シネマ一刀両断

面白い映画は手放しに褒めちぎり、くだらない映画はメタメタにけなす! 歯に衣着せぬハートフル本音映画評!

メロハーの話するからちょっとこっち来て

やっふー、みんな。

ここ数日間、ブログのPV回数がほとんど下がってなかったので、もしやうまく伝わってないのではと思い、改めて告知するね。

レビューストックが底を尽いたから!

当分の間!

やすむ!

裏で映画観てストック補充したらまた再会するので、それまではブログを放置すると言っているんだ! わかったんだな!?

それはそうと、以前『レビューを書くときによく聴く音楽10選』を書いたとき、北海道のknoriさんから「音楽は好きよ。でも3つぐらいずつの紹介がいいな」という大変貴重なコメントを頂きました。

もちろんこのコメントが「長くてタルいから字数削れカス」の婉曲表現であることぐらいはさすがの私でも分かるので、北海道のknoriさんのご意見を真摯に受け止め、「たしかに3選ぐらいが丁度いいよな…」と反省した上で今回新たに音楽特集を組みました。

題して『おれのメロハー10選』

メロハー(メロディアスハード)…メロディ重視のハードロックのこと。煌びやかなキーボード&コーラスを駆使した耳心地のいいサウンドが特徴で、歌メロを全面に押し出すことを良しとしている。また、歌謡曲の精神性を持つことから、カラオケの土着文化があり歌モノにも馴染みのある日本人支持層を広く獲得している。

 

ていうか、こんな音楽記事を書いてる暇があったら一本でも多く映画評を書けばいいのか。そっか…。

まあ、書いてしまったものはしょうがないので始めよう。『おれのメロハー10選』です!

 

【1】おれのフェア・ウォーニング

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メロハーの老舗といえばドイツ出身のフェア・ウォーニングだろう。食品会社でいえば味の素、保険会社でいえば明治安田生命保険ぐらい老舗。それは確かなこと。

フェア・ウォーニングはオルタナティヴ・ロックの台頭によりHR/HMが一斉淘汰された90年代に突如天空から舞い降りた王道メロハーバンドだ。抒情的なソングライティングと卓抜したサウンドプロダクションは歌謡曲のワビサビをばっちり押さえ、日本人の琴線をそっと撫であげたという!

情熱と憂いのハイトーンボイスを誇るトミー・ハートの大陸的な熱唱。それに、なんとなくエンゲル係数が減りつつあるような名前のヘルゲ・エンゲルケ(Gt)は元スコーピオンズのウリ仙人から譲り受けた幻のスカイギターを後生大事に操っているというのだ。

どのアルバムも売れ線の本丸へと送り込まれた暗殺集団だが、不思議と産業ロックの媚びは感じない。きらきらしたキーボード&コーラスワークのような洒落っ気はなく、もっぱら哀愁と美旋律だけで聴かせる骨太ハードロックを鳴らすことを良しとしている!!

「Long Gone」「Break Free」などボン・ジョヴィ風パワーバラードの宝庫だが、やはりフェア・ウォーニングの精髄は「Save Me」や「Burning Heart」のような一球入魂のメロディアスハードだ。「俺はまっすぐ突っ込むけど、避けたいなら避けてもいいよ」というッ…!

まさしく彼らはHR不毛の大地に潤いをもたらす雨乞い師。そんなわけで愛聴盤は2nd『RAIN MAKER(画像)


FAIR WARNING「Save Me」

 

 

【2】おれのTNT

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TNTは北欧メタル草創期を支えたノルウェー出身のハードロック・バンドだ。

なんといっても89年の4th『Intuition(画像)が語り草。10曲37分の中に結晶化されたクリスタルメロディとオーロラサウンドの波状攻撃にあなたは耐えられるか!

この伝説的名盤で早くも北欧メタルマウンテンの頂に達してしまったTNTはたいへんな手持ち無沙汰を味わい、アメリカ志向の5th『Realized Fantasies』や、インダストリアル路線の7th『Transistor』などで音楽性の幅を広げた。そうすると当然バンドの持ち味である北欧イズムは減退するのでファンにとっては暗中模索と捉えられたようだが、私はそうは考えない。『Intuition』以降はサウンドの平面化やギターワークの退行は多少あれど、基本的にはどのアルバムも華麗さとイビツさの紙一重の両立を実現しているのがTNTだと思うからなのだ! 北欧冥利に固執しないTNTを私は讃えるものとするのだ!!

