シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

テレフォン

テレフォンつってるけど電話の意味なくね。

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1978年。ドン・シーゲル監督。チャールズ・ブロンソン、リー・レミック、ドナルド・プレザンス。

 

冷戦時代、KGBは電話による指令で破壊活動を行なうように洗脳した54人の工作員をアメリカに送り込んでいた。その54人の情報を握ったKGBのダルチムスキーがアメリカに潜入し、テロ行為を開始。KGB本部はこの事態を収拾するため、ダルチムスキー殺害を計画し、ボルゾフ少佐をアメリカに派遣する。ボルゾフは同局員のバーバラとともにダルチムスキーを追うが…。(映画.comより)

 

ちす、みんな。ちす、ちす!

本稿をもって今年200回目の更新となる。通算では470記事に達するので、こりゃ500回目を迎えた暁には何か特集記事でも書かにゃならぬかなぁ、と勝手な義務感に駆られているのだけど、じゃあ何を書くかといったら、わかんねえ、ミステリィだよ。

ちなみに、先月書き始めて下書き保存したっきりの『ジョン・カザールとは何だったのか特集』という未完記事があるのだけど、これはもう完成させる意思を完全に失っております。よく考えたらジョン・カザールでは一記事もたんということに気付いてしまったんだ。

そんなわけで、これから三発目のマンダムを撃ち込むわけだが、今回は実にあっさりした映画なのでレビューもあっさりめになっている。その名も『テレフォン』。話のネタにもならない凡作です。

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◆今度のブロンソンは記憶の達人◆

チャールズ・ブロンソン特集第三弾は『テレフォン』である。本当は『特攻大作戦』(67年)『メカニック』(72年)なども取り上げたいが、確実に誰からも望まれていないのでひとまず本作を以てラストマンダムとする。

 

アメリカ全土で米軍基地を狙った自爆事件が相次いで発生。犯人は冷戦時代にKGBの薬物洗脳「テレフォン作戦」を受けた54人の民間人で、電話越しにロバート・フロストの詩の一節を聞くと催眠術にかかったように自爆行為に向かっていった。

彼らを電話で操っているのはソ連のタカ派ドナルド・プレザンス。こいつはデタントにより廃棄されたテレフォン作戦を悪用してアメリカと戦争を始めようとしていた。バカかこいつ、なんてことするんだ!

KGBモスクワ本部は凄腕の諜報員ブロンソンにプレザンス抹殺を命じてアメリカに派遣。ブロンソンは在米KGBのリー・レミックと協力してプレザンスの行方を追う。

面白いんだかつまらないんだかよく分かんねえプロットだな。

 

本作が作られた70年代後半のブロンソンは50代半ばを迎えて安定期に入り、アクション俳優として映画を手堅くヒットに導く存在になっていた。『さらば友よ』(68年)『ウエスタン』(68年)で身につけた格はいくぶん落ち、アラン・ドロンやユル・ブリンナーのような大スターと共演する機会もめっきり減った。大衆がマンダム慣れを起こしていたのだ。

その一方で『狼よさらば』(74年)に始まった「Death Wishシリーズ」は5作品続き、大家J・リー・トンプソンの後期を支えたり当時新人だったウォルター・ヒルのデビュー作を飾るなど、全盛期には及ばないまでもそれなりの活躍を見せていた。

ちなみに私は主演俳優がちょうど輝きを失い始めた時期の中規模予算のジャンル映画愛好家なので『テレフォン』のブロンソンは最高。少しくたびれながらもプレザンスを追うアンニュイな佇まいだけでご飯三杯食べれちゃうのである。

そんなブロンソン、本作では「完全記憶」というカメラアイの持ち主を演じており、目で見たものをむやみやたらに記憶する。ちなみにこの能力は、54人のリストを瞬時に記憶する…という割とどうでもいい場面で使われただけの無駄設定であった。

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完全記憶という無駄な特技を持つブロンソン。

 

