きそうな気配を湛えた夜雨のハイウェイと二度目のスカし方、あるいは後部座席にふんぞり返っていたドンが疲労のトニーと交代して雪道を運転するシーンなど、総じて予定調和な画運びが目立つ。その最たる例は撮影数ヶ月前から相当な訓練を積んできたであろうドン役マハーシャラ・アリが実際にピアノを弾いていることを示すためだけの演奏シーンの死んだ長回し(2回)。
貧乏だが家族親戚に囲まれたトニーと成功者ゆえに孤独に身を置くドンの対比もいささか野暮ったい(説話としての論理は理解できるが皮膚感覚として情感に欠ける)。物語のキーアイテムである『黒人ドライバーのためのグリーン・ブック』も特に活用する気がないらしい。あとフライドチキンはもっと美味しそうに撮った方がいいと思う。
反面、1962年のニューヨークの雰囲気がとてもいい。昼は陽光を強調し、夜はネオンを強調する。コンサート・ツアーの足となるライトブルーのキャデラックも鮮烈な印象。とても知的でフレンドリーな車です。
ただし旅程のディープサウスではコンサート先の建物の正面ショットばかりで(まるでウェス・アンダーソンのように)、これで「アメリカ南部を撮った」と言われても、ねぇ。
あとはもう主演二人の魅力だけ。というかこの映画はほぼこれ。
ヴィゴ・モーテンセンはフライドチキンでベトベトにした手でハンドルを握り、後部座席の方を振り向いて「おめえ、アレサ・フランクリンもリトル・リチャードも知らねえの」とペチャクチャ喋ってチキンの骨を窓から放り投げる。そして叱られるべくして叱られる。
学知利行のマハーシャラは、そんなヴィゴの豪放な下町根性に感化されて少しずつ柔らかい人間になっていく。映画後半なんてほぼツンデレだった。
ヴィゴ・萌えテンセンとマハーシャラ・デレがイチャつくさまを「よろしいなぁ、よろしいなぁ」とやや涎を垂らしながら楽しむ分には最高の萌え映画といえる。
本作は去年のアカデミー賞で作品賞に輝いた。毎年そうだが誰も映画など観ていないことがはっきり証明された結果となったが、実際『グリーンブック』はヴィゴとマハーシャラを見るための映画なので、ある意味では納得の受賞だと思う。おめでとうございます。
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