白夜の貴公子、バオール・バルドー・バルサラの超音波ボーカルが二日酔いに響くのはご愛嬌。その声に、その髪に、みんながメロメロさ…。


TNT「Intuition」

 

 

【3】おれのファイヤーハウス

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先述のフェア・ウォーニングはビッグ・イン・ジャパンを体現したバンドだったが、次に紹介するファイヤーハウスも日本で人気を得たあとに東南アジアを股にかけるハードロック・バンドとなった。

しかし、祖国アメリカからは基本ずっとシカトされ続けている。なんでなんだ。1st『FireHouse(画像)』のジャケットデザインが鬼のようにダサかったからか?

ビッグ・イン・ジャパン…祖国よりも日本で人気のあるバンドのこと。ディープ・パープル、クイーン、ボン・ジョヴィ、チープ・トリックも初めはそうだった。

 

そもそもファイヤーハウスを発掘したのがビッグ・イン・ジャパンの権化ことジョン・ボン・ジョヴィなのだ。ジョンの口利きでレコード会社と契約できたファイヤーハウスは、晴れてボン・ジョヴィの子分バンドとして1990年に活動を開始した。

「バッバ、ビビ、ババイ」という意味不明語を駆使したハードポップの佳曲「All She Wrote」や、アコースティックギターを絡めた爽快ロック「Don't Treat Me Bad」などノリのいい初期曲は祖国でもヒットしたが、大人向けのまろやかなロックへと路線変更した3rdアルバムがまったく理解されずに音楽シーンから撤退。辛酸をなめた彼らは「祖国が異国のように感じた」という声明を発表した。爾来、祖国を離れて東南アジアを拠点に細々と活動を続けている。

そういえば以前、どろどろに泥酔したフィリピン人のおっさんが「Reach for The Sky」をカラオケパブで熱唱してる糞みたいな動画をYouTubeで観たが、やはり東南アジアでは未だ根強い人気を誇っているようだ。アメリカは「自由」や「多様性」を謳っておきながら初期の音楽性から少しでも逸脱したバンドを親の仇みたいに叩き散らすので、まさにファイヤーハウスは祖国に裏切られ、祖国を見限ったバンドと言えるのかも。

そんな彼らの音楽性は、童顔イケメンのC.J.スネア(Vo)のハイトーンハスキーボイスを武器にしたメロハー七変化。ざくざくとリフを刻むメタルナンバーもあれば、歌メロ中心の綺麗めバラードもあり。いずれも耳心地のいいポップなサウンドメイクと“適度にロック聴いてる感”を味わえる、なかなか楽しいバンドである。「Don't Treat Me Bad」はMVも含めて大変なお気に入り。最後の超高音シャウトが気持ちいい。

なお、同バンドは2011年発表の8th『Full Circle』を最後に失踪を遂げた。


Firehouse「Don't Treat Me Bad」

 

 

【4】おれのデンジャー・デンジャー

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メロハーと呼ぶにはいささか「ハー」が足りない気もするが、音楽ジャンルにおける定義なんてモノはもとよりユルユル、いにしえよりガバガバなのでメロハー枠にぶち込むことを屈託なく良しとする。それが俺のスタイルだし、それは確かなこと。

アメリカ出身のデンジャー・デンジャーは、その物騒なバンド名に反して全然デンジャラスじゃないハードロック・バンドである。まさにダマし。メンバー全員が男性のシンデレラくらいダマし。イギリス出身のジャパンくらいダマし。

音楽性は衒いなきアメリカン・ハードポップである。まあ、はっきり言えばボン・ジョヴィもどきだ。89年の1st『Danger Danger(画像)は初期ボン・ジョヴィを彷彿させ、中でも「Livin' on a Prayer」を屈託なくパクった「Don't Blame It On Love」に至ってはもはやアッパレ。こうも露骨に寄せてこられると却って晴れやかな気持ちに人をさせる。実際、プロデューサーのランス・クインはボン・ジョヴィのサウンドも手掛けているので、当時新人だったデンジャー・デンジャーを「第二のボン・ジョヴィ」として売り出そうという魂胆が「Don't Blame It On Love」などのオーバープロデュースに結びついたのだろう。