そんなブロンソンと行動を共にするのがリー・レミック。

好きです。デートを申し込みたい。レミちゃんにテレフォンしてデートを申し込みたい。

レミちゃんと言えば『オーメン』(76年)のママン役で知られる女優だが、本作では実にキュートな現地協力者を演じている。無口で冷たいブロンソンにぺらぺら話しかけ「殺されたくなければ黙っていろ」と凄まれても口を閉じないじゃじゃ馬娘(43歳)。

共同任務の中で少しずつブロンソンに好意を寄せはじめたレミちゃんだが、その正体はCIAに所属する二重スパイで、副長官から「プレザンスもろともブロンソンを始末しろ」と命じられてしまう。う~ん、レミちゃん困っちゃう。

病院潜入時のナースコスだけでご飯三杯食べれちゃうのである!

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私の中の「デートを申し込みたい女優ランキング」において第59位という好成績を残したレミちゃん。

 

監督は『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(56年)で知られる重鎮ドン・シーゲル。サム・ペキンパーやクリント・イーストウッドのお師匠様だな。ミニマムな編集法はイーストウッドに、暴力表現はペキンパーへと受け継がれた。キャリア後期にはイーストウッドを使い倒した『ダーティハリー』(71年)『アルカトラズからの脱出』(79年)などで大衆的な人気をゲットしている。

脚本は『カプリコン・1』(77年)ピーター・ハイアムズ『ポセイドン・アドベンチャー』(72年)『タワーリング・インフェルノ』(74年)スターリング・シリファントが共同執筆。商業映画にズッシリとした重厚感を加えるのがうまい二人である。よく知らねーけど。

 

◆電話の意味なくね◆

はっきり言ってこの映画は本筋に目を向ければ向けるほどつまらない。電話越しの詩が洗脳開始のトリガーになる…というアイデアはおもしろいが、悲しい哉、まったく活かしきれてないのだ。

プレザンスはよほど用心深い性格なのか、工作員が肉眼で見える距離まで近づき、傍の公衆電話から詩を読み上げて洗脳する。そのせいでプレザンスが工作員に自爆させる順番に法則性があることを見破ったブロンソン&レミちゃんが次の工作員の家に先回りしたことで、そこに現れたプレザンスをいとも簡単に仕留めてしまうのだ。アホみたいな映画である。

電話という「遠隔通信技術」を取り入れたストーリーなのに発信者が着信者に「接近」するという本末転倒ぶり。

これ電話の意味なくね!!!

わざわざ工作員の自宅付近まで出向くのであれば、べつに電話など掛けずとも口頭で本人に詩を伝えて洗脳してもいんでね!!!

この無意味な「距離感」のためにどうも盛り上がりに欠ける。これとは別にKGBやCIAの人間がひっきりなしに電話をかける場面も雑情報にしかなっていない。

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わざわざ工作員の自宅付近から電話をかけるプレザンス。

 

まぁ、そうした本筋を無視しさえすればそれなりに楽しめる作品ではある。

好意ゆえに執拗に絡むレミちゃんとそれを全く相手にしないブロンソンの噛み合わなさが妙にコミカルで、その中にもブロンソン暗殺命令を受けたレミちゃんの葛藤がさり気なく描出されていく。愛を取るか任務を取るか…。

だからこの映画…見様によってはレミちゃんの恋心を追ったロマンティック・コメディなのだ(その合間にちょいちょい自爆テロが起きるけど)。

また、見逃してはならないのがCIA副長官フランク・マースのもとで働くコンピュータプログラマーのタイン・デイリー。タイン・デイリーといえば『ダーティハリー3』(76年)でイーストウッドの相棒を演じた女優である。

どうやらコンピューターを駆使して爆破事件を分析するデイリー嬢は副長官フランクに片想いしているようで、なぜか人工知能を持っているコンピュータに「ガンバッテ♡」と励まされちゃう。

もうテレフォン関係あらへん。

なにこのロマコメ群像劇。電話も自爆テロも関係なくなってもうとる。

 

そう、この映画はマンダム要素ゼロのロマンス映画なのだ。

ブロンソンが速攻でプレザンスを始末したあと、レミちゃんは上司フランクに電話をかけてブロンソン暗殺命令を拒否した。

わたくし、レミちゃんは本日をもってCIAを退職します。だからもう私たちを捜さないで。もし捜したらまた電話が鳴るわよ!

「電話が鳴る」というのは、つまり死んだプレザンスに代わってブロンソンとレミちゃんが工作員たちに自爆テロをさせるという意味だ。ブロンソンは工作員リストを完全記憶(笑)で覚えているので、いつでも電話をかけて洗脳することができるのだからな。

ようやく安寧をゲットした二人は肩を抱き合ってラブホテルに向かいます。終わり。

終わるん?

ラブホテルに向かって終わるん?

というか、いつの間にブロンソンはレミちゃんのことが好きになったのだろう。ずっと男梅みたいな顔をしていたのにラストシーンだけすっごくニコニコしているし。いつどんな理由で心境の変化が訪れたのかさっぱりわかりません。

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当初は犬猿の仲だった二人がやがて結ばれる。ほなロマコメやん。

 

◆テレフォン作戦すな◆

本作を観終えたあとに私が思いを馳せたのはブロンソンでもなければレミちゃんでもなく54人の工作員である。彼らの視点に立ってみると実はけっこう怖い映画なのよね。

この54人は冷戦時代にソ連に留学していたアメリカ人で、もしもソ連がアメリカと戦争になったときの攻撃手段として「テレフォン作戦」の洗脳を受けさせられたのだ。電話越しに特定の詩を聞くことが催眠の合図となり、あらかじめインプットされた目的地に赴いて自爆するのである。

だがデタントにより核戦争は回避され、54人の「人間爆弾」たちは自分が洗脳されていることすら知らず一般市民としてごく普通に結婚生活を送っている。

荒唐無稽な設定ながら、けっこうゾッとさせられるものがあるよなー。つまるところ洗脳の恐ろしさは自覚がないことだ。

それって本当に怖いこと!

 

わたくしの生活の身近な例に置き換えると、たとえば人心掌握に長けた人たらしとか小悪魔みたいな女が意のままに他人を操っているところを稀に目にするが、あれとて洗脳の一種である。

奴らはだいたい真夜中に電話で人を呼びつけがち。

甘えた声で「寂しいの…来てくんない?」と言ってみたり、同情を誘うような口調で「大事な相談があって…キミにしか頼めないんだ」と言ってみたり。

そんなとき、人はついつい無自覚にその相手を心配してホイホイついて行ってしまうが、騙されてはいけない。

気を付けな、テレフォン作戦だよっ!

そんな電話が掛かってきたときは「悪いけどボクは真夜中に電話してくるような非常識な人間を気にかけるほど非常識ではないので通話を終了させて頂きます」とか何とか言って即刻電話を切るべし! テレフォン作戦する奴は死ぬべし!

今現在、話がどんどん脇に逸れていってることに気持ち良さすら覚えているのだが、私は人たらしや小悪魔と呼ばれし手練手管の術師が大嫌いである。人を利用していながら「利用などしていない」と取り繕うことに長けた奴というか。よく言えば世渡り上手だけどな。

そういう人種はむやみに愛嬌を振りまき、浅く広い人間関係を築くことで自らの制空権を拡大してゆくが、私はブロンソンみたいに周囲の人間を誘惑せずとも自力で生きていける不器用で強い人間が好きだ。つまりマンダムだ。

大体においてドン・シーゲルの映画に出てくるキャラクターは媚びない。

上手に立ち回って人を懐柔したり、胸に打算を秘めて誰かを口説き落とすようなまどろっこしい事はせず、気に入らなければ殴る面倒臭いことは放り出すという豪快な生き様に貫かれている。『テレフォン』もまた、スパイ映画にも関わらずじれったい駆け引きは一切描かれていない。

高度情報化に伴い人間関係まで複雑化する昨今、われわれに必要なのはマンダムの精神かもしれません。

どう? この強引なまとめ方。「剛腕」って言うんやで。

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任務が上手くいくかどうかでドキドキするブロンソンと、そんな彼が近くにいることでドキドキするレミちゃん。意味の異なるふたつのドキドキがやがて交わる。