そして日本の某女性歌手から屈託なくパクられたことで有名な代表曲「Crazy Nites」。こちらはモトリー・クルーのノリに近く、脳が溶けてアホになるようなイケイケのパーティロックである。

事程左様にLAメタルとの親和性まで感じさせる陽性アメリカン・ハードだが、思いのほかAOR風のウェットな音像と必殺のリフレインが全曲に貫通しており、聴き込むほどになかなか味のあるバンドのような気がしてこないでもない、と言えば大袈裟かもしれない、とは言い切れない可能性がないでもない。実際、2nd『Screw It!』なんかはそれとなく持て囃されてもいい。

そんなデンジャー・デンジャーは、2009年までに8枚のアルバムを屈託なく発表した。何気に息の長いバンドかと思われたが、それ以降の活動はまったくわからず、現在は失踪届が提出されている。

Danger Danger「Don't Blame It On Love」

 

 

【5】おれのストレンジウェイズ

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上記4組に比べて遥かにマイナーなバンドではあるが、イギリス出身のメロハー斥候部隊とは彼らのこと。それがストレンジウェイズだし、それは確かなことだ。

一般的にはボーカルが代わってAORアメリカン・サウンドへと洗練された2nd以降で記憶されているバンドだが、ブリティッシュ・ロックの香りがふわりと漂う1st『STRANGEWAYS(画像)も捨てがたい。いずれにせよ高野豆腐みたいに哀愁が滲みでた泣きのメロハーを聴かせてくれる。それは、たっぷりと。

多くの楽曲はミディアムテンポ主体の雄大なメロハーという感じで、太いロングトーンのギターとソウルフルなボーカル、そこにキーボードとコーラスワークをゴテゴテに盛りまくっているが、主役はあくまで哀愁に満ちた歌メロ。プレイ、アレンジ、プロダクション。すべてがボーカル・オリエンテッドに従属している。

彼らがメロディを奏でているのか、はたまたメロディの方が彼らに奏でさせているのか。その先後関係を解き明かした者には伝説のミノタウロスの角が授けられるという(奮って応募したいところではある)。

話は逸れたが、とにかく旋律の使者とは彼らのこと。それって、かなり確かなことだよ。

惜しむらくはチャートに強いタイプのバンドではなかったようだ。80年代後半にリリースしたアルバム3枚はすべて良質にも関わらず、なぜか思うように売れなかった。それゆえに失踪して久しく、現在の活動状況はわかっていない。

Strangeways 「Every Time You Cry」

 

 

【6】おれのハーレム・スキャーレム

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フェア・ウォーニングが光のメロハーならハーレム・スキャーレムは闇のメロハーとして人気を二分するメロハー大横綱。

天衣無縫のハーモニーと分厚いバッキング、そこにハリー・ヘスの泥臭い咆哮が響き渡り、日本では1stとしてリリースされた93年の2nd『Mood Swings(画像)はメロハーの殿堂入りを果たした。

ハーレム・スキャーレムの強みは天性のセンスだろう。何度聴いても導入部やリフの珍奇さに驚かされる曲ばかりだが、そんな路地裏的なイントロも見事にハードロックナイズされていて、必ずBメロで劇的展開を迎え、気がつけばパッと開かれたハイウェイに出ている。やはり筆頭は「Change Comes Around」か。一見めちゃくちゃな運転をしてるようで実は緻密に設計されたルートを一番気持ちいいスピードで走っていると思う。

裏から表から縫い上げる高密度の展開力。そしてリスナーを置いてけぼりにしない親しみやすさ。こんなものが“努力”によって生み出されるのは堪らないのでセンスと呼ばせて頂く。ハーレム・スキャーレムは天性のセンス。

そんな彼らも道に迷って暴走運転していた時期があった。

90年代のHR/HMバンドはオルタナティヴ・ロックの津波を受け、オルタナに迎合したメタル…通称モダン・ヘヴィネス(鬱々としたグルーヴ重視の気分どんよりメタル)へと音楽性をシフトさせたことで正統派メタルを好む音楽ファンから大顰蹙を買ったが、ハーレム・スキャーレムも95年の3rd『Voice of Reason』でオルタナの波に乗ってしまいファンの冷視に晒されてしまう。

その後はハードポップ路線に戻ったが、今度はこの路線が行き過ぎてしまい、「HR/HMは時代遅れ」との理由から1999年にバンド名をラバーに変えて6th『Rubber』を発表。ウソみたいに音楽性が変わり、へらへらしながらカントリー調のブリットポップを鳴らして「や、やぁキャシー。その…今日ヒマだったら、僕…僕と森に行って昼寝しない…?」みたいなニキビ面のメルヘン童貞バンドと化す。

2002年にようやく正気を取り戻したメンバーはハーレム・スキャーレム名義に戻し「ラバーとは何だったのか」と自問した。こっちが聞きたい。

まあ、何だかんだ言いつつ、ファンは迷走も含めてハーレム・スキャーレムという名のドライブを楽しんでいるのだが。ほんと、どこに連れて行かれるか分からんからな、このバンドだけは。

Harem Scarem「Change Comes Around」

 

 

【7】おれのホワイトライオン

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結成したのはアメリカだが、ボーカルはデンマーク人という二重国籍バンドの申し子、ホワイトライオン

87年発表の2nd『Pride(画像)がアメリカ・イギリスを中心に大ヒットしたものの、獅子奮迅の活躍(ライオンだけにね)も虚しくたちどころに失速。91年の4th『Mane Attraction』を最後に突如失踪してしまった。やはりロックシーンという名のサバンナは相当過酷だったようだ。ライオンだけにね。

個人的には3nd『Big Game』の何ともいえないアルバムジャケットが人気失速の一因だったんじゃないかと睨んでいる。草葉の陰からライオンの魂がひそかにあなたを見ているというのだ。

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『Big Game』の何ともいえないジャケット。

それはそうと、かの名盤『Pride』は直線的なアメリカン・ハードを切ない泣きメロで包み込んだ出色の出来栄え。それは確かなことだ。アルバムサイズも10曲45分とロックアルバムの理想形に収まっているし。

大体よぉ、最近の音楽は13曲も15曲もアホみたいに詰め込んで平気で60分を超えたりするが、あんなものは野暮よ野暮。YABO。胃もたれするわ。ただでさえライオンは消化官が短いのである。肉食ロックアルバムは「もっと聴いていたい」と思うぐらいのサイズが丁度いいのだ。

そんなホワイトライオン。バンドの心臓部を司っているのはギターである。抜群のアレンジ力を持ち、おもしろいリフとソロを組み立てながら常にボーカルと並走するヴィト・ブラッタの恐るべきギター。はぅあ! まさに音のプライド(群れ)を形成するエレキの獅子とはこのことだったのかっ。

バンドが短命でなければもっと多くの名盤を世に送っていただろうに。人々はこのライオンをもっと手厚く保護すべきだったのでは。


White Lion「Wait」

 

 

【8】おれのヘイルストーム

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アメリカ在住のリジー(Vo)ジョン(Dr)のへイル姉弟によって結成されたヘイルストームは2009年の1st『Halestorm』でデビューを飾った。もはや死に体のハードロック界を蘇生させうる期待の新星である!

今の時代に土臭いロックを鳴らせる勇気にも感心するが、70~80年代の正統派ハードロックを踏襲しながらも適度にモダンな音を取り入れることで古臭くないクラシックを確立させたことがまず凄いわ。

音楽性はゴシック調のオールドロックを主軸に、メロハー、パワーポップ、メタルサウンドを変幻自在に展開。バラードも充実している。いずれにせよ、聴こえてくる音はボーカル、ギター、ベース、ドラムだけで、小癪な電子楽器やエフェクトを盛りまくった“音のプリクラ化”はなし。

何をおいてもリジー・ヘイルの圧巻の歌唱力である。チアノーゼも辞さないブチギレ絶唱のド迫力。セバスチャン・バック(元スキッド・ロウ)を思わせる超高熱&高音域のハイパースクリームは必ずや今の軟弱なロック界に風穴を開けてくれるだろう。

なお私は、数年前にたまたまYouTubeで「"I Am The Fire"」を聴いてひっくり返り、翌日には「NO MUSIC, NO LIFE!」と叫びながらタワーレコードに走っている。あの日、そういう行動を確かにしたんだ。

「It's Not You」や「Love Bites」のようなグランジ風の疾走チューンもいいが、やはりミドルテンポでズンズン進んでいく「"I Am The Fire"」の正面突破ハードロックをこそ俺は良しとする。まぁ好みの問題だな。世の中そんなもんだ。

ヘイルストームは現在も鋭意活動中。失踪はしていない。

Halestorm「"I Am The Fire"」

 

 

【9】おれのクラフト

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クラフトはメロメロのジャーマン・ハードポップを得意とするドイツ出身のハードロックバンドだが、悲しいかな、恐ろしく知名度が低いようで、わざわざ海外からレコードを取り寄せる必要性を私に強いた。悔しいかな!

曲は非常にキャッチーで、クラウス・ルーリー(Vo)の張りのある絶唱ハイトーンに万華鏡のようなキーボードとストリングスがグリグリに絡むのであるが、いかんせんクラウスの見た目が大変に怖く、控えめに見ても殺人サイボーグ、それでなくとも武器密輸業者がせいぜいといった風体なんである。

88年の2nd『Second Honeymoon(画像)はすぐれてメロハー然とした逸品。わけても「Jane」は演歌炸裂のパワーバラードで和の琴線に触れまくりだ。

だが同曲のMVは相当にダサく、ステージで熱唱するクラウスの雄姿を冷やかすようにホットパンツ履いた金髪美女の下半身が頻繁にインサートされるのだ。その後も何かにつけて下半身にズームインしたり、尻に向かってホースで水をかけるという中学生レベルのエロ演出がせっかくのドラマティックな楽曲世界をぶち壊しにしている。

また、大サビではクラウスの周りが派手に爆発するが、その衝撃でステージ機材が破損してパーツが一個吹き飛ぶというショボいハプニングシーンも確認できる。

ラストシーンでは先ほどの美女が黒い犬を従えて雨の中をクールに闊歩する。なかなかイカしたイメージだが、惜しむらくはその犬がドーベルマンのような格好いい大型犬ではなく貧相なラブラドールレトリバーという有様。迫力妥協してるやん。

ちなみにこの美女は同バンドの別のMVにも出演していた。人材まで妥協してるやん。

そんなクラフトだが、現在は失踪済みであり、業務連絡等が一切できない状況にあるという。

Craaft「Jane」

 

 

【10】おれのタッチ

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タッチと言っても岩崎良美の「タッチ」を想像してはいけない。

お願いタッチ、タッチ、ここにタッチ、あなたからではないのだ。溜息の花だけブーケを束ねてはいけないのだ。星屑ロンリネスもへったくれもないのだ。

ここでいうタッチとはアメリカ出身のハードロック・バンドのことなのだっ!

タッチは4人組バンドだが、なぜかリードボーカルが3人もいる。定員オーバーだろ。

まあ、曲によってメインボーカルを入れ替えてるわけだが、なんせ3人もいるのでアルバムを通しで聴いてると“次の曲いくたびに別のバンド始まった感”がすごい。絶対3人も必要ないと俺は思った。確かにそう思ったんだ。

音楽性としてはキラキラ系のプログレ・ハードだなこりゃ。ジャーニー、フォリナー、ボストンあたりを思わせる流麗なメロディにイエスの声が乗った感じ。コーラス、キーボード、シンセサイザーの満艦飾なので、日によっては聴いてるとイライラしてくる(筆者は鍵盤楽器や電子音を好まない。それは確かなこと)。

そんなタッチだが、実はかなり不運なバンドである。

というのも、煌びやかな1st『Touch(画像)で1979年に華々しいデビューを飾り、その時はメンバー全員でハイタッチをしたらしいのだが、2ndアルバムが謎のトラブルでお蔵入りになってしまい、その悔しさから失踪を遂げてしまったのだ!

まったく、なんてこった。デビューアルバムがラストアルバムになっちまうとはな。まあ、世の中こんなもんか。

鋭意制作に取り組んでいた2ndアルバムは大家トッド・ラングレンがプロデュースしてくれる予定だったが、さあ後はトッドPのミキシングを待つだけ…という段になって、なぜか音信不通になったきりブッチされてしまったらしい。なんと罪深きトッドPだというんだ! タッチをブッチするとは。ちくしょう。タッチの2ndにはノータッチというわけなんだな!?

しかし寝耳に朗報。バンド失踪後の1998年、幻の未発表作だった2ndを既存の1stにカップリングした2枚組の失踪記念アルバム『complete Works』が二束三文でリリースされたのだ!

潔いまでの抱き合わせ商法じゃん。

これによりウン十年越しに日の目を見た2ndアルバムだが、なぜかアルバムタイトルを付けてもらえなかったので無題として扱われているのが気に掛かる。なんでもいいから付けたれや。

そっと悲しみに、こんにちは。

Touch「Don't You Know What Love Is」

 

 

【11】おれのフィオナ

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いよいよメロハーでも何でもない領域へと突入した本稿であるが、フィオナことフィオナ・フラナガンは1985年から92年までにアルバム4枚をリリースしたのち突如失踪を遂げたメタル・ポップ・クイーンである。

AOR風のハードポップを情感豊かに歌いこなすパワーボーカリストだが、その実力が正当に評価されるには彼女はあまりに美しすぎた。傑出した美貌ゆえに音楽的評価がおざなりにされ、うせッと出のアイドル…通称ドポドルとして色物扱いされたのである! なんて扱いを当時の奴らはするんだ!

フィオナ自身もルックスでチヤホヤされるのは真っ平だったので、アトランティック・レコードが指示するフェミニン路線に逆らい、革ジャン&ジーンズ姿で「アイム・ノット・ドポドル」と叫んだ夜もあったというのだから驚きである。

そんなフィオナ嬢の楽曲には錚々たるプロデューサー&ミュージシャンが楽曲提供やゲスト参加しており、その強力な布陣からは「何が何でも売ったるぞ」というアトランティックの爛々たる欲望を感じてしまうが、これがブルンと空回り。貪欲にコマーシャルソングを狙いすぎたあまり却って中庸な楽曲が並び、大人たちにさんざ振り回されたことで個性も確立しないうちにオーバープロデュースにより摩滅。

結句、デビュー7年でシーン撤退を余儀なくされたフィオナ嬢であったが、なんと2012年には20年ぶりとなる復活の5th『UNBROKEN』がグイッとリリース。艶やかなハスキーボイスで大人のハードロックを歌い上げることに成功したのであった!

フィオナを聴いてると80'sポップカルチャーに対する情欲がサラサラと静かに掻き立てられるようで、何となくこそばゆい感じに俺はなってくるのだ(悪い気分じゃない)。

80年代の映画は全部きらいだが、音楽に関しては今聴くと逆にレガシーっつうか、コテコテのAOR、鬱陶しいシンセ、珍妙ビート、そういう時代の恥ずかしさを共に乗り越えられそうな気がしてるんだ。なぜならポップカルチャーは一巡するからである。それは確かなことだ。たとえば、髪を切った当日は少し気恥ずかしいが、1週間もすれば自信が持てるってことあるだろ? 俺はないけど、まあそういうもんだよ。

「Where The Cowboys Go」のMVは今見ても最高にエモーショナルだ。フィオナが熱唱しながらクルクル回って土を蹴っている。こんなMVってあるか? あるよ。これだよ。砂漠で歌う系MVの元祖じゃねえかな? まあ違うだろう。

Fiona「Where The Cowboys Go」

 

 

~お詫び~

『おれのメロハー10選』と題してお気に入りのミュージシャンを10組紹介して参りましたが、校正段階で改めて数えてみたところ11組選んでいたことが発覚いたしました。10選と言っておきながら11選もお送りしてしまったことを謹んでお詫び申し上げます。

あと当面サボろうとしてることに関しましても重ねてお詫び申し上げます。

バッバ、ビビ、ババイ。